上級兵士、ガランド

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「…ヒマダナ」
「…そうだな」

ラクーアの任務が終わった後日、しばらく雑談してからミリアンは一度帰宅した。残されたシャルとルトは、ミラウェル内にあるカフェ、『みるたんく』の席に座って呆けていた。
任務に行こうかと考えたのだが、ミリアンはマテリアの調整もかねて帰宅したので、それを待たねばならなかった。
…そして、ナイト姉がルト達に頼みたいことがあるらしい。ナイト姉は今任務で出ており、結局は待たないといけない。

…そのことから、今は二人でカフェオレを飲みながら緩んでいた。時間は昼過ぎ。他に客もそこそこいた。

「どーする?下手すりゃ今日ずっと暇かもよ?」
「どーするっつってもなぁ…いくらナイト姉と言えど、俺らが任務に行ったらナイト姉を待たせる事になりそうだし…一応上司だからな」
「…クソ真面目だねぇ…まぁでも、それは概ね同意だわ」

二人はだらしない格好で雑談を始める。

…ふと耳を澄ませたルト達に、ひそひそ話が聞こえてきた。

「お、おい…あのデカいポケモン…なんかこわくね?」
「怖い顔…」
「見たことあるぞ」

どうやら、ルト達の隣の席に座っていた、ガタイの良いポケモンの事を噂しているようだ。
シャルは気になり、そのポケモンを見る。

「…!おいおい…このポケモンは…!」
「シャル、あんまりジロジロ見てやるな…って、貴方は…!」

二人の視線に気付いたようで、そのポケモンはこちらを見て口を開いた。

「なんだ?俺の顔になにかついてるのか?」
「…いーや?厳つい顔してるだけで他はー」
「シャル!いい加減にしとけよ。…すみません。周りがざわついていたので、気になったんです。…貴方は『ガランシャール・デクンド』さんですか?」

ガブリアス族の男性は、小さく頷く。

「…ああ。確かに俺がガランシャールだ。…ざわついている…か…ハァ」
「お?あんたみたいな強者がえらい落ち込んでるな」

ガランシャールは大きな体を縮こませ、大きなため息をついている。…変わった人だな。

「…おーい!ガランド、おまたせー」
「…ん?ああ…シグか」

不意に声が聞こえ、振り返るとフライゴン族の男性が小走りで向かってきた。

「いやー、準備で手間取っちゃってさ…。ん?またなんか落ち込んでるの?」
「…いつものことで、怖がられてるんだ」
「あぁー…どんまい!」

シグと呼ばれた男性は、ケラケラと笑う。
…パートナー…か?

「ほいで?この人らは?」
「あっ、えっと…私がルト、こっちがシャルです。本名はまた違いますが」
「…ルトに、シャル…。ナイトの知り合いか」

ガランドは不意に、そう呟いた。
ルトは少し驚いた。

「私達の事を知ってるんですか?」
「…ああ。俺がナイトと親しくてな。二人の話は良く聞かされる。…中級で最も優秀だ…とな」
「ナイト姉…そんなこと言ってんのか…」

シャルは気恥ずかしそうに苦笑いを溢す。
…正直俺も、かなり恥ずかしい。

「なるほどなるほど、ナイトの知り合いね。俺はシグ!『シグ・セントレイ』!ガランドのパートナーの上級兵士さ」
「あっ、初めましてシグさん」

シグはニコニコと笑いながら自己紹介をする。
上級兵士はパートナーを組まなくとも任務に行けるが、効率や連携のとりやすさから、パートナーを解除する事は少ない。ナイトはパートナーを外したが、任務次第で再び元パートナーと組むことも多かった。

「…で、シグ。そろそろ作戦時間じゃないか?」
「おっと…そうだね」

するとガランドとシグは忙しなく立ち上がり、名刺を開いて時刻を確認していた。
ルトは疑問に思い、訊ねた。

「あの…?」
「すまない、今から任務だ。…『ドット』の町で、妙な動きがあるらしい」
「…ドット…ここから近いナ」

とシャルは呟く。
それもそのはず、ドットの町はこのミラウェルからさほど遠くない。
昔から趣のある町で、歴史が深い。

「妙な動き…?」
「…ええと、一応中級には伝えられてないんだけど…まぁいっか。…ドットに、大量のアンノウンが視認されたらしいんだ。それの調査に、何日か張り込みに行くんだ。『竜の兵団』(ドラゴンアームズ)の皆とね」
「大量の…アンノウン…!?それに、大規模派閥の竜の軍団まで出動するなんて…」

