【第048話】精神統一にて最強 / チハヤ(果たし合い、vsオモト)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

« vs超変則侍 果たし合い ルール »

・4on4のシングルバトル。学生のみ交換可。
・特殊介入(メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタル)は計3回まで。(※下記により実質0回)
・境界解崩は計3回まで。
・先に手持ちポケモンが4匹戦闘不能になった方の負け。

□対戦相手:オモト
✕ケンタロス(原種)
✕ベロベルト
◎ケッキング
・???

□学生:チハヤ
◎シキジカ
✕パピモッチ
・パモ
・ケンタロスRF-炎

※備考……現在、境界解崩「陽炎流柳派・昼想夜夢」が展開中。「大昔のカントー地方に伝わるバトル関連の迷信」が実現してしまう。現状判明した効果は以下の通り。
・『こおり』状態は如何なる手段でも治癒しない
・『はかいこうせん』は条件付きで連射可能
・特殊介入は使用不可
・『フェアリー』『あく』『はがね』タイプは存在しないものとして扱われる
・『まきつく』に囚われた場合、技の使用が不可
 オモトの3匹目のポケモンは、ぶたざるポケモンのオコリザル……ではなかった。
「すろーーー……!」
「いや違うオモト先生ッ!!ソイツはオコリザルじゃなくてケッキング!!!」
あまりにもかけ離れているその外見に、誰もが総ツッコミを禁じ得なかった。
オコリザルとケッキングでは、体色以外に共通点は殆どない。
「えぇ!?いつも怒ってばかりいたから、てっきりオコリザルかと……」
「(多分それ進化前の奴ーーーー!!)」
またもオモトの間違いで、会場はざわつき始めていた。

 特に迷霧フォッグに関しては呆れ果てていた。
「ケッキングとオコリザル……流石に間違えねぇだろそりゃ……」
生粋のポケモンオタクである彼からしてみれば、そのような間違いは余程信じがたかったのだろう。

 そんな様子の彼に、隣の蒼穹フェアが語りかける。
「おい迷霧フォッグ。何か変な気配がしないか……?」
「変な……気配……?」
「天井裏だ。」
「……いえ、特には。」
蒼穹フェアは上方向を顎で小さく指し示すが、迷霧フォッグはどうも納得してないようだ。
妙な感触を得ているのは彼女だけ、ということだろう。
「……『命』の反応がある。恐らくあそこに……何か居る。」
そう……生物の寿命を目にすることが出来る彼女だからこそ、不可視の存在を微妙に感知していたのだ。
「少し偵察部隊を寄越すか。おい迷霧フォッグ、貴様のポケモンも貸せ。」
「え……あ、ちょ……」
そう言って蒼穹フェアは、迷霧フォッグのコートの下にあったボールをひとつ拝借。

 そのまま客席の隙間を縫うようにして、そそくさと会場の外へと出ていった。
ぱたり、と平静且つ迅速に扉を閉める。
「……よし、誰もいないな。」
周囲を見渡して、一呼吸。
そして自分のボールと合わせて2つ分……、ポケモンを呼び出したのだった。
「みょんッ!」
「ぴりりり!」
中から現れたのは、コジョンドとオドリドリ(まいまいスタイル)。
前者は蒼穹フェアの、後者は迷霧フォッグのポケモンだ。
「この建物の天井裏に、謎の気配がある。コジョンドは交戦も視野に入れつつ偵察してこい。オドリドリは万一の事があれば撤退を最優先……だ。」
「みょみょんッ!」
「ぴりりッ!」
2匹は短く返事をすると、瞬きの間に姿を消す。
それぞれ、与えられた任務に出向いたのであった。

「(……明らかに、普通の生命反応ではなかった。ポケモンのものか……あれは?)」
先程の違和感を思い返しつつ、蒼穹フェアは胃を痛める。
「(欲か、怨念か………あれほど汚らわしい『命』を、私は知らない。)」



 ーーーーー一方その頃、フィールドでは。
「め……るるッ……!」
「すろーー……!」
既に2戦を終えて満身創痍のシキジカを抱えつつ、正面に構えるケッキングを睨みつけるチハヤ。
「(ケッキング……確か、物凄く強いポケモンだったはず。到底シキジカで勝てる相手じゃない……が……!)」
ニヤリと小さく、口角を上げるチハヤ。
「(俺は知っているッ……アイツは特性のせいで常にローテンポにしか動けねぇ事を!)」
そう、彼の考察は正しい。
ケッキングの特性は『なまけ』……その身体に有り余る高エネルギーの代償に、移動速度を大幅に制限されているのだ。
故に力の土俵にさえ立たなければ、スペックほど強力な敵とはなり得ない。

