第26話 冥界にて尋ねよ
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読了時間目安:11分
この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
眠りについた3人のもとへヨノワールがゆっくりと近づく。全てが予定通りに事が運んでいることに喜び笑顔が絶えない。やりたいことはまず彼らに寝てもらうこと。そして――
「では、“あっち”に行ってもらいましょうか」
そう呟くと、ヨノワールの腹部が大きく開く。
ヨノワールという種族はその腹部の口を通じて冥界へ魂を送ることができ、何者かの指示によりその任務を遂行する。今まさしく、この管理人はヒトカゲ達をその腹の口へ飲み込もうとしている。
「ごきげんよう」
3人は眠りから覚めることなくヨノワールの腹の口へ飲み込まれていった。直に体がその場に吐き出されたが、どの個体も寝息を立てていない。“だったもの”がそこに転がっている。
「……んー、寝ちまった……」
どれだけの時間が経っただろうか、最初に意識を取り戻したのはルカリオだ。ぼんやりしている視界には光が差し込んでおり、そのまま朝を迎えたのだろうと思い込んでいる。瞬きを数回繰り返し視界が鮮明になった時、彼は思わず大声を上げる。
「……ん? ん!?」
どうやら彼に見えているのは休憩スペースとは異なる景色のようだ。しかもこの光景に見覚えがある様子で辺りを見回している。ちょうどよいタイミングでそばにいたヒトカゲも目を覚ましたようで、ルカリオは急いで彼に伝えに行く。
「おい! 目ぇ覚ませ! 見てみろ!」
「んー? 見てみろって……えー!?」
その驚きの声で今度はブリガロンが起きる。彼はぼんやりとした視界で目にしたのは、ベージュ色の空。横を見ると、目にしたことのない街並みが広がっている。明らかに先ほどまでいた休憩スペースではないことをすぐに理解した。
「ね、ねぇ! ここどこ!」
夢でも見ているのだろうか、そんなことを思いながらヒトカゲとルカリオと顔を合わせる。だが2人はすでにその答えを知っており、ゆっくりとブリガロンに伝える。
「ここは、冥界――死後の世界だよ」
死後の世界、その言葉を聞いた瞬間のブリガロンは顔面蒼白だ。一見明るく見える空の色も彼には恐怖を駆り立てる色と化している。
「正確には、“国”。死んだ者達が一定期間暮らす場所」
「じゃ、じゃあ、ぼくー、死んだってこと……?」
ルカリオ曰く、確証はないが死んではいないはずだと彼を落ち着かせる。だがどうやってここへ辿り着いたか、どうして連れて来られたのかを推察する情報がなく、ただひたすらにどうしようと考えている。
前にヒトカゲとルカリオが訪れた時は準備された出入口があったが、今回はどこにもそれがある気配はない。まずは出口を捜さないと、と思った瞬間、ブリガロンが大声で叫んだ。
「うわぁ! だ、誰!?」
腰を抜かしたブリガロンの視線の先には、大きな影が立っている。2人はその姿に見覚えがあり、すぐさま名前を呼んだ。
『ギラティナ!』
彼らの前に姿を現したのは、冥界の神――ギラティナである。かつて神族同士のすれ違いから全てを混沌へと帰す計画を企てた張本人であり、時の神・ディアルガ、空間の神・パルキアと並ぶ第1神族である。
神族と和解した今、ギラティナは冥界の管理全般を担いつつ、現界との平衡を保つためのバランス調整や第2神族以下の統制等、様々な職務に従事している。ヒトカゲ達に会うのは半年ぶりである。
「許したまへ」
ギラティナは表情を変えず小さく呟く。ヨノワールのことはさておき、冥界へ連れて来られたのがギラティナによるものだとわかると、ヒトカゲとルカリオは若干安堵する。ただそれと同時に、何事なのかとそわそわし始める。
「一体何がどうなってるの?」
「冥界で何かあったのか?」
2人が問いただそうとするが、ギラティナの口は閉じたままだ。その後もいくつか質問を投げかけるも、一向に答えてくれる様子はない。じっと3人の様子を見ているのみ。
