第24話 うちで話そうよ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 翌朝、野宿を終えたヒトカゲ一行はドクトゥスの街を目指して歩き始めていた。いつも野宿となると寝心地があまり良くなく熟睡できない場合もしばしばあるが、今回はブリガロンが作った即席ベッドで寝たところ、朝まで一切起きることなく熟睡できたと2人は語っていた。

「すごく寝やすかった!」
「よく即席でできたな、すげぇな!」
「それほどでもー! 寝やすかったみたいでよかった!」

 嬉しそうにブリガロンは顔を赤らめる。このように褒められることが何より励みになり、また頑張ろう、さらにいい物を作っていこうという気持ちになるようだ。

「家以外にどんなものつくるの?」

 ベッドでこのクオリティなのだから、他にもいろんなものを作っていそうだなとヒトカゲは考えた。うーんと唸りながらブリガロンはどう答えようかと悩みながら、思いつくものを1つ1つ羅列していく。

「家具全般、橋、神輿、船、あとは……」
「み、神輿? 船!?」

 ヒトカゲの想像以上にスケールの大きな仕事をこなしていたことに圧倒される。特に船について尋ねると、初めての造船かつ1年規模の大きな仕事で非常に苦しんだが、進水式で無事に壊れることなく納品できたときの喜びは今でもはっきり覚えているという。
 そして、これらのほとんどをブリガロン1人で造り上げてきたのだ。持ち前の腕力、技術力、そして絶対にお客を笑顔にさせるという気持ちが全ての創造物に込められている。もちろん、ヒトカゲとルカリオに用意したベッドでもそれを感じられる。

「完全にプロだな。尊敬するわ」
「そう言われると調子乗っちゃう! でもありがとう!」

 とにかく元気に応じるブリガロンから、2人は初々しさのようなものを感じていた。自分達も旅を始めた頃こんな気持ちだったなぁと振り返り、段々と懐かしさが込み上げてくる。少し気楽に、道中を楽しむくらいのつもりで歩こうと足を前へと運んだ。


 3人がドクトゥスへ到着したのは昼過ぎであった。
 この街は開発されたエリアと緑が残されたエリアに大きく分けられ、ブリガロンの家は後者側にあるという。賑やかな商店街を通り路地裏から小高い丘へ抜ける道を進んでいくと、大きなログハウスが見えてきた。

「あれがぼくの家だよ!」
「おっきいー。これも……」
「もちろん自分で造ったよ!」

 見とれている暇もなく中へ。入口に2つ扉があり、片方は仕事場へつながっているという。家の半分以上は仕事場で占領しており、実際の住居スペースはどちらかというと一般の住居より狭めになっている。
 とはいえ、狭いなりに工夫が散りばめられているようだ。“つるのムチ”が使えるため高い棚を用いた収納、折りたたみ式のテーブルや壁に取り付けられた釘製フックなど、空間を最大限利用できる環境だ。

「座ってー。いろいろ準備してるから」

 お言葉に甘え、ヒトカゲとルカリオは木製の椅子に座る。藁の座布団が敷かれており、座り心地は快適だ。
 ふと目の前の壁に視線を向けると、写真が何枚も飾られていることに気づく。彼が造ったであろう建築物、お客さんなどと一緒に撮ったものなどが並んでいる中、ふと2人は古めの1枚の写真に目が止まる。
 どこかの外で撮影された、ハリマロンとゼニガメの笑顔が印象的な写真だ。決して綺麗とはいえない画質と日焼けによる染みから察するに、ブリガロンの幼少期の写真ではと想像している。

「ねぇ、この写真って……」
「あ、見つけちゃった? 今のぼくとカメックスだよ」

 ちょうど飲み物を手に戻ってきたブリガロンは、懐かしむようにその写真に目をやる。

「せっかくなら教えてくれよ。どうやって仲良くなったのかをさ」
「確かに気になる、聞きたい!」
「えーそんなこと聞きたいの? ぼくー、恥ずかしい……」

 ブリガロンは顔を赤らめながらも、2人に当時の思い出話を語り始めた。


 学校に入ってからしばらくの間、医者になるという夢を実現すべく当時のゼニガメは勉学に励んでいた。
 彼は最初から勉強が出来ていたわけではなく、どちらかというと努力でカバーするタイプ。口数は少なく休み時間も読み物にふけるほどであったため、彼と仲良くする者はいなかった。当時のハリマロンも「いつも1人で勉強してるやつ」くらいにしか思っていなかったようだ。

「お前、調子乗ってんだろ」

 ある日、ゼニガメに対してクラスメイトの1人が言い放った。誰とも遊ばず勉強一筋で成績が上がってきている彼のことを面白く思っていないという、いかにも子供らしい理由でからかってきたのだ。
 当時から達観していたゼニガメはそれに構うことなく、無視して自分の勉強を優先していた。その態度が相手にとって気に食わなかったのか、その日から嫌がらせが始まった。本を隠される、小言を言われる、近くで騒ぎ立てる等、勉強の邪魔になることばかりを繰り返されるも、彼は一切動じなかった。

