ルカリオナイト④

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

神奈川県 横岸市 『品川会』本部

住宅街の中に門を備えた大きな邸宅がある。一見するとお金持ちの家のようだが、これでも立派に指定暴力団『品川会』の本部である。しかし今日はいつにも増して組員の姿が多い。玄関から石畳の通路、階段、そして道路に面した門の入り口まで何匹もの組員の姿が見える。
その入り口の傍に、メタリックブルーのRX-7 ED3Sが停車しており、この周囲にも組員の姿がある。組員達は周囲を少し気にしつつも、少し姿勢緩めて雑談するなど、多少は和んでいるようだ。
暫くそんな状態が続いていたが、やがて事務所のドアが開けられると、和んでいた組員たがピシッとした直立不動の姿勢を取る。


『お疲れ様です!』


ドア付近にいた組員達は一斉にドアの方向に頭を下げて、異口同音に大声で言う。
その頭を下げた先にいたのは、サングラスにトレンチコートを羽織ったサーナイト。そのグラスの奥の眉間には皺を寄せ、怒りを必死で抑えているように見える。サーナイトはそのまま門の方に向かってつかつかと歩いていく。その奥からサーナイトを追いかけるように出てきたのは、ストライプスーツに身を包んだバリヤードこと、北畠。だが彼の追いかけるサーナイトは、苛立ちからか足を速めて出ていこうとする。


「長尾さん!」


北畠はサーナイトに向かって呼びかける。


「……何か?」


長尾と呼ばれたサーナイトは、怒りを込めた声色と表情で顔で北畠に振り返る。その声は女性のそれであった。


「…なにとぞ上杉大臣にも、よろしくお願いします」


そう言って北畠は穏やかに笑みを浮かべながら丁寧に頭を下げる。それが余計に彼女を苛立たせたようだ。


「……反社の分際で、政府を馬鹿にしておいてただで済むと思わないことだ。その気になれば、私の鶴の声一つで、ヘリでも戦車でも向かわせることができるのだからな」

「…………」


その言葉で一気に周囲のヤクザ達が殺気立つ。これ以上何か起これば、拳銃を引き抜いて一気に長尾を殺しにかかるだろう。


「皆さんストップ」


その雰囲気を察したであろう北畠は右手を上げて周囲を制す。


「彼女には、本当にそれだけの絶大な権力が与えられていますからね。実現は容易いです。あまり刺激しないように」


そう言葉を続けてヤクザ達に注意を呼び掛けた。そのうえで…


「長尾さん、私は何も政府を馬鹿にしたつもりは微塵もありません。あくまでも貴方方にとって危険な情報を我々が握っていることをお伝えし、その救済手段を提案したにすぎません。
我々としても政府に潰れてもらっては困りますから…それに対して少し対価は求めましたが、放置した末の損害に比べれば遥かに軽いかと…」


長尾を宥めているように見せかけているが、実際はただの自己弁護である。だが図星なのか、長尾は悔しそうに下唇を噛むばかりで何も言い返さない。


「………」


やがて彼女は踵を返すと、苛立ちをぶつけるように門を力強く開け放つ。そのままツカツカとRX-7 ED3Sの前まで歩き…


「どけっ!!!」


周囲に立っていたヤクザに大声で怒鳴りつけて無理やり車から引き離す。それから中に乗り込みエンジンをかけると、その怒気を示すかのように音を吹かしながら、走り去っていった。










「…これで司法までも『品川会』の掌の上…か。アンタ揉め事に介入するの、本当に上手いよな…」

「まあそれこそ、ヤクザ本来の生存戦略ですからね。原点回帰も時に必要ってことですよ」


応接間で、北畠とエルレイドが煙草を吸いながら話している。先ほどまで部下達が殺気立っていた様子とは大きな違いだ。


「しかしそれで、あの安国寺凛のトラブルに恐れず突っ込んでいくとはな…。俺たちを嫌っている奴が持ってきた頼みなんて、十中八九ろくでもないものなのに二つ返事でOKしやがる」

