【第078話】本能で知る得手 / チハヤ(鬼ごっこ、vs嵐)

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読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「それじゃ行くぜッ……チハヤ!」
「望む所だッ……ストームッ!!」
鬼ごっこデッドレースもいよいよ最終盤。
タイムアウトまでは秒読みだ。
この勝負を制したものは課題をクリアし、敗北した者は失点する。
泣いても笑っても、最後の勝負である。

 ストームのポケモンは、挙動を読みづらいフワライド。
その実力は未知数。
一方、チハヤのポケモンは今しがた加入したヒラヒナ。
相性の面では、大幅に不利である。
が、そんな事は今更だ。
「(……大丈夫、コイツが強いのはさっきのカディラ先輩戦で知っている。後は俺次第だ……行くぞッ!!)」
覚悟を決め、チハヤは真っ先にヒラヒナへ指示を飛ばす。

「さっそく突っ込むぞッ!!『ドリルくちばし』ッ!!」
「ふりりーーー!」
自身の身体を回転させながら、フワライド相手に突っ込んでいくヒラヒナ。
相手は決して機敏に動けるポケモンではない。
まず接近戦を仕掛けてみる、というのは存外悪くない判断ではある。

 ……が、ここでストームが取った行動は。
「フワライドッ、『ゴーストダイブ』ッ!!」
「ぷわー!」
フワライドは一瞬にして、その姿を異次元の中へと消してしまう。
攻撃をスカされたヒラヒナの身体が、近くの樹に軽く衝突する。
「ふりッ……!」
「あっ、逃げやがった!」
そして一瞬、ヒラヒナが怯んだ隙に……ストームは攻撃の指示を出す。
「そこで実体化ッ!!『エアスラッシュ』ッ!!」
「ぷわわーーー!」
ヒラヒナの背後に5m先に現れたフワライドは、口から吹き出す風で空気の刃を射出する。
カウンターで背後へと回る、無駄のない動き……戦場総てをその手中に収める、彼らしい戦術だ。

 ……が、今のチハヤは冴えている。
焦りから来る本能的な危機感が、動体視力と反射神経を半強制的に活性化させていたのだ。
『エアスラッシュ』が着弾するより先に、彼はヒラヒナに指示を出す。
落ちろ・・・ヒラヒナッ!!『とびつく』ッ!!」
「ふりり!」
その意味不明な指示に、ヒラヒナはすぐさま反応。
地面に向かって『とびつく』を繰り出すや否や、その頭上ギリギリを『エアスラッシュ』が駆け抜けていく。
更にヒラヒナの身体はゴム毬の様に跳ねて、V字の軌道でフワライドの眼前へと迫った。

「ぷわッ!?」
「そこで放てッ、『マジカルシャイン』!!」
「ふりりーーーー!」
ヒラヒナの身体から放たれるのはまばゆい閃光。
至近距離で食らったフワライドの視界を、不意打ちでホワイトアウトさせる。
「ぷ……ぷわわ……」
急に視覚を奪われた彼女は、僅かによろめく。

 そこへ更に、ヒラヒナの容赦ない一撃が放たれた。
「よしさらにぶっ叩けッ!『ドリルくちばし』ッ!!」
「ふりーーーーー!」
無防備な状態のフワライドの身体を、抉るようにして進んでいくヒラヒナ。
大きなダメージが、連続して入り始める。

 ……が、ストームも負けじとやり返す。
「ッ……させるかッ!!フワライド、テラスタルッ!!」
解崩器ブレイカーの『T』のボタンを押して、テラスタルを起動する。
頭上に輝き出したのは、鉄斧型の宝石……ここで選択したのは、『はがね』タイプだ。
ヒラヒナの技構成をおおよそ把握したストームは、彼女のわざで弱点を突かれないこのタイプを選んだのである。
「ふりりッ……!」
鋼鉄の身体に弾かれ、ヒラヒナは思わずノックバックしてしまう。
「ぷわわ!」
その隙に……と言わんばかりに、フワライドは再度『ゴーストダイブ』で異次元に姿を消してしまった。

