【第043話】覆す地表と救命者 / ケシキ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「……あいつに一泡吹かせるには、これしかないッ!!」
そうしてケシキは、作戦の実行を宣言する。
「イサナさん……手筈通り頼みますよッ!!」
「う、うんッ……!」
返事をするイサナ、しかし……
「(でも、ニャローテは僕の術中に陥ってしまったはず……!マトモに動くことはできないのに……一体どうやって……!?)」
彼の疑問も無理はない。
ニャローテがまともな状態で無いことは確か……作戦の遂行は難しいだろう。
しかしそんな状況でも、彼は自分のキングドラから目を離すわけにはいかない。
考える暇はない……選択肢は唯一つ。
「(っ……信じるぞ、ケシキッ……!!)」
後輩に、自らの背中を預けることだった。

「キングドラッ……『バブルこうせん』ッ!!」
「むるるーーーーーッ!!」
キングドラは泡の弾丸を発射し、イダイナキバをあらゆる方向から狙撃していく。
その攻撃は、縦横無尽に爆走を続ける相手に何発かはヒットする。
しかし……
「ファーーーーーーーーーンドッ!!!」
相手はそれを察知してか、攻撃を『アイススピナー』に絞り出す。
冷気を纏って縦方向に行われる回転は、周囲の泡を只の氷の粒として叩き落とした。

「(だ、駄目だ……やっぱり『アイススピナー』を出されると、『バブルこうせん』じゃ歯が立たないッ!!)」
その事実は、先の応酬にて既知のことであった。
故に、この攻撃が無効化されることなどたやすく予想はつくはず……ましてや乱射など愚の骨頂だ。
無論……ケシキだってそれはわかっているはずだ。
であれば尚更、その指示の意図は理解し難いものであった。
「(本当にこんなんで勝てるの……!?)」
疑問、疑念、猜疑心……無為に湧き上がってくる。
だが……

「(……えぇい迷うな僕ッ!かわいい後輩が頑張って絞り出した策だ……信じてやれッ!!)」
それでもイサナは邪念を振り払い、キングドラに指示を出し続ける。
「まだだキングドラッ!!『バブルこうせん』ッ!!イダイナキバを狙い続けろッ!!」
「むるッ!むるーーーーーッ!!」
何度も何度も、回避と攻撃を繰り返しながら泡を吐き続けるキングドラ。
しかしその攻撃は再三、凍りついては叩き落され、無駄に終わるばかりであった。
地表には無駄骨の証左たる氷が、張り付くのみであった。
更に……同じ技ばかりを繰り返している故か、段々とエネルギー切れの予兆が見え始める。

「む……るるッ……むるッ……!!」
「(息切れッ!?マズいッ……そろそろジリ貧だ……今日はキングドラしか連れてきてないから、此処で負けたら終わるッ!)」
いよいよ泡の勢いが衰えはじめた。
キングドラもついぞ限界……といった具合である。
「(あ、やべ……これ……負け………)」







「………今だニャローテッ!!『くさわけ』ッ!!!」
「みゃろーーーーッ!!」
ケシキの言葉が、響く。
そして、直後。
ピキリと地表に亀裂が入り……僅かコンマ秒。








 バリバリバリバリーーーーーーーーーーッ!!










 ……と、激しい破砕音。
舞い散るはダイヤモンドダストと氷塊。
そしてそこには、空中に舞い上がるイダイナキバの姿があった。
「ファァーーーーーーッ!!?」
なんと凍りついた地面が一気に捲られ、その上に居た相手は放り投げられてしまったのである。
勢いのある回転は仇となり、そのまま巨体は頭から地面に落下する。
『ビルドアップ』による強化が、完全に裏目に出た形だ。

「今ですイサナさんッ!!仕留めて下さいッ!!」
「あ……あぁッ!!決めるよキングドラ……『りゅうのはどう』ッ!!」
「むるーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
既に満身創痍のキングドラは、渾身の一撃を放つ。
これが最後のチャンスと悟ってのことだろう……全エネルギーを注力したブレスが、思い切りイダイナキバを飲み込んだのであった。
「ファーーーーーーッ!!」