「結果、我々はかつてない大きな利益を得られたわけですからね。一度は話を聞いてみないと分からないってことですよ」


今回の『龍造寺生保』・『鍋島証券』の一件で、『品川会』は凛からの依頼を受けて証拠保全に向けて参入した。参入の理由として、北畠は自身も被害に遭ったことを語っていたがそれだけではない。
北畠は予め得ていた天下りの情報を弁護士に渡し、さらにこの情報は、自分たちが流したことを統合幕僚長である長尾に伝えた。当然彼女は驚愕したが、ここで北畠は今後『品川会』が関係した事件での裁判で、『品川会』が優位になる為に引き続き圧力をかけるよう取引を持ち掛けた。当然長尾は激怒し、弁護士にもその場で電話で抗議をしようとした。

だが、北畠曰くこれはあくまでも『品川会』の独断であり、一連の事件とは別の問題であるとした。当然弁護士にもこれは伝えていない。したがって、これを断れば弁護士と築いてきた対策も水の泡になり、結局更迭は免れないとした。
こうなると、もはや『品川会』側の要求を飲むしかなくなる。そもそも自分たちが蒔いた種であり、非難されて当然のことだ。
これによってついに『品川会』の実質的な司法掌握に成功した。一暴力団が、国の根幹となる部分にまで手を出し始めた瞬間であった。


「これで俺たちは、どんな違法行為をしようと罰を軽く出来る訳だな」


エルレイドが意地悪な笑みを浮かべ、北畠がそれに返す。


「いやいや、毎回それをやっていれば不自然なことになりますからね。まあ犯罪の状況次第です。多用するつもりはありませんから、アテにして変に捕まる真似は駄目ですからね?」


そうハッキリと釘を刺す。既に先まで見据えているようで、運用方針も頭にあるようだ。多用はせずとも、恣意的に司法の判断を変えられるという事実だけで、『品川会』にとっては大きな武器であり心強いことである。
本部の中にいる誰もが、一連の騒ぎで勝ち得た勝利の喜びを嚙みしめている。










その頃、一台の白いバイクが住宅街の中を猛スピードで駆け抜けていた。他の車も歩行者の横断も許さないような速度と、どことなく気迫のようなものを纏っている。乗っている人物はバイク用のスーツを身に着け、フルフェイスのヘルメットをかぶっている為、種族も分からない。
そのバイクは、『品川会』の本部前に来ると、玄関の直ぐそばに停止した。この時は、先ほどまで外に多くいた組員達もほとんどが退散している為、この時点では誰も声を掛けなかった。
バイクの人物は、エンジンを止めると本部の門を乱暴に開けて、敷地に入った。


「おい……」


玄関先を箒で掃除していた組員がそう声を掛けた瞬間、バイクの人物は組員の腹部に鉄拳を入れる。先制攻撃を受けた組員は声を発することもできず、その場に前のめりに倒れこんだ。
そのままバイクの人物は、鍵の開いていた扉を勢いよく開けた。


「!!…誰だお前!」


中にいた組員達が声を張り上げるが、バイクの人物は一目散に応接室に向けて駆け抜けていく。その動きは明らかにこの建物内の間取りを知っているようであった。


「こいつっ!」


数人の組員が止めようと攻撃を加えようとするが、バイクの人物はその直接攻撃の死角や隙を上手く突き、局部や腹部、頭部に拳で返り討ちにした。


「何事ですか?」


応接室にいた北畠は音で異変に気付き、廊下の方に視線を向ける。その瞬間、バイクの人物は、応接室の中央に座る北畠を一目見ると、水色に輝くグルカナイフを発現させて、北畠に飛び掛かった。


「っ!!」


その瞬間、エルレイドを含めた数人の部下は一斉に拳銃を抜く。
そして、グルカナイフの刃が北畠の脳天を突く直前で、バイクの人物は動きを止めた。


「……………」

バイクの人物は、ナイフを北畠の頭に突きつけながら、黙って彼に視線を向けていた。その人物の側頭部には、エルレイドの構えた拳銃の銃口が突き付けられ、他の組員達の構える銃も、全てバイクの人物に向けられている。
一方北畠は、バイクの人物に視線を向けるも、慌てた様子も無く微動だにしない。命を間一髪で取られかねない状況ながらも、異様に冷静な様子であった。

