16-3 熱意を灯す応援歌

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください



 <シザークロス>の奴らとポケモンたちに交じって、俺と俺の手持ちたちも手伝いをする。
 カイリキーは特に大活躍して褒めちぎられていた。
 休憩中、控室(打ち合わせ中)と張り紙されている部屋に少しだけ立ち入らせてもらった。
 中ではアプリコットとライカ、テリーとかジュウモンジ。ドラムのクサイハナ使いの男アグリ(やっと名前覚えた)と他にもモルフォン使いのキーボード引きの女性やバルビード使いのベーシストの男(こっちは名前聞けなかった)が、見たまんま選曲などで揉めていた。

 やっぱり邪魔そうだからそっと立ち去ろうとしたら、ライチュウのライカと視線があってしまい、鋭い視線で引き留められる。お前、目つき悪いよな。

「あ! どうしたの、ビドー?」
「……アプリコット。あんまり俺がでしゃばるのもあれなんだが……あいつらにむけて一曲リクエストしてもいいか」
「いいよ! どの曲?」
「え、いいのか?」
「うん? ダメなの?」

 軽くオーケーをされてびっくりしている俺に、逆に彼女も戸惑う。

「だって、この中でアサヒお姉さんとユウヅキさんのことよく知っているのって、ビドーだけじゃん?」

 純粋な目でそういわれて……そんなによく知らない気がして少し自信がなくなってくる。
 正直にそのことを伝えると、アプリコットは「大丈夫」と断言する。

「今、聞いてもらいたい曲のイメージが浮かぶくらいには、ふたりのこと考えているよ、ビドーは」

 ヨアケとはまた違った作り笑いを浮かべるアプリコット。
 若干決めつけも入ってないか……と思いつつ、リクエストの曲名を告げる。
 曲名を聞いた彼女たちは、意外そうな顔をしてから、「いい選曲だ」と口々に言った。
 慣れない言葉に戸惑っていると、ライカに鼻で笑わられ、ジュウモンジには「こういう時は素直に受け取って置きやがれ」と軽めに睨まれた。


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 私はユウヅキと自由行動を許されていたけど、バタバタしているみんなといるのが居所悪かったので、結局隅っこにいた。
 なんだかんだで、昨夜よりも話せる時間ができたのは、幸いだったのかもしれない。

『ユウヅキはともかく、そんなに辛気臭い顔していたかなあ私……』
「今のアサヒはそもそも表情が見えないから余計不思議だ」
『地味にひどい言いぶりっ』
「すまない。でも今、むくれているのは分かる。やっぱり声……じゃないか?」
『声、か……』

 声、という単語で思い出したことを告げる。

『私たちは、もっと声を上げるべきだったのかもね』
「だが、巻き込みたくはなかった」
『うん、そうだね。でもジュウモンジさんの言う通り、私たちの手に負えないのも事実だよ』
「……そう、だな。けれど…………」

 塞ぎ込む彼に、私は素直になれなかった先駆者として、一つ感想を言った。

『私もね、“助けて”って言えるまでだいぶかかったよ』

 ユウヅキも、きっと言えるようになれるよ。
 そう願いを込めながら、私は零す。
 彼が私を抱く力を強くする。彼の額と人形の額がくっつきそうな距離まで近づく。
 涙こそ流していなかったけど、言葉には出さなかったけど……ユウヅキは小さく悲鳴を上げていた。


 ……その感情に気づいたのかどうかは分からないけど、ビー君のルカリオが「準備が終わった」と私たちを呼びに来る。
 <シザークロス>のみんなによる、突然で最後のライブが、開演されようとしていた……。


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 簡易建設された会場には、人だけじゃなく、ポケモンたちもいっぱいいた。ビー君のポケモンたちも勢ぞろいで大所帯である。
 これだけのポケモンたちに囲まれていると、やっぱり私たちの手持ちのみんなのことがどうしても気がかりになってしまう。
 そんな心境を察されてしまったのか、ビー君に言われる。

「あの時、全員連れて来られずに悪かった」
『ううん、ビー君は悪くないよ、悪いとしたら、それは……』
「……そういうところが、辛気臭いって怒られたんだと思うぞ。このライブ終わったら、この先どうするかまた話しあうぞ」
『うん……ビー君、なんか前向きになったね』
「振り返っている余裕がないだけかもな。ヤミナベも、それでいいな?」

 静かに頷くユウヅキを、ビー君が席に案内する。
 ルカリオとビー君に挟まれる形で、席に座らされるユウヅキ。私は彼の膝の上でライブを聞くことになった。

 アプリちゃんたちがステージに立ち、ライブが幕を上げる。
 みんなが息を呑んで生まれる、一瞬の張りつめた静けさののち、演奏は始まった。

 ドラムのカウントから、刻まれるリズム。かき鳴らされたギターとベース、リズミカルに弾かれるキーボード、そしてその上を彼女のボーカルが芯まで通り抜ける。
 音の圧が、全身に響き渡る。歌詞が心に突き刺さって震えていく。そのメロディに乗るようにバックダンサーたちは踊り、それもまた音楽の一部となる。
 身体がないのに、私の感情が熱くなっていった。
 それは私だけじゃなくて、じっと見ているユウヅキとビー君もルカリオも、みんなもそうだったと思う。

 数曲終わって、あっという間に濃い時間は過ぎていき、いよいよ最後の曲になる。
 歌いっぱなしで荒い息を整えつつ、アプリちゃんはあたしたちに向かいなおって、МCをする。

