36話 家族

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

ボスゴドラが助けたシャワーズの命は卵を渡すと共に潰えた…ボスゴドラは受け取った卵を冷たくなったシャワーズに持たせ、最後の親としての役割を果たして貰いながら抱えて進む。
俺はココドラの時から周りに嫌われ続けた…家族からも見放された…それでも俺は居心地のよいフェールヴィル(鉄の街)が大好きだった…だが、そんな思いを踏みにじるかのようにその街は一夜にして消え去った…壊滅した…守れなかった…悔しかった…死んだ街の人…家族…知り合い…悲しかった…それで俺は何をしただろう?……逃げた…周りのポケモンからは流れる大量の血…血…血…明らかに致死量…助けることはしない…もう既に手遅れだから…小さいこの身体では何も出来ないから…遅すぎたんだ…そして俺は街を離れ放浪した…新しい世界の常識に振り回された…あの火事を思い出しては罪悪感に潰され、何度も自殺を試みた…その度にあいつらは止めてくれた……俺が必要と言ってくれているみたいで…嬉しかった…。


数年後…ボスゴドラとなった俺は一つのあるギルドで拾ってもらえることになった…バンギラスギルド…親方本人には「過去のこと?そんな前のことなんて忘れた…。」で通じたらしく、そのままメンバーとして迎えてくれた…今思えば何で身元の不明な俺を迎えてくれたのか…不思議だ…。



バンギラスギルドでは俺を避けたりするような奴はいなかった…逆だ…寧ろ近づいて交流しようとしてくれたんだ…始めての自然以外の友達もたくさん出来た…みんなと色んなことをした…俺の新しい性格も出来た…こんな幸せがあって良いのかと思ってしまった…そして…仲間として関わることで…「強くなれた」、「大切ななにか」を得られた…そう思っていた。





しかしそれは俺の甘さだったと…深く…再度思い知る羽目になる……。









〜焼けた場所、入り口の門〜

アブソル達と予め待ち合わせていた所に俺は冷たくなったシャワーズと新しい生命を連れてきた…最初は俺が抱えた彼女が目に入り、歓喜の目線が伝わったが俺が首を振ると態度が一変して元気がなくなる…アブソル達の周りには…街の人らしきポケモンはいない…つまりは…そういう事だ…。



キングドラ「ボスゴドラ…その子の抱えている卵は…。」

ボスゴドラ「無事だ…最後に彼女から渡された。」

フィオーレ「…どうするつもりなの?」

ボスゴドラ「……育てる…もしくは…誰かに…。」

キングドラ「そうか…賛成反対の意見は俺には出せん…お前に「任せて」…亡くなったのだろう?」

ボスゴドラ「………………。」


キングドラの意見にボスゴドラは答えることが出来ない…考えてしまった…彼女は俺にこの命を渡した…だが任せてはいたのか?彼女は俺に何を求めていたのか…俺が育てて良いのか?、それとも代わりの適任となる親を探すぺリッパー(コウノトリ)になってほしいということなのか…今更だが迷ってしまったのだ…。


