第21話 夢の予定表
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
ガンテツの家ですやすやと気持ちよさそうに寝ているマイ。
ゴールドはもう深夜二時になるというのに寝ていない。いや、眠れないが正しいか。
(さっきのマイ、俺が考えているあのわずかな時間でミニリュウを出して攻撃を指示した。やっぱりこいつはオレが思っている以上に実力がついてきている。俺も強くならねぇと)
さっきのマイ、というのはヤドンの井戸戦についてのことだ。目つきも変わっていたマイに少し恐怖すら覚えていたゴールド。
隣り合わせになっている布団だからすぐそこにいるようなマイになぜか安心感を感じていた。
「…………ゴールド」
「ん、眠れないのか?」
もぞ、ゴールドの顔が見える方に寝返りをうって、名前を呼ぶマイにゴールドは返事をしてやる。
「…………」
(寝言かよ!!)
名前を呼んだ訳ではなく、寝言だった。不意打ちだったため、全力で愛でたいという気持ちに近い感情が爆発しそうになる。
そんなことがあったからかゴールドは抑えきれない感情を持ったまま布団に潜っていき、目をきつく閉じて眠る事に集中し始めるのであった。
◆◆◆
「あれー!? ジム休み?」
「何々……アンノーンの遺跡調査のため数日の休みを取ります、ってオイ! 俺達のせいかよ!」
「うー。え? ってことは、ここのジムリーダーってツクシさん!?」
らしいな、とゴールドは頷き、街の端に向かって歩き出した。マイもその後をついて行くが、首を傾げながら
「どこに行くの? まだこの街を出るのは早くない?」
「なぁに、ウバメの森で特訓するだけだ。マイ、お前も特訓しよう」
「うん!」
嬉しそうな顔で頷くマイ。新たな仲間のエーフィの実力も知りたいし、ピカチュウの経験も積んでおきたい。やることは山ほどある。
「じゃ、向かおう!」
◆◆◆
ゴールドとマイがウバメの森に入って特訓を開始している時、ヨシノシティの港に、腰まで届く漆黒の黒髪に切りそろえられた前髪、学生服のような紺色のジャケットを羽織り、灰色の膝丈のスカートを履いている少女が蒸気船から降りてきた。
「ここがジョウト地方。クリスさまがいる地方」
サラサラとシルクのような柔らかな髪をなびかせていたが邪魔だったのか、髪をかき上げる。
「こんっ」
「あら、出てきちゃったのね。フィア」
フィアと呼ばれたのは炎タイプのポケモン、ロコンだ。ご機嫌な様子で少女の周りをクルクルと回っている。
「さあ、ワカバタウンに向かうわよ」
「こーんっ」
マイが通った道と同じ道を通る少女は速足から駆け足になって、あっという間にワカバタウンにまで来てしまった。
「クリスさまー!」
「えっ!?」
「はじめまして、私の名前はアヤノといいます! アヤとお呼びください!」
「えっえっ? あ、アヤちゃん? えっと、ポケモン塾の新しいボランティアの方、かな?」
アヤノと名乗った少女はクリスの手を握り、上下に振る。尻尾があるならきっとブンブンと振っているだろう。何も聞いていないクリスは困惑の顔をしている。
「そうです! 私、クリスさまに憧れてサニー地方から来ました! この地方で全てのポケモンを捕まえて、そして……そして!」
「そ、そして?」
アヤノに圧倒されながらもクリスは問いかける。そして、アヤノは大きく宣言する。
「恋をしたいです! 女の子と!」
「お、女の子とぉ!?」
「はいっ何かおかしいですか?」
「え、いや。お、おかしくは……」
純粋な瞳で聞いてくるアヤノにクリスはたじろぐしか出来なかった。とりあえず落ち着いたところで話をしようと提案をし素直に頷くと、二人で喫茶店に入っていく。
(私の家族は代々ポケモンの捕獲を専門している。けれど、私にはその力はまだ弱いから……師匠としてクリスさまにポケモンの捕獲を直伝してもらおうとこの地に来た。そして、どこかにいる運命の女の子と恋をするため)
「あの気を悪くしたらごめんなさい。どうして女の子と恋を?」
「だって男の子は男の子と恋をしています。だから、女の子は女の子と恋をするのは必然じゃないですか!」
ないですか! なんて言われたら、はいそうですね、としか言いようがない。しかしボランティアの協力は素直に嬉しいものだ。断る理由もないしポケモン塾のボランティアとしてアヤノを迎え入れることにしたクリス。
「私に何かお仕事をください! 何でもやります!」
「そうね。あ! そうだわ、ならこの子達を見つけてきてちょうだい」
ぴら、と写真を渡されて受け取る。一体どんなポケモン達だろうとワクワクした気持ちで見て見たら。
「人間の男の子と女の子?」
「ええ。特にこっちの女の子を優先してほしいわね。男の子はこの際なしとしましょう」
それは、ゴールドとマイの写真。資料としてこの写真をもらうことにした。なぜこの二人を捕獲してこないといけないのか、そう聞けばクリスは表情を暗くして、怒りに耐えているのか震えながら答える。
「逃亡者なのよ、この二人」
「えっ!? ご、極悪人!?」
「いえ、ごめんなさい。ふざけすぎたわね。この子はつい一か月前に十歳になった女の子なの。それなのに急に旅に出てしまって」
「私と同い年!」
「あら、そうなの? ちゃんとご両親の許可は取ったの?」
元気よくもちろん取りました! と言うとクリスは笑顔に戻って、よかったと言い話を続ける。
「こっちの前髪が爆発している男の子はゴールド、あっ女の子はマイちゃんって言うの。そうそう、でゴールドは放っておいても死なないからマイちゃんだけ連れてきてほしいのよ」
「は、はい。分かりました! 放っておきます!」
放っておきます! なんて大声を出すものだから外にいた人たちがなんだなんだと、こちらを見てきている。クリスは恥ずかしさに耐えられなくなったのか早速アヤノを探しに出したのであった。