第3話  救助隊

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
不思議のダンジョン学 基礎知識編 No,×× より抜粋

 ダンジョン内を探索するにあたって、注意すべきことの1つを紹介しよう。それは'空腹'だ。

 お腹を空かせたまま入ってはいけない。 必ず満腹か八分目がいいだろう。 また体調は万全にして、リンゴや'セカイイチ'、最悪でも'ベトベタフード'等の食料は持ってから挑むことを心掛けていただきたい。 きのみや'たね'でも多少は気が紛れると思うが、その程度の物は消化も効力も早いのでそれだけにこだわるのはやめよう。 特に食いしん坊なカビゴンやペロッパフの諸君は注意し給え。

 ダンジョン内部の時空間の歪みから、身体への影響の一つとして取り上げられる要素であるこの空腹。 ダンジョン外であれば気を失うなどということはないが、ダンジョン内ではそうも言っていられない。 たかが空腹だと、侮って前進を続ければみるみると力が入らなくなり、体力を削られる。
 筆者も何度食料が尽きて冒険を諦めたことだろう。 無理をせず'あなぬけのたま'などで帰ることをオススメしよう。 

 読者諸君も是非楽しい探検や冒険をしていただきたい。 

   筆・星の調査団 ○○○○○
 地面の冷たい感触が頬に、お腹に伝わる。 とにかく立たなきゃ。 何か、不意打ちは食らったけど。 強力な わざ ではなかった。
 攻撃の飛んできた方向に出ようと地面を蹴ったはずだった。 何かにつまずいた? 何かの わざ で足を取られた? 立ち上がろうと力を入れて、そんな考えは一瞬で消えた。
 がくんと力が抜けて立ち上がれない。 理由は自分で分かっていたはず、空腹のまま進んでいたからだ……。 お気に入りの本で読んだことがあったはずなのに甘くみていた。 キャタピーちゃんが近いのを、泣いている声で判断出来て、発見できたからと油断していた。
 そんな体力の限界と、さらにこの息苦しい感覚は'どく'だ。 最初に受けたのはたぶん、【どくばり】。 運悪く毒が身体に回ったようだ。 食べ物も底を尽きてたし、小さなリンゴもたぶん先客のバタフリーさんたちが拾っててクキに会うまでに見つからなかったし、今日はなんて運の悪い日だ。
 あれ、いや、そもそもこの森に【どくばり】なんて、そんな わざ 使ってくる相手がいたかな。

「おにいさん!? だいじょうぶですか?」
「うーんと……、何とかなる……かな、キャタピーちゃんは……むこうのクキ……えっと、フシギダネくんのところに、逃げ――」

 何とかなんて、ならないかもしれない、´また´強がってしまう。 どく と体力のせいか呼吸が苦しい。
 それでも、キャタピーちゃんだけでも逃げてと伝えようとしている時だった。
 目の前に何かがカサリと着地した。 なんとか顔だけでも上げてみれば、自分の倍以上ありそうな体格、細めの脚が4つ、赤黒い色の胴体や頭、額には大きな針がついている。 ここに来るまでに進化前すらも見覚えのない、'アリアドス'が現れていた。 どうしてこんなところに。
 その大きな瞳がボクと後ろのキャタピーちゃんに向けられる。

「ひぃ!?」

 後ろからキャタピーちゃんの悲鳴が聞こえて、ゴクリと唾を飲む。 このままだとボクだけでなく、キャタピーちゃんまで絶体絶命だ。 けどどうしたら……。 ぐっと歯を食いしばってなんとか立ち上がれないか、わざ を出して牽制できないかそう考えていた。

(あれ?これって……)

 ふと、そのアリアドスの腹の部分に――地面に向いて見にくかったが――、きらりと光る何かを見つけていた。










 
 ピカの倒れた様子を見て、その瞬間クキは急いで駆け出していた。 この異常の中に飛び込んで解決する力はないかもしれない。 だがこんな遠くから、怯えるキャタピーを、倒れたピカをただ見過ごすなんて出来なかった。


 半分ほど近づいたタイミングで、攻撃の飛んできた方向から1匹のポケモンが跳躍してピカに急接近した。その色や大きさで、クキの危機感は強まる。 このままじゃ2匹が危険だと判断した。
 全身に力を入れてできる限りの速さで、とにかく思いっきりそのポケモンの横から【たいあたり】をする。
 「きゃっ!?」 っと高い声が響。 相手を数mほど吹き飛ばし、ピカ達から離すことに成功。 今度はクキが後ろの2匹を庇うような形で間に入る。


