第12話 「摩天楼の狙撃手」 (5)

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2014.06.29.投稿


◇9


 マルーノジムから逃げ出して、ツバキは行く当てもなくもと来た道を引き返していた。
 これからどうしたらいいのだろう。
 何も考えず、ただ先走って町に入り、そんなツバキを案内してくれたカナミの下にももう戻れない。
 あんな態度をとってしまって。
 あんなことを言わせてしまって。
 きっと自分は、軽蔑されてしまっただろう。

 最低だ。
 バトルの最中に逃げ出すなんて。
 相手に背中を向けるなんて。

 きっとクゥは許してくれない。
 それが怖くて、ずっとクゥの顔が見れない。

 クゥは今、ツバキの後ろを歩いている。嫌われて、失望させてしまったかもしれない。不安で仕方がないけれど、振り返って話す勇気も言葉もない。考えるほどに、胸がぎゅうぎゅうと絞まるように痛い。
 そんなツバキを独りにさせまいとするように、シロが隣を寄り添うように歩いてくれる。シロの背中にはフタバがいて、どうしていいかわからないというように俯いている。彼女たちをそんな風にさせてしまっていることもまた、ツバキには耐え難く直視できない。

 なぜこんな風になってしまった。
 どうして自分はこんなに弱い。
 自問しつつも、ツバキは気付いてしまっていた。

 ユウトが側にいないから。

 自分が強気でいられる時には、いつだって彼がそこにいた。頼るとか、甘えるとか、そんなあったかいものだけじゃなくて。きっと彼を利用していた。彼の存在にあぐらをかいて、大きな顔をしていただけだ。
 離れてしまえば、これが自分だ。本当の自分はこんなにも弱い。

 じわりと目尻が熱く滲んだ。そんなのダメだ。逃げたり、泣いたりしてばっかりで。これ以上そんな姿を見せ続けたら、本当にクゥに見限られてしまう。それが怖くて仕方なくって。ツバキは必死に歯を食いしばる。

 そうしているうちにふっと視界が明るくなって、開けた場所に出たことがわかった。顔を上げると、露天の並ぶ広場の先に巨大な建造物が見えている。根本まで目にして改めて驚く。全体像を一目に見ることができないほどだ。カナミの言っていたマルーノタワー。マルーノシティの中心だ。
 いつの間にかジムのあったウエストタウンからセントラルプラザに戻っていたらしい。この一帯はタワー周辺の広場になっているようで、芝生の広がる敷地の周囲を露店が点々と囲んでいた。

 そんな広場の真ん中あたりに、一組の彫像が立っていた。岩を彫り起こした石像のようだが、日の光を受けて全体が淡い白色に見える。

 その色を、なぜだかとてもよく知っているような気がした。
 強く惹き寄せられるように、ツバキはその像に近づいて行く。

 ツバキの身長の倍以上はあろうかという大きな像。三体のポケモンを模ったもののようだが、実物よりも大きく造られているのかも知れない。
 そのうちの一体には見覚えがあった。細長い体と大きな瞳。羽のような大きな耳に、首元と尾の先には水晶の珠。ユウトの持つ本に絵が載っていて、ミタキタウンでは友達のために探したポケモン。ハクが姿を化えた時、一瞬その姿のシルエットを見た。ドラゴンポケモン、ハクリューだ。
 あとの二体は見たことのないポケモンだった。尖った耳と長い鼻、団扇のような葉っぱの腕を持つポケモン。振袖のような幅広の腕と帯のような背中の突起が、和服を思わせるポケモン。

 知らないポケモンのはずなのに。なぜだか胸に仄かな熱が広がるような、けれど少しだけきゅっと息苦しくてざわめくような、そんな未知の感覚に戸惑う。

 これは、懐かしさ、なのだろうか。

 ずっとその岩の傍に寄り添っていたいような気がして。
 なのにどうしてかとても恐ろしいような動悸もあって。
 なんだかざわざわと落ち着かなくて、考えがまとまりを失っていく。