 あまりにも激しい技と技の応酬……ここまで、試合開始から15秒も経過していない。
スピーディーが過ぎる戦いに、傍観していたケシキは完全に取り残されていた。
ただただ驚きながら、その様子を眺めるしか無かったのだ。
「(は……早すぎるッ……コイツら、思考から行動までの流れがあまりにもッ……!!)」
ケシキの苦手とする、即効性のある判断……それを目の前の二人は、難なく熟していたのである。
バトルを経験した回数の違いから来るものか、はたまた只の得手か。
それは当人らにすらわからない。
が、ケシキにはこれだけは分かっていた。
「(今の俺では……この戦いにはついていけない……!!)」
僅かな悔しさ、しかし納得。
そんな彼の感情すら置き去りにして、戦いは進んでいく。

「仕留めろッ……『アクロバット』、『シャドーボール』、『ゴーストダイブ』!!全部一気に解き放てッ!!」
「ぷわわわーーーーーーーーッ!!」
フワライドの身体が、空中のあらゆる座標から出たり消えたりの点滅を繰り返す。
なんと彼女は、異次元とこちらの世界を縦横無尽に飛び回りながら、その都度『シャドーボール』による狙撃をしていたのである。
放たれ続ける黒い光弾が、まるで弾幕のようにフィールド中に張り巡らされる。

「ふりっ……ふりりり!」
なんとか『とびつく』攻撃と『きけんよち』の特性を駆使しながら、攻撃を回避し続けるヒラヒナ。
しかしいずれ限界は来る。
あまり耐久力のない彼女がゴースト技を受けてしまえば、致命傷は免れないだろう。
早急な対策を迫られるチハヤ。
しかしその答えを、彼はすぐに叩きつけた。

「だったらこれだ……ヒラヒナッ、ダイマックスッ!!!!」
解崩器ブレイカーを取り出し、Xのボタンを押すチハヤ。
するとヒラヒナの身体が赤紫の雲に覆われ、みるみるうちに巨大化する。

『FLYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!』
「(なっ……そこはノーマルテラスタルだろッ!?チハヤ、気迷ったか!?)」
驚くケシキ。
多分チハヤも、落ち着いた状況ならその答えを出していただろう。
しかし今の彼に、そんな余裕はない。
選んでしまったものは仕方ないので、そのまま突っ切るしか無いのだ。

「ヒラヒナ、『ダイウォール』だッ!攻撃を受け止めろッ!!」
『FLYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!』
ヒラヒナの周囲に形成される、巨大な光の壁。
その絶壁はあらゆる攻撃を弾き飛ばし、彼女は一切の被弾を受け付けない。
そうこうしているうちに、フワライドの攻撃の勢いが衰え始める。
「チッ……スタミナ切れか!」
どんなポケモンでも、連続して技を出せる頻度には限界がある。
ましてや今のように、3つの技を絶え間なく使い続けていれば尚更だ。

 フワライドの攻撃を凌ぎきったチハヤとヒラヒナは、更に次の行動に出た。
「攻撃だッ、『ダイジェット』を放てッ!!」
『FLYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!』
ヒラヒナは天高く跳び上がると、そのまま嵐を纏って垂直落下をしてくる。
超質量のダイマックスわざは、防ぐことも回避することも出来ない。
実際、こうしてしつこく逃げ回るフワライドのようなポケモンに対しては最も効果的な特殊介入の選択肢なのだ。

 しかしダイマックスはその強力な効果の代償に、技を3回しか使用できない制約がある。
故に次の行動は最も大きな分水嶺なのだが……チハヤは迷わない。
「追撃ッ、『ダイジェット』ッ!!」
『FLYYYYYYYYYYYYYY!!』
更に同じ手口で、ダイビング攻撃を仕掛けるヒラヒナ。

