Episode 18 -Tincture-

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:13分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 遂にダイバー資格の合格通知を受け取ったえっこ。えっことローゼンは、今後の流れやダイバーランクの仕組みについて説明を受けるべく、連盟本部へと再び出向いた。
 「よ、よしっ……!! やったぞ!!」
えっこが朝から嬉しそうに声を上げる。アパートのポストにはダイバー連盟からの郵便物が届いており、封筒を開けるとダイバー試験合格通知が入っていたのだ。


「ただいま帰りました。えっこさん、どうしたんです? 何だか嬉しそう。」
「ダイバー試験に合格したんだ!! 遂にダイバーとしての第一歩が踏み出せるよ!!」

えっこは誇らしげに合格通知をローレルへと見せた。ローレルもその知らせを聞いてえっこにお祝いの言葉を投げかける。


その日の朝10時頃、えっこは早速連盟本部へ手続きをしに向かった。ローゼンも合格したらしく、えっこと共に連盟本部に現れた。


「ローゼンさん!! お互い合格してよかったです!!」
「うん、合格おめでとう、えっこ!! お互い別々のチームにはなるだろうけど、こらからも頑張ろうじゃないか。」

二人は受付を済ませて3階の応接間へと通された。ドアをノックして現れたのは、事務員の一匹であるサクラポケモンのチェリムだった。


「二匹とも、この度は合格おめでとうございます!! 今後は新たなダイバーの一員として、益々のご活躍をされることを心より応援いたしますよ。えーと、机……。」
「ありがとう……あの、机は左後ろです、大丈夫ですか?」

チェリムはツボミのような被り物をしているせいで、あまり前が見えていないようだ。よたよたとしながら、机の横にある椅子に腰掛けた。


「あはは、ごめんなさいね。今日は天気が悪いので花びらが目の前に張り付いてまして……。晴れてるとよく見えるんですけどね。」
「はぁ……よ、よく分からないけどポケモンってやっぱり大変なんですね色々と……。」

「さて、書類は後でお渡しするとして、まずは今後の流れを説明いたしますね。こちらのリーフレットをご覧ください。」

チェリムに手渡されたリーフレットを見ると、今後のフローチャートが書かれていた。
まずは履歴書や登録内容、ダイバー共済などの書類を記入して提出し、即日で登録免許証が発行される。

その後、それぞれどこかのチームからオファーという形でスカウトを受け、チームへ加入する。新規加入者は地上の探検隊や救助隊、調査団などでの活躍経歴がない限りは、独立活動や新規者だけのチームを組むことは許されていないようだ。


「オファーを受けるまでは早くて数日、長いと数週間程度でしょうか。ダイバーは常に要員不足ですから、すぐに受け入れ先が見つかると思いますけどね。」
「やっぱりすぐに活動開始って訳でもないんだ。まあいいや、少し休んだり、準備整えたりできるし。」

「よろしければ、ヘラルジックの購入などされてはいかがでしょうか? 今日のダイバーの活動にはほぼ必須とされていて、ダイバー免許があれば大幅割引で購入できますよ。」
「ヘラルジックって確か、あの武器が入ったタトゥーの……。」

「ご存知なのですね? でしたら話が早い。ヘラルジックは入れる際に大変な苦痛を伴うそうですから、手術には半日程かかり、その後も一日二日療養する方がいいとされています。」

やはりルーチェの言っていたことは冗談ではないようだ。えっこはその話を聞いて少し浮かない顔をしているが、ローゼンは楽しそうなな表情を見せている。


「何か楽しそうですね、ローゼンさん……。」
「んー? だって新しい武器が手に入るから、また敵を殺傷し放題だしねー。お尋ね者とかバラバラに壊すの、とっても楽しそうー!!」

「うん……まああの……。でもヘラルジック入れるの痛いそうですよ? 俺は何だか、想像しただけで胃がキリキリするなぁ……。」
「僕には関係ないもーん。生まれつき痛覚が変になってるみたいで、一定以上の痛みは感じないんだ。だから銃で撃たれても、ナイフで刺されても気付かないし痛くも痒くもないし。」

