episode2ーⅣ 似た者同士

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

ヴォルフは素早くアンノウンに接近し、右前足を振り上げる。

「死ね!」

鋭い引っ掻きが繰り出されるが、アンノウンはひらりとかわした。こちらを欺くようにフラフラとした足取りでヤミラミ型のアンノウンはその場に佇む。

ヴォルフは舌打ちをし、更に攻撃を繰り出していく。

ルトはその一連の動きを見て、ヴォルフの行動パターンを読む。

「…シャル、腕は?」
「残念ながら、まだ治ってねぇ。…後方から俺とミリアンで援護するつもりだ。…前線で戦えるのは今のとこヴォルフとルトだけだ。すまん」
「気にすんな、仕方ないだろ。…よし、分かった!二人とも任せた!一応、シルフィからも目を離すなよ!」

ルトは指示を出した後も、ヴォルフの動きを見る。…ヴォルフと連携してアンノウンを倒す。その為には当然二人の息を合わせなければいけない。だが、ヴォルフはこっちに合わせることはしないだろう。それなら…ヴォルフの動きの癖を頭に叩き込み、最適のタイミングで攻撃を繰り出す!

ルトはヴォルフの動きを少しずつ覚え、そのパターンを探る。ルトの特性なら、それを可能にするのだ。

それのお陰と言うべきか、ルトは気付いてしまった。…ヴォルフが劣勢だということを。

「くっ…」

アンノウンの攻撃を受け、ヴォルフは口から血を垂らす。
先程のシャルとの戦いもあり、消耗していた。

そんな中で、ルトは特性を終了させた。インプットが完了したからだ。

「よし。ヴォルフ!もう少しだけ全力で攻撃を続けてくれ!今度は…俺も入る!」
「…ミラウェル…くそっ、簡単に言いやがって…!言われるまでもねぇ!」

ヴォルフは雄叫びをあげ、最高速でアンノウンに掛かって行く。ルトはタイミングを見計らい、それに参加した。

「『波動弾』!」

ルトの右手から圧縮されたエネルギーを放ち、アンノウンの顔面に直撃する。ダメージこそ少ないが、アンノウンは少しだけよろついた。
その隙にルトは刀を振り上げる。

「フッ!」

刀はアンノウンの首に降り下ろされたが、アンノウンは右足を軸に旋回し、それを避けた。
ーそれでいい!

「…ガァッ!」

アンノウンが避けた先にはヴォルフがいた。ヴォルフは大きく開いた口を閉じ、アンノウンの右腕へと噛み付いた。右腕は容易く噛み砕かれ、千切れて宙を舞う。

「援護するぜ!オラッ!」

シャルはヴォルフの背後から飛び上がり、左手で槍を構え、アンノウンの体へと投げ付けた。

「…ちっ、また外したか…!」

しかし利き腕ではなかったため、槍はアンノウンのコアではなく左肩を貫いた。
アンノウンはダメージにより仰向けで倒れる。

「これで…!」

ヴォルフは止めを刺すべく、アンノウンの頭部に噛みつこうとした。その時

『…!』

アンノウンは何故か、残った左腕をシルフィのいる向きに向けた。ヴォルフはそれを見て一瞬固まり、アンノウンの左手にエネルギーが込められていく。

「コイツ…!シルフィを…!」

次の瞬間、シルフィに向けて鋭い衝撃波が放たれた。

「やっ…!」

シルフィは驚きのあまり、動けない。だが、そのシルフィの前に一人が立ち塞がった。
…ルトだ。

衝撃波を体で受け止めてしまう。

「がッ…は…!」
「っ!アアアアアッ!」

ヴォルフは我に還り、アンノウンの頭部を噛み砕いた。

コアがバラバラに砕け散り、アンノウンが消滅していく。
それと同時に、ルトは膝をついた。

「ルトっ!」
「ルトさん!」

すかさずシャルとミリアンが側に寄った。幸い、致命傷は避けていて二人は安堵する。

「良かった…すいません、呆気に取られてシルフィさんへの攻撃に気付きませんでした…。力不足です」
「ゲホッ、いや、今のは仕方無いさ…。シルフィ、無事か?」
「え…うん。私は大丈夫…」

ルトは少々苦しそうに咳をした後、立ち上がった。
そして、とある違和感を感じていた。…先程のアンノウンの行動にだ。

ーさっき、アンノウンがシルフィを狙ったのは何故だ…?アンノウンの行動パターンは、見付けたものを追いかけ捉える事と、戦闘に入ったら一番近いポケモンを狙う事だ。しかし先程は一番遠くにいたシルフィを狙った。まるで、『知能がある』かのように…。

長考を始めたルトの近くに、静かにヴォルフが近づいてきた。
そして、突然頭を下げた。その行動にルト達は驚く。

「…シルフィを守ってくれて助かった。ルト。お前がいなかったらシルフィは危なかったかもしれない。…自分が情けねぇ…残った妹すら、俺じゃ守りきれないんだ…」
「あ、ああ…俺は、兵士として当然の事をしたまでだ。…それよりも、『残った』、だって…?」

