ワゲイとレオンは同じ部屋をあてがわれた。彼らはすぐさま休憩という主題を基に、落ち着かないまますぐに眠りに落ちた。
翌朝、朝起き朝食を取り終わると、ワゲイは気になっていたことを口にした。
「なあ、レオン。昨日、あのユンとかいうユンゲラーがいってたよな、モンスター暦四二〇三年って。それって、俺たちの時代からほぼ三百年前も前じゃないか」――ワゲイの言葉は弱々しくなっていたが、またもとの口調に戻った――「ということは、俺たちはタイムスリップをしてきたっていうことなのか?」
レオンはワゲイの言葉の変化に含まれる恐怖を感じた。三百年も前……ワゲイは知っているのだ。人ポケ戦争について……。
「おそらくそうだろう」とレオンは答えた。「ユンの話を聞くところによればそれは確実だ。それに、オレはサンドタウンなどという地名の町を聞いたことがない。それにこの広大な砂漠……あんな大きな砂漠はなかった。これらを総合すれば、別の次元に飛ばされた、としか考えようがなかろう」
レオンの口調は相変わらず冷静だった。ワゲイはその冷静さにイラッとした。
「お前はわかってるのか? 三百年も前といえば……」
「人ポケ戦争が起こっている時代」とレオンはワゲイの言葉を継いだ。
「それを知っていて、どうしてそんなに冷静でいられるんだよ? 戦争のど真ん中にいるんだぜ。俺たちが阻止しようとしたものを、過去にやってきて巻き込まれなきゃいけないんだ……それに、俺たちの時代にも戦争が起こっているかもしれないというのに、こんな過去の戦争に巻き込まれないといけないのか…………」
「確かにもとの時代で戦争が起こったか、起こっていないかはわからない。しかし、たとえオレたちがいなくてもディン様が何とかしてくれているはずだ。ディン様は優秀なお方だ。戦争が起こっていても、しっかりとした指揮を取れるはずだ。
それにオレたちが巻き込まれた人ポケ戦争については、巻き込まれないようにすでに手は打ってある。覚えているだろう、ユンが部隊に勧誘してきたとき、私が言った言葉を? チームレジェンディアに所属しているとな。別の部隊に所属しているといえば、別の部隊に所属することはできまい」
「でも…………」ワゲイは口ごもった。
「とにかく、オレたちが今すべきことは、元の時代に帰ることだ。戦争に関係することではないんだ」
「でも、元の時代に戻ることなんてできるのか? 俺たちの時代にすら、タイムスリップ装置なんてものはなかったのに――」
「あったさ」レオンは口を挟んだ。「現にオレたちはここにいるんだ。それに幸運なことに、この時代に来たのはおそらくオレたち二人だけじゃないということだ。タイムスリップ装置を持っていたのは誰だ?」
ワゲイはさほど頭を悩ませなくとも、父の姿を思い浮かべ、名を出した。
「そう、オーダだって、あの装置の中に巻き込まれたんだ。つまり、オーダもこの時代に来ているという可能性は高いんだ。タイムスリップ装置を持っていたやつなら、元の時代に戻る方法を知っているかもしれない」
「父さんが……」
「そうだ。つまり、オレたちがすべきことはただひとつ。この時代にいるであろうオーダを探し出すことだけなんだ。もっともどこにいるかはわからないから、長い旅にはなりそうだがな」
ワゲイはうなずいた。また、旅が始まるのだ。それも目標となるのは、また父であるオーダなのだ……。
ワゲイたちは受付で、この世界の地図を受け取ると、サンドタウンを後にした。
次の町である、ロッドタウンに到着するには、サンドタウンから徒歩でおよそ半日かけなければならない。幸い暗雲がいまだに立ち込めていたから、体力の大きな消費はなかったものの、さすがに半日以上歩き続けるというのは並大抵のことではなく、結局、ロッドタウンに到着したときは、半日以上たっているときだった。
ロッドタウンという町もサンドタウンと似たり寄ったりだった。ただ唯一違うのは、二階建ての建物が多くあるということだった。それ故、サンドタウンより人口も多く、宿というのは数少ない。
ワゲイたちはそれ故に、宿を探すのに苦労したにもかかわらず、みな有料という宿で、現代のお金とは違うため彼らは無一文と同じ状態にあった。そのため、彼らは疲れた体で人目につかぬ野宿できそうな場所を探し出さなければならなくなったのだった。やがて、見つけたその場所は、町の裏道でちょうど木が一本たっている変わった裏道だった。
その晩、彼らはそこで食事をしていた。サンドタウンの朝食の一部を持ってきていたのだ。
「まったく、この時代にはオーダイルすらもいないのかな」食事中にワゲイはいった。「父さんの手がかりどころか、オーダイルの姿を見ることもないらしいじゃないか」
