昇格と礼儀知らずの下級兵

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

かきためた分は早めに投稿してきます。
どうぞ
…機械音を鳴らしながら、エレベーターのドアが開く。3階、目的のフロアだ。

「…ここまできたんだな。俺は」

ぼそりと呟き、周りを見渡す。
忙しなく歩く、数々のポケモン達。暇という言葉とは程遠い、ただただ忙しい日々…それを感じるフロア。
ここは、中級兵士が働く為のフロア。一般市民からの緊急電話に対応する人。物騒な武器を装着し、どこかへ移動する兵士達。

…ぼっとしてる場合じゃないな。部屋に向かおう。

そう考えながら、ルトは何処かへ向かう。

………

「…ここか」

ルトの眼前にあるのは、1つのドア。ドアノブはシンプル。ドアの上部に取り付けてあるデジタル板には、『ヴァンリル・トリアス、シャルドネリ・ルキウス』と書いてある。この部屋の持ち主の名だ。

「よっと…シャルのやつ、来てるかな」

ルトはドアを開き、中に入る。部屋はそこまで広くないシンプルな部屋で、2段のベッドやら小さなブラウン管のテレビ。
そして窓からの光を防ぐ為のカーテンが取り付けてあった。
…実にシンプル。中級ですらこれか。

「…どうせいるんだろ?シャル」

ルトは呆れ声をもらしながら、ドアを閉めた。
すると、天井に視線を感じ、顔を上げた。

「ヒヒッ!よーう、ルト。よくわかったな?」

天井には、四肢の爪を天井に引っかけ、引っ付いていた青年がいた。勿論これが好きでやってるわけではない。悪戯だ。

「あのさぁ…一応新しい部屋なんだぞ?爪痕付けんなよシャル。…まぁ、それは置いといて」

ルトは呆れながら座り、シャルという青年はぼとりと落ちてきた。見た目は、ゾロアークという種族であり、耳にリングピアスをしている。実に頭の弱そうな話し方や見た目だが、めちゃくちゃ賢い。ギャップが凄いのだ。

「まっ、そうだよナ。…中級昇格!」
シャルは笑いながら右手を上げる。続けてルトが
「ああ、おめでとう!」

ルトの右手とシャルの右手がバチっと当たる。ハイタッチだ。

今日はこの2人が昇格してから初めての会合なのだ。

………

「今日任務、入ってんのか?」

シャルはベッドに横たわりながらルトに訪ねた。ルトは眼鏡をし、数々の資料に目を通していく。

「んー、任務というか、パートナーが増えるらしい。俺たちに指導してほしいんだと」

そうルトはぶっきらぼうに答えた。シャルは起き上がる。

「オッ?まじか。てことは、下級なのか?」
「だろうな。名前は…ミリー・アンドリュー。略称ミリアンだそうだ。性別は女、種族は…ラティアス!?希少な種族だな…」

ラティアス。滅多にいない種族であり、一生のうち会うことは数回あるかないかと言ったところ。そのなかで更に兵士…幸運にも程がある。

「ラティアス…強靭な翼を持つ種族だナ。…わざわざ俺らみたいな中級に任せる程の問題児なのかねぇ」

本来教育係になるのは、俺ら中級のひとつ上の階級だ。中上級兵士。
しかし今の時期は色々と忙しいらしく、中級の中でも優秀なほうである俺たち、尚且つ下級の気持ちが分かりやすい立場だから案件が回ってきた。そんなところだろうか。
光栄…とは一概には言えないが、指導という立場を知るには良い機会かもしれない。

「ほいで?いつ来るんだ?」
「ああ…今は大体10時半…来るのは11時からだそうだ。…あんまりからかうなよ?」

シャルは人をからかうのが好きだ。その悪癖からシャルを良く思わない奴らもいる。
…シャル程の実力者でも、中々階級が上がらないのはそのせいかもしれない。

「当たり前だろ?初対面に絡んだりしないさ…タブンナ、ひひっ!」
「…ったく…そんなんだからまだ中級でくすぶってるんだろうに」

そう呟くと、シャルは首を振った。

「…ちげぇよ。お前の階級を上げたいのさ。お前こそ上がるべきだぜ。俺の能力なんて普通なもんさ。それに、中級ってのは居心地がイイシナ。上の石頭野郎共よりはさ」
「…はぁ。ありがたいが、複雑だなそりゃ。
まぁ、そんならとことん付き合ってもらうさ」

悪態を付くルトに、シャルは笑う。
いつもの日常だ。他愛ないこの時間、それも任務一つで消し飛ぶ…そんなことザラだ。

だからこそ、力を付ける。新人にも、頑張って欲しいな。

「さてと、対アンノウン武器の確認でもするかな」

そう言ってルトは長い筒のような袋を手に取り、中身を取り出す。
中身は刀。鞘には波の様な模様が掘ってあり、刃長は約80センチ程。
ルトの体型からしてみればかなりの長さだ。名前は波光。

「相変わらず長い刀ダナ。まぁ使いこなしてるから問題ないけども」

そう呟きつつ、シャルは小さい筒をポーチから取り出す。真ん中にあるスイッチを押すと、瞬く間に長い槍へと変形した。
シャルの槍は更に長く、180センチはある。
名前は影槍。