アブソル「ボスゴドラさん…その…今皆さんのお墓を作ってて…気休め程度にしかならないとは思いますが…そのシャワーズさんも一緒に…。」

ボスゴドラ「分かった…俺にやらせてくれ…。」

考えたくなかった…もう…どうしたら良いのか分からない…。



アブソルとシルヴァ、リオルが作ってくれた墓穴にシャワーズを納める…そして彼女から卵を……受け取れない…手が…震えてしまっている…。

アブソル「大丈夫ですか…?」

ボスゴドラ「…すまん…卵を…誰か代わりに取ってくれないか…俺には勇気がないらしい…手が…嫌なくらい震えてる…。」

フィオーレ「じゃあ私が…。」

シルヴァ「フィオーレ…いけません。」

フィオーレ「え…でも……。」

シルヴァ「ボスゴドラ様…先程から見ていて思ったのですが…何を迷っているのです?」

ボスゴドラ「……は?、何言ってんだ…姉貴…?」

シルヴァ「とぼけても無駄です…先程からそのシャワーズと卵しか見ていないではありませんか…。」

ボスゴドラ「………!」

感づかれた…シルヴァの姉貴はどうやら俺の心を探っていたらしい…。

シルヴァ「もしや…新しい命を預かる覚悟が出来ない己を責めているのですか…?」

ボスゴドラ「違う!彼女は最後に笑って俺にこの命を預けてくれたんだ!俺にはこの子の安全を守る義務がある…!けど……。」

シルヴァ「けど…なんです?」

ボスゴドラ「…家族からの愛情なく育った俺にはこの子の育て方が分からない…俺には…この子を育てる覚悟があっても…資格がない…。」


キングドラ「なるほど…そう来たか…。」

アブソル「…………。」

ボスゴドラの「資格」という言葉を聞いた時からだろうか…シルヴァははぁ…と呆れたようにため息を吐く。

ボスゴドラ「だから俺よりも育てることがうまい誰かに…!」

シルヴァ「押し付けるのですか……?」

ボスゴドラ「なっ……。」

普段のシルヴァとは思えない冷たく、重い言葉がボスゴドラに刺さる…「任せる」と「押し付ける」じゃ意味が全然変わってくる…すぐに分かることだ。

アブソル「あの…まずは…。」

キングドラ「待て…これは卵を継いだあいつ自身の決断が決めることだ…俺達は口を挟んではいけない。」

アブソル「でもこのままでは…。」

フィオーレ「アブソル…私もここは見守るのが正解だと思う。」

アブソル「そんな…!フィオーレまで!?」

キングドラ「落ち着け、放っておくという訳でもない…下手に選択肢を増やすと余計混乱を招くからだ…それに…そもそもこの問題の打開策には正解がない…!」

アブソル「……分かりました…。」

アブソルの同意を得てキングドラ達はこっそりとその場を離れる…オロオロしていたリオルもその後について行こうとした。

シルヴァ「リオル!」

リオル「え!?…あ、はい!」

突然師範に呼ばれ、ビクッと身体を震わせてからリオルはシルヴァの方を向く、何故か手招きをされていた…。

シルヴァ「こちらに…。」

リオル「は、はぁ……。」

何をしたいのか分からないと言いたげなボスゴドラを前にリオルはシルヴァに近づく、この状況で意見を求められるのか…?と、リオルが思いながら歩いていた時だった…。




ギュムッ…。



リオル「え……?」

ボスゴドラ「……!?」

アブソル達「は…!?」

その場にいたアブソル達はシルヴァの行動に目を丸くした…シルヴァは体制を低くし、リオルの首に抱きついている…ボスゴドラも言葉には出さないものの表情からして驚いているのは確かなようだ。

シルヴァ「唐突ですが、私はリオルをマスターとの子供のように思っています。」

リオル「ええっ!?ちょっ、師匠!?」

アブソル「いや、卵グループは確か人型と陸じょ…モゴゴ!?」

フィオーレ「ごめんアブソル!なんかこれ以上言ったらやばい気がしたから尻尾で口塞ぐ!」




ボスゴドラ「何が言いたい…。」

シルヴァ「マスターと私の子…リオル、血は繋がっていませんよね?」

ボスゴドラ「当たり前だろ…そもそも種族が異なるものだ…だから家族とは言えるものではない…。」

シルヴァ「ではそれを理由に愛情は与えないと?」

ボスゴドラ「さっきから何を言いたいんだ姉貴…!こんなことをしているうちにもこの子はこの世界に出ようと…でようと…!」


ボスゴドラが指さした卵に目を向けた途端、会話の綴りと動きが止まる…シルヴァ達もシャワーズが抱えたままの卵を確認する…。



リオル「ひびが…!」

キングドラ「もうすぐ生まれる状態だったのか!?」

パキッ…パキッとゆっくりだが確実に卵はわれようとしている…全員が息を呑んで見守る中、先に我を取り戻したのはボスゴドラだった。



ボスゴドラ「…違う…見てる場合じゃねぇ!アブソル!フィオーレ!彼女を埋めてくれ!」

アブソル「え!?急に何を…。」

ボスゴドラ「生まれたこの子に母の死体を見せるのか!?」

アブソル「…!」

ボスゴドラが瞬時にシャワーズから卵を受け取るとアブソルはフィオーレと協力してシャワーズに土を被せる…ボスゴドラの手はもう震えていなかった…そのまま安定した原っぱに卵を置くと距離を取る。



……パキン!