 クキの全身に力が入って、強張る。 脚にも顔にも背中にも、なんならタネにも力が入ってるのではないかと思わせるぐらいに。
 先程までピカに戦いを任せていたのだから、初バトル。 よりにもよって相手は途中で見てきた奴らよりも何倍もある巨大な敵。 1匹で何とかなるのか、いや何とかしないとと、さらに強く決意していた時だった。

「あれ、クキ……それ……つる出せてる……けど……、」
「え? ほんとだこれ……」

 クキの後ろから弱々しいピカの声がして気づく。
 全身にとにかくがむしゃらに集中したおかげか、どこからか伸ばせている'つる'が2本。 その先端が目の前の相手側を威嚇するようにふわふわと、浮遊しているのが視界に入る。 出せてる本ポケが一番驚いていた。
 今はとにかく、つるを出せた!なんてのんびりと喜んでいられる場合じゃない。 先ほどの一撃で未だに痛がる相手に追撃するチャンス。 そう思い『わざ は感覚、イメージ』。 ピカのあの言葉を信じて思いっきり振り下ろすように【つるのむち】と念じる。 それはもうとにかく強く。 前脚も連動して振り下ろすぐらいに集中して。

「いったぁ~い、って、え? ちょっと待ってタイムタイムタイム~!!」
「へ?」

 なんて悲鳴にも似た声が聞こえても止まれなかった。 勢いのまま、鋭く叩きつける音がアリアドスの脳天を直撃していた。 威力とコントロールは完璧だった。 コントロール'は'。

「あぁ……出せてるけど……、待ってって……言おうとしたんだけど……」
「遅いって、ピカ……。 いやその状態はしょうがないか。 えっと、けど、どういう事だ?」

 不意打ちされたピカの状態を見て、冷静に判断出来なかったとは言え、どちらにせよクキには状況が飲み込めない。



「いやぁ〜〜〜、もうビックリした! くさタイプちゃんの わざ で良かったぁ〜。 ごりおしにもほどがあるヨ~。 君達救助隊? ……ではなさそうね、先に攻撃したワタシが悪いんだけどこんなに強い子がいるとは思わなかったよ〜……いってて……」

 そう発したそのポケモンは、先程の頭への攻撃を少し撫でつつも、そこまでの致命傷にはなっていない様子だった。 

「こわいぽけもんさんでは……ない、ですか?」

 恐る恐るピカの影から覗くキャタピーが、彼女(と思われる)に聞いてみる。


「あ〜そうそう、怖くないヨ〜。 イヤ〜、ゴメンね〜、ワタシ、救助隊してるアリアドスの´アリス´ヨ。 さっき地震があったから、この森に調査に入っててね。 そしたら泣き声がして、来てみたらむしの子がそのピカチュウに詰め寄られてる?みたいに見えちゃったから、つい【どくばり】っちゃったのヨネ〜。 あ、そこのピカチュウくん平気? ドクってるくない?」
「どくってます……」
「ダヨネ〜、ワタシも焦っての様子見の一発だったんだけどナ〜、運悪いね〜君」

 どこか調子のイイ話し方をする目の前のポケモンにポカンとするクキ。 見た目でポケモンを判断してはいけないと、心に誓った。 こんなに怖そうな見た目でもこの話し方、なんだかクキ達より少し、大人のお姉さんなような話し方なのだから。 

「ん〜、どうしたもんかなぁワタシ、ドクんないから´モモン´なんて持ち歩かないし、とりあえずオレン食う?」
「あ、ありがとうございます……モモンなら、そうだ、クキに渡したカバンに……」
「あら、君がクキくん? はい、ちょっとしつれーい」

 ピカが勝手にタネにかけていたカバンを、それこそ勝手にアリスは漁って中身を取り出す。

「あらあら、準備の少ないカバンの中身ネ〜。 ……と、ホイ、とりあえずこれで元気戻して」

 ピカがリンゴと桃色の何かを持っていたあの時。 リンゴの方をクキへと渡して、片方をカバンに入れて、何故かカバンから青いオレンを出していた。 入れ替えていた理由はクキには分からないが、その時の桃色が2匹の話すモモンと言う名前のきのみらしい。
 そのモモンとオレンを口に運んでもらい、ピカはゆっくりと飲み込む。

