【TALE8】愛と絆

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

@タイマントの国王官邸

スターミー
「・・・国王陛下。 ・・・誠に言い辛い事ですが、・・・」
メタグロス
「言い辛い事・・・ 一体何事だ」
スターミー
「・・・パスに出撃した騎士団団員のうち、団長のファイアローの行方のみが分からないとの事です」

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@パスの市街地

シンボラー
「夜ももう遅い。 だが、ここなら身を隠せそうだ」
ファイアロー
「ああ」

ファイアローとシンボラーは、中心街にある地下シェルターへ入っていく。

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その後、ファイアローは、懐からろうそくと火打ち石を取り出して火を着ける。

シンボラー
「・・・しかしファイアロー、お前は一体何の為にグランド軍で戦うのか?」
ファイアロー
「それは勿論、法の力で公正な世界を作る為さ」
シンボラー
「法の力で、公正な力を・・・?」
ファイアロー
「ああ。・・・」

この世界に、ギルドというものが生まれて長い年月が経った。
法で裁けぬ悪を裁く、という大義名分のもと生まれたギルドだったが、武装ギルドは勿論、貴族や商人など、年月が経つにつれその形は多様化していった。
だがその一方で、『悪』のギルドも数多く生まれた、というのも事実だ。
政治への不満からテロ行為に走るギルド、強盗に走るギルド、はたまた違法な取引で利益を独占するギルド・・・。
そうした経緯から、やがてギルド制について、ポケモンたちの間では賛否両論が飛び交うようになる。
中でもグランド王国の国王・メタグロスは、王国からの全ギルドの排除に踏み切ったのだった。

ファイアロー
「・・・腐敗し切ったこの世界を再生するには、法による完全な支配しか手はない。
 ・・・それが王国の信念であり、俺の信念でもある」

その言葉を聞いて複雑な思いを抱きながらも、シンボラーは夜が明けるまで、ただひたすらにファイアローに寄り添い続ける。

シンボラー
(しかしグランド軍・・・ 戦争を繰り返すというのか・・・)
ファイアロー
「・・・シンボラー。 何か思い悩んでいるのか」
シンボラー
「・・・別に大丈夫だ。 ・・・お前が何を信じようと、わたしはひたすらに寄り添ってみせる」
ファイアロー
「シンボラー・・・!」

シンボラーの内心で、確実に何かが吹っ切れる。

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<SIDE ピカチュウ>

ピカチュウ/廉太郎
「・・・戦争への、介入・・・?」
フライゴン
「ええ。・・・」

その事を聞いた時、俺の内心が迷いに支配されていく。まさか、俺が戦争なんかに・・・

フライゴン
「・・・平和を護るという理念を掲げる以上、武力衝突の一層の激化が予想されるこの状況を、決して野放しには出来ないわ」
ピカチュウ/廉太郎
「・・・という事は、俺も戦場に身を置いて、グランド王国と戦えと・・・?」
フライゴン
「ええ。 ・・・今のあなたなら、戦場で平和の為に充分戦える」

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フライゴンさんとのその会話から数時間。それ以来、俺は未だ悩んでいた。
平和の為とはいえ、本当に俺の力を、戦争の為に使えというのか。本当に俺の力を、誰かを傷つける為に使えというのか。

ポリゴン/アンディ
「・・・あれ、レンお兄ちゃん・・・。 レンお兄ちゃん・・・?」
ピカチュウ/廉太郎
「ああ、俺ならここにいる」
ポリゴン/アンディ
「・・・僕、また誰かを殺さなきゃいけないの?」

その言葉を聞き、遺跡でのあの一件をふと思い出す。

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ポリゴン/アンディ
「・・・破壊光線・・・!」

テッカニンの兵士
「糞、ここまでか・・・」「あのガキさえ見縊らなきゃ・・・!」

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ピカチュウ/廉太郎
「・・・確かに、戦争に介入するって事ははそういう事かもしれない。 アンディのその気持ち、俺にも解るさ」
ポリゴン/アンディ
「レンお兄ちゃん、本当・・・?」

俺はうっすらとうなずく。

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それから、夜もすっかり遅くなってからの事。

ユキメノコ
「ピカチュウ、一体どうした?」

甲板のベンチの、俺の側にそっと腰を掛けるのはユキメノコだ。

ピカチュウ/廉太郎
「・・・実はユキメノコに、聞いてみたい事があってさ」
ユキメノコ
「ああ」
ピカチュウ/廉太郎
「・・・お前が普段、どんな気持ちで戦ってるか。 少しばかり気になって」

その問い掛けにはユキメノコも流石に動揺すると思ったが、そんな事はないようだ。

ユキメノコ
「・・・ボノ王国の事か。 ボノは平和主義国家だから、戦争といえる戦争はないが、武装ギルドの反乱なら何度か鎮めた。 
 ・・・勿論その時は、『何としても平和を護る』という気持ち以外忘れて闘う」

・・・やはり俺たちは、平和の為ならいくらでも戦えるのかもしれない。
・・・だがそこで、次の問題が出て来る。

ピカチュウ/廉太郎
「そうか。 
・・・お前に向かって口にするのも何だが、実は俺、本当は戦争なんかしたくなくってさ」
ユキメノコ
「・・・ああ。 武装ギルドの一員とはいえ、ピカチュウも立派な一般ポケモンの端くれだ。 そう思うのも無理はないだろう」
ピカチュウ/廉太郎
「・・・言われてみれば確かに、そうだな」