しばらく、その場に殺意と凄まじい緊張感が漂い、僅かな呼吸音しか聞こえない時間が続いた。


「…こんなことしなくとも、頼みがあるなら聞きますよ。雪乃君」


北畠が沈黙の空気を破って口火を切った。さらに…


「すぐに手が出るその癖、いい加減直せよ。もう良い大人なんだからよ」


エルレイドがそう続けて銃口をヘルメットの人物から離す。すると、その人物はヘルメットを脱ぎ、その素顔が明らかになった。


「……………」


その素顔は、青を基調とした犬型の頭部に、後頭部にはグレーの房……ルカリオであった。その表情は非常に険しく、内なる怒りを堪えているように思えた。


「……武器と弾薬が欲しい。金に糸目はつけない」


雪乃と呼ばれたルカリオは、低い女性の声で言った。一見冷静な声色だが、表情に表れていた感情が、やや籠もっているようにも聞こえる。糸目は付けないとわざわざ言っている点がそれを強調していた。


「君らしくもありませんね…誰を相手にするつもりですか?」


雪乃の返した答えに、北畠は疑問の表情を浮かべながら尋ね返す。


「『PRFA』よ」

「…これは穏やかじゃありませんね」


北畠は眉をひそめて感心しない様子で言った。
『PRFA』は、太平洋全般をその活動場所とする海賊である。活動範囲も広く、組織としても規模が大きい為、正規軍も手を焼いている存在であった。
だが、雪乃の言い方が正しければその組織に対して攻撃を加えると言っているのだ。


「…まあとりあえず、そこにかけてゆっくりと話しましょう。芝山君、彼女にお茶をお出ししなさい」


北畠はエルレイドに指示を出して、お茶の準備をさせる。これによって、先ほどまでの緊張感は一気に緩み、組事務所全体も落ち着きに包まれた。
雪乃の方も臨戦態勢を解き、大人しくソファに腰掛けた。










「…それで、何故そんな大それたことをしようとしてるんです?君はもうあの組織とを辞め、特に禍根を残した訳でもないと思いますが…?」


北畠は膝の上で手を組み、改めて雪乃に尋ねる。武器弾薬の貸与はともかくとして、目的が純粋に気になっていた。
問われた雪乃は視線を落としながら静かに答える。


「……凛が奴らに襲われた…理由はそれだけよ」

「……なるほど、理由としては十分ですね」


理由は一見些細なことのようにも思える。しかし彼女の言葉と声色、目の色から北畠は全てを察し、納得したようである。そのまま雪乃は促される間もなく続けた。


「組織に対して直接攻撃を加えた奴を、『PRFA』が許すわけもない。だからこそ、今度はこちらが攻撃を受ける前に、司令塔から何から完全に壊滅させる必要がある」

「…そのための武器弾薬ですか」


そうよ、と雪乃は北畠の問いに肯定する。その瞳には強い決意の色が宿っていた。
彼女は本気で一匹だけで挑むつもりなのだ。


「しかし、組織には昔の仲間もいたりしませんか?彼らに対してはどうするんです?…といいますか、かなり高い確率で刃を交えることになるかと思いますが……」

「アタシの邪魔をしようというなら、例え旧知の仲間であっても……殺すだけよ」


北畠の杞憂に対しても、雪乃は淡々と答える。「殺す」と宣言したその眼には、蒼い焔が宿り、声色にも一切の迷いは感じられない。
第三者から見れば、凛が襲われたことで何故ここまでの行動に打って出られるのかは読めない。だが、雪乃と北畠にはその理由がはっきりと理解できていた。
そして……


「分かりました、君が望むだけ武器も弾薬も貸しましょう。お金も取りませんよ」


北畠は二つ返事と言っても過言ではないほど、あっさりと承諾した。しかもレンタル料も取らないというのだから、条件としては破格のものである。
雪乃はお礼を言おうと口を開きかけたが…


「ただし、一つだけ条件があります」


少し厳しめの声でピシャリと言う北畠。
しかし、すぐに温和な表情にもどって続ける。


「必ず生きて帰ってくること。条件は、それだけです」

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