「ふぅー……やっとスッキリした。 お腹もちょっと膨れたし何とかなるかな」

 きのみ2つで何とかなるものなのか、ピカはゆっくりと立ち上がる。

「あ、もしかしてはらぺこちゃんで歩いたりしてたノ? ダメだよ、ダンジョンナメてちゃ」

 あはは……ごめんなさいと頭を搔くピカ。
 また何かクキの中の常識とは外れた会話をしている事に疑問は尽きない。 だが、聞いてる隙間は今は無さそうだった。

「さて、いろいろ聞いておきたいことはあるんだけど、とりあえず君達は何してたワケ? 」
「え〜と、かくかくしかじか……」

 ピカが説明をしていく、地震があってバタフリーさんから、キャタピーちゃんを助けてとお願いされたこと。 通りすがりのここの2匹でそれを引き受けた事を。

「ほぉ〜、まあ〜正義感強いのはイイ事かぁ、無茶して依頼を増やさないんならネ。 ちゃんとこんな奥まで来れてるし、実力はあるみたいネ。 ワタシが叱ることでもないカ。 それにそこのクキくんだっけ? ワタシの見た目にひるまずにぶちかましてきたの、中々やるわネ! 新しく わざ を使ったような、まぁぎこちない感じはしたけども磨けば光りそうネ」

 突然話を振られて、へ?と間抜けな声で返すクキ。 今回も単純に深く考えずに突撃しただけだった。

「そうです! おにいさんかっこよかったです!」
「え、いや、そうか?」
「うん、クキが急いで来てくれたのかっこよかったよ!」

 3匹揃ってのべた褒めにクキは顔を赤らめる。 

「あはは、顔真っ赤にしちゃって、カワイイ子だワ。 そいで、じゃあ早いとこその子を連れて帰らないとだろうケド、帰りはどうするつもりだったノ?」
「元の道はそっか……戻れないんだっけかダンジョンって」

 クキがそっかと呟くと、ピカがうんうんと頷き返してくれた。
 ついさっきピカに説明してもらった不思議のダンジョンの性質。 あれ、じゃあ入ったポケモンはどうやって帰るのだろう。

「まぁ、一番奥はこの辺みたいだからこの先に抜ければダンジョン外だケド、それじゃあバタフリーさんとやらのとことは真反対に出ちゃいそうダネ〜。 しゃあないから'救助隊バッジ'を使ってあげてもいいけど、君達が入った所に戻れるか分かんないけどどうする? 広場のほうから入ってきたからタブン、近いとは思うけど、タブン、ネ」

 また分からない言葉が飛び交っているような気はするクキ。 とりあえずダンジョンは奥の奥まで進めば突き抜けられるらしいことか。
 さてでは、救助隊バッジとはなんだろうか。 そう思うと彼女は腹部の辺りから何か金属の物を取り出す。

「わぁ〜やっぱり救助隊バッジだぁ〜!」
「ほんものです〜!」

 目を輝かせてそれを見るピカ。 それにキャタピーちゃんも揃って。 飲み込めない事だらけのクキもバッジとやらに目をやる。
 タマゴのような見た目に羽の生えたデザインの救助隊バッジと呼ばれたそれがキラリと光る。 それが何を意味するのか。

「使って帰るでいいカ〜イ?」
「うん!」
「はいです!」
「え、はい……?」

 返事の早い2匹と戸惑いながらも返すクキ。
 じゃあ決まり、はいこっち寄ってと引き寄せられる。 バッジが掲げられると、不思議な事に青い光に包まれた。 目の前が、真っ青になって反射的に目を瞑る。 再び目を開いてみれば少し明るい。 森の入り口周辺だろうか、ダンジョン内よりも空気が澄んでいる感じ。 一瞬で場所をワープしたようで、クキには不思議でしょうがない。 はつたいけんですーなんてキャタピーちゃんが喜んでいたぐらいだった。

「あ、この辺なら分かるよ! あっちの方でバタフリーさんに会ったはず!」

 周りをキョロキョロと見渡していたピカが指を指す。
 ピカの方向感覚が凄いのか、木の並びの違い等なのだろうか、クキにはどれも同じ木の並びに見えてしょうがない。

「お、じゃあ、大成功ちゃん、かしらネ! ワタシは調査も終わって本部に用事があるし、その子のお守りは君達だけでもう平気っしょ。 それじゃ、気をつけテ〜!」
「はい! ありがとうございました〜。」

