決着

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読了時間目安:17分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 部屋中の視界を遮るほどの爆発。
 目がくらんだあたし達も、ツバキがやられたと確信するほどだった。
 ふん、とハラ教授も勝利を確信してほくそ笑む。
 でも、その直後。
「“ジャイロボール”!」
 爆風の中から、やられたはずのツバキが回転斬りで飛び込んできた。
「何!?」
 驚くハラ教授の声。
 予想外の反撃をギルガルドはもろに受け、強く弾き飛ばされた。
 バランスを崩すほどの力。
 済んでの所で、ギルガルドは態勢を立て直した。
 改めて、着地したツバキに目を向ける。
 ダメージを受けた感じは、確かにある。
 それでも、恐れが全くない眼差しでギルガルドを見据えつつ、2本の刃を構え直した。
「バカな、あの“てっていこうせん”を耐える力がどこに!?」
 信じられない、とばかりにハラ教授が叫んだ。
「ニダンギルが、攻撃を “こらえ”た!?」
「いいえ、わざは使っていないわ」
 あたしの疑問は、ハルナおばさんによってあえなく否定された。
「まさか、トレーナーと心を通わせ合ったポケモンは理論的には耐えられないはずの攻撃を耐える事があるけど、それが――!?」
 答えを提示したのは、タクミだった。
 ポケモンのなつき具合は、大きく分けて二種類ある。
 公的なものと、私的なもの。
 前者はバトルを通じて深まっていくもので、なつき具合というより忠誠心という言葉がふさわしいかもしれない。
 後者はバトル以外の環境で深まるもので、そういう意味では真のなつき具合は後者の方かもしれない。
 その後者のなつき具合が深まると、バトルにおいていろいろな「不確定要素」が発生するという。
 例えば、ど根性じみた耐久力とか。
 ニダンギルと一体になっているツバキなら、そういう事ができてもおかしくないかもしれない。
「おのれ……っ!」
 やけになったのか、ギルガルドが再びツバキに向かってきた。
 再び切っ先を向けて、槍のように飛んでいく。
 それを、ツバキは人間離れしたジャンプで飛び越えた。
 かわせると思っていなかったのか、驚いて振り返るギルガルド。
 着地して振り返るツバキは、ニダンギルを構えずに向き直る。
 今度こそ隙ありと見て、ギルガルドが切りかかる。
 肉眼では捉えられない速さで繰り出される“れんぞくぎり”。
 それを、ツバキは次々と見切り、かわしていく。
「ええいなぜだ!? なぜ当たらない!?」
 ハラ教授と同様、ギルガルドも焦り始めているようだ。
 ようやく、ツバキがギルガルドの刃を受け止めた。
「いくら正確に切りかかっても、ギルと一緒なら見切れる!」
 その言葉通りの力強さで、ツバキはギルガルドを押し返した。
 姿勢を崩したその隙を突き。
「だってわたし、ギルが大好きだから!」
 今度はツバキが刃を突き出した。
 閃光のごとく突き出されたそれは、一撃でギルガルドの目を貫いた。
 声を上げてもがき苦しむギルガルド。
 致命的な一撃だったようだ。しばらくは立ち直れそうにない。
 なんて力。
 こんな時に大好きなんて言うくらいだから、ツバキとニダンギルの絆は本物だ。
「私達も行きましょう! “てっていこうせん”を使った今なら体力を消耗しているわ!」
「うん!」
 ハルナおばさんが発破をかけた。
 ポケモンマーシャルとして、ツバキに負ける訳にはいかない。
「ブイちゃん、“フレアドライブ”!」
 ブイちゃんに、覚えたての“フレアドライブ”を指示する。
 深紅の体に、炎を纏い始めるブイちゃん。
「ええい!」
 焦るハラ教授。
 ギルガルドは、とっさに円盾を構えようとする。
 でも、それはできなかった。
 目の前に現れたゲンガーが、小さく手招きしたせいだ。
 それを見たギルガルドが、苛立っている。あろう事か、円盾を投げ捨ててしまった。
「悪いけど、“ちょうはつ”させてもらったよ」
 タクミだった。
 ゲンガーが繰り出したのは“ちょうはつ”。された相手は攻撃しかできなくなる。
 さっきアーちゃんが守りに徹しきれなかったのも、このせいだったんだ。
 さて、タクミがしっかりお膳立てしてくれた所に、ブイちゃんが“フレアドライブ”でギルガルドに飛び込んだ。
 円盾がなく、ゲンガーに気を取られていたギルガルドは、それをもろに浴びて吹き飛ばされた。効果は抜群!
