HR2:「不安だらけのダメダメヒトカゲ!?」の巻

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 (ハァ~……。また遅刻しちゃったよ……。今日こそは絶対に朝寝坊しないってチコっちやピカっちとあれほど約束したのに……)


 今日は日曜日。楽しい楽しいピクニックを待っていたかのように、空は天へ突き抜けるほど青空が広がっている。……なのに僕の心の中には、どんよりとした暗雲が立ち込めてる。



 (………まぁ、昨日この青空に負けないくらいのテンションで、ピクニックを楽しみにしたせいか、寝付けなかったのと、…寝ぼけて枕元に置いといた目覚まし時計を壊した自分が悪いんだけどさ………)


 僕はうつむきながら何度も何度もため息をつく。つくづく自分のドジっぷりが情けなく感じてしまう。


 ………あっ、読者のみなさんはじめまして。僕はとかげポケモンと呼ばれる種族のヒトカゲ。つい最近“あさひポケ中学校”に入学したばかりの中学1年生で、みんなからはニックネームの“カゲっち”と呼ばれてるんだ。


 今日は友達のピカっちの誘いで、自分たちが住んでいるあさひタウンと、西側にある隣町の“ゆうひタウン”の間にある“ひかりのもり”と呼ばれる場所へみんなで行こうとしてるんだ。


 ……というのも、ピカっちの家は町一番の人気を誇るお菓子屋さん。


 そのお菓子をつくるために欠かせないというきのみを集めようと、小さい頃から度々こうして僕たちを誘っては、この森へと足を運んできたんだ。それがいつしか彼女にとって大きな楽しみになってるみたい。


 僕やチコっちも、ピカっちときのみを集める度に、お礼としてピカっちのお父さんやお母さんからお菓子を何度もごちそうになっていた。もちろんそれだけが理由では無いのだが、僕たちもピカっちとこうやってきのみを集めるのが、一つのイベントのようになっているんだ。


 「今日はたくさんきのみを集められるかな?」
 「楽しみね、どれくらい集まるか。もう~リュックいっぱいに集まると良いわね♪」


 “あさひタウン”を出発してからピカっちはずっとウキウキ気分だったが、“ひかりのもり”に近づくにつれて、ますます足取りが軽くなってきてるように感じる。チコっちにも段々と笑顔が浮かんできたようだ。


 ……と、僕が思ったそのときだった。


 「ちょっとカゲっち!!なんでそんなに遅いわけ……!男なんだからもうちょっと早く歩きなさいよ!」


 チコっちは何かを思い出したかのように、いきなり後ろを振り返ったかと思うと、無茶苦茶なことを僕に言い出したのだ。


 「そ……そんな簡単に言わないでよ~!僕はピカっちとチコっちの荷物も運んでるのに!!第一なんでいつもいつも僕が荷物持ちなのさ~!」


 僕は思わず両手をバタバタさせて文句を言ってしまう。確かに待ち合わせに遅れたのは自分が悪いけど、だからといって……だからといって……こんなのあんまりだ……。


 「わがまま言わないの!!いつもいつも朝寝坊する方が悪いんじゃない!!それに女の子の重たい荷物を運ぶのは、男の子の役目って世界中どこでもそうやって決まってるでしょ!」
 「いつ決まったのさ~そんなこと……」


 なんだかもうため息しか出ないよ……。チコっちのイケイケドンドンな自由な発想にどれだけ振り回されてきたことか……。毎回毎回こうやってなんか僕が損してるような気がする……。


 「つべこべ言ってる暇があったらちゃんと歩きなさいよ!じゃないとホントに置いていくわよ泣き虫ヒトカゲ!」
 「泣き虫……ってそんなこと言わないでよ~お願いだから!!」


 チコっちが進むスピードを速めたのを見た僕は半ば泣き叫びながら、自分とピカっち、チコっちの荷物を持ち運ぶ。


 ピカっちはそんな僕やチコっちのやり取りに苦笑いしながら、目的地である“ひかりのもり”へと向かった。






 ……しばらくして、目的地である“ひかりのもり”の“あさひのいりぐち”に到着した僕たち仲良し3匹組。


 ここは“ポケモン・カントリー”の東西にまたがる森林地帯で、東から昇った太陽の日差しと西へ沈む太陽の日差し……その両方を浴びた森全体が、まるで光輝くように見えることからその名がついたと言われている。