 木の上へと跳躍し、木と木を伝っていき、どこかへと消えていくアリス。 とてもすばしっこい方だった。





────────────


──数分後

 ピカの記憶通りに進んだ先、見えてきたのは問題なく元の場所。 そこにおろおろと座り込んでいるバタフリーさんに、駆け寄って行くキャタピーちゃん。 感動の再会を喜ぶ2匹に、今度こそほっと一安心、胸を撫で下ろした。

「このコも無事で、もうなんとお礼をしたら良いか……」
「ううん、お礼は……」

 断ろうとしたのであろうが、ピカの腹の虫が空気を読まずに鳴り響く。 ちょこちょこと食べてはいるがきのみ少し程度では足りてないようだ。

「それでしたら、よろしければこれを。 食料探しにここに来てたので余り物ですが……」

 出してくれたのはオレンやモモン、リンゴ等 いくつかの食料。 ピカは喜んで受け取る。 それを、まだかけられたままのタネの所のカバンに詰めていく。 リンゴをシャリッと1つ食べる音がする。 いつカバンは回収するのだろう。

「こんなにありがとうございます!」
「いえ、お礼を言うのはわたしの方ですから気になさらないでください」

 ペコペコと頭を下げるバタフリーに対して、隣のキャタピーがこちらへ寄ってくる。

「ねぇ! おにいさんのほうは、おなまえはなんていうんですか? クキさんは、おぼえたよ!」
「え、ボク? ボクはピカだよ。 あ、でも、かっこよかったのはクキだし、ボクは……」

 少しバツが悪そうにするピカ。 キャタピーちゃんの前で見せたのはたしかに倒れた姿ぐらいだっただろう。

「ううん、もりのおくで、ピカさんもやさしくはなしかけてきてくれて、ぼくあんしんしました! とっても!」
「え、あ、それなら、それなら良かった……!」
 
 ピカの顔が晴れていくのが分かった。 優しい、その言葉で今までのピカの行動を思い返す。
 食べ物をくれるなり、自分の代わりにダンジョン内で戦ったり、何も知らない自分に付き添ってくれる。 優しい、だけですむものだっただろうか。  それだけだと足りないぐらいに大きい。 優しすぎる気もするが、安心したのは確かだった。

「キャタピーちゃん、そろそろ帰らないと。 お二方ともほんとに今日はありがとうございました」
「また、どこかであおうね! クキさんにピカさん!」

 そう挨拶する2匹に前脚を振って、見送る。 もう日が暮れそうなようで、陽の光が減り、辺りは暗くなり始めていた。 それを見てバタフリーさんは帰らないと、と思ったのだろう。

 親子が見えなくなり静寂が残る。 ふぅ、とピカが一呼吸入れて話をし始める。

「さて、ボクもそろそろ帰るけど……クキはこの後どうするの?」
「帰る……か、そっかどうしよう……」

 記憶の無くなる前はどこに住んでたのだろう、いやそもそもにこの世界に自分の家があるものなのか。 人間が居ないと最初にピカが話していた。 違う世界に迷い込んでいる感覚になっている。 人間だと思い込んでるだけのフシギダネ、そんな気がしなくもない。 じゃあなんで勘違いなんかしてるのか……。 なんて考えても記憶も答えも出てこない。 思考はぐるぐると回るだけ。

「うーん……」
「ふふ、考え事してると分かりやすいね、クキ」

 くすくすと笑うピカの声に思考を戻す。

「……行くところ無ければさ、付いて来て?」

 そう言うとピカは歩き出す。 ここに居ても日が沈みきれば闇が覆うだろう。 灯りになるような物も森には無さそうだし、と思いピカの後ろを追うことにした。

 



 森から歩いてそこまで遠くない距離だった。 そこに目的の物はあった。
 ドーム状のそれは恐らく住居。 小さな庭に池、ポストが付いている。 中はどうなっているのだろう。 とても広そうだ。 なんだか分からないがわくわくとする気持ちが湧いてきた。 しっぽ振って喜ぶような、見えないけど、そもそもフシギダネにしっぽはないような気がするが。 本能的な感覚の物だった。


「あっ、クキ、気に入ってそうだね! 今日からここに引っ越して来たんだけど、ボクだけで住むには広すぎるように感じるし、良かったら一緒で良ければどうお?」
「一緒になら助かると思う。 ポケモンとして生きていけるか正直不安というか、ほんとに人間なのかも怪しいんだけども……」
「うーん、ボクから見ても、見れば見るほどフシギダネのような、でもやってる事がところどころ違うような感じもするんだよね。 分からない事だらけだしゆっくり思い出したらいいんじゃないかな」

