第87話 スイクンを追う者

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 マイが公式ジム戦の二週間のお預け期間をもらった頃――

「もしもしアヤノです。クリスさんどうしました?」

 30番道路にてクリスからの電話を受け取ったアヤノ。ジョウト地方で捕獲したポケモンをウツギ博士に渡しに行く途中だったのだ。

「今どこにいるのかなって」
「えーと、ここは……30番道路です。ウツギ博士の元へポケモンを届けようと歩いています」
「あっマイちゃんなんだけど……」
「そっちですか……(うー、ちょっとショック)マイなら風の噂でフスベシティにいるらしいですよ」

 電話越しでクリスはきっと顎に手を当てながら眉を八の字にして困った笑みを浮かべているだろう。
 まさかの発言にアヤノは大きく肩を落としたが、すぐに顔を上げた。

「やっぱり。アヤ、気分を悪くしないでほしいのだけど……。マイちゃん捕獲計画は白紙にしてくれないかしら?」
「えっ!? なっなんでですか!? やっぱり私の仕事が遅いせいで」
「違うわ! 違うのよ! アヤはよくやってくれてるわ、おかげで私もポケモン塾の子達に専念できているから本当に助かってるの。けど、バッジ八つ目に掛かって……そこまで来て今更戻って来られても、ね」

 言葉を選んでアヤノに伝えるクリスはまるで園児を相手にするかのようだ。アヤノは自分の仕事が認められていないと勘違いをしてしまって泣きたい感情が身体に上昇してきたのが分かる。しかし、クリスの言い分ももっともだ。

「そうですか。なら、私は次どうしたらいいですかね」
「実は捕獲してほしい伝説のポケモンがいるの。名前はスイクン」
「スイ君? また人間ですか? あっポケモンって言いましたね、すいません。どんな子なんですか?」

 あくまでまだクリスの弟子としていたいアヤノは仕事を催促するとクリスはいつも通りハキハキとした言葉で伝えてきた。今だに落ち込んでいるのかアヤノがボケけてしまうが……。

「資料は後でポケギアのメールで送るわ。あとウツギ博士の研究所にてスイクンのプロフェッショナルがいらっしゃるから行ってみてもらえるかしら。丁度行こうとしていたんだっけ?」
「はい、分かりました。そうです! 丁度行くところでしたので伺います!」

 テンションが戻ったところでポケギアを切りアヤノはギャラドスをボールから出してワカバタウンへ飛ぶ。

「ウツギ博士! こんちには、アヤノです。今回依頼されたポケモン捕獲してきました!」
「おや、話をすれば。アヤちゃん、こちらスイクンを追いかけているプロフェッショナルの――」
「あっ! クリスさんから聞きました! アヤノです、お願いします」

 研究所の扉を元気よく開けてウツギ博士に依頼されたポケモン達を一気に渡すとクリスから話を聞いているのか早速プロフェッショナルとやらを紹介してくれようとした時、アヤノが言葉を取り頭を下げた。

「そのとーり! 伝説のポケモン、スイクンを追い続けて旅をする者。それが私だ! ミナキ、よろしく!」
「よろしくお願いします。早速ですけど、スイクンについて特徴を教えてください。生態とか教えてもらえたらありがたいです」
「お、おお……クリス君みたいに仕事熱心だね。いいだろう! ウツギ博士! 研究所を少し借りるよ!」

 ミナキと名乗った青年は、首筋辺りででハネた茶髪に紫のタキシードを着て赤い蝶ネクタイをしたマジシャンのような恰好をした変わった人物だった。
 思わずアヤノは後ろに身を引くが握手を求められ強張りながらも握手を交わす。

「うん、いいよ。あんまりアヤちゃんを怖がらせないでね。僕は研究に戻るからね」
「はい! お借りします!」

◆◆◆

「へえ、この透明な鈴がないとスイクンの張る結界とか言うものに入れないんですね。いいんですか、こんな大事なものをもらっても」
「いいんだよ。僕はなくてもスイクンに近づけるからね(本当は何個もあるんだけど)気にしないで受け取ってくれ。じゃ、僕もスイクンをハンターしに行くから! 何かあったらポケギアで連絡してくれ!」

 アヤノは新たに「透明な鈴」を大事な物入れにしまい礼を述べる。ミナキは満足した顔で研究所から出ると手持ちポケモンのワタッコに背中を捕まえられて空へ飛んで行った。

「綺麗な水にいる。静かな森の中。うーん、手始めにワカバタウンにある、あの山にでも行こうかしら?」

 教えられたことを復唱してアヤノは大地を蹴って走り出す。アヤノが向かおうとしている山は—―

 かつてゴールドとマイがエアームドで襲われた山だった。

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