9話 緊急救助

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

迷子の探索の為に海岸洞窟へと足を進めたアブソルとロコン、そこはヘルガーによって荒らされ、更には住処にしていたポケモン達の大量虐殺の後と化していた。アブソルはロコンをギルドに戻し、単身でヘルガーに闘いを挑むが腹部を撃たれ、倒れてしまう…。
〜バンギラスギルド前〜

「お姉ちゃん!目を覚まして!お姉ちゃん!」

誰かが私を呼んでいる…小さい子供の声だ…。

「お姉ちゃん!アブソルのお兄ちゃんはどうしたの!?何があったの!?」

お兄ちゃんってアブソルのことかな…ふふっ…なんか二人だけの可愛い妹が出来たみたい…。

・・・・・ ・・・

「どうしてお兄ちゃんがいないの!?」

「!?」

お兄ちゃんがいないと言われたことにより海岸洞窟の記憶を思い出したロコンは目をすぐに開けて起き上がった、周りを見るがアブソルはいない…目の前にいるのは先程助けたピチューだけだった…。

「そんな…本当に私だけ帰ってきちゃったの…?」

「お姉ちゃん……?」

ピチューは心配そうにロコンを見るがロコンはそれどころじゃない…アブソルのことを必死に考えていた…そしてふと思い出す。

もし僕が死んでしまったら…その時は…まぁ、後はお願いしますね!


「…アブソルが…アブソルが危ない!」

「お姉ちゃん!?」

ロコンはギルドに急いで入っていった、ピチューも最初戸惑いながらも何かあったのだと気づき後を追う。

「バンギラスさん!キングドラさん!」

「うわっ!?びっくりした〜、ロコンさん依頼終わったんッスね、おかえりッス!」

「ヘラクロス!バンギラスさんとキングドラさんはどこ!?時間が惜しいの!アブソルが…アブソルが!」

「な、なにかあったんスか!?」

ヘラクロスはロコンの涙が溜まった瞳を見て只事じゃないことを理解する。

「どうしたんですか?あら?そちらのピチューは……。」

騒ぎを聞きつけ、エーフィを始めとしたギルド内のメンバー達がなんだどうしたと駆けつけてくる。

「だ、誰か!バンギラスさん達を見てない!?アブソルが危ないの!このままじゃアブソルが死んじゃう…。」

アブソルが死ぬ、その言葉を聞いてギルド内の空気は一気に張り詰めた空気が駆け巡る。

「アブソルが…し…死ぬ…ッスか?」

ヘラクロスも驚きが隠せない、自分を何回も返り討ちにしたアブソルが今死の危機に直面している…そんなことはとても信じ難い事だった。

ギルドの全員も状況を理解し騒ぎ出す。

「お、おい!誰か親方を知らないか!」

「今キルリアが呼びに行った!すぐに来るから待ってろ!」

「こんな時どうするんだっけ!?」

「何か情報ははいっていないか!?」


一応連携っぽいことにはなっているが急な仲間の命の危機にメンバーはパニック状態になってしまっている…その時、

パァン!

「!?」

誰かが手を叩いた、全員が一度ピタリと動きを止め、音の元を向く、エーフィだった。

「皆さん!まずは落ち着いてください!」

「だ、だがエーフィ!」

「ロコンさん以外私達は詳しい事が今何も分かっていません!そんな中で下手に動いたら混乱して救助に余計時間がかかるだけです!」

「エーフィ君、良い判断だよ…よく行動に移したね。」

「親方……。」

気がつくとバンギラスは全員の後ろにいた、バンギラスはロコンの元へと歩み寄る。

「ロコン君、その子を見たら分かるよ、だが依頼達成を祝う…という訳にも行かないようだね…アブソル君と何があったんだい?」

エーフィは一度深呼吸をロコンにさせる、だがロコンは口開けるだけでうまく話せない…それをみたピチューは代わりにと事情を話し始める、他のメンバーも耳を傾けて聞いていた。

ヘルガーが洞窟を壊しながら攻めてきたこと、ポケモン達を下へと追い詰めていったこと、隠れて難を逃れたこと、アブソルが見つけて助けてくれたこと…バンギラス達はそれを黙って聞いていた。

「…なるほど…それで…他に何か知っていることはあるかな?」

「3Fで見たことは…私が話します…。」

「ロコン…大丈夫っすか?」

ロコンは静かにコクリと頷く。

「3Fで私とアブソルが見たものは恐らくヘルガー…そのポケモンによって殺された大勢のポケモン達の死体でした…、それを見て気分が悪くなった私はアブソルに先に戻るように言われて…バッジを使ってここにもどされました…。」