ルトはヴォルフの態度に驚きつつも、その言葉に疑問を持った。
ヴォルフは質問に、苦い表情で答えた。

「…俺には、もう一人弟がいたんだ。4年くらい前にな。…まだ、マテリアを持ってなかった頃にな」
「弟がいた…つまり、アンノウンに拐われちまったってことか…?」

シャルは口を出し、ヴォルフは首を横に振った。

「…拐われただけなら…!どんなに良かったか!…殺されたんだよ!この村に現れたアンノウンによ!…抵抗したさ!抵抗したのに…!俺は、弟を守れなかったんだ…」
「…ヴォルフ…。…ミラウェルは?アンノウンが出たとなれば、駆け付けた筈…」

ルトはその事について聞くと、ヴォルフは牙を剥いて怒った。

「…ああ来たさ、弟が殺された後にな…!なのに、ミラウェルの連中が言った言葉は…『間に合わなかったか』だ!間に合わなかった?ふざけるな。そいつらは、この村の事を見捨ててたんだよ!こんなちっせぇ村、テレポートポイントも設置されてねぇ!完全にミラウェルは把握してなかったんだ!今だって…!」
「…それが、ミラウェルが嫌いな理由か…」

ルトはヴォルフの話を聞き、掛ける言葉が出てこなかった。…確かにここアゲン村は小さく、他の街と比べて人員を割いてまでこの村に兵士を寄越す事は少ないらしい。テレポートポイントがないのがそれを裏付けている。…ミラウェルは巨大な組織だ。だが、兵士に限りはある。そして、大きな街ほどアンノウンによる被害の規模は当然大きくなる。…全体で見てしまえば、こういった街にポケモンを送るのは当たり前の事だった。…当たり前だが、ルトはやるせなく思った。

…兵士として、救えるポケモンを救えなかったからだ。

「…ヴォルフ、やっぱお前はミラウェルに来るべきだ」
「…今の話を聞いて尚、俺をミラウェルに誘うのか…?」

シャルは唐突に話を切り出した。ヴォルフは呆れた声で返す。
シャルは更に続けた。

「お前の望みは、妹を守ること。その為にマテリアを手にいれた。…なのに、さっきの様子じゃあ先がない。それでもミラウェルに頼るのは嫌だって?…それは我が儘ってもんだぜ、ヴォルフよ」
「…!それは…」

ヴォルフは図星だったのか、言い返せなかった。
シャルは頭を掻きながら、口ごもっていた。だが吹っ切れたように更に話を続ける。

「…俺もよ、お前ほどじゃないが、家族がアンノウンに襲われたことがあるんだよ。虚しいよな、力不足ってものは。その時は俺もミラウェルを恨んだ。だが、ふと気付いてしまったんだ。どんなに綺麗事並べたって、『無力は罪』だってことをさ。だから、嫌いだったミラウェルに入隊した。…家族を守るため、けじめをつけるため、なりふり構ってらんねぇからだ」
「…家族を…」

…シャルがあの時の事を話すなんて、俺以外じゃ初めてだ。ルトは意外に思いながら、シャルの話を聞いていた。
ヴォルフも、反論することなく聞いている。

「妹を一番近くで守るんなら、ミラウェルに来い、ヴォルフ。…勿論俺らも協力する。…それと、このアゲン村にテレポートポイントを付けて貰えるように上にも申請してみる。それでも、お前は一人で戦い続けるか?」
「…………」

シャルの説得に、ヴォルフは押し黙る。それを心配してか、近くにシルフィが寄ってきていた。

「…お兄…?」
「…心配すんな、シルフィ。…時間をくれ、明日まででいいからよ」

そうヴォルフは告げ、シルフィと共に家に帰っていった。

それを見送った後、ルトはシャルに耳打ちをする。

「意外だな、お前が姉さんの事を他人に話すなんてよ」
「…けっ。俺に似ていると思ったからだよ、ヴォルフが。…もしアイツが俺と同じ考えなら…答えなんて一つだろ」

シャルはケラケラと笑い、一人宿に向かっていった。
それを見ていたルトの側に、ミリアンが寄ってきた。

「…あの、マテリアの出所、まだ聞いてないですよね?」
「……あ。そういえば…。ま、まぁ、明日聞けばいいだろ」
「ですね」

ミリアンは苦笑いを浮かべた。
・テレポートポイントの設置には、相応の魔力と数日ほどの時間と人材が必要となる。
一大陸に一つしかミラウェルは建てられていないため、たかが三日間や四日間でテレポートポイントが建てられるとしてもミラウェルにとっては大きなダメージになってしまう。
その為、小さな村にテレポートが無い事が多い。人員を割くリスクに対して小さな村では利点が少ない。と上層部からの命令があったからである

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