 ……そして『りゅうのはどう』を受けたイダイナキバは、その場で倒れて動かなくなる。
戦闘不能……勝負アリだ。
「……や、やった。助かったーーーーーーッ!!」
イサナは喜びのあまりはしゃぎまわり、ケシキの肩を組む。
「痛ッ……痛い!!」
「やるじゃんケシキ!!君のおかげだよ!!凄いね、凄いねーーーーッ!!」
関節技にも等しい力が、ケシキの首へとめり込んでいく。
「む、むる……!」
勢い余った彼のことを、なんとかキングドラが宥めて事なきを得た。

 戦いを終えたふたりは、それぞれポケモンをボールに戻す。
少しでも疲労の進行を抑えるための措置だ。
「でもさー、一体何がどうなってたのさアレ。僕には全然わからないんだけど。」
イサナの疑問はもっともだ。
ニャローテが碌に身動きも取れない状況で、なぜイダイナキバの足元を掬えたのか……あまりに不可解である。
その策を、ケシキは順を追って解説することにした。

「まず、大前提としてニャローテはちゃんと動けません。下手に走らせたりしたら、イダイナキバに轢き潰されるリスクがある。だから、何もさせなかった・・・・・・・・。」
「何もさせなかった……?ってことは……」
「えぇ。ずっと俺の脇に立たせていました。そしてその間に俺は、ヨーヨーを投げてたんです。」
「ヨーヨーって……あのヨーヨー?」
ケシキが言っているのは、ニャローテの襟裏にある長い毛……彼が武器として扱っている、蕾型のヨーヨーのことである。
「あくまでニャローテ本人は動かさず、俺がコイツを地表に仕込んでおく。地面に落下したヨーヨーは、そのまま降り積もった氷の下敷きになる。そして後はタイミングを見計らい、ニャローテが『くさわけ』でヨーヨーを引き抜けば……畳返しの容量で氷床がひっくり返る。って感じですね。」
「な……なるほど……!」
「相手が強化されて手に負えないのであれば、その力を逆に利用してやれば良い。……そう考えて、土壇場で思いついたのがコレです。」
ケシキはそう、少しばかりバツが悪そうに答える。
先輩に長々と講釈を垂れることが、どことなく後ろめたかったのだろう。

 だがイサナはそれを疎むどころか、目を輝かせて話を聞くばかりだ。
「す、凄いじゃないかケシキ!!僕、感心しちゃったよ!」
「……こんなもの、後付に過ぎませんよ。実際、こんなに色々考えられるほど余裕はなかったです。」
「いやいや、でもその答えにたどり着いたんだろう!?境界解崩ボーダーブレイクも使わずにさ……僕じゃ無理だったもん!」
イサナはケシキの功績を、ふんだんに褒めちぎる。
実際、彼は心の底からケシキのことを評価していたのだ。

「僕、あんま頭良くないからさー……こうやってスマートに作戦を考えられるの、憧れちゃうんだよね!凄いなぁ……!」
「………。」
「……ほらね、持ってるじゃんか。僕にも無いものを、さ。」
そう、このケシキの立案能力は……間違いなく、優れているものであった。
戴冠者クラウナーズのイサナが認めるほどのものだ。
並外れている才能……と言って差し支えないだろう。

「(ま……だから君の問題は、能力のどうこうじゃないんだけどネ。)」
そしてその裏にある問題も……恐らく、イサナは気づいていたのだろう。
「(ソレにいつ気づくかは、君次第だぜ……ケシキ。)」
しかしそれは、敢えて伝えることはしなかった。
ケシキ自身の成長を信じて。


 その時。
「ファッ………ドッ………」
「ッ……!?」
なんと倒れて動かなくなった筈のイダイナキバが、ゆっくりと……立ち上がろうとしていたのだ。
「な、なんで……倒したはずじゃ!?」
「ファ……ンドッ………!」
徐々に意識が戻ってきたのか、ケシキらの方をじっと見つめたまま……敵意を込めて睨みを効かせてくる。
一触即発……再度の開戦は免れない。

「(まずいッ……もう僕もケシキも戦うだけの力がないッ!今度こそ駄目か……!)」
「ファアアンドーーーーーーーーーーーーッ!!」
そして遂に、イダイナキバは彼らの方へと突撃……