 ……そう、いつもなら。

「ケッ……ええいオコリザルッ、『きりさく』攻撃でござるッ!!」
オモトは名前の訂正を諦め……そしてケッキングに、攻撃の指示を飛ばす。
すると……

「すろォーーーーーーーーーーッ!!」
ケッキングは目にも止まらぬ速さでシキジカへと駆け寄っていき、爪の引っ掻き攻撃を食らわせようとしたのだ。
その速度はケンタロスと同等かそれ以上……
「めッ!!?」
あまりに唐突な出来事に、シキジカは面食らってしまう。
が……
「よッ……避けろッ!!」
「めるッ……!!」
なんとかギリギリのタイミングでチハヤの指示を聞き届け、彼は低姿勢のダッシュを決めて攻撃を回避した。

「そこッ、追撃ッ!上から先回りでござるッ!!」
「すろおォーーーーーッ!!」
しかしそこを逃すまいと、ケッキングの攻撃は凄まじい速度でシキジカを追いかけていく。
逃げ道を塞ぐかのように先回りをし、何度も上方向からの拳を振るってきたのだ。
『くさわけ』で加速したミニステップで回避を続けるシキジカ……しかし攻撃のヒットは時間の問題だろう。

「(いやウッソだろ……!?絶対ケッキングの速度じゃねぇよコレ……!!)」
予想外のフィジカルスペックに、思考を乱すチハヤ。
この超スピードの絡繰は一体何か……これは意外にも単純なものであった。

「ケッキングの猛スピード……これは……」
「これは分かります……!昔には『特性』という概念は存在していません!だからケッキングの特性も消失……『なまけ』は無かったことになっているんです!」
そう……古来、300年前のカントー地方には『特性』は認知されていない。
ケッキングの唯一の欠点……足枷たる『なまけ』は、存在しないのである。
故にこの空間ルールにおけるケッキングというポケモンは……ハイパワー・ハイスピードを兼ね備えたスーパータフネスと成り上がるのだ。
「(『やるき』を消滅させるのは『かがくへんかガス』などとのコンボで有名だけど……コレが決まれば、その爆発力は無限大……!マトモな方法での勝利はありえないッ……!)」

 
 何度も何度も、『きりさく』による攻撃でシキジカを捉えようとするケッキング。
元来の能力を遺憾なく発揮し、徐々に間合いの面で追い詰めていく。
「(やべぇッ……そろそろシキジカのスタミナが尽きるッ……『やどりぎのタネ』を使う余裕もねぇし……)」
いよいよ限界を感じ始めていたチハヤ。
シキジカと共に肉体的トレーニングをしていたからこそ……自身の身体を指標に、ポケモンの体力を本能で察知できるようになっていたのだ。
しかし窮地と分かっても……彼は思考を止めない。
「(……そうだッ!ここはッ……!)」
逃げ惑うシキジカに、チハヤは最後の指示を飛ばす。

「行くぞシキジカッ……全力で『あまえる』だッ!!」
「め……めるるッ……!」
指示を受けたシキジカは、ケッキングから逃げ惑っていた足を止める。
そしてくるりと振り返って相手の顔を、曇りなき眼でじっと見つめる。

「めるぅ……」
「すろッ……!?」
その眩い眼光を目にしたケッキングの手が、一瞬鈍る。
狙いを定めていた『きりさく』の軌道が、僅かにブレる。

 ……が、それでも。
動きを止めたシキジカの姿を、ケッキングが見逃すはずもない。
「オコリザルッ、仕留めるでござるッ!!」
「す……すろーーーーッ!!」
『あまえる』を繰り出した代償に、彼はそのまま『きりさく』攻撃の餌食となったのであった。
アッパーによる引っ掻き攻撃を受けたシキジカは、アーチ状の軌道を描いて投げ飛ばされる。
しかしそれでも尚、オモトは手を緩めない。
「まだ油断は出来ぬッ……!『はかいこうせん』で焼き払えッ!!」
「すろおおおおおおおおおおッ!!」
投げ飛ばされたシキジカを、高火力の熱光線が飲み込む。
オーバーキル……しかし残心。
決して勝ちを確信しても油断はできまい、というオモトの精神の現れだった。