 像の傍には文字の彫られた石碑があって、自然と意識がその文字列に向く。ツバキが読み書きできるのは、島でおばあちゃんに教わったからだ。なぜだか急にそんなことが思い出された。
 シラナミ地方を守護すると伝えられるポケモンたち。そんな内容のことが書かれていた。ツバキには読めない部分もあり、詳細まではわからない。

 フタバが視界の端で動くのがわかった。顔を向けると、ツバキのことを不安そうな目で見上げている。あんまり夢中で像を見ていたものだから、心配させてしまったみたいだ。視線をずらすとシロもツバキに寄り添いながら像を気にしているようで、クゥは少し距離を空けて立ち、訝しげな顔でこちらを見ていた。

「ごめん、なんかぼーっとしちゃってた」

 どうしてこんなに気になったのか、自分でもよくわからなかった。ちりちりと胸の奥底を焦がす感覚は、まだじんわりと残っている。
 これは何を意味するのだろう。このポケモンたちと何か関係があるのだろうか。伝説のポケモンということだから、後でユウトかアイハに聞いてみようか。そんなことを考えながら、ツバキは像の傍を離れた。

 けれど、どこに行こうというわけでもない。この後のことは何も定まらないままだ。
 カナミやメグと離れてしまって、すっかり手がかりは失くしてしまった。知らない町の、知らない場所で。もうこれ以上、どうすればいいのかわからない。

 いっそもう、立ち止まってしまおうかという思考が襲った。
 向かう先もわからない。
 自分がどうしたいのかも知らない。
 ただ、じっとしていられなかったから。ユウトががんばっているのを知って、何もせずにはいられないから。ただそれだけの感情で、こんなところまで来てしまった。

 だけど、本当はどうなのだろう。
 自分はまだ、ハンターを探そうと思っているのか。
 そんな考えが頭を掠める。

 戦うことが正しいのか。
 戦いを挑めば勝てるのか。
 そもそも今しがたバトルから逃げ出したばかりの自分に、みんなは力を貸してくれるのか。

 ケットシティのおじいさんの家族、エネコロロのエレンを助けたい。
 その想いがあったから、ここまでやって来たはずだ。
 けれど今ではその想いさえ、どこかもう手の届かない、ふわふわ浮いたもののように感じる。
 そんなのダメだとすぐ打ち消した。そんなの違うと思いたかった。
 だけど、それでも。手がかりもなく、戦う意志も失くしかけ、戦う術さえ曖昧で。
 支えるものなど何もない、宙ぶらりんに落ちた気がして、掴めるものがなにもなくて。

 もう、本当に何も。どうしてここにいるのかさえも、わからなくなってしまいそうだった。

 なら、もういっそ、帰ってしまえばいいのだろうか。
 何も考えないでいられた、ただ毎日が幸せだった、あの場所に。
 だけど仮にそうしたとしても、あの場所にもうあの頃はない。あったかくて大好きだったあの時間はもう、二度と決して、帰ってくることなんてない。

 ぼやけた視界の遠く先で、ふと淡い色が目に留まった。
 マルーノタワー。このマルーノシティの中心で、シンボル。まっすぐに天を指し示す塔。

 高いものを見ると、自然と視線が上を向く。薄桃色に塗られたそれに極端な派手さは感じることなく、優しいアクセントとして景観に受け入れられている。カナミみたいだとツバキは思った。この町らしい気がするとも。なんだかすごく眩しい気がして、ツバキは薄く目を細めた。