「えー、それでは次が最後になります。この曲はビドーからふたりへ送るリクエスト曲です!」

 思わず横目で見るユウヅキと私の視線を、ビー君は「前向け」と手のサインで促してかわす。
 向かいなおると、アプリちゃんと目が合った。にかっと笑顔を作った彼女は、相棒のライカに合図、ライカは電極を使い、電気で照明ライトを操作した。
 そしてアプリちゃんを中心にスポットライトが広がる。

「そして、あたしも今の貴方たちに一番歌いたかった歌です……では、聴いてください! ――――――――“譲れぬ道を踏みしめて”」

 ――――その曲は、詞は、挫折からの奮起のメッセージを籠めた歌だった。


 ――何度も負けても破れても、生き続けている限りそこが終わりじゃない。
 ぶつかり合うことすらできずに、すれ違う中で覚えた引っかかり。
 その感情を捨てないで欲しい。そのワガママな気持ちは大事なものだから。
 もう最後にはわるあがきしか出来なくなったとしても。
 守りたいもの譲れないものがまだ残っているのなら、まだ終わりではない。
 何度でもまだ立ち上がれるはず。何と言われても決して消えないで。
 生きていこうまだまだ命が燃え続ける限り。
 思うまま歩んでいこう。譲れぬ道を踏みしめて――


 …………メッセージを、エールを聞き終えた後、思う。

(ああ。「諦めないで」って、言ってくれているんだ。アプリちゃんも、ビー君も)

 こういう時、感情を表せる笑みを作れる口元があったなら。
 涙を流せる目があったら、感謝を拍手で伝えられる身体があったならどんなに良かったか。
 拍手喝采の大歓声の中、ユヅウキが私を抱えたまま独り立ち上がる。
 彼は大きく深呼吸したのち、アプリちゃんに感謝を言葉で伝えた。

「……確かに……確かに受け取った。歌ってくれてありがとう」

 百パーセント全快にはまだまだ遠いけど、その言葉にはユウヅキの感情が乗っていた。
 だから私も、ありったけの感謝を言葉にして届ける。

『とっても素敵な歌を、ありがとうねアプリちゃん!!』
「!! どういたしまして!!」

 満面の笑顔で返してくれるアプリちゃんに見とれていたら。ビー君とルカリオも立ち上がる。
 ビー君もなんかコメントするのかな? なんて呑気なことを考えていると、イグサさんが突然扉を開けてランプラーとシトりんと外の様子を見に行った。

 ルカリオとビー君の表情はとても硬く、冷や汗を垂らしていた。
 どうしたのか尋ねようとする私の声を押しのけて、ビー君は慌てて大声を出した。


「?!――――やばい! 結構、いやかなりの数の何かがここを目掛けて迫ってきているぞ!!」


 その叫ぶ声を聞いた<シザークロス>のみんなの行動は素早かった。
 アプリちゃんが渡したマイクでジュウモンジさんが号令を出す。

「団体さんのお出ましだぞ!! 総員、戦闘準備だ!!!」


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 あたしたちが急いでビドーのいう大勢を迎え撃つために準備をしていると、アジトの外、【アンヤの森】の中を一足先に斥候してきたイグサさんとランプラー。そしてシトりんが戻ってくる。
 シトりんとイグサさんは、だいたいの状況を伝えてくれた。

「あはは、イグサとその辺見てきたよ。囲まれてはまだいないけど相当な数のポケモンが、誰かの指示で動かされている感じだったね」
「その大勢のポケモンの魂の状態が、異常な感じになっていた。おそらく、なんらかの方法で干渉されて操られている」

 何らかの方法ってなんだろう……? と疑問が浮かび上がっていたら、あたしたちの携帯端末がまた一斉に鳴り始め、画面が勝手に点灯する。
 画面に映るのは、真っ白なシルエットの怪人クロイゼルング。

「やっぱりお前かクロイゼル……!!」

 わなわなと怒りを隠しきれないビドーを、ルカリオが「堪えろ」と吠える。
 クロイゼルはあざ笑うように、前に言っていた人質やポケモンたちを解放するための条件……“要求”を突き付けてくる。

『通達だ。一つ、“ポケモンを多く捕まえて転送装置を用いて送れ”。二つ、“賊を掃除しろ”……これが今こちらから出す要求だ。賊と言っても指針がなければ動きようがないだろうから、簡易的にリストを作って置いた』

 そのリストを見てみると、嫌がらせのように先頭に<シザークロス>の名前も記載されていた。
 ……こちらに向かってくるポケモンたちの意味。それは、反抗の芽を摘んでおくこと……!

『これは君たちの望みにある程度沿った条件だ。だから君たちもせいぜい奮闘するように』

 通話が切れたと同時に、端末を投げ捨てたくなる衝動に襲われたけど、ぐっとこらえる。

「アイツ……あたしたちを潰すのに、他のみんなの感情を利用しようとしている……!!」
「賊が居なくなって欲しいって願っていやがった奴らはそりゃ多いだろうな。てめえの大事な者救いたきゃ、国民同士でも端から裏切って切り捨てろという事だろ」
「く……!」
「さらに言えば、掃除って言葉を使って正義感や免罪符でも煽っているからタチが悪いよな」

 ジュウモンジ親分は「嫌われたもんだな、義賊も」と嘆くフリをしてから、ハッサムに目配せしてキーストーンのついたグローブを装着し、拳を握りしめた。

「だが! こっちにも譲れないもんがあんだよ! ――――意地を見せるぞハッサム!! メガシンカ!!!」

 弾ける光と共に、フォルムを変えるメガハッサム。長い鋏を指揮棒のように突き出し、開戦の狼煙を上げる。
 それに合わせてあたしたちは声を張り上げた。
 暗雲の夕時。【アンヤの森】の攻防戦の始まりだった。


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ゲストキャラ
テリー君:キャラ親 仙桃朱鷺さん
シトりん:キャラ親 PQRさん

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