17-3 解りあえないけど大事なこと

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください



 ユウヅキさんのリーフィアの手当をして、テントで休ませる。
 イグサさんたちも疲れていたのをネゴシさんに見抜かれて無理やり休憩させられていた。
 文句を言いたそうにしているイグサさん。たぶんシトりんのところにメタモンのシトリーを早く連れ帰ってあげたかったんだと思う。
 この件は一件落着、でいいのかな。と今度こそ安心していたら、ユウヅキさんとサーナイトが全員にお礼を言って回っていたらしく、あたしとライカのところにもやって来ていた。

「ありがとうアプリコット、ライカ。リーフィアを止めようとしてくれて」
「うん、どういたしまして……あんまり力にはなれなかったけどね。助けられちゃったし」
「……助けられているのはこちらだ」

 少しだけ強めの口調に、あたしもライカも目を丸くする。ユウヅキさんは不思議そうに続ける。

「俺もアサヒも、アプリコットやライカにだいぶ助けられている。それはこのくらいで返せるものじゃない」

 さも当然そうに言い切るユウヅキさんに、失礼だけど堪えられずに思わず笑ってしまった。
 ますます困惑するユウヅキさんに謝りつつ、あたしは反論を返す。

「助けてもらえるのはありがたいけど、あたしが返して欲しいとしたら、それは貴方たちの幸せそうな姿だけだよ」
「幸せ……?」
「そう、こう思わず見ているこっちまで温かくなるようなのをお願い」
「返せるだろうか……?」
「そこまで真剣に悩まないでいいからっ」

 真面目に考え込むユウヅキさんにライカは呆れ果てて、サーナイトもクスクスと微笑んでいた。
 目が覚めたリーフィアのお腹の音がテント中に響き渡る。明らかに不機嫌そうなリーフィアに、ネゴシさんが「ご飯の用意、しましょうか」と提案した。
 その時ちょうど、ビドー、アサヒお姉さんを抱えたシトりん。それからジュウモンジ親分たちみんなが沼地にたどり着いたので、わりとてんやわんやな昼ご飯になった。


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 ジュウモンジ親分には、ドスのきいた声で「反省しているなら、それ以上は何も言わねえ」と言われ、他の皆には無事でよかったと声をかけられて、ほっとするよりも胸が痛んだ。怒られるよりもきつい。本気で反省しようと思った。

 凹んでいると、食事の席でたまたま隣り合ったビドーが主にユウヅキさんへの文句を口にしてルカリオに面倒そうな視線を向けられていた。

「……ったく、ヤミナベの野郎、お前の居場所分かるなりいきなりサーナイトと『テレポート』で迎えに行くとか飛び出していきやがったんだぞ、アイツ……ヨアケもヨアケで久々に見たけど彼らしいってぼやくし……」
「ユウヅキさんが来なかったらあたし危なかったけどね……確かに危なっかしいよね、あの人」
「後先考えてないって感じがするぞ……」
「それを言われるとあたしも今回他人のことは言えないから…………その、単独先行してごめんなさい」

 なんとなく言えてなかった謝罪の言葉を口にすると、ビドーは予想外の言葉を返す。

「まあ……あれだ。大事なモノ壊されてかっとなったんだろ。そうなることは誰でもあるだろ」
「…………なんで怒らないの?」
「怒ってはいる。けど別に、責めることでもない。それとも、もっとなじってくるとでも思ったのか?」
「わりと思っていた」
「あのなあ……」

 大きくため息をついた後、ビドーは紙コップに入ったコーヒーぐいと飲み干して、空の底を見つめながら呟く。

「俺にも昔、『闇隠し』以外で似たようなことがあった」
「……その話、聞いてもいい?」
「まあ、いいぞ」

 ビドー曰く。『闇隠し事件』の後、独りで過ごしていた彼は、家にあった自分の名前の由来になった花木“オリヴィエ”を、忍び込んだ盗人の連れていたポケモンに焼かれてしまったらしい。
 それ以来彼はずっと、ビドーと名乗って、下の名前オリヴィエと呼ばれることを嫌がるようになった。その出来事を思い出してしまうから、なるべく他の人を苗字で呼んだりしているみたい。
 まだアサヒお姉さんのこともヨアケと呼び、ユウヅキさんのこともヤミナベと呼び続けるのは、単純に踏ん切りがつかないのときっかけがつかめていないからと、彼は言う。

「その件以来、他者から奪う奴らをより強く憎んでいた。大事なもの守れなかった自分も呪った。そういう気持ちはまだわかる。だが……」
「だが?」
「悪いが、今でも奪う側の<義賊団シザークロス>を許容してはいない。これだけは譲れないんだ。けどな……同時にお前のファンでもある。これは一体何なんだろうな」

