其ノ肆

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「その組織が、ボクに関係あるの?」

「アルカディアーク団の下っ端が、聞き込みをしているらしい。『過去、地下闘技場で無敗のまま伝説となった【紫煙の女狐】について知らないか』と、わざわざ“地下”に赴いてまでな」

「……へぇ」

 懐かしい通り名を出され、アイビーは僅かに身体を強ばらせる。【紫煙の女狐】、狐面を被りいつも煙草を吸っていたからいつの間にかアイビーは地下闘技場でそう呼ばれるようになっていた。ファイトネームもそのまま“煙狐”だったので、狐の女という印象が強く残ったらしい。

「ボクのファンってこと?」

「ああ。君という女を、捜しているらしい」

 軽口を叩いたつもりだったのに肯定され、アイビーは小さく眉を顰める。口元を拭うフリをして隠した口を歪めたのは、仕方の無いことだった。

「……ボクの情報を、売ったの?」

「いいや? 君のことを教えてやる気は無い。君は信じていないだろうが、前にも言った通り、私は一人のトレーナーとして君に敬意を払っている。バトルフィールドに立ったその時、私の喉元を食い千切らんとばかりの殺気と戦意を持ち戦乙女の名の通り数多のバトルを勝ち抜いた君を、未来ある若者として認めているのだ」

「そりゃあ、どーもありがとう。それで? そのカルトの目的は? ボクを捜して何をさせたいの?」

「そこまでは分からない。下っ端は君の情報を集めろとしか指示を受けていなかった。真意を確かめるには、幹部クラスに接触するしかないだろう」

「……」

 アイビーは少し悩む。サカキがアイビーに対して敬意を持っているのは理解していた。彼は悪の組織の親玉であるが、ジムリーダーとしても仕事をしているだけあって未来のある者を目にかける性質がある。それこそ、組織に入らないかとヘッドハンティングをしてくるぐらいにはトレーナーとして認められていることは知っていた。だからこそ、今回も釘を刺すついでにアイビーにとって有益な情報を教えてくれたのだろう。下っ端がどこまで指示を受けていたかを知っているということは、わざわざそのカルトの下っ端を捕まえて尋問したのだろう。そのことからも、彼の紳士さが受け取れる。

「だがまぁ、アルカディアーク団も今は忙しいらしい」

「あらま、どうして?」

「【リバティーブレイズ】という集団と小競り合いが忙しいそうだ。この間も、イッシュ地方のライモンシティでそれぞれの組織の人間がぶつかり合い、付近の道路が半壊したとニュースになっていたな」

「そうなんだ……ボク、ニュース見ないから知らなかった。色んなところに色んな主義主張の人がいるんだね」

 アイビーはそう締め括ると、「ご馳走様でした」と両手を合わせる。

「面白い話を聴かせてくれてありがとう。ご飯もとっても美味しかったよ」

「楽しんでもらえたようでよかった。改めて、入学おめでとうアイビー。就職口に迷ったならロケット・コンツェルンも候補に入れておくと良い。君なら即採用の印を押してやろう」

「アハハッ、まんまコネ入社だね。どうしようもなくなったら頼るよ。それじゃあ、またね」

 アイビーは立ち上がり、ムサシとコジロウにも会釈をする。

「ケンタ、もう外は暗い。お前の車で送ってやれ」

 サカキの言葉に、アイビーの背後に控えて居た男が「はい」と返事をする。初めて彼の声を聞いたし、名前を知った。黒髪をワックスで撫でつけたその男に先導されるまま、アイビーは料亭の個室を退室する。

「……世の中ギブ・アンド・テイクだもんねぇ」

 アイビーの呟きに、サカキがニヤリと笑ったのを彼女は見逃すことはなかった。



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