Episode 75 -Marionette-

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読了時間目安:13分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 新たなレギオン使い・デルタが呼び出したレギオンにより、ローゼンが戦闘不能になってしまう。膠着状態に陥るかと思われた矢先、カイネがローゼンの敵討ちといわんばかりに敵の前へと飛び出していく。
 新たなレギオン使い・デルタが呼び出した箱型のレギオン・プレアデス。刃でできた首をカクカクと鳴らしながら伸ばすその根本にある箱、ハリマロンのえっこはそれに注目した。


「あの箱から首が無数に出てきている……。つまりは、首や顔の部分はあそこに収納されている訳か。」
「ならぶっ壊そうよ、あそこを叩けば一網打尽じゃないか!!」

「待つんだカザネ、あの箱への攻撃は控えるべきだろう。考えてもみろ、さっきの顔だって弱点が剥き出しで、まるで攻撃してくれといわんばかりの見た目だった。だが、それこそが罠だったのだ。」
「父さんの言う通りよ、恐らくあの箱は簡単に破壊できるようになっている。けどそうすれば中に入っている首が一斉に襲いかかってくることになる。そうなれば、いくらこちらに戦闘要員が豊富にいたところで、圧倒的な数に押されて負けてしまうわ。」

箱を壊すことを提案するカザネに対し、えっことメイは冷静に制止する。確かに、先程の麻袋のような顔も炎による攻撃を仕向け、爆発で反撃するかのような作りをしていた。
このレギオン相手に安易な攻撃を仕掛けることは、下手をすれば命取りになる可能性がある。


「親父の言う通りだぜ。あの異様にトロい動き……積極的に攻撃してこない感じ……何か引っかかるものがある。恐らくは、こちらから攻撃してくるのを、焦らずに待ち構えてるんだろうぜ。」
「それがローゼン君が身を呈して教えてくれたこと……。でも、動き出さなきゃ始まらない。先手必勝で行く、それが私のスタイルなんだから!!!!」

「おいっ、やめろカイネ!!!! さっきの反撃を忘れたのか!? 無闇に殴り掛かるのは危険だ!!」

膠着の雰囲気を打ち破るように、カイネが自ら敵に向かって飛び込んだ。そのまま麻袋の顔の1つに狙いを定めると、枝の杖をその手に握って敵に振りかざす。


「まずい!! あのトゲの数は!!!!」

ハリマロンえっこが突如そのように叫ぶ。カイネが攻撃を仕掛けている顔は、突然口の部分から表裏がひっくり返り、無数のトゲに覆われたハリーセンのような姿となった。
口の部分にたくさんのトゲが生えていた顔だけに、内部にも無数のトゲがびっしりと生えており、それを表側に出すことで向かってくる敵に反撃する寸法らしい。


「母さん、危ない!!!!」
「ところがどっこい、残念だったね。それくらいのことは読めてたよ!!!!」

カイネはそういうと、杖の先端に付いた宝石に念力を込めてトゲだらけの顔に叩きつけた。すると、カイネを刺し貫こうと飛び出たはずのトゲが一瞬にして消滅し、カイネの持つ杖の先端部分へと移動していた。


「な、何!? どうしてカザネさんのお母さんの杖にトゲが……!?」
「『ほしがる』を使ったみたいね……。局所的なテレポーテーションを使うことで、相手の所有物を自分のものにしてしまう技よ。とはいえ、母さんの念力の強さは桁違い……。あの顔に付いてたトゲを根こそぎ奪い取っちゃうなんて……!!」

どうやらカイネは、最初から敵が反撃のために武装することを逆手に取るつもりだったらしい。相手が口から覗かせるトゲを見たカイネは、その顔に攻撃をすればトゲを奪うことができると考え、わざとこちらから仕掛けてカウンターを誘ったのだ。


「あんなにトゲだらけになるなんてね。思ったより大収穫だよ。これあげるね、マーク。」
「おえっ!? ちょい待ち、俺の丸太にトゲ打ち込んでどうすんだよ!! って聞いてんのかよ!?」