不思議そうに自身を見ているヒトカゲとルカリオはともかく、少し怯えている様子のブリガロンを気にしているようだ。初めて神と呼ばれるポケモンを目の前にして緊張を隠せずにいるのが伝わってくる。
「もしかして、ビビってるブリガロン見て神の威厳に慄いてるとか思っ……」
「否」
即刻否定した。
「与えし時は2刻のみ。尋ねよ、在りし日の様子を」
それだけ言うと、ギラティナは背中を向けて黙ってしまう。呼び出したにしては随分素っ気ない振る舞いだなと思いつつ、その言葉が何を意味しているかをすぐには理解できずにいた。
ふと、ヒトカゲが何かに気づいた顔つきになる。すると突然ルカリオとブリガロンの手を掴んで引っ張ろうとする。
「ど、どうした?」
「いいから来て! 急ごう!」
連れられるがままに“国”の中心部へ向けて走り出す。ワケがわからないまま2人はヒトカゲに引っ張られながら何がわかったのかを尋ねた。
「きっと、この前襲われて亡くなったポケモンの話を聞けってことだよ!」
『なるほど!』
先日から発生している謎の連続殺傷事件で、直近にダーテングが被害に遭って命を落としている。彼から事件に関する詳細を聞けば解決の糸口になるのではと3人は同じ思いでいる。
「どういう理由でギラティナが絡んでるかはわからないけど、好都合だね」
「好都合とは?」
「わかった。生きてる世界で事件を探ってることが犯人にバレないから、ってことだ」
ヒトカゲとルカリオが実際に目撃した範囲だけで言うと、状況的にクマ同盟の3人が犯人と言わざるを得ない。それでも彼らの無実を信じたい、きっと真犯人は別にいるという想いもあり、この機会を逃したくないと強く思っている。
ようやく状況が飲み込めてきたブリガロンも、まっすぐな彼らを信じることにした。
中心部の街中を駆け巡り、ダーテングを見つけるのに時間はそうかからなかった。
彼は割り当てられた家の前のベンチに力なく座り、まだ自身の死を受け入れられないでいる様子だった。話しかけにくい雰囲気であったが、意を決して聞き込みに乗り出る。
「あの、すみません。少し話を聞かせてほしくて……」
「話? 俺はここのことなんか何も――」
「違うんだ。襲われた時のことなんだ」
3人はできる限りの説明をしようと試みたが苦戦を強いられた。自分達がなぜ冥界にいるのか、事件のことを知りたいのか、現界に戻る時に連れていってくれと言われないか等、どう伝えればよいかを必死に考えた。
しどろもどろになりつつも、自分達の知り合いが濡れ衣を着せられているかもしれない、些細なことでもいいから情報がほしい、どうにか生きている頃の世界に伝えられそうと説得すると、ダーテングはようやく受け止めることができたようだ。
「わかったよ。無念が晴れるかもしれないんだな」
ダーテングはゆっくりと、当日の出来事を話し始める。
彼が遅めの仕事を終えて帰宅途中に事件は発生した。休憩がてら近くに実っていたきのみを食べていたところ、黒い大きな影が彼を覆った。夜ということもありすぐには誰かわからず、声をかけようとした。
「そしたらすぐだ。すぐおもいっきり殴られたんだ」
そこからの記憶はほぼないという。ひたすらに殴られ、痛みに襲われ、血で視界が失われ、ただただ無力に時間が過ぎていったようだ。想像するだけでぞっとするほどの残酷さが伝わってくる。
残念ながら、犯人の姿を見ることはできなかったとのこと。ここまでは事前調査である程度想像していた通りの内容で、それ以外に何か変わったことはなかったかと3人は問い詰める。
「ちょっとした事でもいいんだ。何かなかったか?」
「そう言われても……ん、あ、あれか?」
突如、ダーテングが何かを思い出す。詳細を尋ねると、襲撃を受ける直前にある“言葉”を聞いたという。
「意味はわからねぇが、小さい声で、「next、開始」って言ってた」
