ニューシルフシティは、シルフシティの土地だけでは足りなくなった建物などを移転した町である。シルフシティは、ビジネス関連の企業が多く入っている町だが、その反面、町に住んでいる人の数が少ない。そのため、シルフシティに出勤してくる人たちは何かと大変である。それを解消するためにも、ニューシルフシティは建設された。とはいえ、まだできたばかりで、交通機関が整っていないので人口はさほど多くはないのだが。
ヘリコプターは、ニューシルフシティにあるエアポートに着陸した。レオンはヘリコプター操縦士のアリゲイツに、休んでよいと指示を出して、ヘリポートに彼らも降り立った。
ヘリポートに降り立つと一匹のオオスバメが、彼らを待ち受けていた。彼は、レオンとジュプルと挨拶を交わすとワゲイをみた。
「こいつはワゲイ」とレオンは言った。「チームレジェンディアに入ってもらうことになった」
「ほう」オオスバメはつぶやき、ワゲイを観察すると、言った。「実力はあるのか?」
「それについては調査済みだ」とジュプルが答えた。「レオンが言うには、更なる力を秘めている感じがするぞ」
オオスは、ワゲイをいささか疑問そうに観察した。本当にこいつに、そんな実力があるのか? まだ、子供じゃないか。
「私はオオス」オオスバメのオオスはとりあえず名乗ることにした。「とりあえず、よろしく頼む。ただ、足手まといにならんように頼むぞ」
それから問題の博物館に向かう途中、ワゲイは言葉を丁寧にするようにと、レオンに指導された。レジェンディアの中では一番身分がしたなわけだし、年齢も一番下だ、という理由だった。
ワゲイはレオンも同じような年じゃないか、というと彼は口をつぐんだ。
博物館周辺は緊張による、重苦しい空気が隙間なく漂っていた。誰か一人でも話しかければ、憤りを感じたような返答をされるような――爆弾が今にでも爆発しそうな、状態だった。
レオンは、今の現状だと戦争が起こる可能性が半分を越える勢いだ、とワゲイに説明した。今現在のままなら問題はないが、相手が武器やら何やらを持っていればいったいどうなるかは定かではないのだ。もしもの場合は、強行突破をするほかない。
ワゲイはどうして強行突破をしないのか、と尋ねた。
「お前も馬鹿なやつだ」とレオンはあざけるようにいった。「何が起こるかわからないといったろう。強行突破なんてできやしないんだ。それに相手はあの人間だ。いったいどんなやつなのか、詳しいことはわかっていないやつを相手に強行突破などできるわけないだろう。勇気を持つ者と実力を持つ者がいれば、話は別だが、しかしそれでも、博物館の重要な展示品を壊すわけにはいかん。もちろん、もしものときは強行突破をするしかないが」
「静かにしろ」オオスは注意した。「できる限り声を出すな。ここからは、さらにシビアだからな」
オオスは博物館の裏のほうへと、彼らを案内した。博物館の裏手は、隣の公園に続いていた。とはいっても、丈夫そうな高い柵があり完全には直通はしていなかったが。今は入れないようにしているのだろうか、公園は人一人いなく、閑散していた。
そんな公園を見ている一匹のフーディンがそこにはいた。ワゲイは敵かと思って、いささか身構えたが、オオスがそのフーディンに話しかけたことで、その身構えもおろしてしまった。
「ディン様、レオンとジュプルをつれてきました」
ディンと呼ばれたフーディンは、顔をこちらのほうに向けた。フーディンの特徴でその表情からはまったく何を考えているかはよめない。
「お久しぶりです、ディン様」とレオンとジュプルはディンに言った。「こんな状態で会うのはとてもつらいことですが、いたしかたありませんね」
「これからもこんなことが起こるかもしれんよ」とディン。「ところで、そっちがお前のいうワゲイとやらかな?」
ワゲイはギクッとした。いったいどうしてこのディンという男は、自分のことを知っているのだろう。まだ、レオンたちはワゲイのことを話していないし、ワゲイがチームレジェンディアンに入れることにしたのは、ついさっきのことだと、レオンは言っている。だったら、ディンは知りえるはずがないのに……。
「何も驚くことはあるまい」ワゲイの心を読み取ったようにディンはいった。「私はエスパータイプのポケモンだ。それぐらいのことはなんでもない。だが、君は私のことは知らないだろうな。私の名はディン。チームレジェンディアの創立者であり、リーダーだ。今後よろしく頼む」
