英雄と呼ばれた男 3
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
━━━━10分前━━━━
「ルカリオさん、頼みとは?」
「ああ、それはだな…」
ルカリオはサーナイトを一人呼び出してとある事を提案してきた。それは、演技をして欲しいとの事だった。
「演技…ですか?」
「そうだ。…今から俺はルトとヤイバと手合わせをする。この戦いで俺はルト達の覚悟を引き出させたいんだ」
「覚悟…実力を引き出すのではなく、覚悟ですか」
ルカリオは頷き、真剣な目でサーナイトを見た。
「俺達が戦っている奴らと、あいつらが戦えるのか、その覚悟を試したい。あいつらは巨悪と合間見えた存在だ。その悪と再び戦う事になっても…ちゃんと命を掛けて戦えるのかを確かめたい」
「━!まさか、ルトさん達を私達の戦いに引き入れると?」
ルカリオは目を伏せたまま、頷いた。
「…実力は及第点。いくらでも強くなるポテンシャルもある。あと足りないのは覚悟だけだからな。勿論あいつらが拒めばそれまでだ。だが…あんまりだろ。親しい存在が裏切った理由も分からないまま、今まで通りの生活を続けさせるなんてよ」
「それは…」
━ルトさんとシャルさんにとって、家族とも言える存在。それがあろうことか目の前で裏切った。そのショックは計り知れない。
「俺はあくまで、チャンスを与えるだけだ。選ぶのはルト達自身だ。…で、話を戻させてもらうが━━━
………
「(…はぁ。事情は良く分かりましたが、やはり気は進みません…)」
時間は戻り現在。ナイフ(アルミ製のオモチャ)をミリアン達に押し付けながらサーナイトは溜め息をついた。
「(まさか、脅す事になるとは…。うう、ごめんなさい皆…ルカリオさんが悪いんです…)」
サーナイトは思ったより上手く脅せた事をかなり嘆いていた。
「(動かないで下さい、死にますよ?…だって。言葉に詰まっちゃってやたら低い声になったから余計怯えさせたのでは…。ううう…これじゃまるっきり悪人じゃないですか…ルカリオさんのバカ!)」
………
「木刀を手放した…?どういうつもりだ」
ヤイバはルカリオの行動に疑問を浮かべ、問い掛けた。
「ポケモンは元々素手で戦う生き物だろ?武器に頼ったお前らを打ちのめすには素手でやる方が楽しそうだからな」
「…ハンデのつもりかどうか知りませんが、どのみち全力で掛かりますよッ!」
ルトは痺れを切らしてルカリオへと突っ込む。ルカリオは腰を落として静かに構えた。
「フ!」
ルトはルカリオの顔に突きを放ち、ルカリオは簡単に避ける。ルトはそのまま木刀を空中で手放す。
「ほう?」
ルカリオは愉快そうに笑い、低い姿勢で殴り込んでくるルトの攻撃を捌いていく。
「俺が素手で戦えないと思ったら大間違いですよ!」
ルトは思い切りルカリオの顎目掛けて蹴りを入れる。が、ルカリオの手のひらで弾かれバランスを崩した。
「そりゃ悪いな!だが…」
「━━━ヤイバ!受けとれ!」
腰を付いたルトは、勢い良く自分の木刀を蹴り飛ばした。ルカリオはそれを避けるが…背後にいたヤイバはそれを掴んで構えた。本来のスタイル…すなわち、二刀流だ。
「受け取った!任せろ!」
「…!!」
ヤイバは独特な動きで攻撃を放ち、ルカリオは僅かに焦りを浮かべた。
「すぁっ!」
ヤイバは木刀を強く握り、下から上へ振り上げた。ルカリオは腕を交差しそれを防ぐが…勢いに負け少しだけよろついた。その隙を見逃さずルトは走った。
「ふっ!」
ルトは大振りのパンチを繰り出し、ルカリオの背中を殴打しようとする…が
「っ!」
ルカリオは背後に振り向くと同時に裏拳を放ち、迫ってきたルトを殴り飛ばした。
「ぐぁっ!…くそっ!」
ルトは直ぐに立ち上がり、鼻血を拭った。そこに、神妙な顔をしたヤイバが向かってきた。ルトの側までより、ある提案を出した。
「…本気か?ヤイバ」
「本気さ。もう、こうするしかないだろうよ」
「……分かった、頼んだぞ!」
「応」
作戦会議は終わり、ヤイバは全速力でルカリオへと突っ込んだ。
「(ヤイバは両刀使い。ルトが木刀を失うことになってもメリットが生まれる程のポテンシャルだな。ヤイバに自分の木刀を渡すため、ルトはわざと木刀を手離したのか…中々切れる奴だ)」
ルカリオは心の中でルトを誉めつつ、向かってくるヤイバに身構えた。
「『電光石火』」
ヤイバは一瞬だけ足を止めて技を発動し、凄まじいスピードでルカリオの背後を取った。
「(…!早いな)」
ヤイバは両腕で叩き付けるように木刀を奮う。ルカリオはギリギリでそれを避け、一歩下がる。しかし、ヤイバはまたしても電光石火を発動し、ルカリオの目の前に迫った。
「(また…?さっきよりえらく近いな)」
またしても大きく木刀が振られるが、ルカリオはなんなくそれを避けた。
そしてまた、避けた先にヤイバが迫る。
「(…間髪入れず攻撃を仕掛け、こちらの防御や回避が綻ぶのを狙ってんのか。甘いな)」
ルカリオは動くのを止め、振り下ろされる木刀を見ながら、ヤイバの懐へと潜り込んだ。
「っ!」
「寝てろ!」
ルカリオはそのまま強くヤイバの鳩尾を殴った。
「ぐ…カハッ…!」
「速さは見事だが…近すぎるぜヤイバよ」
ヤイバは悶えながらその場に倒れた。ルカリオはふうと息を付き、ルトのいた方角を見た。
「さ、次はルト!お前だ」
「っ!ヤイバ…クソッ!」
ルトはギリリと歯軋りをした後、ルカリオへと突っ込んだ。
「(…ここまで、か。惜しかったが…終わりだな)」
ルカリオはほんの少し落胆し、隙だらけなルトを見て構える。
やがてルトは右手を後ろへ下げ、思い切りルカリオの顔を目掛けて殴り込んで来た。
「…お前も…寝てろ!」
ルカリオはカウンターを仕掛ける為に、右足を振り上げてルトの顔面を蹴り飛ばそうとする。その時。ルカリオの右足が何かに引っ張られて動かなかった。
「っ!?な…ヤイバか…!」
「…く…くく…」
ヤイバは苦しそうにしながらも、笑みを浮かべてルカリオの足をしっかりと掴んで止めていたのだ。
「ルカリオさんッ!」
「…!」
そして、ルトの拳はルカリオの眼前まで近づいていた。
「俺達の…勝ちだッ!!」
鈍い音と共に、ルカリオの顔面にルトの拳が打ち込まれた。