【第020話】戯曲と監獄 / イロハ、シグレ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 グラウンド端にて。
ちょうどバトルコート1つ分を分割するようにして集まっている4名の学生が居た。
長雨レイン迷霧フォッグストーム蒼穹フェア……黒衣の観測者ジャッカニューロの面々だ。

「しっかし今更バトルの実践授業かよー、たりー!」
そう愚痴を零すのはストーム
常に危険な場所で実践訓練を積み続けている彼等からしてみれば、この授業はまさに退屈そのものなのだろう。
戦闘経験が違い過ぎるあまり、一般生徒らにおいそれと勝負を挑みに行けないジレンマもある。
そのせいで代わり映えのしない絵面に、ストームは大分不満があるようだ。
が、しかしそんな態度に蒼穹フェアは叱咤する。
「おいストーム、文句を言う暇があるならジュナイパーの動きを観察しろ!!」
「えー、だって今更だろこんな訓練。お前のキリキザンとやり合うの、もう何百回目だよー。」
そんなことを言い合う二人の間では、ストームのジュナイパーと蒼穹フェアのキリキザンが刃を交え合う。
「るほうっ!」
「じゃぎんッ!!」
激しい金属音とともに、互いの胴を狙うようにして攻撃を放ち合っているのだ。

「まーまーそう言わずに。ポケモンの体調チェックの一環だと思って下せぇな。俺ら丁度4人だし……3人バトルの課題、ちゃちゃっと終わらせましょう。」
横から口を挟むのは迷霧フォッグ
視線を戦闘中のシャワーズの方から動かさないまま、ストームを宥める。
「ちぇー。マジでだりー!」
そう零しながらも、ストームはジュナイパーの方へと視線を戻す。

 その一方、迷霧フォッグがふと思い出したかのように、向かい側に居る長雨レインへ告げる。
「っつーか長雨レインさん。今朝学園長が言ってたんすけど……黄昏トワイライトの奴、今日アローラ地方での仕事・・から帰ってくるらしいっすよ。」
黄昏トワイライト……ずっとこの養成プログラムを欠席していた、黒衣の観測者ジャッカニューロの一員の名前だ。

 その一言を聞いた長雨レインの顔が、大きく引きつる。
「ほ、本当か………それは。」
「えぇ。午後イチの便でアゼンド海上空港に着くらしいっす。」
「アイツ、授業の資料とか一切目を通してないだろうな……対応、頼めるか。」
「謹んでお断りするっす。学園側との交渉案件は全部俺がやってるんすから、それくらい長雨レインさんやって下さいよ。」
らしくない早口で、迷霧フォッグ長雨レインの申し出を断る。
彼の顔を見るに、余程嫌な仕事のようだ。
「はぁ……では、すと……」
「やだ。」
「じゃあ蒼穹フェア。」
「断る。」

 長雨レインは他の2名にも助けを求めたが、見事に彼等からも視線を外されてしまった。
それほどには、皆『黄昏トワイライト』という人物に苦手意識があるようだ。
こうして止む無く、黄昏トワイライトへの接触は長雨レインに任されることとなってしまった。
「はぁ…………胃が痛い…………。」

 こうして黒衣の学生たちの間では、淡々とバトル……もとい基礎訓練が進んでいったのである。

 そんな中、授業監督の戴冠者クラウナーズの一員が様子を見に来る。
「おー、このフィールドは随分と大人しいねぇ……。」
クリップボードを片手に現れたのは、作業着の男子学生……ニーノだ。
ポケモンの熟練度の割には閑散としているこの場所が気になったようだ。

「アレかな、君たちは境界解崩ボーダーブレイクは使わないのかい?」
そう尋ねてきたニーノに返答したのは、かなり不機嫌そうな長雨レインだ。
「無茶を言うな。いつ緊急の出動要請があるかも分からないんだ。こんな授業ごときに使ってたまるか。」
「ハハハ、まぁ……そうだよねぇ。」
彼の言う通り、黒衣の観測者ジャッカニューロ災獄界ディザメンションに人が巻き込まれたらすぐに出動しなくてはならない。
先日のようにいつ脅威に晒されるかもわからない以上、体力を消費する境界解崩ボーダーブレイクをおいそれと使うわけにはいかないのである。

