幕間

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読了時間目安:6分
 変わらぬ景色がある。白い天井。チューブに繋がった薬液。
「佐奈、おはよう。良い朝だ。ほら、今日はお前が好きな“ゆうなの花”を持って来たんだ」
 白い視界に、見知った顔が映る。親友の沙織だ。毎日飽きもせず来てくれて申し訳ないと思う。そのせいか、瞼がぴくりと動く感触があった。
「あ、今、目を動かした。ちょっとは意識あるって聞いたよ。声は聞こえてるんだろう? 今、私に対して申し訳ないって思ったな?」
 微かに脳に響くような心地よい声がする。
「耳と肌は感覚が残ってるって聞いたけど、匂いはどうなんだろ? ほら、わかるか?」
 微かに香る、故郷の沖縄のゆうなの花。
「最近知ったんだけど、ファイナルファンタジーってゲームあるだろ? ヒロインがユウナって名前なんだってさ。調べたら主人公のティーダとユウナと、ふたりとも沖縄にちなんで名付けられたらしいぞ」
 しばしの無言。
「なあ、佐奈。何か言ってくれよ……」
 手にぬくもりを感じた。両手で握ってくれているのだと理解した。
「……榊先生もいつまで寝てるんだよ。いつまでも病室はつまらないだろ……」
 強気で男勝りな性格の沙織はそう言うと涙を零したのだろう。私の手のひらが何かに濡れる感触があった。
「……じゃあ、また来るよ」
 どのくらいの時間そうしていたのだろう。時間も空間も失って久しい。
 扉の閉まる音がして、再び静寂が戻った。視界は相変わらず、真っ白い天井とチューブだけだ。
 しかし、私の右にも、ぬくもりがあることを理解していた。そこに、愛しい妹がいる。

 左にいる、わたし。
 右にいる、あなた。
 ゆうなの花の香りが、つんと鼻をついた。

 わたしは、佐奈。
 あなたは、佑奈。
 ゆらゆら、ゆうな。ゆうなの花は、さやさや風のささやきに。

 いつか終わる、夢だ。

 ※  ※  ※  ※

 ポケットモンスター、縮めてポケモン。
 この星の、不思議な不思議な生き物。海に森に町に、その種類は100、200、300……いや、それ以上かもしれない。
 そんなポケモンの1種類であるサーナイト。数多いるサーナイトの1体がサナだった。

【第三世代=XD、RSE、FRLG】
 オーレ地方で生まれ、悪の組織に身をやつし、その後、心優しきトレーナーに道を見出される。ホウエン地方のあるトレーナーに交換に出され、次はカントー地方へ行った。マスターは変わったが、旅の数だけの出会いと別れがあり、旅を続けたその証にリボンを貰った。
【第四世代=DPt、HGSS】
 パルパークというサファリに似た施設を経由し、サナがたどり着いたのはシンオウ地方だった。シンオウの旅を終えた後は、カントーに隣接するジョウト地方に行き、カントー時代のマスターとシロガネ山で邂逅する。どこか別人のような彼とはろくに話もできず、闘うこともできない中、ジョウトのマスターの手持ちに居たというそれだけでリボンをつけてもらえた。果たして自分の存在意義は何かとサナは疑問を抱いた。
【第五世代=BW、BW2】
 ポケシフターというファンタスティコーなシステムを用いてイッシュ地方へやってきたサナ。イッシュ地方は不思議なところで、リボンは手に入れることは出来なかったが、最初のイッシュ地方と、2年後のイッシュ地方を経験した。サナというポケモン目線から見た場合に、イッシュ地方の中で2年という年月を行き来できた事で、時間軸だけではなく、世界線の異なる複数のイッシュ地方があるのでは無いかとひとつの仮説にたどり着いた。
【第六世代=XY、ORAS】
 ポケムーバーと呼ばれる転送システムにより、ポケモンバンクと呼ばれる保管システムに預けられたサナ。サナはそこからカロス地方へ送られ、新たな旅に出た。カロスでもリボンは増えていく。
 その後、カロス地方からホウエン地方へ、ポケモンバンクを経由して交換に出させる。そのホウエン地方は、かつて、旅をしたホウエン地方とは異なり、メガシンカと呼ばれる独自の進化形態が存在していた。懐かしいホウエン地方に戻ったつもりが、かつてのマスターはおらず、今までの旅は何だったのか。虚無感と共にサナは次の旅に出る。
【第七世代=SM、USUM】
 ポケモンバンクとは一種の亜空間である。経由して訪れたのは、アローラ地方。ここではウルトラホールの存在が確認され、いよいよ平行世界が数多に広がる可能性が示唆された。これにより、サナは今までいくつもの異なる世界線を旅してきたことを確信した。
【第八世代=剣盾】
 ポケモンバンクの後継となるシステム、ポケモンHOMEが開発され、旅の舞台は、ガラルへ。ポケモンHOMEはあらゆる世界線と繋がる画期的なシステムであったが、同時に、時空旅行による障害も大きく、記憶の欠損を引き起こすという事例が報告されている。サナもまた同様だった。
 ガラル地方は世界で最初に文明の開いた地だと伝えられている。産業革命により発展してきた歴史ある地。この世界を地図で表すときに、世界の中心にガラルを置くことも多く、世界の真ん中と言われている。

 ポケモンどまんなか、縮めてポケどま。
 数多ある世界線。その数は100、200、300……いや、それ以上かもしれない。
 その数だけ出会いがあり、その数だけ別れがあった。出会いと別れを繰り返し、今日まで続いた旅の物語は、いよいよ終わりを迎えようとしている。

次回、最終章。
【Season Final】いつか終わる夢

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