 乾いた笑いを浮かべるビドーに、あたしの気持ちを理解しようと自分のきつかった過去を打ち明けてくれた彼に、あたしは一つ裏話をしようと心に決めた。

「“譲れぬ道を踏みしめて”。あの歌の歌詞、実は貴方を意識して作ったんだ」

 それまで無言で食べていたライカがむせた。
 目を見開いて驚く彼とどこか納得していそうなルカリオに、誤解のないように説明する。

「貴方が顔合わすたびに、あたしたちの邪魔っていうか、阻止? してきた時あったじゃん」
「あ、ああ」
「その時の貴方に、めちゃめちゃ否定されまくって、悔しくて……でもめげずに負けてたまるかー! って、そういう対抗意識で……生まれましたあの歌は」
「そんなバックボーンが……」
「でも今になって、思った。譲れないのはお互い様だって。あたしはあたしの居場所だった<義賊団シザークロス>が好き。解散してなくなったとしても、貴方や他の人に認められなくても、そこだけは譲れない」
「アプリコット……」
「あたしも譲らない。でも今の貴方は嫌いじゃない。だから……ビドーもファンでいてくれても、大事なところは譲らなくていいと思う。解りあえなくていいと、あたしは思う」
「解りあえなくても、か……それでも、いいのか」
「それでもいいんだよ、少なくともあたしたちは……そしてあのクロイゼルにでさえも、譲れないものあるんだろうね」

 話して気持ちが整理したのか、ついそう零してしまった。
 でもビドーは、特に注意するわけでもなく「ないわけはないだろうな」と共感を返してくれた。

 ここで考えてもクロイゼルの凶行は止まってはくれないのは分かっていた。
 アイツのしたことを理解できないままだと、あたしはまた暴走してしまうのも分かっていた。
 でも、どうすればいいのかだけは、いまだにわからない。
 だからあたしだけじゃ、到底思いつけないことを自覚するところから始めようと思った。


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 午後、ハジメお兄さんが戻って来た。その中のメンバーに、ココチヨお姉さんとカツミ君とリッカちゃんのちびっこ二人組とコダックも居た。
 ココチヨお姉さんとミミッキュのコンビを見知っている面々は、「料理戦力キタコレ!」とすごく歓迎していた。
 カツミ君はこの間と比べて顔色は回復していたけど、無理はさせ過ぎないようにと注意していたけど、リッカちゃん共々<シザークロス>の面々に可愛がられ遠巻きのハジメお兄さんにじっと見られていた。(そのあとストレスのたまったコダックのコックに何名か『ねんりき』で吹っ飛ばされていた)

 ビドーはハジメお兄さんがリッカちゃんをしっかり連れて来たことに対して好感を持った様子。テリーはちびっこ二人を見て色々と思うところがあったようで静かに闘志を燃やしていた。
 ハジメお兄さんやココチヨさんたちもアサヒお姉さんの現状を知って驚く。戸惑いを隠せなさそうだった。アサヒお姉さんは地味にショックを受けているのを苦笑の声でごまかしている。
 そして、ハジメお兄さんとココチヨお姉さんとユウヅキさん。

「…………」
「えっと」
「…………」
「その、二人とも」
「…………」
「おーい」
「…………」
「た、助けてミミッキュ……ヘルプ、アサヒさん……」
『こらっ! ココさん困らせないの、二人とも!』

 とまあ、こんな感じで三人とも気まずそうにしていた。
 案の定と言うか、先に謝り始めたのはユウヅキさんで、それに対して事情を聞いたハジメお兄さんも、なんと謝る。

「俺もサク……いや、ユウヅキ。お前にばかり身体を張らせてすまなかった」
「……ハジメ。できれば、今度こそ、事態の解決に力を貸してくれないか」
「それに対する返答はすでに用意してある……覚悟の上だ、いいだろう」

 そうやって今度こそ対等な協力関係を結んだ二人を眺めて、<シザークロス>のみんなからひょっこり逃げて来たカツミ君が、ココチヨお姉さんとアサヒお姉さんに「ハジメ兄ちゃんもサク兄ちゃ……ユウヅキ兄ちゃん? も、よかったね」と口元に笑みを浮かべ小声で囁いた。


 束の間の休息と久々の歓談を終え。
 アサヒお姉さん、ビドー、ユウヅキさん、ジュウモンジ親分、ハジメお兄さん、あたし、ネゴシさん、イグサさんの計8名で、今後の方針についての話し合いが行われることになった。


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 進行をしてくれたのはネゴシさん。前に立って、真面目モードで、テキパキと話を進めていく。