「お、見ろよ皆!中央コートの方、凄い盛り上がりだぜ!!」
そう叫んで中央コートを指差すストーム
実際目をやってみると、そこには大規模な人だかりが生まれていたのだ。
学生らがみな自分の課題そっちのけで集合している。
あまりに異様な注目度だ。
「あー、あれねぇ。なんか凄いバトルをやってるらしいねぇ。」
実際、そのコートからはありえない頻度の爆発や閃光が飛び交っている。
見るからに激しいバトルであることは間違いないようだ。

「ちょっと僕、あっち見てくるー!!」
「るほーーーーうっ!」
「あ、おいコラ待てストームッ!!」
「じゃぎぎっ!」
駆け出していくストームとジュナイパー。
そしてそれを追う蒼穹フェアとキリキザン。
トレーナーもポケモンも、性格はだいぶ似た者同士のようだ。

 こうして残されたのは大人しめの男子3名。
ただでさえ閑散としていた端のフィールドは、更に寂しい有様となってしまう。
「あーあ……行っちゃったねぇ。君たちも見に行かなくていいのかい?」
「いや……僕は良い。それよりもだ、ニーノ・オットーニョ・フルータ。君には聞きたいことが山ほどある。」
「ん?何だい?」
相変わらず先輩へ呼び捨てで喋る長雨レインに言及はせず、ニーノは尋ね返す。

「社会科教員『トキワ・カミシロ』、教務主任『ウツセミ・アラガネ』、学園長『トレンチ・コート』、戴冠者クラウナーズ主席『ノヴァンブル・ヨルムンガンド・セフポン』。君はこの4名と面識があるな?」
「まぁ、みんな知らない仲じゃないねぇ。トキワ先生は去年の僕の担当教員だし、ノヴァは去年のクラスメイトだし……それがどうしたんだい?」
「……君を信用して問う。彼等について知っている情報を、できるだけ話してくれ。」
神妙な面持ちで、長雨レインは問いかける。
迷霧フォッグもまた、興味深そうにニーノへと視線を向けた。

「別にいいけど……何かあったのかい?」
「何かあったから聞いているんだ。とにかく、知っていることはすべて話してもらおう。GAIAの平和のためにも、僕たちに協力してくれ。」
長雨レインが訴えかけると、ゆっくりとニーノは語り始めた。
「そうだねぇ。じゃあまずノヴァのことなんだけど……」




 ーーーーー一方その頃。
人だかりの方へと向かっていったストームは、隙間を見つけてバトルの様子を覗き込む。
そこに続く形で、蒼穹フェアも彼の後ろへと立った。
「おいストームッ、何を抜け出している!授業に戻れ!」
説教とともに、蒼穹フェアストームの耳を摘む。
「いででで……まーまーそう言うなって。ほら、見てみろよ。こりゃすげぇバトルだぜ!」
そう言って彼が指さした先には……

「あれは……シグレか!?」
そう、このバトルを繰り広げていたのは蒼穹フェアらも見知った学生、シグレであった。

「そこですミニーブッ、『タネばくだん』ッ!!」
「りぶぶっ!!」
大きく飛び上がったミニーブが、数発の爆弾を射撃する。
『タネばくだん』は大きな爆煙を上げ、相手のポケモンへと全て着弾……確実に小さくはないダメージを与えていた。

「(ポケモンの熟練度に対して、狙撃の精密さが抜きん出ている……彼女、さては相当分野を絞った特訓しているな……!?)」
蒼穹フェアの考察通り、ミニーブの技の精度はシグレの訓練による賜物だ。
実際、彼女はこの2週間ほど、トレーナー初心者なりに基本的な事項を自習し習得していたのだ。
そしてその成果は、早くも形として現れていた。
流石は普通科主席の学生……と言った具合だろう。

 ……が、しかし。
「ッ、そこだハラバリーッ、『チャージビーム』ッ!!」
シグレの対戦相手になっていたイロハが叫ぶ。
すると……
「ぐももーーーーッ!!」
爆煙の中から、一筋の光線が放たれる。
鋭く素早い光は、着地間際のミニーブへと正確なカウンターを決めた。

