思い出は大切に

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:4分
 ラペーニと別れた俺は、その場でしばらくスマホを見ながら、シウバと一緒にハンスとリーリエの到着を待った。何も言わずに先へ行っちまったから、後で二人にどやされるんだろうな…。

 「昔と比べて自由に旅できないからな。リーリエが独り立ちするまでの辛抱か…」

 「バシャ?」

 シウバが俺の顔を覗き込んでくる。そういやシウバや他のポケモンにも、バトルをするための知識や動きを俺が教えてたな。人もポケモンも育て方が大事…か。

 「きっとあの娘は立派なトレーナーになれる。お前もそう思うか?」

 「…バシャ!」

 少し考えてからシウバは頷いた。そんなシウバの頭を軽く撫でていると、二つの人影がこちらへ向かってきた。無事に合流できたか。

 「あっ、やっと見つけました!もうっ、勝手に行ったらダメじゃないですかグランさん!迷子になっちゃいますよ!」

 「おいおい、俺を子供扱いするなよ。ちょっと悪い人を懲らしめただけだ」

 「グラン、とにかく追いつけて良かったよ。悪い人って、もしかしてロケット団の…」

 「ああ、軽く追っ払ったから大丈夫だ。このままおつきみやまを抜けよう」

 そう伝えて俺は洞窟の出口へ向かおうとした。しかしそこで、一匹のポケモンが岩壁から現れた。可愛らしい目にまん丸ボディが特徴的なそのポケモンは、ここでしか見られないピッピだった。

 「へぇ、ピッピが現れるなんて珍しいな。せっかくだし捕まえてみるかな?」

 バッグからモンスターボールを取り出そうとした時、リーリエが慌てて俺の動きを止めてきた。

 「ま、待って下さい!実は私、昔からピッピのことが大好きで、トレーナーになったら一緒に旅をしたいと思ってたんです。だから私に、ピッピを捕まえさせて下さい!」

 必死に頭を下げるリーリエ。そこまで言われては仕方ない。俺はモンスターボールをしまって、リーリエにバトルの順番を譲った。

 「分かったよ。後ろで見守ってやるから、頑張ってピッピを捕まえるんだ。ボールが無くなったら俺のやるし、思う存分やってみせてくれ」

 俺の言葉を聞いて、感激のあまり涙目になりかけるリーリエ。気を取り直して、まずリーリエは手持ちのシャインをくりだして、ピッピの体力を削る作戦のようだ。

 「そうだよリーリエちゃん!ポケモンの体力を減らせば、捕まえやすくなるってちゃんと覚えてるね!その調子だよ!」

 俺の隣でハンスが笑顔でリーリエを褒め称える。俺も昔はあんなふうに、ポケモンと戦ってはモンスターボールで捕まえていたなと、少し懐かしさを感じる。
 シャインの体当たりでピッピがよろめき、その隙を見逃さずにリーリエはモンスターボールを投げた。ポケモンに強く当たらないように、下手投げでふわりとボールが空中を舞う。
 ボールはピッピに当たり、そのままボールの中へ吸い込まれる。1…2…3…カチッ!
 ボールは動かなくなり、リーリエはピッピの入ったモンスターボールを拾い上げる。

 「や、やりました!ピッピ、ゲットですよ〜!」

 嬉しそうに駆け寄るリーリエと、俺は彼女を褒めるようにハイタッチを交わす。少しずつ彼女が、ポケモントレーナーとしての道を進んでいるんだなと実感する瞬間だった。

 「どうするリーリエ?ピッピのニックネームは考えてるのか?」

 「それなんですが…ニックネームはつけずに、ピッピちゃんのままにします。私がポケモンを好きになったきっかけというか、昔からピッピちゃんにとても思い入れがあるので、その気持ちを忘れないようにしたいんです」

 そんなふうに話すリーリエの目は、どこか遠くを見ているような憂いのこもった様子だった。
 新しいポケモン、ピッピを仲間にしたリーリエ。俺とハンスもそれを喜びながら、皆でおつきみやまの出口へ向かった。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想