「腹立つ! あいつの本破いてやる!」

 何の反応も示さないことに苛立ちが募り、とうとう度を越した意地悪へと発展しようとする。
 もちろん、聞き耳を立てていたゼニガメは相手がやってきたら一発お見舞いしてやろうと思って素知らぬ顔をして待機していたが、彼らの間に割って入ってきたポケモンがいた――それがハリマロンである。そして何も言わぬまま相手を思いっきり殴ったのだ。
 突然のことに、殴られた相手も、構えていたゼニガメも拍子抜けする。

「頑張ってるやつのことをからかうなー!!」

 その後も相手にのしかかって殴ろうとするほど、ハリマロンは怒り狂っていた。自身でもよく覚えていないくらい“キレて”しまったらしく、ここから先の記憶があまりないという。



「……という感じかな。これをきっかけにカメックスと話したりするようになったよ」

 懐かしい想い出だなぁとしみじみしながらブリガロンは語ったが、ヒトカゲとルカリオは「キレるとカメックスかそれ以上に恐ろしい奴なのかもしれない」と内心びくついていた。会ってから基本笑顔で優しい彼の知ってはいけない裏側を覗いてしまった感覚に陥る。

「そ、そうなんだー」
「昔から仲いいんだな」

 せめて何かリアクションをせねばと思うものの、ありきたりな回答に留まり余計に変な感じになってしまった。これ以上深く聞くのはよそうと、改めて話題を次の目的地のことへ移す。

「そろそろ次の行き先の話しようか」
「あっ、ごめん。ぼくー、地図準備するのすっかり忘れてた」

 ブリガロンは少し恥ずかしそうに頭をかきながら戸棚から地図を取り出して机に広げる。
 地図にはポケモニアの南側全域の地形と街名が掲載されており、彼はその中から自分達のいる街・ドクトゥスからどこかに向かって辿っている。2人はその指先を目で追っていく。

「何年か前にムシャーナの家を建てたことがあって、確か……あっ、ここ!」

 そこに記されていたのは、「ラクリマ」という文字――ドクトゥスからはかなり離れた街の名前である。

「ムシャーナに会えばきっと何かヒントは得られるかもしれないから、ラクリマに行ってみようか」
「どんなとこだろう、楽しみ!」
「はは、普通の街だよ、期待しすぎないでね!」

 会話を弾ませ、一同はレシラムの助言通り、ムシャーナから情報を得るためにラクリマへ向かう決心をする。そうと決まれば早速とヒトカゲは外へ出ると、すっかり日が暮れていた。ブリガロンの過去話を聞いているうちにそこそこの時間が経過していたようだ。
 さすがに準備もなしに夜道を進んでいく気力もなく、中に入ってそっと入口の扉を閉めた。

「気が早ぇんだよ、明日にしようぜ」
「そうだよ、準備もしないとね。泊まってくよね? ぼくー、部屋案内するよ」

 そう言うと、ブリガロンは2人を来客用の寝室へと案内する。昨晩のベッドの出来の良さを思い出し、今晩も快適な睡眠ライフを堪能できるとウキウキ気分で部屋の扉を開けた。
 しかし彼らの目に飛び込んできたのは、空になった大量の樽や瓶。よく見るとラベルが貼っており、“クラボ12年”“ロゼルスパークリング”などと書かれているように見える。誰がどう見ても、これらには酒が入っていたと疑わざるを得ない状況だ。

「あー、ごめん! 酒瓶片付けてなかった!」

 来客がないときはついつい置いちゃうんだよねーと半笑いしながら、慌てて空瓶をかき集めていくブリガロンの姿を2人は黙って見ていた。

(カメックスといい、ニドキングといい、どうして今回はこんなにも酒飲みメンツばかりなのか……)

 ルカリオは悩みの種が増えそうだと、ため息をついた。


 ヒトカゲ達が寝静まった頃、ブリガロンは1人、敷地内の芝生に座り込んで夜風にあたっている。彼はたまにこうして夜空を見ながら酒を飲むのが習慣となっている。特に考え事をするときによいアイディアが生まれやすくなるのだとか。
 今夜もぼんやりと星々を眺め、きのみで作った自家製の酒を味わっていた。

「夢、かぁ」

 考えていたのは、自身の夢についてだ。意味合いこそ異なるが、ヒトカゲとルカリオの件をうけて以降頭に思い浮かんでいるらしい。
 なりたいと思っていた大工になって次に叶えたい夢はなんだろうと、いろんな想像を巡らせている。なりたいもの、やりたいこと……様々な欲求を天秤にかけて彼がたどり着いたのは、1つの答えだった。

「ぼくー、長生きしたいな」
次回、「第25話 昼夜逆転生活だ」

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