 爆煙の中から現れたのは、でんきがえるポケモンのハラバリー。
特性の『でんきにかえる』で自らの受けたダメージを電力に変換し、攻撃に転じることが出来る後攻特化のポケモンだ。
故に先の『チャージビーム』は『タネばくだん』のエネルギーを上乗せし、凄まじい攻撃となっていた。
「り……ぶぶ……」
「み、ミニーブッ……!!」
ミニーブは致命傷を受け、耐えきれずに戦闘不能となる。

「あー、これは駄目そうだね。んじゃ、シグレちゃん-1ね!」
審判を務める戴冠者クラウナーズのイサナが、プレートの数字を書き換える。
「(くっ……完全にやられた!妙に動きが遅いと思ったら……!!)」
隙を見せていたハラバリーの行動が、イロハの狙っていた罠であることに……シグレは遅れて気づいた。
が、しかし。
「ぐ……ぐももっ………」
遅れてハラバリーもその場に倒れ、気絶してしまう。
先の攻撃が、こちらも致命傷になっていたのだろう。
即ち、やや遅れ気味の相打ちだ。
「あらら、ハラバリーもダウンかー。うーん、お疲れ様!」
「(チッ……まさか全弾急所かよ。運が良いのか、センスが良いのか……コイツ、只者じゃねぇ……!!)」

 既に2匹のポケモンを葬り合い、互いの実力を実感し始めるふたり。
その恐ろしさを、身をもって体感していたのだった。

「あのイロハって奴はレンジャー科の優等生だっけ……?そりゃあポケモンに精通してるはずだよな!」
「あぁ。だがそれ以上に、奴個人が駆け引き上手と見える。トレーナーとしての実力は間違いなく平均以上だろう。」
この短い戦況と学生の背景から、様々な考察をするストーム蒼穹フェア
実際イロハについては、ほぼ的を射ていると言って良い。

「そしてそれよりも、私としてはシグレの方が恐ろしいと思う。奴はトレーナーとして駆け出し。戦っているポケモンも、かなり戦闘経験は浅いと見える。そんな奴がレンジャー科、しかもその中でも優等生の相手に喰らいついているとは……誠に信じがたい。」
「へぇ……お前がそんなに人を褒めるなんて、珍しいじゃんか。」
「べ、別に褒めているわけではない!ただ……客観的に、奴は優秀なトレーナーだ。ありがちな言葉で言えば『天才』だろう。」
「ふーん。じゃあ、今んとこ注目すべきは……」
「あぁ、イロハとシグレ……あの女学生2人だろうな。」
そんな蒼穹フェアのような事を考えていた学生は、他にも数名いたようだ。
それ故、この人だかりが出来るに至っている……というわけである。

 さて、この大注目の一戦もいよいよ大詰めだ。
残すポケモンは、互いにあと1匹のみである。
「さて……テメェ、確か最後のポケモンはクワッスだったよな。」
「な、何故それを……!?」
なんとイロハは、シグレの持っているポケモンを正確に把握していたのである。
不気味がるシグレを他所に、イロハはホルダーからボールを取り外す。

 そしてそこから呼び出されたのは……
「げぇ……?」
なんとホゲータだ。
今一つ状況を理解していないのか、ぽかんと口を開けて佇んでいる。
「アタシの最後のポケモンはホゲータ……コイツでいくぜ。」
「なっ……!?」
シグレにとって、その選択はあまりに不可解だった。
否、シグレだけではない……ギャラリーたちも徐々にざわつき出す。

「なっ……アイツ、シグレの最後のポケモンがクワッスって知ってるんだよな……!?なぜほのおタイプのポケモンを……!?」
「………私にも分からん。が……舐めてかかっているわけではないことは確実だ。」
黒衣の観測者ジャッカニューロたちも、その経緯を見守る。