 そしてこの森は、僕たちのように太陽の恵みをたっぷり浴びたきのみを集めに来たり、はたまた森林浴を楽しんだり、所々に存在する広場で遊んだりと……訪れる人々の憩いの場として利用されることが多いのだとか。


 そんな“ひかりのもり”に着き、体を伸ばしてリラックスする僕。ここにきてようやく気持ちのいい天気を感じることが出来たような気がする。


 (そろそろピカっちとチコっちはきのみ集めを始めるのかな。じゃあ僕もぼちぼち……頑張りますか!!)


 ピカっちとチコっちは、どうやら一緒になってきのみ集めをするということらしいので、一足先に森の奥へと進んでいった。


 僕は彼女たちとは別の場所できのみ集めをすることにした。




 (やっぱり甘いお菓子に一番合うきのみって“モモンのみ”だよね!でも待てよ……色んな味がする“オレンのみ”も良いよね!!いやいや……やっぱ辛いお菓子にするために思いきって“クラボのみ”とか“マトマのみ”にしてみようか!!それともすっぱい“ナナシのみ”にしようかな~……)



 道の両脇に並ぶたくさんの木々によって、トンネルのようになっている一本道を歩く僕。その間辺りをキョロキョロ見ながら、どのきのみを集めるかを決めかねていた。




 (まぁ……別に何でも良いか!!とにかく道なりに沿って落ちてるきのみを集めていこう♪その方が色んなきのみが集まるだろうし、リュックいっぱいになりそうな気がする!!)


 今頃別の場所でピカっちとチコっちはきのみ集めを進めてるだろうから……僕もいつまでも変に悩んでる訳にもいかない。


 先ほどと違ってすっかりルンルン気分になった僕は、鼻歌混じりできのみ集めを始めた。







 ………それから約2時間後。僕は森の“あさひのいりぐち”へと急いでいた。



 「もう~~~~!なんだってこんなところまできてるんだ僕は~~~!ちゃんと時間確認しろ~~~~!」


 あまりにもきのみ集めに夢中になってしまっていた僕。そのため、そろそろお昼時という頃には隣町である“ゆうひタウン”に近い“ゆうひのいりぐち”付近まで来てしまっていたのだ。


 (はぁ……はぁ……こりゃまずいよ……お昼は3匹一緒に食べる約束だったのに……。きっと二人とも怒ってるだろうな……)




 息を切らせながら、彼女たちが待ってる“あさひのいりぐち”へと懸命に走る僕。今朝だって自分のドジで二人を待たせてしまってるのに、二度も同じことをしてしまったら……せっかくの楽しいピクニックが、台無しになってしまうだろう。


 (はぁ……はぁ……とにかく……とにかく急がなきゃ!)



 恐らくもう10分くらいはずっと走りっぱなしだっただろう。いつへばっても仕方ない状態ではあったが、それでも僕は、ピカっちやチコっちに迷惑をかけられないという思いだけで、懸命に“あさひのいりぐち”へと猛ダッシュしていた。


 ……………そんなときだった…………。




 ……ブンッ!……ブンッ!!……ブンッ!!!
 「………?」




 懸命に走る僕の聴覚が聞き慣れぬ“その音”をとらえたのは……。



 ……ブンッ!……ブンッ!……ブンッ!……ブンッ!
 「なんだろう………なんだろうこの音は?」



 ……僕の聴覚がとらえた“その音”は……見えないはずの空気を、真っ二つに鋭く切り裂くような音だった。それも一度や二度じゃない……。何度も……何度も……一心不乱に切り裂くような……そんな音だった。




 (一体何の音だろう……?気になるし、ちょっと見てこよう……)



 僕は空気を切り裂く“その音”が気になり、……多少ビクビクしながらも音がする方向へと足を進めた。







 ……これがすべての始まりになろうとも知るよしも無く。

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