この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
・暴力的なシーンやグロテスクなシーンが数多く含まれます。苦手な方はブラウザバックしてください。
・結構な数のポケモンが命を落とします。自分の好きなポケモンが命を落としても平気な方のみどうぞ。
・この物語はフィクションです、実際の人物や団体、及び他のスクエア作品とは関係ありません。
・FILE8 HEATの邂逅
ふと気付くと横向きの視界に朝日に照らされながらよだれを垂らして熟睡中のアシレーヌが入る。
ソファでは検索中の姿のまま熟睡中のジュナもいる。
つまるところ、3匹仲良く寝落ちである。
「寒っ…」
時計は朝の6時半、起きるには早すぎるし部屋に戻って二度寝と洒落こむには遅い。
暖房も切れた肌寒い部屋に置かれたホットココアはアイスココアに進化していた。マグカップの時点で冷たくて飲む気力もない。
気合いで椅子から立ち上がり、熟睡中のアシレーヌを抱き上げて階段を上る。俺たちの家とはいえ雌に貸してる部屋に入るのも気が引けるので、とりあえず俺のベッドに寝かせて置いた。
「んみゅぅ、あったかいよぉ…」
「…入りてぇ」
レジギガスの落した手袋の中をポケモン達が共有して寒さをしのぐ童話を思い出して入りたい衝動にかられたけど、朝飯の仕込みを始めることにして部屋を出た。
とりあえず暖房を入れて、献立を考える。
相変わらずジュナは眠っている。
それにしても、立ったまま寝れるなんて器用なヤツだよな…
「…」
一瞬両翼がものすごく魅力的に見えた。俺の目は間違いない。
起こさないように翼の中に入り、即席の肩掛けとしてジュナを利用する。
早炊きモードの炊飯器でご飯が炊き上がれば完成だがもう少し時間もあるしせっかくならココアを再び温めて飲もう、俺の火力で。
「自力でカップごと中身を温められるって、我ながら便利だよな」
アイスココアは再びホットココアにフォルムチェンジ、一口飲めばこれで俺も体の中に温もりを確保できた。
「…でもこれ、俺が放熱してヒーター役やった方が電気代節約になるよな?」
寝起きのテンションに身を任せて暖房を切り、熱を集中させて放熱する。
「長時間はしんどいけど、朝はこれ結構いいかもな!ヒーター…?」
何かが閃きそうな気がして、思いついた単語を片っ端から言ってみる。
「ヒーター、ヒート、HEAT、B゜z、熱、ニャヒート、灼熱の記憶…」
「ヒート、マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ…!」
「熱っ⁉何コレ熱い熱い熱い焼ける焼ける焼ける火事だあちゅい!」
「あっ」
そういやジュナを肩掛けにしたまま放熱してたんだっけ…
「美味しい、このお味噌汁おだし変えた?」
「良く分かったな!今日は白ねぎだからだしを」
「ただのだしの素なんだよね…」
「「…」」
「このだし巻き卵も美味しい!」
「ちょっといい卵使ってるんだよな!」
「同じくだしの素の暴力なんだよね…」
「…」
「焼き上げる技術は俺の力だろ…?」
「このきんぴらごぼうも美味しい!」
「白米に合うよな!」
「冷凍に入れてた常備菜…」
「…」
「常備菜ぐらい別にいいだろ…?」
「このご飯も美味しいね!」
「…炊飯器も最近調子いいのかもな!」
「先週ポンコツ呼ばわりしてたのに…」
「「…」」
「なぁ、早く機嫌直せって」
「…めんどくさい」
「危うくローストされる所だったのに言うことあるんじゃない?」
完全にジュナは機嫌を損ねていた。ほとんど俺のせいなんだけど、機嫌の損ね方がいちいち陰キャ臭いというか面倒というか…
「…アシレーヌにまで冷たく接する理由ないだろ」