「(……何を仕掛けてくるかはわからない。でも……私にはもうこの子しか居ない……!!)」
シグレは覚悟を決め、最後のボールからクワッスを呼び出す。
「出番ですよ、クワッス!」
「わわわッ!!」
ラスト対面……相性ではシグレの方が有利。
果たしてこの勝負は、どちらに転ぶのだろうか。

「先手は譲るぜ。先に動けよ。」
「……断ります。あなたより先に動いて碌な事が起こらないのは既に把握済みです。」
「……ま、流石にこんだけハメられたら嫌でも警戒するか。良いぜ……おいホゲータ、『おにび』だ。」
「げー!」
ホゲータはゆっくりと、周囲に青白い炎の玉を浮かべる。
その玉はふわふわと、フィールド中に広がっていった。
『おにび』……それは触れたものに『やけど』状態を与え、継続的なダメージで苦しめる攻撃である。
が……こんなものはトレーナーたるもの当たり前の常識だ。
加えて、この遅くまばらな玉に当たる事は、余程の鈍足でない限りまずありえない。
故にシグレも、これが本丸で無いことは既に見抜いていたのだ。

「(ホゲータ……『おにび』……っ、まさかッ!!?)」
「そこだホゲータッ、『ハイパーボイス』ッ!!!」
「げぇええええええええええッ!!」
ホゲータは息を吸い込み、そして絶叫。
空気が振動し、衝撃波がフィールド中に走った。
その振動に合わせ、拡散する『おにび』の玉。
瞬く間に広がる弾幕が、クワッスを巻き込んで襲いかかってきたのである。

「音波攻撃による当たり判定の拡大か……なるほど、中々悪くないセンスをしている。」
蒼穹フェアもこのコンボには、唸るばかりだ。
「ッ、マズい……クワッス、『アクロバット』ですッ!!」
「わわわわッ!!」
シグレは咄嗟に、『アクロバット』を指示する。
短時間の間重力を無視し、空中を自由に高速移動できる技だ。

 機動力を底上げしたクワッスは、『おにび』の弾幕を掻い潜って空中を移動する。
「すげぇ、全弾回避……なんつー動体視力だ!!」
見事に相手の攻撃をすべて回避し、目にも留まらぬ速さでホゲータとの距離を詰めに向かったのである。
まもなく、その距離は僅か数センチ。
叫び続けるホゲータの眼前僅か上を、クワッスは陣取ることに成功した。
間違いなく、一撃必殺の間合いだ。

「そこですッ……『アクアブレイク』ッ!!」
「わわーーーーーッ!!」
水をも叩き割る勢いの踵落としが、ホゲータの眉間を狙って放たれる。
勝負は当に今、つこうとしていた……その時。



『 Type - Fire / Category - Status 』



「えっ……!?」
流れるのは電子音声……なんとイロハが、解崩器ブレイカーを起動したのである。
それが意味するのはつまり……境界解崩ボーダーブレイクの発動だ。




「掛かったなッ………《悲劇ノ戯曲トラジックストーリア焼爛ノ章バーンチャプター》ッ!!!」




「げぇえええええええええええッ!!」
瞬間、ホゲータの周囲が……歪む。
空気が凄まじい高熱で熱され、急激な温度変化が目に見えるほどの歪みを発生させた。
その高熱は、ホゲータに触れたクワッスにも伝播する。
「げげーーーーっ!」
『アクアブレイク』の勢いを殺し、そのままクワッスの足を受け止めて軽々と投げ飛ばしてしまう。

「そうか……クワッスは近距離戦がメインのポケモン!どう詰めても、最終的にはホゲータに接触せざるを得ない……!!」
「あぁ。だからあの境界解崩ボーダーブレイク……《悲劇ノ戯曲トラジックストーリア焼爛ノ章バーンチャプター》を使えるホゲータを呼び出した訳か。あのイロハという奴……謀ったな……!!」
彼らの考察通り、イロハがホゲータを呼び出したのは対近接兵として最適解だから。
決して相性に逆張りしてシグレを侮っていたわけではないのだ。