カイネはトゲを杖の先から飛ばしてマークの丸太に打ち込むと、再び敵の顔に攻撃を仕掛け、首部分の刃や麻袋、鉄球など、敵の反撃用の道具を次々に回収していく。










 「おい…………これ一体どうすんだよ……。丸太の原型留めてねーぞ!!!!」
「準備完了だね。今から言うことをよーく聞いて。私は念力でマークの丸太に固定したガラクタを維持する。そしているか君があの箱を破壊するの。」

「ええっ!? さっきも言ってたじゃないですか、あの箱を破壊するのは危険ですよ!! 敵が大量に解き放たれて大変なことに……。」
「だからマークの出番なのよ。そのうちわみたくなった丸太で、敵を一気に空中に巻き上げて。カザネも風を起こしてマークを手伝うの。」

マーキュリーの丸太には無数のガラクタが寄せ集まり、スクラップで出来た巨大なうちわのような形を作っていた。カイネはいるかやマーキュリーやカザネに指示を出し、箱を破壊するように促す。彼女には何か考えがあるようだ。


「メイ、君はローゼン君をお願い。万が一敵の首を仕留め損なったとき、ローゼン君が無防備になってしまわないようにね。」
「分かった。となると、残るは父さん……。」

「なるほどな、やることが見えてきたぜ。奴らを自由にすると厄介なことになる……。その前にどれだけ一掃できるかが勝負だな。」
「さっすが私の夫!! 私もたまにはいい作戦思い付くでしょ? 君の頭だけを頼りにしてる訳じゃないよ。さあ、作戦をスタートしようか!!」

ハリマロンえっこは、長年連れ添った相手とだけあってカイネの考えが読めたらしい。魔導書を構えて全神経を集中させる中、いるかが意を決して息を吸い込む。


「も、もうどうにでもなれーっ!! バブルこうせん!!!!」

いるかが箱を破壊すると、やはりえっこたちが危惧していた通りに中の首が無数に飛び出し、一斉にこちらへ向かってやって来た。
その姿はまるで高速で這い寄る蛇のようであり、数えることすら困難な程の数の首が、ガチャガチャと激しい音を鳴らして襲いかかる。


「キモいんだよこの生首野郎!!!! んどりゃぁーーーーーっ!!!!!!!!」
「うわっ!? マークの攻撃とカザネの魔法で敵が空中に!?」

カザネが曲を鳴らし、マーキュリーが渾身の力で丸太を地面に叩きつける。大量の金属をまとって重量と空気抵抗を得た丸太は、巨大なうちわで相手を吹き飛ばすように地面から巻き上げる。
空中に浮いた敵をカザネのつむじ風の魔法が更に打ち上げ、ほとんどの首が空高く舞う事態となった。


「十分時間はできた、『グラビティ・リバース』!!!!」

えっこが魔法を使うと、巻き上げられた首が速度を増しながら空の彼方へと浮き上がり、やがてそのまま見えなくなってしまった。


「な、何で敵が勝手に空に浮かんでいったの!? まるで逆さまに落ちてるみたいだ……。」
「『グラビティ・リバース』はその名の通り、特定対象の重力ベクトルを反転させる魔法だ。つまり奴らは下に落ちる代わりに、上に向かって浮き上がる状態になってしまったという訳だ。」

「ただしこの魔法は強力な分魔力の練り込みに時間がかかるし、ある程度高い位置にいる相手にしか発動できない。だからマークやカザネの攻撃で宙に浮かせたのね……。」
「その通りだ。私の魔法を長年間近で見てきたカイネだからこそ思い浮かんだ戦法といったところが。後は大気圏外に飛んでいくまで、そのまま上に落ち続けるこったな。」

驚くいるかに対し、えっことメイがそのように解説する。浮かせ損なったいくつかの首が一行に飛びかかるが、メイが魔法によりそれらを一掃し、無事にレギオンの撃破に成功した。
しかしデルタの姿は既にそこにはなく、気付けば聖域を取り囲む森に、午後の西日がかかって青緑の影が差し込む光景が視界に飛び込んできた。


「奴らの目的……それって、やっぱりあの泉でしょうか? でも壊してこじ開けることはできなさそうだとデルタは言っていた……。」
「そうでしょうね。でも、奴らがこのまますごすごと引き下がるとは思えない……。きっと、新しい鍵を探し当ててここに連れ出し、聖域の結界を打ち破るつもりなんだわ。」