 ケンタロス(原種)、ベロベルト……と、連戦をしていたシキジカの心身は、既に限界を迎えていた。
「め……るる……。」
遂に彼は膝を折り、戦闘不能となったのである。
「シキジカ……よくやったッ!」
1試合の中で2つも白星を上げたシキジカに謝辞を述べつつ、チハヤは彼をボールに戻す。
そして3匹目のポケモンを呼び出し、バトンを繋いだ。

「次で実質ラストだ……頼むぜ、パモッ!!」
「がじじーーーーッ!!」
現れたのはパモ……ケンタロスRFを使えないことを考慮すれば、事実上最後のポケモンだ。
しかしケッキングと比べても体格差は歴然……一筋縄で行かない対面であることは明らかだ。

 空間ルールによって『はかいこうせん』の反動を帳消しにしているケッキングは、すぐさま動き出す。
「続けて攻めるでござるッ……オコリザルッ、『きりさく』攻撃ッ!!」
「すろーーーーッ!!」
凄まじい速度で迫りくるケッキング。
その姿を捉えたチハヤは冷静に……パモに指示を出す。
「繰り出せッ、『こうそくいどう』ッ!!」
「がじじッ!!」
迫りくるケッキングの脇をすり抜けるように、目にも止まらぬ速さで駆けるパモ。
まずはスピードにバフを掛けることで、速度面だけでも対等に戦えるように対策を施したのだ。


 その様子を眺めていた、聖戦企業連合ジハードカーテル
「ふむ……『こうそくいどう』か。攻撃技である『くさわけ』と異なり、相手にヒットさせなくても急速にバフを獲得できる。ケッキングのような肉弾戦厳禁な相手に対しての初動としては、最適解だな。」
「えぇ、スピードではケッキングを上回っております!あとはちまちまと削っていけば、チハヤ様にも勝機はありますわ!」
「……そう簡単に行くとは思えねーですけどね。」
リベル、キク、シママーマンと……三者三様、試合に対して様々な見解を示す。
そんな中で唯一人……
「……。」
だんまりと、沈黙を決め込むマツリ。
先程まで陽気に笑っていた彼らしくない態度に、隣に居たリベルが違和感を覚える。

「(……どうしたマツリ殿。先程から妙に静かだが。)」
彼女は神妙な面持ちのマツリに、小声で耳打ちをする。
「(……何でもないよ?)」
「(嘘をつけ。視線がフィールドではなく、天井を向いている……一体何を懸念している?)」
「(ハハハ……リベル君には敵わないなぁ。)」
観念した様子のマツリは苦笑いをしつつ、さらなる小声でリベルに返事をする。

 彼の言葉を聞き届けたリベルは……
「(……なるほど、承知した。)」
とだけ返し、そのまま離席。
会場の外へと、扉を抜けて出ていったのであった。

「あら?リベル様はどちらへ……?」
「ハハハ……ちょっと、『応援』を頼んだのさ。」
「……?」



 一方、フィールドでは。
全速力で駆け抜けるパモは、ケッキングの事を全力で翻弄していた。
「がじじーーーーーッ!!」
「走りまくれパモッ!エンジンをかけていけッ!!」
「(ふむ……ただ逃げ惑うだけに非ず、緩急ついたこの軌道ッ……実に厄介でござるッ!!)」
遠近様々な間合いを出入りすることで、相手の攻撃のタイミングを的確に狂わせていったのだった。

 更にケッキングの『きりさく』攻撃は、絶妙な軌道で外れ続けていた。
明らかに、彼の精神が乱れていたのだ。
「すろッ……すろぉッ……!!」
確かにパモの身体には強化が施されている。
が、それがケッキングの直接的な弱体化には繋がらない。


 その理由を……客席の戴冠者クラウナーズらが見出していた。
「分かったぞ……!シキジカの『あまえる』だな!」
「正解です、リッカ。先程シキジカの敗北を悟ったチハヤ君は、置き土産として『あまえる』を打った。このデバフは、ケッキングの精神を大幅に乱している……死して尚もシキジカはフィールドに影響を与え続けている、ということでしょう。」
ここまでは、チハヤにとっても計算の内であった。
どうしようもない時に撃てる技……ということで、彼は先んじて『あまえる』を取得させていたのだ。


「(ふむ……最早、純粋な物理対決では、あのピカチュウへの勝ち目は無いでござる……!)」
脳内でも種族名を誤解をしつつ、追いつくことが難しいと悟ったオモト。
彼は此処で、作戦方針を切り替えることを考える。

「止まれオコリザルッ!」
「すろッ……!」
「ここは精神統一を図るでござる……『ドわすれ』ッ!!」
オモトはケッキングに追跡を止めさせ、『ドわすれ』の指示を出す。
すると彼は涅槃の姿勢になり、その場で寝転んでしまったのである。