実際に聞いたダーテングはもちろん、ヒトカゲ達もその言葉の意味を理解できずにいた。だが今回の事件において絶対に関係する重要な言葉だと信じ、忘れぬよう頭に刻んだ。その他には情報がなく、ダーテングからの聴取はここまでとなってしまう。
「聞かせてくれてありがとう。すぐには難しいかもしれないけど、絶対犯人見つけるから」
ヒトカゲが礼を言うと、彼にならうようにルカリオとブリガロンも頭を下げる。
「いきなりだったのに、俺らのことを信じてくれて助かったよ」
「無念はぼく達が晴らす。だから、安心して」
3人は心の中で、ダーテングが現世に未練なく次へ進めるように自分達がこの事件を解決しなければと固く誓った。その想いを受け取ってくれたのか、ダーテングはふっと微笑みながら右手を挙げてその場を去っていく。もの悲しさを感じつつ、彼の姿が見えなくなるまで3人はその場で見送っていた。
ふと、ギラティナの顔が頭をよぎる。冥界には時計というものはなく、「2刻」と言われても時間がどれくらい経過したかを理解できないのである。3人は慌てて元来た場所へと駆け足で戻っていった。
程なくして、ギラティナのいる場所へ戻ってきた。息を切らしながらヒトカゲは予定時刻に間に合ったかを確認する。
「まだ大丈夫だよね?」
「是。思いよりとく帰着なりき」
実際のところ、予定の半分程度の時間で帰ってきたことに驚いているようだ。早速得られた情報を展開しようと3人が話しかけようとするが、何故かギラティナによって止められた。
「要らぬ。現界へ持ち行きたまへ」
どうやら、情報を仕入れて欲しいというわけではなかったようだ。真意は不明だが、察するに、ヒトカゲ達に情報を入れておきたいがためにわざわざ冥界に連れてきたのだろうと3人は同じ考えでいる。
だとしたら目的は……と考えている間に、ギラティナによって現界への入口が作られていた。あまりこの場へ留めさせたくないのか、早く戻れと言わんばかりの圧をかけている。
「我が所作、隠ろへ事とせよ」
3人が入口へ向かっている途中、ギラティナが念を押すように強く伝えた。隠して欲しいというのは余程のことで、やはり神族絡みの事件なのかと疑う他ない。
特にヒトカゲとルカリオに至っては、また大きな陰謀が隠れているのかと、不安半分しんどさ半分でその場を後にした。
「では、“あっち”に行ってもらいましょうか」
そう呟くと、ヨノワールの腹部が大きく開く。
ヨノワールという種族はその腹部の口を通じて冥界へ魂を送ることができ、何者かの指示によりその任務を遂行する。今まさしく、この管理人はヒトカゲ達をその腹の口へ飲み込もうとしている。
「ごきげんよう」
3人は眠りから覚めることなくヨノワールの腹の口へ飲み込まれていった。直に体がその場に吐き出されたが、どの個体も寝息を立てていない。“だったもの”がそこに転がっている。
「……んー、寝ちまった……」
どれだけの時間が経っただろうか、最初に意識を取り戻したのはルカリオだ。ぼんやりしている視界には光が差し込んでおり、そのまま朝を迎えたのだろうと思い込んでいる。瞬きを数回繰り返し視界が鮮明になった時、彼は思わず大声を上げる。
「……ん? ん!?」
どうやら彼に見えているのは休憩スペースとは異なる景色のようだ。しかもこの光景に見覚えがある様子で辺りを見回している。ちょうどよいタイミングでそばにいたヒトカゲも目を覚ましたようで、ルカリオは急いで彼に伝えに行く。
「おい! 目ぇ覚ませ! 見てみろ!」
「んー? 見てみろって……えー!?」
その驚きの声で今度はブリガロンが起きる。彼はぼんやりとした視界で目にしたのは、ベージュ色の空。横を見ると、目にしたことのない街並みが広がっている。明らかに先ほどまでいた休憩スペースではないことをすぐに理解した。
「ね、ねぇ! ここどこ!」
夢でも見ているのだろうか、そんなことを思いながらヒトカゲとルカリオと顔を合わせる。だが2人はすでにその答えを知っており、ゆっくりとブリガロンに伝える。
「ここは、冥界――死後の世界だよ」