「えっ!? そ、そんな体質なんです!? もし本当なら羨ましいような……。」

えっこが試しにローゼンの頬を思い切りつねるが、本人はケロッとした顔をしている。どうやら本当に痛覚が機能していないようだ。










「えっと……それでは、次の説明に移りますね。ダイバーのランクについてはご存知でしょうか?」
「うーん、名前だけは聞いたことある気がするけど、あまり分かんないや。」

「それでは、先程のリーフレットの中開きページをご覧ください。そちらがダイバーのランク分けになっています。」

リーフレットを開いて中を見ると、ダイバーランクが書かれたピラミッド型の図が描かれていた。
下から原色ランク、金属色ランク、最高位としてマイスターランクが存在している。

原色では下から順に、アジュール(青)、ギュールズ(赤)、パーピュア(紫)、ヴァート(緑)、セーブル(黒)となっている。

次の金属色は下から、ブロンズ(青銅)、アージェント(銀)、オーア(金)、プラチナ(白金)となっている。それぞれのランクには、それぞれのランクに対応した宝石で作られたブローチやマント、ローブなどの着用が認められるようだ。


「ところで、僕たちのランクはどうなるのかな? やっぱり新米だからアジュールからスタート?」
「いえ、二匹とも好成績での合格でしたので、初期ランクはより高いものとなります。ローゼンさんはギュールズランク、えっこさんは初心者では最高ランクのパーピュアランクからのスタートです。」

「むーっ、僕は一個下かー……。まあいいや、あのレギオン倒したのはえっこのアイデアだしね。」
「ギュールズの中でもより高い位置ですので、活躍次第ですぐにパーピュアへ昇級できるかと思いますよ。えっこさんもしっかりと頑張れば、ヴァートやセーブルへの道はそう長くないかと思われます。」

ローゼンは不満そうに頬を膨らませるが、チェリムからブローチを受け取るとまたすぐに嬉しそうな顔に戻った。
パーピュアランクのえっこはアメジストがはめ込まれたものを、ギュールズランクのローゼンはガーネットがはめ込まれたものをそれぞれ衣服に身に着ける。


「とてもお似合いですよー!! 宝石も新たな一歩を踏み出す方々だからこそ、一層輝いて見えます。」
「ありがとうございます、な、何だか照れるなぁ……。」

「では、書類の記入などをしていきますので、今しばらくお付き合いくださいね。」

二人はチェリムの指示に従い、書類の記入や事務手続き、免許の発行などを進めていった。








 その頃シグレたちは、座礁船内部を進んでいた。大きな客船だが長い年数放置されているらしく、内部はところどころ雨漏りして湿っており、空気を吸う度にカビの臭いが鼻を突いてくる。

床もところどころが腐って脆くなっているのか、荒れたい放題にボロボロになっており、一行はギシギシと軋む音に神経を尖らせながら、床を踏み抜かないよう慎重に歩みを進めている。


「しかし、何でこんなとこに客船が来てるんだろう……。優雅なクルージングとは程遠い場所だと思うんだけどなぁ……。」
「こんな岩場に乗り上げたんじゃ、立派な脱出艇があっても役立たずだよね……。」

暗い船内をきょろきょろ見渡して呟くミハイルの横で、カムイは上を見上げ、7~8mはあろうかという脱出用の小舟が上の階に放置されている状況に眉をひそめていた。


「見ろよ、固い鉄の扉で閉ざされてやがる。完全に鍵がかかっている上、錆びついていて開かねぇぞ。」
「召喚魔法なんか使ったら、最悪船ごと吹っ飛んじゃうからご法度ね。うーん、どうしようか……。」

「ねぇ、こっちから下の階に下りられるみたいだよ!! 一度下の階に降りて、そこから上の階に戻る道を探すしかないんじゃないかな?」
「面倒だが、この状況だとミハイルの言う通りにするしかねぇな。」

シグレはため息をつくと、ミハイルのいる方へとゆっくりと歩き出した。カムイもその後を追ってそろりと足を踏み出す。


階段を下っていくと錆びついた大きなハッチが見え、何とかその蓋を開けて梯子を降りると、比較的大きな部屋に出た。

そこは船底までのいくつかの階層が吹き抜けになった大きな空間であり、たくさんの配管や柱が通っており、防火用の鉄の壁が周囲を覆っている様子からボイラー室だと思われる。