ボスゴドラが距離をとったのを見計らうかのように卵は大きな音を立てて割れる…中からはやはり、彼女の進化前のポケモン、イーブイが生まれた。


イーブイ「……?」

周りをキョロキョロ見渡している…恐らく母親を探しているのだろう…ボスゴドラはそう考えていた、だから距離をとった……親と認識されないために。


フィオーレ「可愛い…!」

アブソル「やっぱりイーブイが生まれましたね……。」

リオル「俺より小さい……。」

キングドラ「生まれて安堵してる場合じゃないぞ、ここからどうなるかだ……問題は。」

卵から転げ落ちるように出てきたイーブイはそのまま周りを確認し続ける…産まれたばかりで視界が狭いのか、まだ近くにいるキングドラ達は目視されてない。



シルヴァ「ボスゴドラ様…先程の続きですが…。」

ボスゴドラ「ん?あぁ。」

シルヴァ「貴方の考える家族の条件とは_何でしょうか?」

ボスゴドラ「…分からないな…物心ついた頃には自然しか友達もいなかったし…家族もこんな俺を忌み子として嫌っていた…。」

シルヴァ「では貴方自身の予想で構いません。」

ボスゴドラ「……互いを安心させることが出来る…常に一緒にいれること…。」

シルヴァ「ふむ…それで?」

ボスゴドラ「だから…その…守ってもらえるんだ、っていう安心感と、信用を持ってもらうことが…親としての条件だと思う…愛情って…そんなものじゃないか?」

自らの家族愛の予想を語らされ、恥ずかしそうにボスゴドラは下を向く…17にはまだ分かんねぇよ…という小さな言い訳を聞きながらシルヴァはリオルの頭を撫で頬を緩めていた。

シルヴァ「では…子に認めてもらえば……あなたは自分なりの愛情を注ぎますか?」

ボスゴドラ「それはないだろ…まぁ、認められたら努力はするが……。」

シルヴァ「クスクス…。」

ボスゴドラ「おい……!人が恥ずかしい思いして語ってるのに笑うのはないだろ姉貴……!」

シルヴァ「隣を見てみなさい…どうやら貴方みたいですよ…?」


ボスゴドラ「は…!?」

イーブイ「…………。」


いつの間にかイーブイはボスゴドラをじーっと見上げれるくらいの距離まで近づいてきていた…シルヴァの家族愛についての問いはボスゴドラの真意を調べるためだけではなく、イーブイから注意を逸らすための時間稼ぎにもなっていたのだ…。

ボスゴドラ「しまった…いつの間に…!」


フィオーレ「私達が最初に視界に入ってたみたい、だけど通り過ぎて行っちゃった……。」

アブソル「親はもう決めてるみたいですよ?」


改めてイーブイに向き直る…尻尾を左右に振りながらボスゴドラを待っているようだ…何をして欲しいのか…大体予想はつく。

シルヴァ「さぁ、自信を持って…。」


シルヴァに促されるようにボスゴドラは膝をつき、イーブイに手を近づける、その光景をアブソル達は見守っていた。



ボスゴドラ「…俺が…親で良いのか…?」

イーブイ「ブイッ!」


即答だった…ボスゴドラの問いに肯定の意思を鳴き声で示すと大きな腕の中に飛び込み、冷たい鉄の身体に頭を擦り付ける…イーブイはボスゴドラを…親として認識した。


シルヴァ「家族の理由に…血や種族なんて関係ありません…偽りだって良いではありませんか…自分なりの愛し方を構えていれば大体のことなんて下らなく見えますよ…。」


シルヴァの意見に苦笑いでボスゴドラは答え、イーブイが待ち望んでいた通りにぎこちない動作で抱きしめる…それでも抱擁を味わったイーブイは幸せそうな声を上げていた。



ボスゴドラ「そうか…俺…頑張るからな…。」



出会って間もない小さな子が…本当の親を失い、まだ何も分からない世界に生まれたこの子が…今、俺を頼ってくれている…こんな俺に…小さな命を預けて腕の中で笑ってくれている…。




ヒュオオ…………。


ボスゴドラ達の周りに強い風が吹き始めた…一緒に花びらまで飛ばされる…アブソル達が死んだ街の人のお墓に寂しいからと近くの花畑から取ってきた花と同じ種類のものだ…。



ボスゴドラ「ダリアの花か…ははっ…。」


イーブイの顔についたダリアの花びらを取ってあげると共に、ボスゴドラは風から聞いた花言葉を口に出す…。


ボスゴドラ「感謝か…今の俺の気持ちを表すのに相応しすぎる花だ…。」

イーブイ「ブイ?」

ボスゴドラ「ん?あぁ、お前にはまだよく分からないか…今度教えてやるよ…だが今はこれだけ言わせてくれ…。」





生まれてくれて…ありがとな……。






二人の一番近くにあったシャワーズの墓に置いたダリアは全て花びらが散っており、茎だけが残っている…それは二人の親子の完成を風と花びらを使って全力で祝ってくれているかのようだった。



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