 ……するかと思われた。
が、その牙は届かない。
「ファ……ド……」
イダイナキバの身体はボロボロと……砂埃となって崩れ始めたのだ。
その肉体は脆く消えていき、遂に形を保てなくなっていく。
「た、助かった……のか……?」
そして砂の塊と化したソレは、僅かな光を放つ。
僅かな……光を……
「ッ……!!ケシキ逃げてッ!!」
「え」
イサナの掛け声と、ほぼ同時だろうか。

 凄まじい音と共に、爆風と砂煙が舞い上がる。
その風は周囲の物体の尽くを吹き飛ばし、災獄界ディザメンションの風景すらも……壊し、抉って、歪めてしまう。
空間の歪みは大きくなり、飛ばされたケシキの肉体はその狭間へと消えていった。
「う……うわああああああああッ!?」
「け、ケシキーーーーーーーッ!!」
砂煙に目を覆いつつ、イサナは叫ぶ……が、届かない。


 爆風がやがて沈静化するころには……ケシキの姿はどこにも無かった。
「お、おーい!ケシキーーーーッ!!」
呼びかけるも、返事はない。
既に彼は近くには居なかったのだ。
「そ、そんな……」
周囲のビル群がぐちゃぐちゃに歪んで崩れた交差点。
独りになったイサナは、立ち尽くすばかりであった。

「……ッ!?ひ、人!?おーーーーい!!」
そしてその時……空を何かが横切った。
その何かは……急激に高度を下げて接近してくる。
「チルタリスッ、ちょっと高度下げてくれ!!」
「ひるるっ!」
正体はチルタリスと一人の背が低い男子学生……そう、黒衣の観測者ジャッカニューロストームであった。
先刻、ホーンから開放され……そして『現世』の方に戻る最中だったのだ。
「大丈夫か!?……ってアンタ、戴冠者クラウナーズの!?」
「え、えっと……その、後輩の男の子が……!」
駆けつけてきた黒衣の顔を見たイサナは、先程までの事を伝える。

「ま……またケシキか!!ってちょっとイサナ先輩!アンタも消えかかってますよ!」
「え、マジ!?」
実際ストームの言う通り、イサナの色が薄くなって透明化している。
かなりの長時間災獄界ディザメンションに居た影響だろう……かなり危ない段階に来ていた。
「と……とりあえずはアンタの安全確保が最優先だ!チルタリス!今のお前から見て10時の方向2km先にゲートがある!イサナ先輩を送迎しろ!」
「ひるるっ!」
そうしてチルタリスは自らの背中を差し出し、イサナに搭乗を促す。
「け……ケシキの事は任せたよ!!」
「あぁ、わかった。任せてください。」
そうしてストームは現世へ飛び立っていくチルタリスを見送ると、すぐに別のボールを投げる。

「僕、探索は苦手なんだけどな……出てこい、フワライドッ!」
「ぷわわー。」
現れたのはききゅうポケモンのフワライド……風に流され大空を揺蕩うポケモンだ。
「フワライド、生体反応を探るんだ。Layer-2の圏内までで構わない。それ以降は生存は無理だからな……頼むぞ。」
「ぷわー。」
そう言ってストームは、フワライドの腕を自身の右腕に巻きつける。
これで彼女の飛んでいった方向に移動する……という算段だ。
本来の人間であれば極めて危険な行為だが……本体が常に地表に存在している影隷エンシェイドの彼だからこそ出来る芸当である。

「全く……不幸体質にも程があるだろ!僕も、アイツも……!!」



 ーーーーー時を同じくして。
「ッ……こ、此処は……」
とてつもない距離を飛ばされていたケシキは、ようやく風が収まった……と気付き、ゆっくりと立ち上がる。
周囲に広がっていた光景は、先程まで居た大都会の交差点とは全く別の場所であった。

 大きなドーム状の空間……どこかの洞窟の最奥部だろうか。
真ん中には巨大な裂け目が広がっている。
そして人間……のような何かが群れているのが見える。
「(あの服装……アゼンド先住民のものか。)」
ケシキの洞察通り、その独特な衣装は……アゼンド地方に古来から住まう民のものであった。
ゆらゆらと動いているものの、何か言葉を発することはない。
あくまでもコレは、『人間のような何か』に過ぎないのだろう。

