第55話 VSアヤノ[後編]

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ピーくん、行ってきて! 10万ボルト!」
「あらっさっきとは比べ者にならないくらいの子ね。まあ……フィアとも比べ者にならないけど! 穴を掘る!」

 ゴールドは目の前で起きているバトルに口を挟むことができないくらい集中していた。かつてこんな手強い相手はいただろうか。
 アヤノはピカチュウがボールから出るのを真っ先に確認すると少々おしゃべりを挟みつつも指示を出し、10万ボルトが届く前に穴を掘らせ潜らせる。当然、土の中に電気は通ってこない、着地したと同時に穴から出てきてピカチュウのお尻を攻撃。

「ピーくん下に向かって雷パンチ!」
「何度も使わせないで! 穴を掘る!」
「そう来ると思ったよ! ピーくん穴を掘る!」

 お尻を攻撃されたことで飛び上がる反動を生かしてのスピードで雷パンチ、しかしロコンにまたも穴を掘られて同じことをされてしまう。そんなことをされないために雷パンチで開いた穴を利用してピカチュウも穴を掘る。

「ロコン、出てきてちょうだい。さ、ピカチュウが掘った穴に火炎放射!」
「えっ!? なにそれやめてよ! ピーくん出てきて!」
「引っかかったわね、オーバーヒート!」

 引っかかった、といいながらロコンは口から炎を出して穴に向かって出す。死にもの狂いでピカチュウが穴から出てきたものの炎はばっちりお尻についている。しかも慌てて出てきたからロコンの攻撃にも気づかない。
 炎の竜巻がピカチュウに襲い掛かり、竜巻の中へ入ってしまえば地上からどんどん空へと上がって行く、そして竜巻の先からピカチュウが出たと思えば地面に向かって落ちていくのみ。

「ピーくん!! そんな……一回も攻撃が当たらないなんて……」
「そんなことないわよ、見てみなさい。ロコンが少し麻痺してるわ……ってヤダ。言っちゃった!」

 地面に叩きつけられるように戻って来たピカチュウを抱きかかえると頭を撫でる。ごめんねというようにか細く鳴くピカチュウ。もう限界に近いだろう、これ以上無理はさせれないとボールに戻す。

「リューくん、最後は君だよ!」
「ハクリュー! へえ、結構懐いているのね。カラ元気!」
「ピーくんの麻痺を利用したんだ! リューくん、竜巻!」

 麻痺をいいことにロコンのカラ元気の体当たりダメージが二倍となりハクリューを傷つけるがお返しとばかりに竜巻がロコンを襲う。先程ピカチュウがされたようにロコンが宙に舞い、落ちてくるのを狙いマイが叫ぶ。

「リューくん、冷凍ビーム!」
「やばいかも? 弾ける炎!」

 ハクリューの真っすぐな冷凍ビームをあちらこちらに舞う炎が威力を弱める。しかしそれだけではない、冷凍ビームの威力を弱めながらも確実に炎はハクリューを襲う。
 火傷を負わされたハクリューは目を細め、マイを困惑した顔つきで見る。

「リューくん、まだ行ける!? あられ!」
「へえ、すごい技! でも甘いね、ロコン日本晴れ!」
「もう! せっかくのあられを!」

 言葉の通りせっかくあられを作りだしたのに、ロコンの鳴き声一つで天気が変わる。日差しがとても強いためあられが簡単に溶けてしまう。

「リューくん、雨ごい!」
「なんですって!? 日本晴れ!」
「雨ごい! あられ!」
「日本晴れ! 大文字!」

 天気が雨になったり晴れになったりが繰り返された時、痺れを切らしアヤノが連続で指示を出していたようにマイも連続で指示を出してみた。
 負けじとアヤノもそうするが連続攻撃なんてしたことのないハクリューは目が回っている。ロコンの攻撃が一枚上手だ。
 大きな大文字に包まれてハクリューはその場に倒れる。駆け寄ったマイが涙を浮かべて抱きしめてやると弱弱しい声で鳴いて答える。ごめんね、と。

「このバトルわたしの負けだよ……」

握りこぶしを震わせてアヤノにそう言う。

「マイ、待て。なあアヤノ、さっきキングラーの群れから助けてやったのを借りにしてこのバトル無効とは言わねえからよ、借りを返したことにしてやってくれないか?」

 ゴールドの強く金色に光る瞳に言われてしまってアヤノもたじろぐ。そしてなんとも言えない顔つきで黙って頷き、そして言葉を続けた。

「……ええ、わかったわ。ポケモンを早くポケモンセンターに連れて行くことね。私はもう少しここにいるわ。今回は見逃してあげる。バトルは楽しかったわよ」

 ボロボロになった手持ちが入ったモンスターボールを腰にぶら下げるのではなく両腕に抱きしめてポケモンセンターへと向かう。ポロポロ涙があふれて仕方がないというようだ。

「フィア、大丈夫? 危なかったわね、マイがハクリューにタッチしなければ引き分けだったわね……」

 なんとロコンはハクリューのあられを尻尾に受けていて動けずに立ったまま気絶をしていた。そのことにマイが気づかずにポケモンに触れてしまったため強制的にアヤノはバトルに勝ってしまったのだ。

◆◆◆

「…………」
「マイ」

 ポケモンセンターに行き無事全員を元気にしたあとすぐにサント・アンヌ号がやってきた。走って浜辺に戻るとアヤノはすでにいなくて、ゴールドは内心ほっとする。
 しかしよっぽど負けたことが悔しかったのかあれから半日は立つというのに泣き止まない。手持ちのポケモン達が総出で慰めようとボールから出てきてもマイは元には戻らない。
 それもそうだ、この三ヶ月間こんなにもコテンパンに負けたことがないのだ。負けた後ポケモンセンターに行って、治療を待っている間にも握りこぶしは解けないままで、ゴールドが無理やり解いてやると爪痕が手のひらに残っていた。

「なあマイ、世の中ずっと勝ちっぱなしじゃ生きていけない。お前が今まで勝って来たトレーナーも今の気持ちだと思うぜ? だけど、それを乗り越えてまたバトルしてんだ。分かるだろ?」
「うん……」
「負けたらそこから這い上がってくればいい、そんだけだ。まあ、お前の性格からじゃしばらくはうじうじしてんだろーけどな! ま、よくあるこった気にすんな!」

 部屋のベッドの中で布団にうずくまっているマイに話しかける。なんとなくゴールドの言葉に救われたような気もしたのか布団から顔を出してきた。

「もう落ち込んでないよ。次は……負けないもん」
「そんなに鼻が赤いやつに言われたくないけどな! まあ寝ろ! おやすみ!」
「うわっ! おやすみゴールド……」

 ゴールドに再び布団に押し込められてしまったが眠ってしまった。泣くのも体力がいる、疲れたのだろう。
 今はただ眠って時間を過ぎるのを待つしかない、おやすみなさい――。

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