この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
アブソルは記憶の泉から帰った翌日、ヘルガーのヒントは掴めなかったことをバンギラス達に話した。バンギラスとキングドラは少しでも真相に近づけるよう、捜索隊の応援に加わることにしたが……。
〜?、12:00〜
バンギラスとキングドラは捜索隊の成果を聞き、危険だが潜伏している可能性がある場所の探索を引き受けていた、行き先は名前のない深い森…隠れるとしたらとても都合の良い場所だった。
「……ここかな?ヘルガーのいる可能性がある森は?」
「目撃者の言うことが正しければ…だがな、普通のヘルガーの可能性もある。」
「ん、了解、じゃあ早速行こっか。」
「緊張感のない奴め…まぁ、それくらいがちょうど良いのかもな。」
「キングドラ深く考えすぎ、シワが増えるよ。」
ゴンッ……!
「……言うことは?」
「ごめんなさい……。」
「分かればよし、俺ならまだしも他の女なら叩かれるじゃすまないぞ。」
「あい……。」
「ハァ…全く…こんなヤツが凶悪ポケモンのバンギラスとはな…。」
「まだ頭がガンガンくる…。」
「涙目はやめろ、逆に怖い、ほら…さっさと行くぞ。」
いつの間にか立場が逆転している状態でバンギラスとキングドラは森に足を踏み入れた。
「「…………!?」」
その一歩目からだった…強い殺気…この森を縄張りにしているポケモンのものだろう…思わず二人も気を引き締めてしまう。
「リーダー……。」
「うん、分かってる…初っ端からテリトリーか…早いね。」
バンギラスは目をつぶり、集中力を高める…1…2…3…。
「…3体!キングドラ!丁度右真横、1匹!」
「了解!」
指示を受けたキングドラは躊躇うことなくオーロラビームを放つ、隠れていたホイーガは防御姿勢を取れず、まともに喰らって吹き飛ばされていった、続けて距離を詰めながら突進の追撃を行い、気絶させる。
「リーダー!次は……。」
指示を受け取ろうとキングドラは後ろを振り向く…既にクロバットとフォレトスを地に叩き潰しているバンギラスがいた。
「……倒すのが遅い…もっと早く動けない?」
「…お前…!」
今までとは違う優しさという物が消えたバンギラス…その目は赤く細くなっており、森のポケモンに負けない殺気を放っていた。
「……いつからだ?」
「このクズ達と戦う時、こいつ…峰打ちで済ませようとしていたから…つい出てきてしまった。」
「別にいいだろ…それがリーダーの優しさであり良いところだ。」
「その優しさが…後に甘さに繋がるとしても?」
「……それはもう終わったことだ…関係ない…。」
「だがその過ちは残る…、いい加減にその甘さ改善しないと…こいつ…死ぬよ?」
「……言いたいことはそれだけか?」
「ん…まぁそれくらいかな。」
「じゃあ失せろ、リーダーを返せ。」
「はいはい、お邪魔は消えるとしましょーかね…じゃ、またね、良い暇つぶしになったよ!」
それだけ言ってバンギラスの頭はガクンと垂れる、しばらくして頭が上がると元のバンギラスの目に戻っていた。
「……痛た…酷い頭痛だな…。」
「リーダー…また…。」
「らしいね、記憶飛んでる…出てきちゃった?」
「あぁ、優しさと言う甘さをなおせだとよ。」
「言うことに変わりはなし……か。」
「最近頻度が多くなってきてる…そろそろやばくないか?」
「大丈夫…私の事は今は置いとこう、ヘルガーの捜索続けるよ。」
「頭痛は良いのか?」
「ちょっと落ち着いた…支障は無い。」
「……分かった。」
バンギラスは頭痛を耐えている、それをキングドラは分かっていた、だが止めない、リーダーはそういう奴だから…仲間が関わると自身の身を犠牲にしてでもその身に鞭を打ってしまう…今出来ることはその言葉を信じ、先に進んで調査を終えること、そうすればリーダーも少しは休んで楽になれる。
探索を再開して5分…無言の気まずい空気の中、ふとバンギラスは口を開いた。
「……キングドラ…今二人だけだから言っておきたいことあるんだけど…。」
「なんだ?」
「さっきの事……もし私が喰われたら…その時は…。」
「躊躇わずに殺せ…だろ?」
「うん、何度も言ってるから分かってるよね…ならいいや。」
「あぁ…だが断る。」
「そうだね………ってあれ!?」
「断るって言ったんだ、俺はリーダーを殺せない。」
「でもそしたら私がみんなを……。」
「その前に解決策を見つけてやる、だから諦めるな、必ず助けてやる。」
「…そっか…ありがとう…キングドラ。」
バンギラスは再び足を進める、その後ろ姿をキングドラはしばらく見つめていることしかできなかった。
「絶対に冗談じゃ終わらせない…ロロと一緒に貴方も消えたら…私は…。」
草木の揺れる音と共にキングドラの本性と声がかき消される…バンギラスにその声が届いたのかは分からない。
〜?、捜索開始1時間経過〜
「……これかな?」
「あぁ、当たりだな。」
森に足を踏み入れてすぐの出来事は無かったかのように2人は捜索に集中していた、今思えばその事を忘れたいが為に…振り払うための集中だったのかもしれない…天はそれに味方したのか、少し空いた空間の所に二人を導いてくれた。
「テントに焚き火の後…、木の実が沢山貯められているから…ここを拠点としているのかな?」
「…明らかにここ最近のものだ…加えて決定的なのは…。」
そこまで言うと2人は一つのものに目を向ける。
「この拳銃という武器の弾が沢山あるということ…。」
近くにはヘルガーは居ない様子だった…近くに川があったのでそこにいるのかもしれない…。
「リーダーは頭痛がまだあるだろ…休んでろ、俺だけで行く。」
「駄目、まだここにヘルガーは留まるはずだから…跡が残らないように今日はギルドに一旦戻るよ、一人は危ない。」
「……そうだな…分かった。」
バンギラスがギルドに帰るなら良いか、という事でキングドラはその指示に従った、バンギラス達はバッジを使って森から姿を消す…。
〜探索終了…。〜
〜バンギラスギルド、キングドラの部屋〜
「…………はぁ…。」
キングドラは帰ってすぐに自身の部屋へと戻った、今日の所はゆっくり休み、報告は明日にすることにした、今のキングドラは一人になって気持ちの整理を付けたかった…。
「アブソルのこともあるが…リーダーのことも忘れてはいけないからな…。」
キングドラはソファーに並べているものに目を移す、バンギラスとキングドラのぬいぐるみだ…その真ん中にはもう一つ……ミロカロスのぬいぐるみも一緒に置かれている。
「ロロ…俺はリーダー、いや…レクスを支え続けるよ、助けれるなら何だってやってやる覚悟のつもりだ…。」
ミロカロスのぬいぐるみを見つめる…目の代用をしていた黒のビーズには自身の暗い顔が映っていた。
「なんとしてでも…あいつをレクスから引き剥がす…諦めるなんて私自身が絶対に許さない…。」
もう立ち止まらないって…諦めないって…決心した…。
「キングドラ改めリュウ…弱気になってる時間などはない…!」
キングドラは己に言い聞かせると本棚の書物を大量にバサバサと尻尾で引っ張りだし、付箋のついたページを開いて調べ物を始める…。
その日、キングドラの部屋から明かりが消えることは無かった……。