「僕が焼かれてるのにグースカ寝てて助けにも来なかった、よりにもよってガオのベッドで」
「それは私も知らないんだけど…」
「僕だって自分で寝た事あっても寝かせてもらった事ないのに…」
とことん面倒くせぇ…
でもこのままじゃ調査に支障が出そうなのできつく行っとくか…
「ジュナ、一言しか言わないからよく聞けよ?」
反応を許さない速度でジュナの胸倉を軽く掴み、俺を見上げさせるようにホールドする。どう考えても俺は上、ジュナは下だ。
「そのうちベッドまで運んで寝かせてやるから事件を追ってる間は控えろ、OK?」
「お、OK…」
本当に世話が焼けるな…
「ちなみに、昨日の被害者の検索結果はどうだ?」
「生年月日や年齢、技構成なんかに共通点はなし、趣味や経歴は今調べてるよ」
「了解、俺はアシレーヌとコガネ警察署に行くから検索を続けてくれ」
「…なんで?」
「なんでって、役割分担だよ?普通だろ?」
「…確かに」
「心配せずとも昼飯は作ってくからよ、よろしく頼むぜ」
「ああ…」
なんかこの事件引き受けてからジュナの様子が変なんだよな…
まぁいっか、そのうち治るだろ。
「意外だったな、あのジャラランガが死んだ後にも事件は終わらないなんて」
「そうだな、水絡みの場所を移動できる共犯者と何か繋がりがあればいいけどな…」
昨日の今日だがゼラオラの顔には疲れが出ていた。
「一応そちらにもメンバーを割いて調査中だ。そっちはどうだ?」
「とりあえず被害者から何か共通点や法則性がないか調査してる。探偵にできることなんてたかが知れてるからな…」
「いや、こっちもメンバー不足で協力してくれるだけでもありがたすぎる話だ。あまり時間はないが情報共有するか?」
「そうだな、今のままじゃ凝り固まった頭がパンクしそうでな…」
ゼラオラは短い休憩時間の合間、俺はアシレーヌに重いバッグを持たせたままなので、情報交換も手短になってしまう。
「なるほど、炎タイプではなく氷タイプのロコンを狙ったことに違和感を感じているのか…」
「ああ、あくまで推測の域を出ない話だけどな」
残念ながらゼラオラ側の捜査は難航しているらしく、俺から推測の情報を提供するだけで終わった。
「いい気分転換になった、また何か分かったら共有しよう」
「…無理するなよ」
手を振って別れようとしたタイミングでようやくメインの要件を思い出した。
「そういえば、あのヒメグマはどうなった?」
「!」
「…どうした?」
「そういえばいつの間にかいなくなっている!」
「マジかッ⁉」
ゼラオラは焦りを隠しながら近くを通りかかったゴーリキーに声をかける。
「昨日証言に来ていたヒメグマは今どこにいる?」
「どこって、昨日警部が“帰していいぞ”って言ったそうですが…」
「誰から聞いた⁉」
「確か警部に言われたとあのヒメグマが、あれ…?」
「一体何がどうなっている…⁉」
「ハメられたのかもな…」
あのヒメグマは怪しいと思ってたけど、想像以上にヤバい奴だったか…!
「とりあえずヒメグマの行方も追ってみる、お前も何か分かったらよろしく頼む!」
「もちろんだ、体壊すなよ」
「遅かったね、何かあったの?」
「ちょっと面白くなってきた、とだけ言っとく」
ついでに買い物だけ済ませて帰ることにした。
「今夜のおかずは何するの?」
「そうだな…人参の葉っぱあるし天ぷらにでもするか?」
「いいね!私ジョウトに来たら食べたい天ぷらがあったんだ!」
「アローラでも天ぷらあるのか…ちなみに何の天ぷらなんだ?」
「紅生姜!」
「お、おう…」
てっきり珍しい魚か大穴でちくわを予想していただけに面食らってしまった。
ちょうど春菊もあるし、細々した野菜達もかき揚げにしてしまえば冷蔵庫の整理もできる。
ちょっと奮発して貝柱や鳥でも一緒に揚げるか…?