「くわわっ………」
思わず態勢を崩すクワッス。
足元を思い切り熱されてバランスを崩すも、なんとか立ち上がる。
カテゴリーSの境界解崩ボーダーブレイクは、基本的に強化or弱体化を付与する系統の技なため、原則直接的なダメージを与える効果はない。
……故に恐ろしいのは、この技でポケモンに起こった変化である。
一見すると、ホゲータの方には特に大きな変化はない。
先までの空気が歪むほどの熱量も、今ではナリを潜めている。
イロハの境界解崩ボーダーブレイクは、残存するタイプのものではないようだ。

「(よし……相手の防護壁のようなものも無い。もう境界解崩ボーダーブレイクを使うのは限界が近い……)」
その状況は、当初の振り出しと同じ。
まさに反撃の隙であった。

「今ですクワッス!『アクアブレ………」
が、シグレが攻勢に出ようとしたまさにその時。

「く……わわ………!」
なんとクワッスは、その場に震えたまま佇んでいるのである。
目の前のホゲータに……否、何か別のものへ怯えているかのような様子だ。

「く、クワッス!早く攻撃をしてください………!」
「くわ……わわっ……!」
シグレは何度も訴えかけるが、クワッスは青ざめて動こうとしない。
「なっ……何が起こっているっていうんです……!?」
その様子をみたイロハの目元が、少しだけつり上がる。

「あぁそうだ……そいつがアタシの境界解崩ボーダーブレイク、《悲劇ノ戯曲トラジックストーリア焼爛ノ章バーンチャプター》ッ!!刺すような痛み!全細胞を焼き切る熱!この世のものとは思えぬ地獄の苦痛を与え、その恐怖トラウマを魂にまで刻みこむッ!!」
「せ……精神攻撃………ッ!!?」
そう……これこそが、イロハの境界解崩ボーダーブレイクの恐ろしさだ。
二度と『熱』による苦痛を味わいたくない……そう強く思わせ、行動を大幅に制限する。
『恐怖心』という、戦闘において最も強力な足枷デバフを課すのである。


「さあ、地獄を見ながら死に晒せッ………『かえんほうしゃ』ッ!!」
「げーーーーっ!」
身動きの取れないクワッスを目掛けて、ホゲータの炎が解き放たれる。
先までの遠回しな変化技とは違い、正しく殺意に満ちた攻撃技だ。
「わわっ……!!」
「く、クワッスッ!!」
モロに攻撃を食らうクワッス。
タイプ相性でダメージは半減しているはずだが、それでも予想以上に『かえんほうしゃ』が刺さっている。

「クワッスの奴……恐怖心のあまり、『自分がダメージを受けていると思いこんでいる』ッ!まさかあの境界解崩ボーダーブレイクは……!」
「あぁ、間接的にほのおタイプの技の与ダメージを増幅させる……!!実に厄介極まりないッ!!」
そうだ……《悲劇ノ戯曲トラジックストーリア焼爛ノ章バーンチャプター》は相手の行動を制限するにとどまらず、火力補助にも一役買っている。
攻防一体……非常に完成度の高い境界解崩ボーダーブレイクなのだ。

「さて、次でトドメだッ!ホゲータ、もう一発『かえんほうしゃ』ッ!!」
「げげーーーーっ!」
更に追撃を狙うべく、ホゲータの口から炎が吐き出された。
これ以上は、クワッスとて耐えることは不可能だ。

「くっ、やむを得ないッ……クワッス、解崩器ブレイカーを起動しますよッ!!」
「わ……わわっ……!!」
シグレは腰元から解崩器ブレイカーを取り出し、すぐにスロットにType-カセットを挿入。
ボタンを押して、準備を整える。
クワッスも僅かな気力を振り絞って、シグレの言葉を聞き届けた。

『 Type - Water / Category - Status 』

電子音声と共に、装填が完了した。
選択したタイプはみず、カテゴリーはS……


「間に合って………《流ルル不落ノ捕縛鎖ストリーム・ヘビージェイル》ッ!!」


 直後、クワッスの頭上が僅かに歪む。
瞬間……彼の周囲には、透明な鎖のようなものが幾重にも張り巡らされる。
「なっ………!!?」
液体で出来たソレは、『かえんほうしゃ』を掻き消す防護壁となる。