「すろー………。」
鼻をほじり、口を開き……これでもかという程の間抜け面を晒しながら、堂々と横たわる。
急に攻撃の手を止めてしまったケッキングを見たチハヤは、困惑する。
「は……?ど、どういうことだよ……?」
一見すれば、勝負を放棄したようにしか見えなかった。

「(明らかに隙だらけ……が、怪しすぎるぜッ!!どうせ突っ込んでいった所を仕留められるとかいうオチだろッ……!)」
無論、ここまであからさまな様子を見せられても……チハヤは攻めに入らない。
この盤面を罠と懐疑することは、至極真っ当な判断である。



 ……が、これを見ていた客席のシラヌイは。
「な……何をしているんだチハヤッ!早く攻撃をしないと……!」
「え……?でもあれ、明らかに攻撃を誘ってませんか!?迂闊に踏み込んだら……」
「そういう問題じゃない!この空間ルールにおける『ドわすれ』は……」
彼がそう言いかけた直後……



「すろおおおおおおおおおおおッ!!」
「がじじッ!!?」
なんとケッキングは、一瞬……まさに一瞬のうちに、涅槃の体制を解いてフィールド端へ移動。
更にその腕の中には、パモを捕縛していたのであった。
「……は!?」
急速な展開にチハヤの理解は一瞬遅れる。
先程から比べても何倍ものスピードで、ケッキングは移動していたのである。

「(う……嘘だろッ!?あのケッキング……目に見えて身体能力が上がっているッ……!)」
「オコリザルッ、『きりさく』攻撃ッ!!」
「すろーーーーーーーッ!」
パモを一瞬だけ放り投げると、そこに目掛けて爪の攻撃を繰り出すケッキング。
凄まじいダメージが、彼の身体に入る。
「がじっ……!」
「ぱ、パモッ……!」
更にそれには飽き足らず、『きりさく』による攻撃は何度も何度も……パモにダメージを与え続けたのだ。

 急速なケッキングの強化に、会場中はざわめき出す。
「な、何が起こっているんですか……あれは!?」
「精神統一……もとい『ドわすれ』は、カントーの兵法書では最高峰の身体強化に繋がると記載されているッ!!つまり『ドわすれ』は、バフ技にて最強……心技体全てに通ずる、万能強化技と化すんだ!」
そう……シラヌイの言う通り、かつての『ドわすれ』は心身を大幅に強化する最強技の一角。
ただでさえスペックを過剰に解放しているケッキングがコレを使えば、最早誰にも止められないのだ。

「パモッ!反撃だ、『マッハパンチ』ッ……!」
「が……じじッ……!」
「(や、やべぇ……!腕をモロにやられてやがるッ……メインのパンチ攻撃が使えねぇッ……!)」
なんとパモはメインたる前脚に重症を負っていた。
『きりさく』は急所に当たりやすい技。
そこへ更に『ドわすれ』による精神統一が相まって、致命的になる部位へ的確にダメージを与えやすくなっていたのだ。

「これで終わりでござるッ……オコリザル、『はかいこうせん』ッ!!」
「すろッ……!!」
トドメを刺そうと、熱光線の準備にとりかかるケッキング。
ただでさえ致命傷を負っているパモが、こんな大技を耐えられる訳がない。
最早この盤面における敗北は、確定的だった。
「ぱ、パモッ……!」
「放てェッ!!」
「すろぉおおおおおおおおおおおおッ!!」
凄まじい熱量の光線が、倒れ伏したパモを飲み込もうとする。


 その直前だった。
パモの身体が輝き始めたのは。
[ポケモンファイル]
☆ケッキング(♂)
☆親:オモト
☆詳細:GAIAの敷地内で捕まえたポケモン。ヤルキモノの時点で、彼のことをオコリザルだと勘違いしていた。そろそろ名前を覚えてほしいと、何度も訴えているらしい。

[ポケモンファイル]
☆コジョンド(♂)
☆親:蒼穹
☆詳細:キリキザンと同じく、GAIA入学前から一緒に居るポケモン。音もなく迅速に移動でき、命令にも非常に忠実。身体のサイズは平均を大きく下回る。

[ポケモンファイル]
☆オドリドリ(♀)
☆親:迷霧
☆詳細:アローラ地方で仲間にしたポケモン。NNは『マイ』。基本的にまいまいスタイルだが、グルメな性格なのでその日の朝食次第で色をコロコロ変える。

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