「ポケモンの……死体!?」

ギルドの全員がまた騒ぎ出す…まさか近場で大量虐殺が行われているなんて思いもしなかっただろう…冷静を保てていたのはバンギラスとキングドラだけだった。

「…じゃあ…アブソル君は…。」

「一人でヘルガーを止めに…バンギラスさん…私どうしたら……!?」

「詳しいことは分かった…キングドラ。」

「あぁ…分かってるよ…リーダー…。」

バンギラスは他のメンバーの方向に振り向く、その目は普段の優しい目とは違う…親方として、ギルドをまとめるものとして誰もが相応しいと思うような強い思いが伝わった。


「全員話は聞いていたね!これよりアブソル君の緊急救助作戦を開始する!キングドラ、ヘラクロス君、デンリュウ君は私と共に海岸洞窟に向かって欲しい!」

「リーダーと命令とあれば…。」

「もちろん!了解ッスよ!」

「…………。」

「エーフィ君、ミミロップ君、ドレディア君はいつでも治療ができるように入口で待機お願い!」

「分かりました!」

「道具取ってくるわね。」

「承りました、あ、ミミロップさん私も一緒に…!」

「ピカチュウ君とキルリア君は念のため、ジバコイル保安官に応援の要請を頼む!」

「あいよ!」

「アブソル君…大丈夫…かな…。」

「他のものはボスゴドラ君を中心に情報を集めて伝達を!」

「おうよ親方!」

「よし!では早速始めるよ!全員散開!」

バンギラスの指示により、役割を与えられたメンバー達は先程とは全く違う動きでそれぞれ持ち場につく。

「わ、私も行きます!」

「ロコン君は今は休んだ方が良い。」

「で、でも……!」

「ロコン、今はお前の精神はとても不安定だ、下手をするとなにが起こるか分からん…リーダーの言う通り少し部屋で頭を冷やせ。」

「アブソルのことなら任せるッスよ!」

デンリュウも何も話はしなかったが2回コクコクと頷く。

「……分かりました…後は…お願い…します。」

「お姉ちゃん……。」

静かに歩いていくロコンにピチューはついて行った…何か心の支えになれるなら…と思ったのだろう。


「リーダー…。」

「分かってる…ロコン君のためにも…行こうか。」

バンギラス達と医療班は海岸洞窟に向かって行った…。











〜海岸洞窟3F〜

「さて、そういう訳でここに来たわけッスけど…。」

ヘラクロス達は死体の山に目を通す。

「これは…酷すぎる……。」

「あぁ、全くだ…狂ってる…。」

「……。」(スタスタ)

「デンリュウ?どうした?」

デンリュウは何も言わずに一匹のクラブの前に座り込む、そして一度手を合わせ静かに頭を下げると…。

その死体に手を突っ込み始めた。

「何してるッスか!?デンリュウ!」

「待って!ヘラクロス君……。」

「親方!なんで止めるんすか!?」

「リーダー……デンリュウは何を…。」

「…………。」

デンリュウは複数の死体を弄り続ける…時々グチャっと音がして聞いていると吐き気が襲ってくる、更にはとても強い血の匂いもする…だがデンリュウは手を動かし続けた…そして…。

