第24話 ポケモンのタマゴ

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ウバメの森を抜ける前にポケモンセンターに寄って手持ちのポケモン達を休息させようと軽い気持ちで行ったのだが、そこにはウツギ博士の助手の姿があった。

「ゲッ」
「あ! 助手さん!」
「ゲッとはなんですか、ゴールド君? 僕はウツギ博士からこれを頼まれたのでね」

 まさかクリスの刺客か!? と身構えて眉間にしわを寄せたゴールドだったがウツギ博士からの依頼と聞いて緊張を解いた。
 というかさすが博士、自分の娘のような存在のマイが今どの辺りにいるのかはお見通しのようだ。

「ゴールド君、これを預かってもらえないかい?」
「なんだァこれ?」
「タマゴ、さ」
「タマゴぉ!? なんのタマゴだってんだよ」

 細長い球体に丁寧に包まれた風呂敷をほどいていくと、そこにはまさしく真っ青なタマゴがあった。

「でもよ、なんで俺なんだ? 博士ならマイに頼みそうだけど」
「いやいやゴールド君……ちょっとこっちに」
「あ?」
「えー?」
「マイちゃん、ほらポケモンの回復が終わったようだよ。取りに行ってこないと」

 マイとゴールドの距離を離そうと助手が距離をおいた。マイは不思議そうに首を傾げるが、そう言われてジョーイさんのところまで歩いて行く。
 そして用心深いのか助手は小声でゴールドとこう話す。

「タマゴっていうのは繊細でね。落としたりしたらすぐに割れてしまうんだ。このケースに入れておけばそれなりの振動には耐えるから」
「ああ、つまりマイだと転んだりして割れる危険性があると……ってなんで俺が頼まれてんだよ!」
「しーっ。君は小さい頃からポケモン達に囲まれて成長してきたんでしょう? だったら、そんな暖かい心を持っている君だ、タマゴだってずっとワカバタウンに置かれているよりは冒険した方が絶対いいでしょう?」
「まあ、そうだな。ってオイ! それだけで逃げるなよ!」

 タマゴを頑丈そうな透明のケースに入れて、ゴールドに押し付けるようにして渡すとまだ仕事が残っているのか早々に去って行ってしまった。
 仕事を引き受けるから、クリスにはこのことを言うんじゃねーぞ! と世間話をしているマイとジョーイさんに聞こえないようにウツギ博士に連絡を入れておくゴールド。抜かりない。

「えへへ、褒められちゃった! あれ、ゴールドそれ……?」
「ああ、ポケモンのタマゴだと」
「へえ、青くてキレイだね! どんな子が生まれてくるのかなぁ?」

 ゴールドが両手で抱えているケースを興味津々の顔つきで風穴が開きそうだ。
 ポケモンがタマゴを産む、というのは近年発見されたことなのだが、タマゴを見たことはお互いにはじめてで変に緊張している。

「お、もしかしたら……」
「ん? え?」
「モンスターボールの中に入っちまうんじゃねえか?」
「えー!?」

 まあ、試しよ試しとケースにボールを当ててみると……

「おーっ」
「入っちゃった!?」

 モンスターボールの中にプカプカと浮かんでいるように入ってしまったタマゴとそのケース。このボールどうなってんだよ、と口では言うが好奇心でいっぱいのような視線をマイに向ける。

「わたしはポケモンじゃないからボールには入らないよ」
「わーってる! 誰がそんな監禁じみたことをするわけが……」
「最後まで否定して!?」

 珍しくゴールドがおふざけに入ったところで、ポケモンセンターから出ると暑い日差しがお出迎えをしてくれた。早く森に入って日を避けたいものだよ、と肩を落とす。

 ◆◆◆

「ふー。昨日はちょっと怖いって思ってたけど暑さがないって思えるといいかも」
「そうだな。っていうか木が多いし、枝にリュックが引っかからないように気をつけろよ」
「はーい。わっ!?」

 言われたそばから手首に着けていたブレスレットが枝に引っかかってしまう。

「それ、外したらどうだ?」
「それはヤだよ」
「どうしてだ?」

 ゴールドの言うことはなんでも素直に聞くマイだったが、はっきりと断られしまって内心がっかりする。

「これは……大切な人がくれたものだから」
「サニー地方にいた頃にか」
「うん。わたしが施設で暮らしてた時に仲良くしてくれたソラってお兄ちゃんからもらったの」

 ふうん、と聞いておいて興味なさげに応えるゴールド。そういえば前にそんな名前聞いたことあったな、と思い出しているとマイが続けて。

「いつか出会えた時に目印になるように持っていてね、そうしたらまた会えるからって言って、どこかに行っちゃった」
「どこかにって、ああ。引き取られたわけか。なあ、そいつのこと好きなのか?」

 冗談で聞いたのか本音で聞いたのか分からないように抑揚のない声で問いかけるとマイは首を横に振って、好きとかは分からないけどきっとゴールドと同じくらい大切な人だよ、と柔和な笑みで応える。

「そっそうか……サンキュな」
「ん? お礼言われるようなことしたっけ?」
「あー! もう先行くぞ!」

 自分から話題を投げたのに恥ずかしくなり、ゆっくりとした速度で歩いていたのに速足になるゴールド。マイは待ってよ~と追って来る。

「おい! もーちっとで抜けるぞ!」
「はぁ~いっ! つ、疲れたよ~……はあ」

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想