 つるが出せた辺りで少し人間だったのかとも曖昧になりつつある。 思い出せればポケモンになった理由や、戻り方、どんな人間だったかも分かるだろうか。

「それでね、クキ。 物は相談なんだけど……」

 改まってピカが深呼吸をする。 




「ボクと救助隊をやってくれないかな!」



 救助隊。 先程のアリスさんが持っていたバッジにそんな名前が付いていた。 


「救助隊? それってなんの事なんだ? アリスさんも言ってた気がするけど」
「そっか、えっとね、最近自然災害が増えてるのは説明したよね」
「あぁ、それでダンジョンが増えてるって言ってたよな」
「そう、それで迷い込んじゃうポケモンや、困ってるポケモン、気性が荒くなって暴走したり……とにかく大変な事が増えててそれを救うのが´救助隊´なんだ」
「簡単に言えば今日みたいな事を仕事にしてるって事か?」
「うん! ボクね、そんな世界一の……、いや”世界”を救うぐらいの救助隊になるのが夢なんだ!!」
「世界はスケールがぶっ飛んでるなぁ……」

 今日みたいな程度のポケモン探しなら、難しい話ではないかもしれない。 ダンジョンでのバトルがどうなるかは別として。
 ピカの強さは今日森の中で何度も見せてもらった。 自分では真似出来ない程の速さに、あのしっぽの威力。
 一緒ならまずバトルは任せたいぐらいだが、

「オレなんかでいいのか? もっとピカと一緒に横で戦えるような強い……」
「何言ってるのさ! クキの勇気。 それとさっきの【たいあたり】も【つるのムチ】も初めてとは思えないぐらい凄かったんだよ! それにくさタイプのクキは、ボクの苦手なじめんタイプにも有利なんだから!」
「タイプってのもまだよく分かんないな……、それにもう一回あれをやれるかは練習次第だろうけどうーんそうか……」

 わざ が凄い。 キャタピーちゃんも、アリスさんも、そしてピカにも、こう何度も言われていると少し自信もついてきた。 ほんの1回の【たいあたり】と【つるのむち】だったわけだけれど。
 あの時ので、何となく わざ の感覚も分かった。 背中辺りに力を入れてみればつるは出せる。 使っていれば結構自由に、それこそ右手みたいに動かせるようになりそうだ。

 だから、そう思って試しに1本つるを出すようにイメージする。 問題なくスルスルっと目の前に現れる つる。 ピカに手を差し伸べるかのように前へゆっくり持っていく。 慎重に。
 それを見て、おぉっと驚きと、なんで今出したのかと疑問の表情を浮かべるピカ。

「家だけ住まわせてもらうのも悪いし、オレで良いならよろしくお願いするよ、ピカ」

 不安げにつるを眺めていたピカの眼が段々と広がり大きくなる。 口もうずうずと。 あぁ、大きい声を出しそうだなと察するが、これ自分の耳ってどこだ?という謎に包まれ、塞ぐことは許されなかった。

「い……ぃぃぃぃぃいやったーぁぁあああああ!!!!! うん、よろしくね、よろしくお願いします! あれなんて言えばいいんだろ! えへへ、よろしく、クキ!!!」

 近距離で声量マックスで叫ばれて、耳鳴りがする。
 握手、みたいなつもりで出していたから間違いは無いが、その つる を上下に激しく振りながら喜ぶピカ。 前脚だったらどうされていたんだろうと考えてしまった。

「じゃあ早速、申請書出してくるね! クキはおうちで待ってて〜!!!」
「え、あぁー……早いなぁ……」

 聞きたいことは山ほどある。 分からないこともたくさんある。 けれど、何やらカバンを、ここにきてやっと回収した。 と思えば今度はどこかへ向かって行ってしまうピカ。 まさに電光石火の早業だった。
 あいつと上手くやっていけるだろうか。 救助隊がどれほどの忙しい仕事かとかも未知数だ。 世界を救うなんてのは無理だろうけど、この辺の世間ならいけるんじゃないかな。 なんて。

 とりあえず、一緒に居てくれるパートナー的な存在が出来た事に安堵して、オレはひとまず、新しい自分とピカの´おうち´へと入っていった。


────────────

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想