 そんな鉄塔のある地点、展望台の上辺りで、何かがチカリと光った気がした。なぜだかとても気になって、よく見ようと背伸びしてみる。その時だった。

「ツバキ!」

 誰よりもよく知っている声。ひどく慌てた様子のそれに、ツバキは驚いて振り向いた。

「ユウト? どうして」

 彼の隣にはクロもいて、頭上にはネネ、後ろにはハクも追い付いてきている。

「よかった、無事で……、実は」

 急いで走ってきたらしく、ひどく息を切らせていた。何か伝えようとしているようで。けれどその言葉の先は、最後まで聞くことはできなかった。

 一瞬だった。

 目の前を何かが横切ったと思った。

 次の瞬間。

 シロの姿が消えていた。



◆10


 こつん、と。
 それが地面に落ちる音がした。
 シロの背にいたらしいフタバも、ぽてんと落ちて仰向けに転がる。

 ツバキの驚く顔が見えて。
 その瞬間に、ユウトは自分の愚かさを悟った。

 ボールが落ちたすぐそこの地面が、突然ぼこっと盛り上がる。まるでこの時を待っていたように。
 姿を見せたのは薄黄色の体にアミダのような模様の生き物。穴掘りが得意なねずみポケモン、サンドだ。まずいと思ったときには手遅れ。止める間もなくサンドはシロを閉じ込めたボールを咥え、地中に姿を消してしまう。

 これがあの青年のやり方だ。遠距離狙撃でボールをぶつけ、あらかじめ標的の側で待機していたポケモンに回収させる。同じ方法でエレンが奪われ、わかっていたはずだったのに。

 自分が案内してしまったのだ。
 敵が自分たちを狙うと知って、ユウトは真っ先にツバキやシロの身を案じた。クロにはシロの居場所がわかる。居場所を知るのも駆けつけるのも、ユウトには容易なことだった。
 それこそが敵の狙いだった。
 ユウトは自分の迂闊さに、心の底から後悔する。

「ユウト、なにこれ、どうなってるの!?」

 混乱したようなツバキの声で、ユウトはようやく我に返る。

「みんな伏せろ! ネネ!」

 ユウトの意図に応えて、ネネが素早く“壁”を張る。「バチィッ!」と弾ける音がしたのはほぼ同時。くすんだ赤と白に塗られたボールが、すぐ目の前の地面に落ちる。
 射線の先で、狙われていたのはクロだった。防御が一瞬が遅れていたら。嫌な汗が額に広がる。

「ユウトっ!?」
「どこかに隠れて! 早く!」

 敵はおそらくタワーの上だ。その射線上から逃れる場所を。不運なことにここは広場で遮蔽物は少ない。まるで諦めろと言われているみたいだ。

「ユウト、こっち!」

 どうにか状況を飲み込んだらしいツバキが指差したのは、三体のポケモンの彫像だった。全員が隠れられるくらいの大きさはある。
 迷う余地はなかった。ネネの“壁”からクロが出ないように気を付けながら、全速力で像の裏へと滑り込む。

「ユウト、どうなってるの!? シロは!?」
「あいつだ、エレンをさらったハンターが、今度はおれたちを狙ってる!」
「そんな、じゃあシロは!?」

 慌てて動き出そうとするツバキを、ユウトが肩に手を置いて留める。

「放して! シロがっ!」
「落ち着け! たぶん狙いはシロとクロだ。クロが捕まらない限り、さっきのサンドも遠くへは行かない!」
「じゃあどうするの!? このまま隠れてたって助けられないよ!」

 確かにそうだ。けれど下手に身動きすることもできない今、他にどうすることができる?

 クロの体は強張っていた。恐らく自分が狙われていること、自分がこの場の鍵であることは理解している。けれどそんなことはきっとどうでもいいのだろう。
 シロは、クロにとって無二の姉だ。普段きまぐれな態度ばかりで意識させられることは少ない。けれど本当はクロがどれだけシロを慕っているか、ユウトはよく知っている。
 酷く動揺したような。怒りに震えているような。こんなクロの表情は今まで見たことがなかった。今は理性で抑えているが、あと少しでも衝動が勝ればシロを追おうと暴れ出すだろう。

 そんなクロの背に、そっと手を置こうとした時。

 パシュッ

 そんな無機質な音がして、クロの姿が一瞬で消えた。

 何が起きたのかわからなかった。
 いや、頭の奥では理解していた。けれど思考が受け入れられない。

 あり得ない。

 間違いなくここは、タワーから死角になっていたはずだ。直接狙えるわけがない。
 なのにボールが飛んできたのは、180度近く異なる方向。そちらのかなり離れたところに、頭ひとつ出たビルが見える。