死後の世界、その言葉を聞いた瞬間のブリガロンは顔面蒼白だ。一見明るく見える空の色も彼には恐怖を駆り立てる色と化している。
「正確には、“国”。死んだ者達が一定期間暮らす場所」
「じゃ、じゃあ、ぼくー、死んだってこと……?」
ルカリオ曰く、確証はないが死んではいないはずだと彼を落ち着かせる。だがどうやってここへ辿り着いたか、どうして連れて来られたのかを推察する情報がなく、ただひたすらにどうしようと考えている。
前にヒトカゲとルカリオが訪れた時は準備された出入口があったが、今回はどこにもそれがある気配はない。まずは出口を捜さないと、と思った瞬間、ブリガロンが大声で叫んだ。
「うわぁ! だ、誰!?」
腰を抜かしたブリガロンの視線の先には、大きな影が立っている。2人はその姿に見覚えがあり、すぐさま名前を呼んだ。
『ギラティナ!』
彼らの前に姿を現したのは、冥界の神――ギラティナである。かつて神族同士のすれ違いから全てを混沌へと帰す計画を企てた張本人であり、時の神・ディアルガ、空間の神・パルキアと並ぶ第1神族である。
神族と和解した今、ギラティナは冥界の管理全般を担いつつ、現界との平衡を保つためのバランス調整や第2神族以下の統制等、様々な職務に従事している。ヒトカゲ達に会うのは半年ぶりである。
「許したまへ」
ギラティナは表情を変えず小さく呟く。ヨノワールのことはさておき、冥界へ連れて来られたのがギラティナによるものだとわかると、ヒトカゲとルカリオは若干安堵する。ただそれと同時に、何事なのかとそわそわし始める。
「一体何がどうなってるの?」
「冥界で何かあったのか?」
2人が問いただそうとするが、ギラティナの口は閉じたままだ。その後もいくつか質問を投げかけるも、一向に答えてくれる様子はない。じっと3人の様子を見ているのみ。
不思議そうに自身を見ているヒトカゲとルカリオはともかく、少し怯えている様子のブリガロンを気にしているようだ。初めて神と呼ばれるポケモンを目の前にして緊張を隠せずにいるのが伝わってくる。
「もしかして、ビビってるブリガロン見て神の威厳に慄いてるとか思っ……」
「否」
即刻否定した。
「与えし時は2刻のみ。尋ねよ、在りし日の様子を」
それだけ言うと、ギラティナは背中を向けて黙ってしまう。呼び出したにしては随分素っ気ない振る舞いだなと思いつつ、その言葉が何を意味しているかをすぐには理解できずにいた。
ふと、ヒトカゲが何かに気づいた顔つきになる。すると突然ルカリオとブリガロンの手を掴んで引っ張ろうとする。
「ど、どうした?」
「いいから来て! 急ごう!」
連れられるがままに“国”の中心部へ向けて走り出す。ワケがわからないまま2人はヒトカゲに引っ張られながら何がわかったのかを尋ねた。
「きっと、この前襲われて亡くなったポケモンの話を聞けってことだよ!」
『なるほど!』
先日から発生している謎の連続殺傷事件で、直近にダーテングが被害に遭って命を落としている。彼から事件に関する詳細を聞けば解決の糸口になるのではと3人は同じ思いでいる。
「どういう理由でギラティナが絡んでるかはわからないけど、好都合だね」
「好都合とは?」
「わかった。生きてる世界で事件を探ってることが犯人にバレないから、ってことだ」
ヒトカゲとルカリオが実際に目撃した範囲だけで言うと、状況的にクマ同盟の3人が犯人と言わざるを得ない。それでも彼らの無実を信じたい、きっと真犯人は別にいるという想いもあり、この機会を逃したくないと強く思っている。
ようやく状況が飲み込めてきたブリガロンも、まっすぐな彼らを信じることにした。
中心部の街中を駆け巡り、ダーテングを見つけるのに時間はそうかからなかった。
彼は割り当てられた家の前のベンチに力なく座り、まだ自身の死を受け入れられないでいる様子だった。話しかけにくい雰囲気であったが、意を決して聞き込みに乗り出る。
「あの、すみません。少し話を聞かせてほしくて……」
「話? 俺はここのことなんか何も――」
「違うんだ。襲われた時のことなんだ」