 瞬く間に築かれた無数の鎖は、まるで城塞……否、監獄の如くクワッスを覆い尽くす。
名前に恥じぬ、流水の防御陣形である。

「チッ……おいホゲータッ、作戦変更だ、『ハイパーボイス』で攻め落とせッ!!」
「げーーーーーーーーッ!!」
ほのお技では効かないと判断したイロハは、すぐさま作戦を切り替える。
地響きを伴う絶叫が、フィールドを揺らした。
……が、檻の中のクワッスには一切効いていない。
流ルル不落ノ捕縛鎖ストリーム・ヘビージェイル》は、熱や振動……あらゆる衝撃を遮断するのである。
突破は困難……まさに不落の壁だ。

「これで貴方の遠距離攻撃は実質無効です……どうしてもダメージを与えたいのであれば、こちらの間合いまで来てもらうことになります。」
遠距離攻撃をメインに扱うホゲータにとって、シグレが土壇場で出した境界解崩ボーダーブレイクは……あまりに手痛いものであった。
が、それでもイロハは決して焦らない。
行動制約を課せられているのは、お互い様だ……と言わんばかりに、眉を傾ける。

「そーいう算段かよ。良いぜ……テメェの土俵に乗ってやる。ホゲータッ、『のろい』だッ!!!」
「げッ……!!」
遠距離攻撃の一点張りだったホゲータは、ここに来て自身の身体に強化バフを施し始める。
どんどんと筋肉が隆起していき、体表からは熱による蒸気が沸き立ち始めた。
何者も受け付けない強靭な肉体が、徐々に高まり完成していく。
そしてついに最大限、ボルテージが高まったところでイロハの指示が飛ぶ。

「あの檻の中に突っ込めッ!!ゼロ距離で葬り去れッ!!」
「げーーーーーーッ!!」
ホゲータは駆け出し、クワッスを包んでいる檻の中へと突撃していった。
流水の防護壁を物ともせず、敵の方へと向かって走っていく。
水しぶきはたちまち蒸気と化し、ホゲータ型の穴を一瞬だけ開けてしまう。
そして遂には、クワッスの眼前へと迫るに至った。

「クワッスは動けねぇ……これで終わりだッ、『かえんほうしゃ』ッ!!」
「げげーーーーーーッ!!」
が、負けじとシグレも指示を出す。
流ルル不落ノ捕縛鎖ストリーム・ヘビージェイル》の副作用によって精神デバフを軽減したクワッスは、反撃の構えに躍り出たのであった。
「持ちこたえて下さいッ、『アクアブレイク』ッ!!」
「わわーーーーーーッ!!」
両者の攻撃が、水の檻の中にて激しくぶつかり合う。

 やがてその衝撃波は、内側から檻を破って爆散………高々と水蒸気爆発を発生させ、フィールドの視界を大きく遮ってしまう。





「こっ……コレは……どうなった………!!?」
勝負は決着した。
が、その顛末は誰にもわからない………。

 やがて、ゆっくりと……蒸気の煙が収まっていく。
[ポケモンファイル]
☆ミニーブ(♂)
☆親:シグレ
☆詳細:まだまだ基礎能力は未熟。しかしシグレは射的能力を重点的に育成したため、攻撃性能は高い。興味本位で汁を少しだけ舐めたが、酷く後悔したらしい。


[境界解崩ファイル]
☆悲劇ノ戯曲・焼爛ノ章(トラジックストーリア・バーンチャプター)
☆タイプ:ほのお
☆カテゴリー:S
☆使用者:イロハ・クレナイ
☆効果:凄まじい熱量を相手に味あわせ、『高熱』に対しての深いトラウマを植え付ける。また精神操作により、ほのおタイプの攻撃による被ダメージを増加させる。



[境界解崩ファイル]
☆流ルル不落ノ捕縛鎖(ストリーム・ヘビージェイル)
☆タイプ:みず
☆カテゴリー:S
☆使用者:シグレ・シワスノ
☆効果:水で出来た鎖をドーム状にして展開し、防護壁の檻を作り上げる。外側からはあらゆる遠距離攻撃を寄せ付けず、また内側にいるポケモンの精神状態を安定させる副作用がある。

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