「……!?」

デンリュウはバンギラス達の元へ戻り、血だらけの手を差し出す、その手には一つの弾があった。

「…キングドラ…これって!?」

「あぁ、連続殺害事件で見つかった弾と全く同じだ!犯人は同一人物か!」

「デンリュウ…よく見つけたッスね…。」

「……目は…自信…あるの…。」

「だけど死体を弄るなんてそんなこと誰もすすんではやらないッスよ…。」

「…ごめん…なさい…。」

「アブソルは……?」

デンリュウはブンブンと首を横にふる。

「この辺りにはいないようだ…下の最下層か?」

「デンリュウとキングドラは続けてこの階を捜索!ヘラクロス君!付いてきて!」

「り、了解ッス!」

「デンリュウ…行くぞ。」

「…うん…。」

二手に分かれ、バンギラスとヘラクロスは階段を降りていった。




〜海岸洞窟、最下層〜

「最下層…ッスね…!、あ、親方!あれを!」

「アブソル君!」

二人は倒れているアブソルを見つけた、すぐに駆け寄り、状態を確認する。

「腹部から血が……結構な量だ…ヘラクロス君は先に戻ってキングドラ達と医療班に連絡を!私はアブソル君を運ぶ!」

「バッジはダメッスか?」

「下手にワープさせると体に負担がかかるからダメだ!慎重に、なおかつ確実な方法でいくよ!」

「分かったッス!」

ヘラクロスは羽を広げると飛び去っていった、バンギラスはアブソルを抱え、余り揺らさないように走る。

「アブソル君!、聞こえるかい?アブソル君!」

途中で何回か声を掛けてみたが、アブソルは意識を取り戻すことはなかった…。


















〜バンギラスギルド 医務室〜

何とかアブソルを医療班に渡し、ギルドに戻ることに成功した…だが未だにアブソルは目を覚まさない…ロコンは近くにいたいとアブソルの側で目覚めるのを待っている……。

その頃バンギラスはキングドラやジバコイル保安官達と緊急で会議を開いていた。


「今回の件…どう思う……?」

「大量虐殺の犯人がヘルガーなのは分かった…連続殺人事件を引き起こしたのもあいつと考えられるが…。」

「モクテキガ…イマダニワカラナイママデスネ……。」

「はい、その通りです…ヘルガーは何を考えてこんなことを…アブソル君が目を覚ましたら話を聞く必要がありますね…何か分かったことがあるかも知れません…。」

「ソノトキハワタシタチニモジョウホウヲ。」

「分かりました…ジバコイル保安官、必ず伝えます。」

「そうだ、リーダー、あの弾が何か分かったぞ。」

「……詳しく頼む。」

「あれは人間の世界の武器だ、拳銃と言うものらしい、鉛の弾に高速で回転をかけ、貫通させるという仕組みになっているようだ、他にも種類があったがそこはまだ詳しく調べる必要がある…。」

「人間の……武器……。」

「ソ、ソコマデアブナイモノナノデスカ?」

「危ないな…簡単に身体を貫くのだから…当たりどころが悪かったら…。」

「即死……か…。」

「…デハ…ワタシタチハコンカイノジケンノコトニタイシ、タイサクヲ……。」

「…よろしくお願いします。」

「シツレイ…。」

そう言うとジバコイル保安官とコイルは部屋から出ていった。

「……なぁ、リーダー。」

「ん?」

「アブソルは…あの武器を作っているんだよな?」

「……うん…多分ね…。」

「理由があると思うんだ…俺は。」

「理由……というと?」

「あいつと話して分かった…人間の頃の記憶はあるがそれは日常のものだけなんだ…戦闘も経験はなく基本術を習ったという茶道と同じような感覚のみ…そして残ったその欠けてしまった一部の記憶には…。」

「……アブソル君が何を目的にここに来たのかということも含まれているかも?」

「あぁ、過去にここに来た人間達は助けを求められたからとかそういう理由がある、だからアブソルにもそれはあると思うんだ。」

「ねぇ…あそこ…連れていったら思い出せるかな?」

「……記憶の……泉……。」

「うん、だけどあそこは…アブソル君達だけでは奥に辿り着けない…最後までの道を知っているのは私とキングドラだけだからね……。」


「リーダー……俺が連れていっても良いか?」

「大丈夫?……君は…。」

「心配するな、俺は大丈夫だから…リーダーはやるべきギルドの仕事が他にもあるだろう?」

「……分かった…じゃあ、アブソル君が目覚めて容態が良くなったら……。」

「あぁ、任せてもらおう。」

「…何かあったらすぐに戻るんだよ?」

「分かってる…だが心配することはない…。」

「…………。」

「俺は…もう…立ち止まらないと決めたのだから…。」

それを聞くとバンギラスは静かに笑った。

「心の整理…ついたんだね。」

「まぁな、今頃あいつは呆れてるだろうよ、こんな俺を見てな。」

「全くだ!」

「フォローしてくれないんだな……。」

「私はもうすでに立ち直ったからな!」

「はぁ……事実なのが悔やまれる…。」

「……見てくれてるかな……今も。」

「絶対出来るよ!頑張れ!って精神論を語っていそうだな。」

「言えてる。」

二人は揃って笑い出した。一緒に暮らした、心が強かった、とても優しかった、そして……一人静かに亡くなってしまった…そんな友達を思い出しながら……。










「…って笑ってる場合じゃないだろ!」

「アブソル君が目覚めないと始まらないからね…。」


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