第48話 昨日の敵は今日の友

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 少年はどっからどう見てもコウであった。赤髪をポニーテールにしておでこを全開にしているお兄さんにビビって声が出ないようだ。
 ゴールドが行くより先にマイが駆けだして、ハクリューを繰り出した。

「ちょっと! わたしの友だちになにしてんの! 怖がってんじゃん!」
「え? あ! マイ? どうしてここに……というか怖がってない。ちょっとビビってるだけだ」
「どっちも一緒でしょ! あんたの名前は何て言うの? わたしはワカバタウンのマイ!」

 コウを庇うように両手を広げ、背中に隠す。身長差的に隠れてはいないのだが。そんな後ろでコウが小さく抗議している。
 そしてゴールドはと言うと、口をぽっかり開けてマイの雄姿を見ていた。

「俺様はイオンだ! チビの癖に生意気だな。その珍しいポケモンとの交換を賭けて俺様とバトルだ! 裏に来い!」
「そっちは裏じゃない! 表玄関だ!」
「わかってるわ!! 黙ってついて来い! なんなんだこいつ!」
(マイが俺と同じ台詞言ってら! ククク!)

 イオンと名乗った青年は、親指を立てて横に向けると小刻みに動かし、こっちに来いと合図をしている。その先はマイ達が来た扉とは逆方向の外に出る玄関だったのでマイがいらんことを言ってしまう。ついには裏はこっちだ! とイオンと同じ手の動きをして煽る始末。ゴールドは顔を下に向け笑いをこらえていた。

「わかった! 行く! バトルだ!」
「だから少しは静かにしろ?!」

 イオンが先を歩き、次にマイ。そして、コウが何かを考えているような顔で外に出る。ゴールドは笑いに気を取られていたが野次馬に紛れて外に出た。勝負の行方はどうなる?

(俺が……友だち?)

 イオンとマイは船のデッキに出ると許可が下りているバトルフィールドまで歩いてきた。
 コウとゴールドはマイのすぐ後ろにいて、いつもと少し違う環境にマイは歯がゆいのか顔をどうしたらよいのか分からず、とりあえず真顔にしてみた。

「俺はこのニドキングを賭けてバトルを挑む! お前はそのハクリューを賭けてバトルをしろ!」
「えー! 負ける気はないし譲る気もないけど……リューくん、いい?」

 ボールから出したのはニドキングという鍛え上げられた肉体に背中にはトゲがついている強面なポケモン。イオンはニドキングとハクリューの交換を申し込んできた。
 マイに尋ねられるとハクリューは、満足げに任せておきなさいと胸を張って答えた。

「それなら、わたしが勝ったらもうみんなに悪い事しないって誓って!」
「ふん、負けねえけどな! 行け! ニドキング! 冷凍パンチだ!!」
「冷凍パンチに向かって、冷凍ビーム!」

 マイの条件をのみバトル開始! 一対一のシンプルなバトル。イオンは早速ニドキングの拳を凍えてしまうような寒さの拳に変えてパンチを繰り出させる。
 冷静に状況を分析して、ハクリューにはパンチめがけての冷凍ビーム。こちらも負けじと冷たい光線をパンチにぶつける。

「なにぃ!? ニドキングの拳が冷凍ビームで動けなくなっているだと!?」
「ふふ~ん! わたしのリューくんを舐めないでよね! その拳はもう使えないよ!」
「甘いぜ、ニドキング大文字で氷を解かせ!」

 冷凍ビームは床から拳に向かって凍っていて拳がうまく使えない状況でいたのだが、イオンの気転により大文字で氷が解かされてしまう。
 溶けた勢いで炎が増し、ハクリューに波のように襲い掛かってきた。

「リューくんだいじょうぶ!? もー怒った! 竜の怒り!」
「それお前が怒ってるだけだろ」

 マイの台詞にゴールドがツッコム。ハクリューは目の色を変えて、空に向かって声を張り上げる。するとたちまち空が曇って行き、野次馬に来ていた人は慌てて船内へ戻って行く。
 そして、雷も遠くで聞こえてくるとハクリューは目を閉じて静かに何かを待つようだった。

「今の内だ! ニドキング、雷パンチ!」
「近寄って来たよ! リューくん今だ!!」
「なっなに!?」

 ニドキングが顔を変えて拳に電気を溜めて振りかざそうと近寄ってくると、ハクリューは閉じていた目を開け、ニドキングを複数の竜巻空間に閉じ込めた。

「なんだこれ!? これが竜の怒り!?」
「リューくんが怒って出したたくさんの竜巻で逃げられないでしょ! そろそろ来るよ……雷!」
「あれが竜の怒り……強くなってるな、あいつ」
「だろ~。俺が見てるだけあるぜ」

 ニドキングの四方向を竜巻で塞ぎ、その竜巻から雷を落とす。四つの電撃を受けてニドキングはその場に倒れ目を回す。
 コウが心底感心したのか良い意味でため息を付きながら言うとゴールドが言葉を続けた。
 イオンは舌打ちをしながらボールに戻すとぶっきらぼうにこう言う。

「こんなやつに負けるなんて、交換なんてしなきゃよかった」
「何言ってるの! 弱いのはイオン、あんたでしょ! ニドキングはすっごく頑張ってた!」
「……おう」

 イオンは自分より年下で自分より背の低いマイに正しいことを面と向かって言われて返す言葉が見当たらなかったようだ。
 ゴールドがマイに近寄って、よくやったな! と褒めてきた。コウはというと、小さい声で何か言ってきた。

「俺が友だちってどういう意味だ?」

 恥ずかしくて顔向けできないのか伏目になるコウ。
 イオンに絡まれた時にマイが言った台詞がずっと胸につかえていたようだ。

「そのままだよ! コウちゃんは友だち! そうでしょ?」
「だって俺達はこの前まで敵同士……」
「昨日の敵は明日は友だち! っていうよ」

 そんなコウに対して、マイは真っすぐな瞳で真っすぐな答えを返す。ゴールドは後ろでくすと笑っていた。
 なんだか少し違うことわざを言うのでコウはいつもの調子に戻ったようで。
 
「若干違う。昨日の敵は今日の友、だ」

 と返す。

「同じじゃん!」
「もうそれでいい」

 マイは全く気にしていない様子でコウに歯向かう。それでも一応はお礼を言い船内へ戻った。ゴールドは竜の怒りが収まった空を見上げて、プール入りてえ、なんてつぶやいていたりして。

 ――夏がやってくる。
そうさ永遠に!

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