第75話 ピンチをチャンスにかえる者

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ねえ、アヤノは誰からポケモン図鑑もらったの? わたしは博士からだけど、コウちゃんは……サニー地方の博士から? リューくん、水鉄砲」
「ああ、そうだ。図鑑について詳しいし、オーキド博士から受け取ったものだと思ってたが実際はどうなんだ? キングドラ、水鉄砲」

 イシツブテの群れに襲われてタイプに有利なポケモンをそれぞれ出して戦っている中、アヤノが器用にポケモン図鑑を使い、野生のイシツブテが覚えている技や経験を調べている姿を見てマイが言い、コウも続けた。
 数が多いので波乗りなどの大技で一気に片づけたいが洞窟内では危険と判断し、地道に気絶をさせて言っている。
 アヤノはギャラドスを繰り出したいところだが大きなギャラドスでは身動きが取りづらいため比較的小さな水と氷タイプのパルシェンを使い戦っていた。

「コウが正解よ、私はオーキド博士からもらったの。もらった地方が違うのに図鑑の形が同じってなんだか不思議ね。パルシェン、水鉄砲」

 天井に掛かった水滴が落ちてきて、しずくとなりフラッシュに反射して真珠のように光って地面に落ちてくる。
 辺りはしんと冷えていて、身体に真冬を思い起こさせる程の鋭い冷たさが三人を襲う。

「風が寒い、アヤノ髪じゃまだよ! こっち当たる~!」
「風……? どこかに空気の通り道でもあるのかしら!」

 固くて冷たい業務的な顔をしていたコウが瞳を大きく開けて二人の言葉に続けて言う。風になびく長い髪がマイの顔に当たり鬱陶しそうにする。

「こっちだ」
「あんたって長い髪もそれなりに似合いそうね。でも、今がすごくあんたらしいって思えてる……なんで?」
「聞かないでよ! わたしずっと短いままがいい、楽だもん」
「聞いているのか?」

 コウが左手の人差し指に落ちて来た水滴を着けると、左腕を高く上げて風の角度を確認。その間にも女子二人は会話をやめないので、少し顔に怒りを含ませて言うと会話をピタリとやめてコウにうなずく。

「あ! 光が見えるよ! 外だ! わーい!」
「喜ぶのはまだ早い。この穴、どうやって大きくする?」
「うーん……地味に掘るしかないわね。いきなり大きな穴にするとこっちの天井が落ちてくるかもしれない」

 二手に別れている道も風がやってくる向きで判断が点く、身体も冷え切ってしまっているので、さっさと出たいが気持ちを抑えながら地味に小さな風穴を広げることにした。

◆◆◆

「よっし! 出れた~! おつかれさま~」
「マイ、私達何もしてないわよ。ありがとう、フィア」
「外だ……しかし、ここはどこだ? やけに寒いな、ポケギアの電波はっと……お、届いているな。ここは」

 時間をかけて広げた穴から出てくる三人組。外の空気を目いっぱい吸い込むマイを尻目にコウは現状位置を確認。アヤノはメールや電話がクリスやオーキド博士から来ていたことに気づくとすぐに電話をクリスにかけようとする。

「コウちゃんここどこだって?」
「ここは44番道路。位置的に俺達は氷の抜け道の真下にいたらしいな。寒いわけだ、さっさとポケモンセンターに行くぞ俺は」
「ほえー。あ、アヤノ!?」

 コウに早口で説明され終わるとコウはグライガ―を出して空高くに昇って行き姿が見えなくなる。さらには電話をしながらアヤノはギャラドスを地上に出し、頭に乗ってコウ同様空に消えて行く。

「んーどうしよう」

 マイは少しだけ痛みが治まって来た両腕をさすりつつ現状を観察。せっかく洞窟から抜け出したというのに周りは高い壁に囲まれ、マイがその深さのある穴の中にいる感覚に近く、簡単に言うなら空を飛ばないと脱出できない場所。
 また穴を掘ればいいかもしれないがどのくらい分厚いかも分からない壁、手持ちはひん死寸前、マイも寒さでやられていてどうしようもない。

「ポケギアの電話使えないしなあ……はあ」
「りゅ~?」

 せっかくゴールドにもらったポケギアは、怒りの湖に落ちた時に水没して電話機能が壊れてしまった。助けを呼ぼうにも呼べない。
 今までコウとアヤノといたので急に一人になり寂しくなったマイは目に涙があふれてきた。ハクリューはボロボロの身体でなおマイを慰めようと涙を舐めとる。

「あはは……ごめんねリューくん、こんなトレーナーで」
「りゅ~!」
「ゴールドに会えないのかなぁ……やだなぁ、うう」

 泣くのを我慢したその悲しそうな、無理やり作る笑顔を見てハクリューの身体は強く反応する。

「リュー!!」
「—―!? リュー……くん? もしかして、これって」

 もうずいぶん前のように思えるが、はっきりと鮮明に覚えている。焼けた塔の地下に落ちてしまったマイを助けたいと思ったミニリュウがハクリューに進化した出来事。
 そう、これはまさに。

「カイリュー……」
「ばう!」
「えっ!? わっ!! たっ高い~! 早いよ~!」

 水色の身体は光に包まれて、背中に当たる部分からは羽が飛び出てくる。羽のような耳は触覚に変化して、全てを包んでくれそうな海色は太陽のような温かい色に変わる。
 生えたての大きな手でマイを優しく抱いて空へ一気に飛びあがる。感動もなにもなくなってしまった。
 最高速度が幾つなのか気になるくらいの速さでカイリューはゴールドの匂いの元へ急ぐ。マイは目をつぶるのが精いっぱいで次に目を開けた時には――

「ゴールド!」

 ようやく速度が落ち着いて一安心してマイは目を開けると、ゴールドが怒りの湖を見ている姿が見える。

「今マイの声が聞こえたような……気のせいか?」
「ゴールド~!!」
「え!? なっ!? まっマイ!? カイリュー!?」

 幻聴でも聞こえたのかと耳をほじるとまた聞こえる声の方に顔を向けるとカイリューの腕にすっぽり収まるマイが。

「よっ、と。ありがとリューくん。また助けられちゃったね」
「色々言いたいけど、とりあえずこれだけ言う!」

 地面に足を付けてゴールドに駆け寄ると、ごつごつとした男らしい手で頭をくしゃくしゃに撫でられる。
 ようやく揃った二人は、話したいことも山程あるがある言葉を言う。


「ゴールド、ただいま!」
「おかえり、マイ」

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