 そして何よりも、目を奪うものは……
「(天井に描かれているのは……なんだコレ、龍か?)」
洞窟の天井一面に描かれている、巨大な怪物の絵。
緋の頭、青い角、橙の爪、緑の翼、紫の胸に桃色の尻尾……見るだけで悍ましさを覚えるような、そんな生物の壁画であった。
「(一体何の空間だ……ここは。儀式か何かを執り行っているのか?であれば壁画のコレは悪魔か神か……否、わからん。)」
実際、ケシキの考察も大方的を射ているものだった。
確かに謎の松明が灯され、祭司のような男も居る。
儀式……のように見えるのも納得だろう。

 そうケシキが考えていた時、『人間のような何か』が大きな動きを見せる。
なんと小さな子供を1人、中央の裂け目から蹴り落としたのである。
「は……!?」
何が起こったのか分からないケシキ。
子供は真っ逆さまに、穴の奥深くへと落下していった。
「……ひ、人身御供かッ!!」
ケシキは驚愕のあまり、思わず裂け目の奥底を見てしまう。
底知れぬ真っ暗闇の中……ただひたすら、子供はまっすぐに堕ちていく。
既に遠く、はっきりとは見えなかったが……それは金色の髪をした、男の子だった。
「(……あれ?あの子供……何処かで……?)」
どこか既視感を覚えたケシキであったが、その正体はわからなかった。
「(……聞いたことがある。アゼンドの先住民には数多の民族が居たが、その多くは生贄の儀式をしていた……という噂を。もしやこれは……実際に過去に起こった出来事……!?)」
ケシキは自身の知識を総動員させ、今の現状を理解しようとする。


 しかし彼の思考に、大きなノイズが入り始める。
思考の論理が、断続的になっていく。
「(ッ……駄目だ、息が苦しい。)」
ニャオハ……改めニャローテをボールに戻してしまったためだろうか。
ケシキの体調が、みるみるうちに悪くなっていったのだ。
「(加えて……)」
更に彼は、自分の腕を確認する。
するとそれは前回と同じように……うっすらと消えかかっていたのである。
彼の身体がこの世界から消滅するのも……最早時間の問題、といった具合であった。
「(ッ………あ。)」
病弱なケシキの身体が、ふらりとよろめく。

 するとそのまま……その身体は、宙に投げ出される。
「え……」
その事実に気づいた時には……既に彼の全身は空気抵抗の風圧を受けていた。
つまり、落下が始まっていたのだ。
「う、うわああああああああああーーーーーーーッ!!?」
底知れぬ闇の中へと吸い込まれるケシキ。
流石に今度ばかりは駄目だろう……と、走馬灯が流れ始める。




 ……が、そんな彼の身体は。
ある地点で、ぴたり……と止まった。
「ッ……!?」
空中に静止したケシキ。
まるで水の中にいるかのように、その場で滞空して動かなくなる。
「ど、どういうこと……だ?」
何一つ見えない暗闇の中で、周囲を見渡す。
するとその要因は……存外近くに存在していた。

「ふりりー!」
「ッ!?ぽ、ポケモン!?」
ケシキのすぐ背後には、体長20センチほどの丸く黄色いポケモンが居た。
つぶらな瞳を輝かせ、ふわふわと宙を漂っている。

 このポケモンの名前はヒラヒナ……パルデア地方などに生息する、エスパータイプのポケモンだ。
どうやらケシキは、このヒラヒナによって落下を止められたようだ。
「助けて……くれたのか?」
「ふりり!」
ヒラヒナは元気良く答える。
本来であれば警戒心の強いポケモンだが、この個体はそんな様子は微塵も見せない。
「(誰かトレーナーのポケモン……というわけでもなさそうだな。しかし一体何故……)」
「ふりりー!」
ケシキが色々と考えを巡らせていくうちに、ヒラヒナはゆっくりと高度を下げ始める。
低速度の落下は、数分間にも及んだ。