 この僅かな時間に移動したのか。
 そんなことがあるはずがない。
 受け入れることができないまま、状況はさらに加速する。
 再び地面が盛り上がる。アミダ模様が頭を出す。

「させないっ!」

 ツバキが咄嗟に捕まえようとして掴みかかる。しかしサンドは一瞬引っ込み、次の瞬間ツバキを突き飛ばすように土を巻き上げて強引に地面から飛び出してくる。ツバキが尻餅をつく先で、クロのボールを咥えたサンドが宙を舞う。その頬が丸く膨らんでいた。
 反応したのはクゥとハク。もう地下には潜らせまいと、猛然とサンドに飛び掛かる。しかし。

 一閃。
 一瞬遅れてもう一閃。

 その直後には、二つのボールが落ちる音。ツバキが二匹の名を叫び、ユウトは咄嗟にネネを守るように抱き抱える。

 それ以上の追撃はなかった。
 クゥとハクのボールにはまるで興味を示さないまま。

 サンドは地中へ姿を消した。



◇11


 両側の頬を膨らませたサンドが、人気のない路地で顔を出す。周囲を見回し誰もいないことを確認してから、全身を地中から這い出した。直後その姿が、ぐにゃりと歪む。一度小さな楕円体に縮まり、胴体よりも大きな翼がにょきっと広がる。こうもりポケモン、ズバットの姿だ。ただしその頬だけは不自然に膨らんだまま。

 ズバットはごく微かな羽音で飛び上がり、身を隠すようにビル影を進む。
 目的地では、既に仕事道具を片付け終えた青年が待っていた。傍らでドーブルが退屈そうに欠伸をしながら、遅いと咎めるようにズバットを見る。
 その視線には構うことなく、ズバットは青年に戦利品を渡すと再びその姿を歪ませる。今度は体を肥大させ、大型のリザードンへと変わった。

 想定の範囲だったとはいえ、今回は多少手こずった。
 二つのボールを手に転がして、青年はそう自己評価する。
 ターゲットが同じ箇所に二体というのはやりづらい条件ではあったが、予備の狙撃ポイントを使わされるとは。青年の相棒は状況に応じた様々な技を習得しているが、エスパーの技は得意ではなく“テレポート”の練度は高くない。用意はしていてもあまり使いたくない手ではあった。
 けれど最大の誤算だったのは、ターゲットと遭遇してしまったことと、その場を姉に見られたことだ。そのために多少なり余計な力が入ってしまったのは間違いない。
 ひとまず最後の「仕事」とはいえ、こんなことではまだ甘い。

「あらまあ、大したお手並みねえ」

 突如背後から男の裏声。青年は素早く振り返る。
 男女の二人組だった。ただし装いや仕草はちぐはぐだが。
 スキンヘッドに金輪のピアス、縁なしのサングラス、不気味な光沢を放つほどにたっぷりと塗られた口紅。筋肉質な肉体にそぐわない腰をくねらせたポーズの大男。
 パサついた金髪のサイドポニー、町の不良のようにスーツを着崩し、その他は身に付けるものにも仕草にも飾り気のない不機嫌を張り付けたような表情の女性。

 いったいいつからそこにいたのか。
 周囲は常に警戒していた。感じ取れる限り異変も気配もなかったはずだ。
 まるで意識や認識の死角からぬるりと這い出してきたかのような。そんな気味の悪さを覚え、青年は警戒を最大にする。

「あんたたちは?」
「依頼人よお。受け取りに来たの、その手のモノを」

 大男の声音と言葉の意味に、青年は眉をひそめる。
 報酬を払うまいと獲物だけ掠め取りに来たのか。だが彼らの態度を見る限り、それだけが目的とも思えない。

 まさか。「当たり」なのか。

「あんたたちは何者だ?」
「それは悪いけど言えないわねえ。依頼主のこと詮索するのは御法度じゃない?」
「真っ当な依頼ならこんなところに出て来ないだろ。取引だったら上としてくれ」
「そうしたいけど、場所を教えてくれないんだもの」