3人はできる限りの説明をしようと試みたが苦戦を強いられた。自分達がなぜ冥界にいるのか、事件のことを知りたいのか、現界に戻る時に連れていってくれと言われないか等、どう伝えればよいかを必死に考えた。
しどろもどろになりつつも、自分達の知り合いが濡れ衣を着せられているかもしれない、些細なことでもいいから情報がほしい、どうにか生きている頃の世界に伝えられそうと説得すると、ダーテングはようやく受け止めることができたようだ。
「わかったよ。無念が晴れるかもしれないんだな」
ダーテングはゆっくりと、当日の出来事を話し始める。
彼が遅めの仕事を終えて帰宅途中に事件は発生した。休憩がてら近くに実っていたきのみを食べていたところ、黒い大きな影が彼を覆った。夜ということもありすぐには誰かわからず、声をかけようとした。
「そしたらすぐだ。すぐおもいっきり殴られたんだ」
そこからの記憶はほぼないという。ひたすらに殴られ、痛みに襲われ、血で視界が失われ、ただただ無力に時間が過ぎていったようだ。想像するだけでぞっとするほどの残酷さが伝わってくる。
残念ながら、犯人の姿を見ることはできなかったとのこと。ここまでは事前調査である程度想像していた通りの内容で、それ以外に何か変わったことはなかったかと3人は問い詰める。
「ちょっとした事でもいいんだ。何かなかったか?」
「そう言われても……ん、あ、あれか?」
突如、ダーテングが何かを思い出す。詳細を尋ねると、襲撃を受ける直前にある“言葉”を聞いたという。
「意味はわからねぇが、小さい声で、「next、開始」って言ってた」
実際に聞いたダーテングはもちろん、ヒトカゲ達もその言葉の意味を理解できずにいた。だが今回の事件において絶対に関係する重要な言葉だと信じ、忘れぬよう頭に刻んだ。その他には情報がなく、ダーテングからの聴取はここまでとなってしまう。
「聞かせてくれてありがとう。すぐには難しいかもしれないけど、絶対犯人見つけるから」
ヒトカゲが礼を言うと、彼にならうようにルカリオとブリガロンも頭を下げる。
「いきなりだったのに、俺らのことを信じてくれて助かったよ」
「無念はぼく達が晴らす。だから、安心して」
3人は心の中で、ダーテングが現世に未練なく次へ進めるように自分達がこの事件を解決しなければと固く誓った。その想いを受け取ってくれたのか、ダーテングはふっと微笑みながら右手を挙げてその場を去っていく。もの悲しさを感じつつ、彼の姿が見えなくなるまで3人はその場で見送っていた。
ふと、ギラティナの顔が頭をよぎる。冥界には時計というものはなく、「2刻」と言われても時間がどれくらい経過したかを理解できないのである。3人は慌てて元来た場所へと駆け足で戻っていった。
程なくして、ギラティナのいる場所へ戻ってきた。息を切らしながらヒトカゲは予定時刻に間に合ったかを確認する。
「まだ大丈夫だよね?」
「是。思いよりとく帰着なりき」
実際のところ、予定の半分程度の時間で帰ってきたことに驚いているようだ。早速得られた情報を展開しようと3人が話しかけようとするが、何故かギラティナによって止められた。
「要らぬ。現界へ持ち行きたまへ」
どうやら、情報を仕入れて欲しいというわけではなかったようだ。真意は不明だが、察するに、ヒトカゲ達に情報を入れておきたいがためにわざわざ冥界に連れてきたのだろうと3人は同じ考えでいる。
だとしたら目的は……と考えている間に、ギラティナによって現界への入口が作られていた。あまりこの場へ留めさせたくないのか、早く戻れと言わんばかりの圧をかけている。
「我が所作、隠ろへ事とせよ」
3人が入口へ向かっている途中、ギラティナが念を押すように強く伝えた。隠して欲しいというのは余程のことで、やはり神族絡みの事件なのかと疑う他ない。
特にヒトカゲとルカリオに至っては、また大きな陰謀が隠れているのかと、不安半分しんどさ半分でその場を後にした。
次回、「第27話 「next、開始」」