第38話 真実の答え
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
「そんな! これってコウ……?」
シールを剥がして書いてあった名前は筆記体で「kou」と記していた。
博士がもらった図鑑は研究所にあった図鑑の三つの内二つ。マイが譲り受けたこの図鑑は博士が大体完成させた図鑑、つまりウツギ自身の図鑑で、誰かからったものではない。
「どういうことなの? わたしがもらった図鑑は博士が完成させたものとは違う図鑑?」
寝起きの頭で考えるのは難しく、ただでさえ頭痛もするのに、頭を悩まされるとはツイていないと思えてしまう。どうしようと思っていた矢先。
「マイ、起きてるか?」
「ゴールド! よかった、今すごいことに気づい……コウちゃん!?」
扉をノックされ、返事を返す前に開けられてしまいゴールドが見えた。そして、マイの言葉が終わる前に、今会って確かめたい人がいた。
「……どうして?」
「あー、コウが図鑑を返したいって来てよ。マイの所まで行けって連れてきたわけ」
マイがコウに問えばゴールドが手短に答える。図鑑を返したいといえば、とマイも図鑑をコウに差し出し、コウは目を丸くする。自分の名前付きの図鑑を目にしたのだ。
「これ、コウちゃんのでしょ」
「…………あぁ」
「返すよ、受け取って。これはわたしに相応しくない。はい!」
コウが長い沈黙の後答えを出した。たった一言がとても鉛のように重く感じる。
図鑑を無理やり押し付けられると、コウも図鑑をマイに渡す。マイが図鑑を開き、シールがないことを確認。これがウツギ博士の図鑑だ。
「ねえ、教えてよ。どうして図鑑を盗んだの? 目的はなんなの? どうして今、図鑑を返そうとしたの?」
「俺の目的は、家族に認めてほしかったからだ。この俺の名前入り図鑑は手違いでウツギ博士の元に渡ってしまった物で、この図鑑がなければ俺は力がないから認められないと思った。でも、間違いに気づいた」
寝ていたベッドから起き上がり、コウと対等であるかのように立ったままお互いに話を進める。ゴールドは邪魔にならないように扉に背を預けて黙って見ていた。本当ならばマイに手助けをしてやりたいのだが、これはマイの旅の目的の一つでもある。本人に締めさせたかったのだろう。
「どうして、気づいたの?」
「つい先日ある女に出会った。そいつも家族に認めてもらいたかったらしくジョウト地方に来たのだが俺とは違い、真っ向に自分の力で勝負をしていたんだ。俺は盗んだ物の力を使い、自分の力を試そうとはしなかった。その間違いに気づいたんだ」
気づけば目には涙が溜まっていて、今にも溢れだしそうな涙を止めようとはしないコウに、マイが口を挟んだ。
「でも、本当は盗んだわけじゃないんでしょ? この図鑑を返してほしかっただけなんでしょ」
「だがあんなに人気ない時間に忍び込んだのは、俺に認めてもらえるような力がないと思ったからで」
「でも、でもさ! コウちゃんは力があるよ! 悔しいけどわたしより強いんでしょ? だってサナギラスだって、コウちゃんの力であんなに強くなったんだよ!? ねえ、今からでも遅くないよ、ワカバタウンへ行こうよ!」
二人で博士のところへ行き、全てを話そう? マイまでしゃくり上げの声を漏らす始末。更にコウのすすり泣きが顔を伏せていても分かる。
コウはついに自分の空を飛ぶポケモンをマイに見せつけ、話を聞かせる。
「こいつはグライガ―、色違いでこんなに真っ黒なんだ。俺とそっくりだろ? でもこいつは俺と違って力持ちだから俺達二人でも軽々ワカバへ行ける……行こう」
「うん。あ、でもゴールドが」
コウのいう先日会った女は「アヤノ」のことだが、まだ二人は気づいていない。
マイがゴールドを気にかければ、ゴールドはこれはお前等の問題だから俺は関係ない気にしないで行ってこい待ってるから、と一言だけいい、部屋から出て行く。
グライガーはマイとコウを大きなハサミのような手で掴んだと思えば、足を巻き付け安定させてワカバへ飛び立つ。
「ゴールド! 行ってくるねー!」
「おー、行ってこいよークリスには気を付けろ~!」
小さくなるゴールドに手を振り続け、ワカバへ向かう。その間に二人共、涙は収まっていた。
◆◆◆
あんなに通い慣れた研究所が懐かしく思えるくらいに感じてしまい、マイは胸が踊る。コウは緊張した面持ちでマイの後を追う。
「博士、ただいま!」
「マイちゃん! もう帰ってきたんだね、ってあれ? ゴールド君、ずいぶん背が縮んだようだね」
「違うよー! この子はコウちゃん! あのね、図鑑を返しにきたの!」
ウツギ博士は本当に驚いだという声を出す。まさか、あのゴールド無しでは何も出来なかった小さな女の子がこの二ヶ月でここまで大きく成長するなんて、と。
「君が図鑑を持って行った子かぁ」
「—―! は、はい。すいませんでした、これは返します」
コウがビクついて肩を大げさにも上げる。しかしウツギ博士は気にしないでというように優しく問いかける。
「……一つ聞いてもいいかい? どうして君は図鑑を返そうとしたんだい?」
マイと同じ質問をされ、同じ答えを返すと満足そうに笑みをこぼした。コウから「kou」と書かれた図鑑を受け取り中身を見る。
「あ、あのねその図鑑はわたしが博士からもらった図鑑なの。だから、コウちゃんが頑張った記録が残ってる図鑑はこっち!」
「ああ、そうなのかい。マイちゃん、よく頑張ってるね。じゃあ、コウ君の頑張りの印は、と……ふむ。実に頑張っているね、はい。じゃあ、どうしようか?」
え? と今度はマイとコウの目がびっくりして丸くなる。渡された図鑑は二つ。
マイが使っていた「kou」図鑑と、コウが使っていたウツギの図鑑。
「俺は、俺の力で家族に認めてもらいたいんです。だから受け取れません。kouって書いた上にシールを貼って誤魔化したのもなんだか自分にとって相応しくないって思ったからで……」
「うーん。困ったなあ。じゃあ、君のポケモンを見せてくれないかい?」
「はっはい? 出てきてくれ、みんな!」
突然ポケモンを見せてと言われて、ぎょっとして顔を見つめ返すコウはしどろもどろになりながらもポケモンを放つ。
出てきたポケモンは、サナギラス、ブラッキー、グライガー、シードラ、モココ、ムウマ。マイは横でこんなに持ってたの!? と驚きの声を上げている。
「うんうん。よく育てられているね、これは君の力だよ。僕が認める」
「…………ありがとうございます」
「そうだなあ、この図鑑をもっと完成に近づけてくれたら嬉しいのになあ」
わざとらしくウツギ博士は腕を組んでコウに視線を向ける。
コウの出した答え、それは。