HR6:「授業中の居眠りはダメ!」の巻

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 みんなで同じ部活に入ることを決めた僕たち3匹。どんな部活をやるのかまだわからないけれど……とにかく3匹一緒に頑張っていこうね!




 朝のホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り終わったあと、僕たち2組の担任であるキュウコン先生が教室前方の教壇に立ち、静かに話を始めた。


 「みんな、おはよう。入学式から今日でちょうど1週間経ったがどうかな?そろそろ新しい学校生活には慣れてきたかな?」


 キュウコン先生の言葉にクラスメイトたちは様々な反応を見せた。緊張しながらも大きくうなずいたり、苦笑いを浮かべてちょっとだけ首を傾げたり……と。少しだけ教室がざわついていた。


 そんな様子を眺めるようにして、キュウコン先生が話を続ける。


 「さて、今日からはいよいよ本格的な授業が始まるぞ。新しい環境にまだまだ揺らいでるかも知れないが、しっかりとした気持ちでのぞむように。何事もスタートが肝心だからな」


 またしても教室内がざわめく。その様子を見ていたキュウコン先生だったが、さすがに連絡に支障をきたすと判断したのか、みんなに静かにするように促した。


 少しして教室内は落ち着きを取り戻してきた。再びキュウコン先生の連絡が始まる。 


 「え~それから今日は午後から体育館で、生徒会によって部活動の入部案内が行われる。この中でもうどんな部活動をするか決めている生徒はいるかな?」



 キュウコン先生の問い掛けに対して、10人ほどのクラスメイトが挙手をする。………が、僕やピカっち、チコっちを含めた大概のメンバーはまだ決めかねているせいか、なんとなく浮かない表情をしていた。



 そんな中、キュウコン先生の話は更に続く。


 「そうか……ほとんどの生徒が迷っているようだな。だが、焦ることは何一つないからな。君たちが入部を決めた部活は、これから自分たちが何か変わっていくであろう場所となる。最初のうちは実感できないかもしれないが、長い時間を過ごす内に、必ずや今まで感じなかったことに気づかされるはずだ」


 キュウコン先生が落ち着きながらも、一層強い口調で話を続ける。



 「だから今の自分のできそうなことだけで、部活動を選ばないでほしい。目標はいくら大きくても構わないんだ。最後に心の底からその部で活動して良かったと………胸を張れるような……そんな気持ちで部活動を選んでほしい。悔いが残るような選び方は決してしないでくれ……。先生からはそれだけを君たちにアドバイスしたいと思う」


 キュウコン先生の話に、僕たち2組のみんなが大きくうなずいた。



 「よし、それではこれで先生からの連絡は終わる。今日も1日しっかりと授業にのぞむように」
 『はい!』


 キュウコン先生からの話が終わり、元気良く大きな返事をした2組のクラスメイトだった。



  キーンコーンカーンコーン……


 (今の自分のできそうなことだけで部活を選ばない……か……。果たしてそんな大きな目標を持てるような部活なんて見つかるのかなぁ?)


 朝のホームルームが終わって、1時間目の授業の準備をしつつ、僕は不安を感じていた。


 中学校に入学した今日まで、実は僕自身自分の立てた目標を達成したことがなかった。そればかりかイヤになって、途中で挫折した経験ばかり。


 (でも、見つかると良いな……こんなダメな僕でも負けることなく……投げ出すことなくがんばれるような部活が……)


 1時間目の授業に使う教科書やノートなど、道具を机に置いたあと、一度明るい朝日が浮かんでいる青い空を窓越しで眺める僕。


 確かに今は不安ばかりが過るけど、それでも僕には小さいときからいつも一緒だった……ピカっちやチコっちがいる。


 (でもきっと大丈夫……だよね。僕は一人なんかじゃないから……。だからきっと……きっと今回は大丈夫だよね……)


 自分の席に座り、目をつぶってスーっと深呼吸をした僕。その中で、もう一度決意を新たにしていた。



 それから少しして、中学校での初めての授業が始まった。まず1時間目の授業は数学だ。


 「皆さんはじめまして。私が数学を担当するピクシーです。これから一緒にしっかりと勉強していきましょうね」


 メガネをかけた教科担任のピクシー先生が、教壇に立って軽く自己紹介をする。時折優しい笑顔を浮かべ、授業の進め方などを載せたプリントを、縦に並んだ列の先頭の席の人に配った。先頭の席の人はそれを受け取ると、自分の分を取り、残りを自分の後ろの席の人に渡した。