「だとしたら、そいつを先に見つけ出して守ってやるしかねぇな。だが一体どうする? 親父やアークにいる元人間は、全員奴らの探すターゲットじゃねぇみてぇだし……。唯一可能性があるとすりゃ、ローレル……。」
「ならば、まずはワイワイタウンに戻ってもう1つのチームと落ち合おう。取り急ぎニアたちにこちらが得た情報を伝達し、ケロマツのえっこ君たちのチームからの情報も聞き受けなければ……。」

いるかがデルタの活動目的について疑問を呟くと、メイやマーキュリーはそのような反応を見せた。彼らの言う通り、レギオン使いたちよりも先に聖域の鍵を手に入れ、彼らの手に渡らぬように守り抜くことが、これからのえっこたちの使命になるのだろう。

ハリマロンえっこはテンケイ山を下りた後、早速ニアたちに活動報告を送って情報を伝達した。








 「という訳だ。新たなレギオン使いのデルタ、テンケイ山聖域の結界を破ろうとしている奴らの動き、そしてそのために必要なダークマターの魂……。少しずつではあるが、見えてきたものもある。今回の調査は決してムダではなかったな。」
「なるほどね……。これは私の勘なんだけど、ダークマターの転生体は、きっとまだ自分の前世の正体に気が付いていないと思う。もし転生体が、自分のことをダークマターだと認識しているのならば、レギオン使いたちに接触して合流しようとするはず……。」

「だろうな、ダークマターはこの星の生命の流れを阻み、蝕む者……。恐らくは奴らと利害一致関係にある。それ故にもし転生体に自意識があると仮定すれば、共通の目的へ向かって手を取り合うことになるだろう。カタストロフィという最終目標のためにな。」

Complus越しにハリマロンのえっことニアが会話を繰り広げる。既におだやか村は夕暮れの青黒い闇に覆われており、明日の朝にもえっこたちはワイワイタウンに向けて帰還する予定だ。


「もう奴らはしばらくの間、この聖域にみだりに手を出すことはしないだろう……。聖域を開ける鍵がなくては、奴らとしても手詰まりの様子だった。」
「私も同意です。ところで、えっこ君たちのチームはどうなっているのでしょう? 彼らの方も、無事に聖地に着いて行動している頃と思われますが……。」

「それが全く連絡が取れなくてな。何らかの電波干渉が発生しているらしく、Complusや調査団ガジェットへの通信が途絶えてしまっている。フローゼルやデンリュウが付いているからには大丈夫だとは思うが、今はただ待つことしかできないな。」
「分かりました。では、我々は明日にはワイワイタウンへ向けて一時帰還いたします。よろしくお願いします。」

クチートにそのように連絡し終えると、ハリマロンのえっこは深く溜め息をついて夜空をふと見上げる。今日の空模様は微かに月笠がかかっており、ぼやけた黄色はキャンバスに垂らした水彩絵の具のようだ。


「えっこさん……。目を覚ましてください……。」
「大丈夫、彼は強い魂と意志の持ち主だ。行動を共にして間もない私でも、直感でそう感じている。いずれ、必ず目を覚ましてくれるさ。」

ローレルは同じ月の下、依然として意識を取り戻さないえっこの頬に手を添える。重傷の病人を抱えているだけに、さすがのイヴァンの運転も相当スローペースではあるが、一刻も早くワイワイタウンへ戻るべく夜通しのドライブになる見通しだ。


「やれやれ……。やっと電波が繋がりそうです。平原奥地が元々圏外なのは頷けますが、結晶の神殿付近はワイワイタウンと最低限の通信が取れるくらいには電波が届いているはず……。なのに、通信が遮断されている状況でしたからねぇ……。」
「やはりレギオン使いたちが何らかの通信妨害を行っていたんでしょうか? ともあれ、これでやっと調査団本部に報告ができますぅ。」

ガジェットを覗き見るデンリュウは、ようやくつながった微かな電波を頼りに簡易電信を調査団本部へと送る。詳細はもっと街に近づいてからになりそうだが、取り急ぎ無事に帰還することと、えっこが負傷していることを報告することができた。


再び空を見上げれば、ぼやけた月の輪郭が黒い闇に溶け出しているのが目に映る。明日の夕方、両チームがワイワイタウンに着く頃には雨でも降り出しそうな予感だ。


(To be continued...)

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