 なるほど、それが目的か。
 青年は納得し目を細める。
 商会は容易に組織の詳細を明かさない。取引は本部直属の人間が出向いて必ず外で行われる。ゆえに客はおろか雇われているハンターでさえ、商会の場所も規模もわからない。

 彼らはそれを知らずに来たのか。
 それとも、わかって近付いてきたのか。
 青年がつい今し方、報告の電話で本部昇進を認められ、拠点の所在を知り得たことを。

「教えてもらえないかしらん?」
「残念ながら」

 青年が簡潔に答えると、大男もわかっていたように頷く。

「そうよねえ。言葉やお金でわかってくれるコじゃあなさそうだし、コレで聞くしかないかしらん」

 大男と金髪がボールを構える。
 青年も戦闘の姿勢をとりつつ、けれどこのまま欺かれてやるつもりはなかった。

 彼らは囮だ。

 背後に感じる存在感。
 覚えのあるような異様な気配。

「そこだ」

 青年が振り返り給水塔を指し示すのと、ドーブルの反応はほぼ同時。
 ドーブルは尻尾を銃のように構え、先端のインクが青く染まる。撃ち出したのは凝縮された水の弾丸。大男と金髪の顔色が変わる。給水塔真下に着弾したそれは、炸裂と同時に巨大な水柱をぶちまけた。

「ひゃっ!?」

 聞こえたのは少女の悲鳴。
 給水塔の影から全身に水を被った黒髪の少女と夕焼け色のポケモンが姿を現す。少女は動転したようにバランスを崩し、屋上の端で足を滑らせ、そのまま――

「やべえっ!!」

 金髪が叫び、瞬間の全力でボールを投げる。空中で出現したレントラーが、少女を追って飛び降りていく。

 青年の額にも冷や汗が浮いた。確かに手加減はしなかったが、本当に落ちるとは考えていなかった。敵の出方を確かめるつもりが、あれを避ける程度の力量もないとは。

「てめえっ!!」

 金髪が放つ全霊の敵意。煮え立つ怒りを隠そうともせず、同様の表情のパチリスを繰り出し、すぐさま最大の電撃を放つ。

「“ハイドロポンプ”!」

 青年の指示で再び放たれたドーブルの水弾が炸裂し、電撃を吸収して相殺する。

「“れいとうビーム”う!」

 いつの間に出現していたルージュラが、大男の指示で光線を放つ。今度はリザードンが反応し、火球が冷気を打ち消した。
 このまま戦うのは好ましくない。結果的に相手に勢いを与えてしまって、状況が悪いのは明らかだ。この場に長く留まる気はない。

「ネンド、蹴散らせ」

 青年の指示でリザードンが口元に炎を集め、火球を膨れ上がらせる。対処する隙は与えない。一気に膨張したそれをリザードンは躊躇いのない勢いで撃ち出し、大男たちの目前に着弾した火球は爆炎となる。
 見た目ほどの破壊力はない。けれどその熱を纏う暴風は、一時的な無力化には十分。大男たちは顔を庇い、その隙をみて青年とドーブルはリザードンに飛び乗る。

「ぐっ……! 待ちやがれえ!!」

 金髪の叫び声を後目に、翼を広げたリザードンが飛び立つ。追撃するように電撃が飛ぶが、既に射程圏外だった。

 人目を避けるように逆光を浴びて、青年たちはビル風に乗る。
 恐らくあの大男と金髪の実力は落下した少女とは別物だ。まともにやり合って楽に勝てる相手ではないし、今は勝負が目的ではない。
 それに、もしも彼らが青年の思う通りの手合いなら。彼らと争う場はここじゃない。

 下方のビルを跳び移る、小さな白い追跡者を見る。
 少しだけ口元を綻ばし、青年はそのまま飛び去った。



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