シグは苦笑いしながらそう説明した。
大量のアンノウンが出現するなんて前代未聞だ。それに、派閥まで動かすとは…。

ルトが驚いていると、ガランドが更に続けた。

「…それだけ上も警戒してるんだろう。我が師匠のガブリアスさんまで来るらしいからな」
「ガブリアス…『神殺し』のガブリアスか。相当な実力者で、今は各地を回っていた…んだっけ」
「ああ。ドットの情報を渡してくれたのもガブリアスさんだ。竜の軍団のリーダーだしな」

ガブリアス。神殺しの中でも最上級戦力の一人か。

「…てわけで!僕たちは失礼するよ!生きてたらまた会おうね」
「おい、死亡フラグ立てるな。…またな、ナイトの弟子達」
「あ、はい…ご無事で」

シグはガランドを引っ張りながら、去っていった。
…別に弟子ではないんだが…。

………

「お待たせしました。…あれ?ナイトさんはまだ来てないんですね」
「お、ミリアン。ナイト姉はまだ時間がかかるらしい」

そうこうしているうちに、ミリアンが戻ってきた。ナイト姉はまだ任務でゴタゴタしているらしい。
とルトは言う。

「そうですか…なら待ちますかね」
「んまぁ、そのうちだろ。…しかし、何の話だろうナ。…昇格か?」

シャルは冗談混じりに笑う。

「流石に早すぎるだろ…ミリアンの昇格なら分からんこともないが」
「…私としては昇格はどうでもいいですけどね。…とはいえ、昇格すれば出来ることが増えますか…。ま、とりあえず任務をこなすしかなさそうですね」
「ああ。一番の近道はそれだな」

ー一昇格の条件はミラウェルへの貢献度。雑把に言えば働きによるってところだ。任務をこなしたり、地力を鍛えて認めてもらったり。ナイト姉は後者だ。

しばらく雑談していると、ひょっこりとナイト姉が現れた。
任務を終えた後だと言うのに、元気そうだ。

「や、お待たせ!いやーちょっと手強かったね」
「ナイトさん、お疲れ様です」
「ナイト姉。そんなに強いアンノウンだったのか?」
「んー、数が多かったかな。盗賊がアンノウンを捕まえてさ、兵器みたく運用してたんだ」

ナイト姉の任務は盗賊のアジトをぶち壊す事だったらしい。
なんと、一人で向かったとか。

「数が多かった…何体くらいですかイ?」
「えーと…途中から数えてないけど…盗賊とアンノウン合わせて64体くらいかな?アンノウンは7体くらいだったし簡単だったけどね」
「ろっ…!?」

さらりと軽くナイトは話す。
…一体に苦戦していた俺達は…。流石に神兵だな。

「しかしまぁ、アンノウンが見た人に襲いかかるのを利用するなんて、ズル賢いもんだね。おかげで時間食っちゃった。さぁさ、じゃあお話しようか」

………

「…てことで!めずらしい任務になるけど、そこまで難しくないと思うよ。それじゃ、いい結果待ってるねー」
「あ、うん…お疲れ様」

ナイトは任務の概要を説明し、立ち去って行った。

…ナイト姉の説明を纏めると、こうだ。

1、『アゲン村』にルト隊のみで向かう
2、アゲン村のアンノウンを調査、見つけ次第駆逐

ここまでは普通だ。だが…

3、アゲン村でアンノウンが何故か『消える』原因を探る
4、ミラウェル兵士ではないのにマテリアを持つ青年がいる。それの調査。話を聞く
5、もし可能であれば、その青年をミラウェルにスカウトすること。それが無理なら、マテリアを渡してもらうこと

…が任務の内容となる。
出発は明日。期間は特に無し。
必要ならば…武力行使も厭わない。…少々手荒だが、マテリアを所持している以上、ミラウェルとしては何らかの処置が必要となる。
…とはいえ、なるべく穏便に解決したい所だ。

「…まーた変わった任務だな。…ナイト姉、俺らを試してんのカ?それとも信頼してんのか」
「さぁな。後者だとありがたいが」

シャルは唸りながら、椅子に深く腰掛ける。

「マテリアを持つ青年…ですか。…ん?そう言えば…マテリアを所持している青年がいるのを、誰が確認したんでしょう?」
「あー、この依頼は村の住人からだからな。噂だとか、実際に見たとか…そんなところだろう」

マテリアは素人目からしても異質さが分かる。
ましてや小さな村だ。変わった武器を持つポケモンがいれば、嫌でも目につくだろう。

「OK、わかった。じゃあ明日、アゲン村に行くぞ」
「おう」
「はい!」

色々と疑問はあるが…明日になれば分かるだろう。




episode2、アゲン村の謎


・派閥とは、コンセプトに合わせた兵士を集めた大型チーム。所属する兵士は、中上級兵士以上ばかりな派閥が多く、任務に合わせてパートナーをその派閥内で入れ換えたり出来る。ちなみにガランドの派閥のコンセプトは、竜のポケモン

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