「俺はワゲイです」とワゲイも名乗った。「よろしくお願いします」
「まだ最初のうちだし、私やレオン、オオスやジュプルの指示はちゃんと守るようにな。特に私やレオンの言うことは聞くように。レオンは、サブリーダーだしな。ところでワゲイよ」――ワゲイが返事した――「お前の名は、ワゲイというんだろうね?」
「もちろんです」
「悪いが私は、ニックネームを付けるのが好きでな。君のことをゲイトと呼びたいのだがよいかな?」
「はぁ、別にいいですが」
「ありがとう」ディンはうれしそうにいった。
「ところで、ディン様」とレオンは言った。「今の状況について、詳しく話していただけませんか?」
「正直に言うと悪いだろう」ディンは答えた。「私は、人間の一部が武器を持っていることを確認した。これで、可能性は一気に上昇というわけだ。だから、私はすでに手はずを整えておいた」
「手はずと申しますと?」
「お前たちが今日、ここに来るということがわかっていたからな。明日に強行突破を決行することにした」
強行突破――その言葉に、みなが一瞬にして緊張をし金縛りを受けたような状態になった。強行突破! これこそ一番リスクが伴うことで、自分たちの命はおろか、世界の命もなくなるかもしれないという恐怖…………。
ディンはすばやくそれを感じ取った。しかし、彼は何もいわなかった。この恐怖に打ち勝つことができなければ、この任務は実行できないことを彼は知っていた。
「作戦の内容については明日説明する」ディンは続けた。「しかし、とにかく強行突破は実行することは決定だ。もし、この作戦に参加したくなければ申し出るとよい。さあ、オオスよ、とにかく宿に戻るがよい。ここは私が見張る。明日にしっかりと備えておくように頼むぞ、みな」
その晩、ワゲイはレオンの部屋を訪れた。彼はレオンにどうしたのか、と尋ねられると、すぐさま本題に入った。
「どうした?」とレオンは言った。「作戦に参加したくなくなったのか?」
「そうじゃない。ただ、聞きたいことがあってきたんだ」
レオンは答えなかった。沈黙の後、ワゲイは続けた。
「本当に戦争は起こるのかな……?」
レオンは自分が最初に言った言葉があながち間違っているようではない、と感じた。ワゲイは弱気になっている……。
「明日の強行突破が失敗すれば起こるだろう」とレオンは答えた。「もちろん、成功すれば起こらない。いったいどっちに転ぶかは、人間どもがどれだけの勢力を持っているかで決まるが、それがまったく予想できないから、わからないがな」
ワゲイはそれを聞くと、うなずいてレオンの部屋を後にした。
雲が立ち込めている…………昼間というのに、太陽の光は当たらず、今にでも夜になり雷を落としそうなそんな陰鬱な天気の日。博物館周辺は、相変わらず緊張による重苦しい空気が隙間なく漂っていた。
レオンとワゲイ、ジュプルは博物館前のとおりにおり、オオスは上空、ディンの姿はそこになかった。いったいいつに強行突破をするのだろう、とワゲイは考えた。できるものならしたくないものだ……中止になってくれればいい、と彼は思っていた。
オオスは上空から降りてきた。彼はレオンに、付近に怪しい人物がいないことを報告した。
そのとき、ディンが彼らの前に姿を現した。
「どうやら、こちらに運が向いているようだ」彼は現れて早々言った。「先ほど警察に、食料の要求があったらしい」
「ということはつまり」とレオン。「それを利用するということですね」
そのとおりだ、とディンはうなずいた。彼は、実行まで時間があるからそれまでに準備を整えておくようにいうと、その場を一瞬にして消えた。テレポートを使ったのだ。
ワゲイはついに突入するのか、といささか身震いさせつつ思った。恐怖と隣り合わせの突入が始まるのか、と。戦争が起こるか起こらないかは、自分たちしだいなのだ……。この世界中の命を背負うといっても、あながち間違いではないのだ……。
「ワゲイ」――突然レオンは彼に声をかけたので、ワゲイは我に返った。――「お前は無事にこれを終わらせると思うか?」
ワゲイはあっけに取られてしまった。そして、感じた。レオンも恐怖を感じているのだと……。
「終わらせなきゃならない」とワゲイはいった。「無事じゃなくても、戦争が起こることだけは避けなきゃならない」
レオンはそれをきいていささか面食らったようだったがうなずいた。
第五話終了第六話に続く……