「ぷわわッ……!」
「凄まじいな……だが所詮こうかは今ひとつ!大したダメージにはならないッ!!」
流石のダイマックスわざとはいえ、今のフワライドははがねタイプ。
効果が今ひとつの攻撃2発程度では、到底倒せない。

 ……が、しかし。
「そんなことは百も承知ッ、本番はここからだッ!!」
チハヤがそう叫んだ瞬間、ヒラヒナのダイマックスは解けて元のサイズに戻っていく。
「ふりり!」
「っしゃ行くぞヒラヒナ、『ドリルくちばし』ッ!!」
「ふりりーーーーッ!!」
ヒラヒナは元の身体に戻った瞬間、フワライドの元へと突っ込んでいく。
だがその速度は、先の比ではない。
異次元へとフワライドが逃げ去ろうとする前に……なんと急所を射抜いてしまったのである。

「ぷわッ!?」
「加速してやがるッ……そうか、『ダイジェット』の効果かッ!!」
そう……ひこうタイプのダイマックスわざ『ダイジェット』。
その副次効果は、使用したポケモンのスピードを永続で上昇させる……という凄まじいものだ。
この技一つで、戦局は大きくひっくり返る可能性がある……それほどの技だ。
「そうだッ!攻撃する前に逃げられるなら、それすら許さないで倒せば良いッ!!そのために大切なのは、なによりもスピードだッ!!」
「ッ……!!」
暴論、滅茶苦茶……
だが、チハヤにとってはコレが最適解だ。
ここ最近の高頻度のバトルの中で、彼は自らの得意分野を見出していた。

 ……それはスピード。
彼のポケモンは、皆どれも高速で機敏に動き回るのが得意な軽量級のポケモンだ。
それを突き詰めていくと一番調子が良くなることを、彼自身も既に気づき始めていたのである。
だから、彼は考えた。
ヒラヒナを、一番自分の型に当てはめるにはどうすればいいか。
そのために彼は、守りのテラスタルではなく……責めのダイマックスを選択したのである。
無意識のうちに、自らの経験がそうさせたのだ。

 そしてヒラヒナの攻撃は、ついぞ止まらない。
「ふりりッ!ふりッ!ふりーーーーーーーーッ!!」
フワライドが何かアクションを起こす隙すら一切与えず、矢継ぎ早に『ドリルくちばし』のダメージを与える。
その絶え間ない打撃音は、まるでマシンガンの弾丸が弾ける音のそれである。

「(くッ……流石にマズいなコレは……!チハヤの奴、存外ちゃんと考えてやがる……!)」
ストームも、この状況を打開する手段は持ち合わせていない。
彼の特技は、あらゆる座標から攻撃を仕掛けること。
そのために、移動手段の技を多めに搭載しているのだ。
しかし、それはあくまでも『行動が許されている』事が前提になる。
今のように、真正面から攻撃のアクショントリガーを封じられてしまえば……強みはほぼ死に絶えたも同然なのだ。

「(境界解崩ボーダーブレイクが使えればなんとかなるけど……さっきのシママーマンに使っちゃったからな!)」
「っしゃ……これでトドメだッ!!」
流石のフワライドも、体力の限界が見え始める。
そして遂に、フワライドは体力が尽きて……


















 ……倒れる前の出来事だった。
この場に居た全員のスマホから、激しい通知音が流れたのは。
「ッ!?」

 やがてけたたましいベルの音が鳴り止み、聞き覚えのある声が流れ始める。
その声の主は、聖戦企業連合ジハードカーテルのマツリだ。
『あー、諸君。只今をもって、日没とする!現時点でのカードの所有状況が、そのまま今回の成績となる!各自、把握されたし!!』
「え……え………!?」
チハヤは焦って、スマホを見る。
まだ勝負は決して居ない。
……即ち、今賭けていたカードはまだストームの手元にある。
それはつまり……


「やっべ……俺この授業落としたわ……」


 チハヤの失点、課題の未達成を意味するものであった。

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