「そ、そういえば……さっき子供が落ちていったんだ!お前、知らないか?」
「ふり?」
きょとんとした顔を浮かべるヒラヒナ。
「……知らなさそうだな。」
どうやら先の子供とこのポケモンには、何も関係性はなさそうだ。
「(あの子供の正体がこのヒラヒナかとも思ったが……違うな。このヒラヒナ、明らかにメスの個体だ。)」
「ふりり。」
「(……加えて、色が少しおかしい。チハヤやイロハのポケモンに共通する点が多い。やはりこの世界のポケモンか……?)」
様々な思考を巡らせるケシキであったが……やはり明白な結論は出ないままであった。

 やがて底知れぬ暗闇の中に、僅かな光が挿し込み始めた。
するとその時、ヒラヒナが激しく鳴き始める。
「ふりっ!ふりりっ!」
「な、何だ……?」
彼女の視線が向けられているのは、ケシキの腰元に携えてあるボールだ。
既にポケモンが入っているものが4つ……そして、空のものが2つある。

「……まさかとは思うが、これに入る気か?」
「ふりりっ!」
そうしてケシキが空のボールを差し出すと、ヒラヒナは自らボールの中へと飛び込んでいく。
間もなく、捕獲完了のブザー音が鳴った。
「な、何が目的だったんだ……コイツ……!?」
意図の読めないヒラヒナの行動に、困惑するケシキ。
だが、ちょうどそのタイミングで……

「しまった!サイコパワーが途切れたッ!!」
緩衝材になっていたヒラヒナを失ったケシキは、そのまま再度落下していく。
眼下に広がる、光源に向かって。
「うわーーーーーーーッ!?」



 ーーーーー思わず目を閉じたケシキが再度まぶたを開くと……そこは空気の透き通った場所であった。
身体の消滅も、ピタリと止まっている。
「……げ、現世か。ここは。」
その事を自覚した彼は、周囲の状況を目視で確認する。
するとそこは……

「ッ……!?壁画!?さっきの……!?」
そう、先程まで災獄界ディザメンションで見ていた洞窟と、全く同じものであった。
空間の中央には大きな裂け目があり、天井には龍のような怪物の壁画がある。
所々鉄骨などの現代技術で補填されているものの……同じ場所であることは疑いようもないだろう。

 その時、ケシキのボールからヒラヒナが飛び出してくる。
「ふりりーーーー!」
彼女は周囲を見渡すと、喜んだ様子でケシキの周りを駆け回りはじめた。
「……お前、もしかして災獄界ディザメンションを抜けるために俺のボールを?」
「ふりり!」
「自力じゃ脱出できないから?」
「ふりり!」
ケシキの問いかけに、ヒラヒナは首を縦に振った。
「……なるほどな。道理で見ず知らずの俺を助けたワケだ。」
「ふりーーー!」

 ハイテンションのヒラヒナは、そのまま洞窟の中を駆け出していく。
「あ、ちょっと待て……!」
そんなヒラヒナを、ケシキは追いかける。
彼女が向かった先にあったのは……ワイヤーのようなものだ。
天高くから垂らされたそれは、無数の歯車のようなもので繋ぎ止められている。
「ふりり!」
「コレは……エレベーターか。しかもアナログ式の。」
主にオーレ地方など、治安の悪い場所の地下市場で使われるタイプのものだ。
こんな祭場のような場所にあるのは、些か不自然な機構であった。
最近になって増設されたものであることは、見るに自明だろう。

「……あれ?このエレベーター、動いてないか?」
「ふりり!」
実際、ワイヤーの先にある歯車はゆっくりと回っている。
恐らく、このエレベーターを……誰かが使っているのだろう。
主に上階から、降下する目的で。


 やがてエレベーターは、ゆっくりと降下してくる。
鉄格子の箱の中には……ケシキも見知った人物が乗っていた。
「なっ……あなたは……!?」
その顔を見て、彼は驚愕した。



「と……トレンチ学園長!?」
「ッ……!!」

[ポケモンファイル]
☆フワライド(♀)
☆親:嵐
☆詳細:嵐のポケモン。放っておくと風に流されてどっか行くので、食事やメディカルチェックは常に屋内で行うらしい。月の食費は200円。安い。

[ポケモンファイル]
☆ヒラヒナ(♀)
☆親:ケシキ
☆詳細:陽気な性格。例えるならば根明なギャル。警戒心が殆どない。色が少しくすんでいる。

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