 やがてクラス全員にそのプリントが行き渡ったのを確認すると、ピクシー先生は手を叩いてざわつくみんなを静かにするように促す。


 「は~いみんな、静かにしてね♪これから授業の進め方や、みんなに気を付けて欲しいことを説明するからね♪」


 ピクシー先生のその言葉で教室内が静かになる。彼女は確認すると、プリントを持ちながら説明を始めた。



 説明が始まって約10分後。僕は窓から差し込む暖かい日差しと、ピクシー先生の説明ばかりで、その先に変化の無さそうな様子に段々と気が緩んできた。


 (ふぁぁぁ……眠たいや。こんなにポカポカだったら、日向ぼっことかしたら気持ちいいだろうなぁ~……)


 最初のうちは配られたプリントをピクシー先生の説明に合わせて読んだりと、緊張していた僕だったが、そのピクシー先生の説明がだいぶ聞き飽きてしまった。


 さすがにそれじゃマズいと思い、集中力を取り戻そうと、僕はそのプリントを何度も読み返していた。………でもそれも限界だ。


 (あぁ……もうダメだ……睡魔には勝てないや……おやすみ……)


 ……あ~ぁ。あれほどキュウコン先生にしっかりと授業に臨むように言われてたのに……。机の上にうつ伏せになって……つくづくダメなヒトカゲだな僕は……。


 (………そういえば、昨日出会ったテールナー……。“ルーナ”って言ったっけ。あのあと……どうしたのかな……?今ごろ……どうしているんだろう……)


 段々と遠のく意識の中で、ふと“ルーナ”のことを思い出す僕。


 (よくわからないけれど彼は……きっと……野球が好きなんだろうな……。誰もいないような場所で……黒いバット一つだけで……あんなに……あんなにメラメラと……誰にも邪魔されたくないほど、気持ちを込めるようなこと出来るんだもん……うらやましいなぁ……)


 一部始終しか見てないので、あくまで彼の言動から判断した僕の推測に過ぎないが、それでも今こうやってあのときの彼を思い出すと、自分に足りない物を、目にすることが出来たような気がした。


 (僕も……あんな風に……何かに熱中したいな……こんなすぐにへこたれる弱い僕でも……他のすべてを忘れるくらい……それくらい……熱中した…………い……Zzzz……)










 「……………!…………くん!………っちくんってば!」
 「…………?」


 遥か遠くから聞こえる可愛い女の子の声。心なしか僕には何となく焦ってるように感じる。


 「もうっ!カゲっちくんってば!さっきから先生が呼んでるよ!」
 「ほぇっっ!?」


 先ほどの声は、僕の隣の席に座ってるピカっちだった。いつからわからないが、必死に体を揺すりながら僕を起こしているのだった。


 (ヤバイ!まさか……まさかホントに居眠りしちゃうなんて!)


 ようやく事態を理解して、意識を取り戻した僕だったが…………時すでに遅し。


 僕の前には授業の始めと同じような優しそうな笑顔を見せるピクシー先生が立っていた。


 「ヒトカゲくん……?気持ち良さそうなところを悪いけど……注意事項の③を読んでみて?」
 「は………はい」


 プリントを手にしながら、指示をするピクシー先生に従う僕。でもなんだろう……この背筋が凍るような恐怖感は………不安すぎる。




 「“授業中に居眠りすることは、同じように頑張っているクラスメイトにとって大変失礼なことです……。居眠りは絶対に……ゼッタイにやめましょう☆”」


 その場に立ち、プリントを支える両手をにわかに細かく震わしながらそれを読み上げる僕。


 そこまで来るとピクシー先生はパチパチ拍手をする。相変わらず優しそうな笑顔を浮かべて………。そして次にこんな質問を僕にした。


 「ヒトカゲくん?今君は何をしてましたか?」
 「居眠りです………」
 「注意事項③には何と書いていましたか?」
 「居眠りは絶対に……ゼッタイにやめましょう☆です……」



 半ば誘導尋問に近いことに淡々と答える僕。あの~……何となくクラスメイトみんなの表情が凍りついてる気がするのですが………。



 「今度から授業中に居眠りはやめましょうね………ヒトカゲくん。“ピクシーのおしおきこうしきビンタ×2×(2+1)”!!!!」
 「ごめんなさ~~~~~い!!!!!!」



 クラスメイト全員が一体何回ビンタされるんだぁ………と心の中でツッコむなかで、教室中央部から後方まで10mほど吹き飛ばされる僕だった………。









 学生のみなさん、くれぐれも僕みたいに授業中に居眠りをするのはやめましょうね………。

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