其ノ陸

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読了時間目安:3分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「アイちゃん、もう帰られるのですか?」

「うん。ボールの中の子と早く対面したいし。それにボク、人が沢山居る場所って苦手なんだ。今日は沢山人がいる式典に出たりしたから疲れちゃった。早く帰って、愛しのベッドで休息を取りたい気分さ」

 アイビーは芝居掛かった口調で言って、またケラケラと気安く笑う。

「コスモは? まだ帰らない?」

「はい。学園をもう少し見て回ろうかなと思って。あと、手芸部と声楽部の部活見学もしておこうと思いまして……」

「ああ、そういえば裁縫が得意って言っていたもんね。歌も得意なの?」

「得意という程ではありませんが……でも、プリンと歌っているのが楽しくて、だから興味があるんです。見学だけなら、誰の迷惑にもならなくていいかなと」

「そうだね。誰も迷惑だなんて思わないよ。それじゃあ、放課後頑張ってね。また明日」

 ヒラヒラと手を振りアイビーが教室を出て行けば、見えなくなるまでコスモは手を振ってくれていた。

「可愛い子だね、あの子。そう思わない? メタモン」

(お前は本当に惚れっぽいな)

「厭だなぁ惚れてなんてないよ。ガラスケースの中の着飾られた人形を“可愛い”と思ったりするだろう? あれと同じ感覚さ。可愛いんだよ、可愛いものを愛でたい、自然の摂理。そこに特別な感情は無いよ。あの子に対して、恋愛感情を抱くことは、億が一にも無いね」

 アイビーは断言し、肩を竦めた。下駄箱で上履きからスニーカーへと履き替えながら「でも……」と言葉を続け、小さく笑う。

「ああいう純粋無垢な人は、見ていて心が穏やかになるよ。キミもそうだろう?」

(どうだか)

 メタモンは、あまりコスモのことを気に入らなかった様だ。しかしメタモンは元々人嫌いの気があるので、アイビーは気にすることなく帰路を進む。

「新しい仲間になるポケモン、どんな子かな」

(さぁな。だが、お前について来れるかは疑問だ。お前という女はあまりにも稀有で特殊だ。果たして付き添い命を賭けたいと思える程の感情を、ボールの中のポケモンに抱かせることができるかな)

「うーんハードル高すぎて笑っちゃう。まぁ頑張るよ」

 アイビーはケラケラと笑い、丁度やってきた市内循環バスへと乗り込んだ。そして小さく、ため息を吐くのであった。

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