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そして翌朝の事。

ピカチュウ/廉太郎
「ドリュウズさん、エルレイド教官。 おはようございます」
エルレイド
「ああ、おはよう」
ドリュウズ
「おはよう」

それから間もなく、話題は例の戦争の事へと変わる。ここ数日間、メビウス全体がこの話題で持ち切りなのだ。

エルレイド
「・・・戦場から助けられた身が、今度は自ら戦場に赴く、か・・・」
ドリュウズ
「・・・まだ2度目の戦争が起きた訳じゃないが、確かにエルレイドにとっては皮肉、という訳だ」
ピカチュウ/廉太郎
「・・・ところで、2度目の戦争、というのは・・・?」

そこで、俺の疑問にエルレイド教官が答えて下さる。

当時の俺はボノ王国に疎開していたので良く知らないが、グランド王国は3年前もまた、数々の武装ギルドに宣戦布告した。それから間もなくグランド王国全体に戦火は拡大し、ギルドと王族の確執を生むと共に、数多くの犠牲者を生む事となったのである。
それから、エルレイド教官は元々、グランドのとある都会に住んでいた奴隷の息子だったという。
彼はあの戦争に巻き込まれたのがきっかけでドリュウズさんたちに助けられ、メビウスの乗組員になったという。

ドリュウズ
「・・・ここに来た頃のエルレイドは、兎に角馴れ合おうとしない奴だった。
 でも、3年経って、ピカチュウたちともだいぶ馴染んで来た筈だ」
エルレイド
「え、ええ・・・」

教官は厳しくも優しい、ギルドの先輩。 ・・・そして、大切な仲間なのだ。

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それからその日の夜。

ドリュウズ
「・・・それから、イモの緑色の部分にはソラニンという毒素が含まれている。
 イモを入れるならそこをよく取り除いた上で、しっかり加熱する事だ」
ミミロル
「・・・はい!」

ストライク
「・・・タッツー! また今夜、部屋で一緒にラジオ聞こうぜ!」
タッツー
「・・・良いけど、またサーナイトさんの番組ですか?」

こうした他愛のない日常が、一瞬にして戦場に変わると思うと、少し不安だ。
・・・そんな事を考えていると・・・。

ポリゴン/アンディ
「・・・レンお兄ちゃん?」
ピカチュウ/廉太郎
「・・・ああ」
ポリゴン/アンディ
「・・・レンお兄ちゃん。 綺麗だね、景色もお星さまも」

星と三日月は優しく輝き、山々の木々を照らしている。
そういえば昔(=人間時代)の俺も、星空を眺めるのは好きだったな・・・。

ピカチュウ/廉太郎
「ああ」
ポリゴン/アンディ
「・・・レンお兄ちゃんも、お星さま見るの好き?」
ピカチュウ/廉太郎
「・・・ああ、昔っから大好きさ」

・・・でも、無邪気に微笑むアンディの笑顔だって、お星さまに負けないくらい眩しいと思う。
・・・そんな事を考えているうちに、あっという間に時間が過ぎた。

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その後、俺たちは寝室に移動する。今夜はアンディと、互いに寄り添いながら寝る事にしたのだ。

ポリゴン/アンディ
「ねぇレンお兄ちゃん。 また明日も、一緒にお星さま見よう」
ピカチュウ/廉太郎
「そうだな」

そう言いかけた時、やっとの想いで、アンディの前で自然に微笑む事が出来た。


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エルレイド
「・・・それでは艦長。 出航を早めるという事でよろしいですね?」
フライゴン
「・・・ええ」

そして、翌朝の事。メンバー全員が甲板に集まると・・・。

フライゴン
「・・・ひとまず、この船は今夜19時に出航する。 ・・・それから、アルケナの街での補給を経て、航行中グランド軍の攻撃が始まり
 次第鎮圧を開始するわ」

やはり戦わなければならない、か・・・。動揺が波の様に、メンバー全員の心へ伝わる。

ストライク
「鎮圧を開始ってまさか・・・」
タッツー
「まだ開戦した訳じゃないけど、本当に介入する事になるなんて・・・」

フライゴン
「・・・メビウスのメンバーにおいては、到着までに、各自戦闘準備を済ませておくように。 解っているわね?」

戦闘準備だと・・・?(親同然の存在ながら)何考えてるつもりだ、フライゴンさん・・・?!

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@タイマントの下町

メタグロス
「・・・で、例のレプリカポケモンというのは?」
ワルビアル
「ああ、あいつの事っすか。 今案内するんで、もう少し待っていてくれないっすか」

その後ワルビアルはファイアローを奥に案内すると共に、件のレプリカポケモンが培養されている機械を指し示す。兵器(レプリカ)たちの目つきは空しくも、己が闘争本能だけを映し出すのだった。

メタグロス
「ふむ・・・」

そして、数多くのレプリカたちが培養されている横では、今もなお新たな個体の慈悲心が、エネルギー機関の電撃にかき消されている。

メタグロス
「・・・それでは未来の平和の為に、有難くそいつらを利用させて貰おう」

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【TO BE COUNTINUED】

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