「お初にお目にかかる方は、初めまして、わたくし、ネゴシと申します。ハジメちゃんとよく手を組んでいる交渉人よ。今回は縁あってここに協力体制を築こうとしている皆さんのお力に少しでもと名乗り出ました」

 現在揃っているのは、解散予定の<シザークロス>メンバーと、<ダスク>の離反者であるメンバー、そしてアサヒお姉さんたちとイグサさんたちとネゴシさん。
 わりと、派閥が違って人数が多いということが初めてだったので、どうまとまるのか不安なところもあった。だからネゴシさんいてくれてよかった……とあたしは心の中で思っていた。

「まず、事前にそれぞれ今後どう対応していくべきかの意見を聞かせてまとめていただきました、即席だけど、これがその資料よ」

 それぞれの携帯端末にテキストデータが送信されてくる。アサヒお姉さんはユウヅキさんと一緒に、それ以外は個々でその文面を読んでいく。

「簡単に言うと、クロイゼルに立ち向かい、そして『闇隠し事件』の被害者を取り戻し、野望を阻止するというのは、全員共通でした。具体的な方針の意見もだいたいは同じでしたが、細かい部分で分かれていました」

 ハジメお兄さんが、気づいた点を挙げる。

「…………協力を求める相手、だろうか?」
「その通り。アサヒちゃんやビドーちゃんは<エレメンツ>。ハジメちゃんやユウヅキちゃんは<ダスク>の一派。ジュウモンジとイグサちゃんは組織に属していない協力者を捜す、でした」
『みんな、自分の気心しれた相手を上げているって感じだよね……』

 伏せ気味の声で呟いたアサヒお姉さんの声を、ネゴシさんは拾い上げる。

「そうなのです。その上こちらの割ける人員は限られています。でもどちらに動くか意見が割れている上、クロイゼルの出方に対する想定案が一切ない。はっきり言ってしまうと、今この場集まってしまっているのは受け身丸出しの無防備な集団です」

 あくまで冷静に、でも辛口のネゴシさんにビビっていると、ネゴシさんはあたしの方に向き直った。
 何かまずいことでもしたかな、と思っていたら。

「“片っ端から協力者を集めて全員で何かいい方法はないか考えるしかない。一人じゃ思いつかない”……そうおっしゃったアプリコットちゃんの方がまだギリギリ状況打開に意欲的でした」

 注目の視線が集まる。これは、誉められたのだろうか……?
 ユウヅキさんが凄く納得した感じで「一人で出来ることは、たかが知れている……」とあたしの意見に頷く。それにはほぼ全員が「そりゃあ……そうだろうな」と思っていたと思う。

「そうよ……もう責任者なんて存在していない一蓮托生なんだから、ある知恵ない知恵出して試すしかないの」
「……そのためには、アイツの狙いを見極めねえとな」

 ジュウモンジ親分が閉ざしていた口を開く。
 あたしたち<シザークロス>は結局、「やられっぱなしは性に合わない」の精神でここまで来ている。アジトも壊れちゃったし、一泡吹かせたいという想いもあった。
 何より。

「ポケモンの乱獲……これの意図は、手駒を増やすだけなのか?」

 あたしたち<シザークロス>的には、無理やり従わされているポケモンたちも助けたいと強く願っていた。だからこそそれをする意図が気になっていた。
 クロイゼルの目的に関する情報を、アサヒお姉さんが改めて提示する。

『クロイゼルが口にしたのは、復讐とマナ……マナフィの復活』
「マナフィの魂はクロイゼルの手中にあるとするならば、この場合は肉体を求めているって感じだと思う」

 彼女に続いたイグサさんは、さらに可能性を提示する。
 それは、当たり前のことだけどちょっと確信に迫っている気がした。

「ポケモンを集めているってことは、何かしらの目的に使うからでは? 例えば、実験とか」

 実験、という言葉に静かに、だけど強く反応したのは、ユウヅキさんだった。
 アサヒお姉さんが『大丈夫?』と暗い声で励ます。
 その二人の様子をビドーは見逃さない。

「二人とも何か、実験がらみであったのか?」
『私は違うけど……その』
「俺が話す……かつて、【破れた世界】を研究中に行方不明なった俺の母、ムラクモ・スバル博士。彼女は行方不明の間にクロイゼルに実験体にされていたらしい。そして今は、【スバル】の地下で意識を取り戻さずに眠り続けている」

 衝撃の事実を語るユウヅキさん。彼は「やろうと思えば、やるのがクロイゼルだ。最悪目的のために使われかねない」と警鐘を鳴らす。
 それは、人質の安否にもつながる案件だった。


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ゲストキャラ
テリー君:キャラ親 仙桃朱鷺さん
シトりん:キャラ親 PQRさん
カツミ君:キャラ親 なまさん

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