この場所を確保してから、彼らは少し町行く人に聞き込みをしたのだが、オーダをみたという証言はおろか、オーダイルをみることもあまりないという証言があった。ワゲイはこのことについて、驚きを隠せないらしかった。
「よく考えてみればわかることだ」とレオン。「今でこそ暗雲が覆っているが、暗雲がなくなれば強力な陽射しの太陽が出てくることだろう。そうなれば、みずタイプのポケモンが住むにはつらいことだろうからな。町の人たちをよく見ていると、みずタイプのポケモンもほとんどいないことがわかる。
しかし、よく考えてみるとこれはチャンスなんだぜ、ワゲイ。オーダイルをめったに見かけなければ、見かけたときかなり印象に強くなるだろう」
「ということは、見た人がいればその人に会うことですぐ見つけることもできるというわけか」
「そういうことだ」
そのとき、突然、ワゲイの頭上を一本の矢がとおり、近くの木に刺さった。ワゲイたちは木に刺さった矢に視線を移した。そして、矢が飛んできた方角をみたものの、そこには誰の姿もなかった。
レオンはすでに立ち上がっていて、矢に手をかけていた。矢には、一本の紙が巻きつけられていて、レオンはそれを解いた。ワゲイは、レオンが何かを呼んでいるのに気がつき、彼に近づくと、レオンはその紙をワゲイに渡した。
手紙にはこう書かれていた。
レオン殿、ワゲイ殿へ。
お主らに決闘を申し出る。本日、ロッドタウン郊外にある泉にて待つ。
もしいらっしゃらぬ場合は、こちらから参上いたす。その際は覚悟いたすよう願う。
カニン。
「決闘って、いったいどういうことだ?」ワゲイはレオンに手紙を返しながらいった。
「わからん。しかし、何か面白いことがありそうだな、この決闘の申し出には」
「どういうことだ?」
「オレたちに決闘を申し出る理由があるやつが、この時代にいるとはまったく思えんからな」
なるほど、とワゲイは思った。確かに理由はない。となれば、理由をもつ持つものはこの時代に一人だけいるのだ。カニンという署名も偽名かも知れぬのだ。
彼らはそれから一時間後、ロッドタウンから少し離れた泉に来ていた。その泉があるのはいわゆるオアシスだった。暗くて全体像はわかりにくいが、木が三本ぐらいあり、芝のような緑のシートが敷かれている。その中央に小さいが美しい泉があった。
オアシスを観察していると、フラッシュで光っているレオンの足元に、突然、矢が刺さった。二人は矢に目を釘付けに一瞬されると、すぐさま矢が飛んできた方向をみた。しかし、フラッシュの光がそこまで届かないため、前はあまり見えない。ただ、レオンは誰かいるような気配を感じていた。
レオンはライボルトを登場させた。そして、ライボルトにフラッシュの指示を出した。ライボルトはフラッシュに集中できるからか、レオンのフラッシュよりも広範囲にフラッシュを使うことができ、小さなオアシスの三分の二は照らし出すことに成功した。
「なかなかのフラッシュだな」
矢が飛んできた方向には、一匹のテッカニンが飛んでいた。その瞬間、二人は自分たちが考えていたこととは、まったく違うということを知り落胆した。だが、それと同時に警戒心をさらに強めた。
「お前は誰だ?」とワゲイはいった。
「拙者の名はカニン」とそのテッカニン――カニンはいった。「対人間戦闘部隊に所属する者なり」
ワゲイは驚きを表した。対人間戦闘部隊! ユンがいっていたあの部隊……。
「対人間戦闘部隊の者が」とレオンは冷静に言った。「いったい何のごようですか?」
「矢文に書いたとおり、拙者はおぬしらに決闘を申し込む」とカニン。
「いったい何の目的で? 私たちはあなた方のようなところと、戦う理由はありませんが」
「おぬしらはチームレジェンディアとやらに所属しているといいましたな?」――レオンはうなずいた――「調査の結果、そんな部隊は所属していないということだ。身分を偽ったおぬしらには、然るべき処置を取るざるを得ませぬ」
「それが決闘ということか」レオンは微笑した。「だが、私たちは決して人間側の回し者ではないが」
「回し者であろうがなかろうが、拙者は任務を遂行するまで」
レオンはワゲイを見、目で合図をした。ワゲイはその合図が、バトルをしろという指示であるのを読み取り、彼はホルダーからカメックスを登場させた。
「おぬしは出さぬのか?」レオンが出してこないのをみて、カニンはいった。
「まずはお手並み拝見といこうじゃありませんか」とレオン。「このワゲイのカメックスを倒せるものなら倒してみろということだ」
「ふん、その自信で後悔することになってもしらぬぞ」とカニンはいった。
第九話終了第十話に続く……