ふと肉類の棚を見た時にいい感じの合挽き肉が視界に飛び込んできた。一瞬遅れておろしハンバーグを食べたがっていたジュナの顔が頭をよぎる。
特に迷わず貝柱と一緒にカゴに入れてレジに向かうことにした。
「なんで今日こんなに重いの…?」
「油と料理酒買ったからな、紅生姜天食わせてやるからもうちょっと頑張れよ…!」
「それにしてもさっきから持ってるその重いカバンは何なの…?」
「チェーンだよ、昨日ポケモンCQCを見ただろ?」
「それにしたって買い物もチェーンも重すぎるよ…」
「チェーンは買った物の倍は余裕で重いぜ?交換するか?」
「それはヤダ!」
冗談っぽく会話しながらも、頭の中では事件について考え続けていた。
・容疑者と思われていたジャラランガの死後も同じ手口で続いた事件
・海水を移動できる共犯者の存在
・不可解なヒメグマの言動
まだ首謀者の正体も手口も掴めてはいないけど、何も分からないままじゃない。
ジャラランガと共犯者は当然グルな訳だが、もしヒメグマの不可解な言動が首謀者を庇うためだとしたら…?
ジュナと思考を共有すると、ちょうど殺されたコリンクについて調べている途中だった。
『ガオのご飯は美味しいからもちろんお昼のガパオライスも美味しかったよ、それとも急ぎの検索かい?』
『そんなとこだ、連続で悪いけど、俺たちの倒したジャラランガについてもっと詳しく調べてくれるか?』
『ガオの判断を信じるけど、今更何かあったの?』
『ちょっとやつの犯罪記録と交友関係を知りたくてな…それと、あのヒメグマは多分クロだぜ』
『クロ?何か証拠が出たのかい?』
『ゼラオラの許可なく他の警官に認可させて警察署の外に出たらしい。もしかしたら一枚噛んでるかもな』
『ってことは僕はあのクソガキに騙されてたのか…許せない…』
ちゃんと俺は言ったからな…
『何となくガオの睨んでいる事が分かったよ、“ジャラランガ、首謀者、共犯者、ヒメグマがチームを組んでいる”、そう言いたいんだろう?』
『流石だな、チームだと考えればヒメグマの不可解な言動にも説明が付く』
『なるほどね、期待通りの情報が出る様にもう一頑張りかな!』
機嫌もおおむね良くなった様だが、天ぷらに合わせておろしハンバーグのダメ押ししとくか。
「ところで、お前昼飯はどうする?」
「そうだね、最近ずっと美味しいものばかり食べてるから悩む…」
「そりゃどうも、ガパオライスならまだ残ってるけど一旦帰って…」
「誰か!助けて!」
思わず顔を見合わせる、距離はここから近い。
「そっちで声がした!」
戦闘経験多い俺より気付くのが速いとは、伊達に音技使うポケモンじゃないな…!
声の方に向かうと、怯え切った様子のエーフィが必死に助けを求めていた。
「助けてください!急に凶暴なポケモンに襲われて、彼氏が私だけ逃がしてくれたけどこのままじゃきっと殺されちゃう…!」
「アシレーヌ、そのエーフィを連れて逃げろ。彼氏ってのは今どこだ?」
「あっちの公園の方に走って…」
「待ってろ、今行く!」
ゼラオラレベルの速度を内心羨ましく思いつつ、言われた方向に急ぐ。
「何なんです、いきなり襲ってきて…!」
「それはこっちの台詞だ…!」
ちょうどキノガッサとガブリアスの戦闘中だった。
他にポケモンはいないし、どっちかがエーフィの彼氏でもう一方が凶暴なポケモンの方だろう。なんで種族を聞かなかったんだ俺…?
これがもし片方がブイズなら即決だったけど、どっちの可能性も捨てきれないか…!
「大変だ、エーフィが!」
息を吸い込んで、わざとらしく叫んでみせる。
「なんだって⁉」
「…なんだ?」
反応速度と表情を見る感じ、彼氏はキノガッサの方か…!