「底まで来ちゃったね……。上に戻れるんだろうか?」
「道がこれしかないならここを突き進むしかねぇな。この広い空間、どこかに扉があるんじゃねぇか?」

「うん、この部屋はエンジンがあるような場所、つまり船の心臓部分だから、ボクも船の色々なとこに通じてる扉が必ずあると思います。」

3匹が扉を探そうと目を凝らしていると、何か黒い靄のようなものがミハイルの背後に現れるのを、シグレが目撃した。










「敵襲か!?」
「な、何!? いきなりボクの方に矢を飛ばして……!?」

「何かがお前に近づいていた。だが矢がすり抜けて飛んでいきやがった……。どういうことだ?」
「うわっ!? がっ……離せっ!!!!」

突然カムイが空中に浮かび、苦しそうな声を上げ始めた。ミハイルがヘルメットのライトを向けると、黒い靄の中に仮面のような物がちらりと見えた。


「あの顔……ヨマワルだ!! シグレさん、何でもいい、カムイの背後の靄にゴーストタイプの技を!!」
「ゴースト……?」

「奴は霊体なんです!! だから普通の物理攻撃は効果が薄い。でも同じゴーストタイプで、影や霊体を狙えるあなたなら……!!!!」
「分からねぇが影をぶち抜くんだな、やってやる!! くたばりやがれ、かげうち!!!!」

シグレが黒い羽根の矢を靄の中心に撃ち込むと、靄が実体化し、苦しみの声を上げた。その正体はミハイルの予想通り、一匹のヨマワルだった。


「た、助かったよシグレ……。」
「さて、この幽霊はどうしてくれようか? 丁重に地獄に送り返してやろうか? ええ?」

「一匹だけじゃないね……まとめて地獄に送らないとだ。」

カムイが刀を構えて後ずさる。既にシグレたちは多数のヨマワルに囲まれており、一触即発の状態に置かれてしまっていた。


「野郎っ……!! いつの間に……!?」
「シグレさん、気を付けてください。あなたの技がヨマワルに通用したように、ヨマワルのゴーストタイプ技は、あなたにとって弱点となる一撃です。この数に攻撃されたら、あなたは致命傷を負いかねない……!!!!」

「ご忠告どうも。だがなめてくれるなよ? 山中で他の賊どもに囲まれたことなんて一度や二度じゃねぇ。それにこの場所は柱や鉄の棒がたくさんあって、森の中に似ている。誘い込んだつもりかも知れねぇが、俺の得意な舞台に足を踏み入れたのはてめぇらの方だぜ?」


にやりと笑うシグレに対し、ヨマワルたちは一斉にシャドーボールを向けた。向こうとしても、やはり相性が危険なシグレを真っ先に始末したいのだろう。

シグレは次の瞬間、地面を蹴って斜め上へ飛び上がった。シャドーボールは一斉にその先に向けて放たれる。


「シグレさん!!!!」
シグレはシャドーボールを空中でかわすが、その衝撃で吹き飛ばされてしまう。同時に、衝撃で柱や配管がいくつか壊れて地面に叩きつけられる。


「これだぜ……建物の中だから自然には風は起こらねぇ。だが、お前たちがこうして強い衝撃を加えてくれたんでな。風は既に読めた!! まとめてくたばりな!!!!」

シグレは大量の黒い矢をシャドーボールや落下物の衝撃に乗せて飛ばす。外側へ無差別に広がる風は矢と共にヨマワルを一網打尽にし、あっという間に全滅させてしまった。


「今のはあやしいかぜ……広範囲を一気に攻撃できるゴーストタイプ技……。それを風のない室内で繰り出すなんて……。」
「山の男たる者、風を起こして味方に付けるのは容易いことだぜ。」

シグレは上手く体勢を立て直して着地すると、翼をパタパタと叩いてホコリを落とす動作を見せた。


「ダメです……こいつら強いです……。ボス、後はお願いします……………。」
「ボス!? まだ親玉が控えてるっていうのね!? 二人共、また戦闘への準備を!!」

カムイがそう促すと、シグレは弓を、ミハイルは魔杖を取り出して頷いた。一行が見つめるその先から、何者かがゆっくりと歩きながら出てくるのが見えてきた。

(To be continued...)



読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想