この武器は使い手の特性を引き出す効力があり、基本的には本部から兵士に受け渡される。だが、この二人の武器は中級が持てる武器ではない。
ルトは親から譲り受けた物、シャルはあまりに使いにくい為廃棄されそうだった物である。

アンノウンとは、異形の者達。見た目はポケモンと同じシルエットなのだが、びっしりと黒い靄で包まれている。
そのアンノウンは突如現れ、各地で人を殺したり、拐ったりを繰り返す。拐われた者は100%帰ってくる、が、手足の一部が欠損しているのだ。
その理由を聞いても、わからないとしか返ってこない。
そのアンノウンを駆除する為に作られた組織…それがここ、ミラウェルだ。元々は違った目的で作られたらしいが。

作られて5年も経つが、未だにアンノウンの正体は分かっていない。

「おっけ、ちゃんと使えるな。流石はSレート武器だ」

ルトはそう言い、袋に仕舞う。レート、とは武器の価値や強さを表す。
Sが最高で、順にABCDEF…と下がっていく。ルトの親は昔、ジャロス家に仕えていた兵士だった。とある武器職人から貰った剣らしく、対アンノウン武器に作り替えるとかなりの価値と強さに変わった。

「さっすがダナ。俺のはAレートとは大違いだ」

シャルはキシキシと笑う。シャルの武器も中級が持つにはかなりの価値だ。だが、その武器の使いにくさはトップクラス。元々技術がいる槍に加え、引き出す能力が特殊なのだ。普通なら使い手に応じた特性を引き出すのに対し、シャルのは無関係。だれが使おうと同じ特性になってしまい、その特性も使いにくい。シャル以外は。

武器を仕舞い終わると、ドアにコンコン、とノック音がした。まだ11時にはなっていない…つまり別の人だ。
ルトはゆっくりとドアを開く。目の前には一人の女性がいた。

「あっ、ナイト姉…」
「…ルートー!階級上がったんだねー!おめでとー!」

その女性は両腕を広げ、ルトにガバッと抱きついた。ルトはしばらく唖然としていたが直ぐに紅潮する。

「なっななな!?ちょっと、いきなり抱きつくなよ!ナイト姉!」

ルトは慌てながらもその女性を引き剥がした。女性は残念そうな顔をする。
その種族は…サーナイトだ。名前はアンバル・シア・ナイト。通称ナイト姉。

「えー、連れないなぁ。久々に会ったのに…あっ、シャル君もおめでとう!相変わらず意地悪そうな顔してるねぇ」
「ヒヒ、いきなりそれすか。ありがとうございまーす」

シャルは肩を揺らして笑う。
このナイト姉は、ルトとシャルの姉貴分として昔から知り合いで、二人は本当の姉の様に慕っていた。ナイト姉も弟ができた!…という感じに色々と世話をしてくれていたのだ。
そして、ルトの初恋の相手でもある。今も然り。

「てことは、今中級だね?いやはや、早いもんだね!流石、流石~!」
「ナイト姉に言われても嫌味っぽく聞こえるぞ…神兵 (ゴルドウォリア)さん?」

ナイトは二人を見ながらにやにやとはにかむ。ルトはため息をついた。
このナイトの意外な所は、とんでもなく強いという事にある。このミラウェル内で最短とされるスピードで神兵までかけあがり、その年数はなんと2年。普通ならこの2倍以上はかかる。
ミラウェル内で最強とも謡われる強さであり、別名【破壊騎士】とさえ呼ばれているほどにだ。

「…さて、祝い…といきたいんだけど。とりあえず要件を言うね」

ナイトは突然真顔になり、二人は身構えた。

「ミリアンちゃんが仮想戦闘室で待ってる、てさ。私は本部からの言伝てとして来たんだよ」
「待ってる…?おいおい、いきなり無愛想な奴ダネェ」

シャルはそうため息をついた。それもそのはず、先輩に当たる俺達の所に挨拶もせず、むしろ来いと言われたからだ。
…厄介払いを押し付けられたかもな。
ナイトはしばらくすると苦笑いを浮かべた。

「あはは…悪い子じゃないけどね、ちょっと気難しい子なのよ。二人を舐めてる訳じゃなく、本当に先輩かどうかを確かめたいんだろうね。頑固だし、実際実力もセンスもあるからさ」

仮想戦闘室…様々なアンノウンの情報を元に作られたバーチャル戦闘室であり、ダメージを受けずに戦闘の練習が出来る場所だ。
全ての階級のフロアに設置されており、武器の試し等もここでやる。

「…まぁ、向かうしかなさそうだな。俺らも頭ごなしに怒る事が出来る訳じゃないし、理由あってのことなら尚更だ」

…先輩と後輩という区切りは元々そんなに好きじゃない。シャルは不服そうではあるが、ナイト姉と共に戦闘室へ向かうことにした。


一言メモ
・兵士の階級は、「見習い兵士(モイド)」「下級兵士(ブロンズ)」「中級兵士(ノーマルズ)」「中上級兵士(アブノーマルズ)」「上級兵士(シルバリア)」「神兵(ゴルドウォリア)」とモイドが最低階級で、ゴルドウォリアが最高階級となる。
・入隊試験で実力を認められれば、一気に中級までは上がる事ができる。(ルトとシャルは下級からスタート、ナイトは規格外の中上級兵士から。ナイト以降で中上級兵士スタートの兵士はいない)

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