困惑したようなガブリアスの頬を蹴り上げてキノガッサを解放する。
「一体、エーフィに何があったんです…?」
「彼氏はお前だな?」
「はい、そうですが…?」
「お前の事を心配してた、彼氏なら早く行って安心させてやりな」
お辞儀をして走り去って行くところまでは見ていないが、無事に逃げられたらしい。
「何なんだお前は!?」
「そっくりそのまま返すぜ、ナニモンだテメー?」
あとに残ったガブリアスと対峙する。
「ガオガエン、か… 予定とは異なるが問題ないな」
「ガブリアス、余計な消耗は避けられそうだな…」
勢い良く振り下ろされた鰭を右腕でガード。
「お前、いつの間に鎖なんか…⁉」
「あいにく余計な消耗してる余裕ないんでな、ポケモンCQC捌式、ホウオウクロス・ブラザーフッド!」
チェーンをパーツごとに結合、近接戦闘特化のアーマーとして使用する。
攻撃を受けるために右腕だけ先に装着したが、チェーンの量には余裕がある。
右腕だけじゃなく左腕の分もナックルと一体型のアームガードとして装着、レッグガードやショルダーとチェスト兼用ボディーアーマー、ヘッドバンドまで装着したところで余ったチェーンは背面にホウオウの尾羽を彷彿させる飾りとしてマウントしておく。
チェーンを用いたアーマーならJOINTを一度使用するだけで攻防ともに強化することもできるし、万一出し惜しみする余裕のない相手だとしても手元にチェーンがあるのとないのとでは大違いだ。
「さっき蹴った時に気づいたけどよ、お前鮫肌持ちだろ?」
「ただの脳筋かと思ったが、ちょっと骨が折れそうだな!」
構えの動きから足元に危険を感じてサイドステップでストーンエッジを回避、チェーンで覆われた足で岩を蹴り砕き、散弾のようにしてガブリアスに浴びせる。
大したダメージにはならないまでも一手ずらせれば十分だ。
防御に集中してがら空きになった腹部めがけてDDラリアットを直撃させる。
強い衝撃と鮫肌の効果で右手のナックルに使用していたチェーンにヒビが入る、さっきは蹴りを直前で浅くしてダメージを受けずに済んだがうっかりダメージを受ければ不利になるのは俺の方だ。
「捕まりな!」
「ぶっ潰す!」
いまひとつと無効でフレアドライブと雷パンチは今回お役御免、インファイトで攻めかかると同時にガブリアスは俺の身体めがけて白い物体を放つ。
「DISCか…⁉」
インファイトを中断してDDラリアットの要領でその場でスピン、背中にマウントしていたチェーンで白い物体を弾く。
塊を弾いた手ごたえはあったが、その直後に分裂するような感覚。
「⁉」
急に視界が塞がれる。光の感覚はあれどもガブリアスの姿や公園の景色は完全に認識できない。
ガブリアスの間合いや周囲への警戒を考えるなら俺を倒すのは地震ではなくストーンエッジの確率が高い。
前言撤回、お役御免なんてとんでもない話だったな…!
「当たるとヤバいかもな!」
全身に炎を纏い、音から察するに移動していないであろうガブリアスめがけてフレアドライブで突撃する。
鮫肌に直接接触せずともフレアドライブを使えばチェーンも高温化して緋色になる。いまひとつでも無事ではいられない。
数メートル先で手ごたえがあった。確実に衝突して吹っ飛ばしたが俺も頭に何かが大量に付着する。
「目潰ししても正確に攻撃してくるなんてよ…予想以上に強敵だったが、これでお前は終わりだ」
「待ちやがれ…!」
ガブリアスを追おうとしても視界不良と頭への違和感に包まれて上手く動けない。
フレアドライブの炎も出しっぱなしのままでその場に座り込み、何らかの違和感が…
…いつまで経っても起こる気配がない。それどころか視界も少しずつ良好になって来て、目に砂が入った程度の感覚になった。
「おーい、頭に白いものいっぱい付いてるけど大丈夫?」
「なんとか大丈夫らしい、ガブリアスには逃げられちまったけどよ…」
to be continued…