「やった!」
 これは決定打だと、あたしは確信した。
 でも、安心はできない。
 ギルガルドは、まだ起き上がってくる。かなりダメージは入っているけど、まだノックアウトはされていない。
「……ち、しぶとい! なら、もう一発──」
 そう言いかけたけど、戻ってきたブイちゃんが、崩れ落ちた。
 ブイちゃんも、すさまじい反動を受けたんだ。
『姉貴、充分だ。後はオレが行く。ブースターに場を整えさせてくれ』
 悔しいけど、エルちゃんに譲るしかなさそう。
 よろりと立ち上がったブイちゃんに、あたしは次の指示を出す。
「ブイちゃん、“とぎすます”!」
 ブイちゃんが、力強く足を踏みしめて心を“とぎすます”。
「させるか!」
 でも、そうはさせないとハラ教授が叫んだ。
 ギルガルドが、ブイちゃんに向かってくる。
「アーちゃん、“がんせきふうじ”!」
 だから、アーちゃんに援護させる。
 アーちゃんが放った岩が、ブイちゃんに向かおうとするギルガルドの行く手を阻む。
 それでも、ギルガルドは岩を切り払ってしぶとくブイちゃんに向かっていく。
「ダメだわ! エリス号、フォローして!」
 そこで動いたのは、ハルナおばさんのムーランド・エリス号。
 急いでブイちゃんの下へ急ぐ。
「援護しますよ警部! ゲンガー、ムーランドに“スキルスワップ”!」
 タクミのゲンガーも加勢する。
 ギルガルドの刃がブイちゃんを切り裂こうとしたその瞬間、ムーランドがブースターの首根っこをくわえる。
 そして、宙に浮かび上がった。
 予想外の動きに、ギルガルドの刃が空を切る。
 飛べないはずのムーランドが、飛んだ!? しかも、ブイちゃんをくわえても平気なレベルで!?
 見れば、ゲンガーが珍しく地に足をつけている。
 タクミが、ゲンガーの特性「ふゆう」をムーランドに渡したんだ。
「よし、今度はニダンギルに“スキルスワップ”だ!」
 予想外の挙動をするムーランドにギルガルドが翻弄されている間、ゲンガーはまた“スキルスワップ”を使う。
 今度はニダンギル、つまりツバキに対してだ。
「ツバキ、これで君の特性は『きもったま』だ! あのかくとうわざをお見舞いしてやってくれ!」
 これで、ゴーストには効かない技も効くようになる。
 つまり、ツバキにとって今のギルガルドは、ただのはがねタイプ――
「ありがとうございます。行くよ、ギル」
 迷わずツバキは動いた。
 2つの刃が、揃って輝きを帯び始める。
 あれは、あの時エリス号を倒した、かくとうタイプのわざ……?
「“せいなる――」
 つぶやいた瞬間、刃を構え一気に飛び出す。
 ギルガルドがようやくその姿に気付いた時には、もう遅い。
「つるぎ”っ!」
 2つの刃が、ギルガルドの両手たる布を一刀両断した。
 大ダメージを受けたギルガルドは、完全にグロッキー状態。立っているのがやっとの状態だ。
「こっちも続くよ! ブイちゃん、“バトンタッチ”!」
 あたしもスーパーボールを2個用意して指示。
 すると、ブイちゃんは飛んでいるエリス号から飛び降りて、こっちに戻ってきた。
 自分からあたしが構えたスーパーボールの片方に戻っていく。
 それを確かめてから、あたしは2個のスーパーボール同士をかちん、とタッチさせた。
「エルちゃん!」
 すぐにもう片方からエルちゃんを出す。
 これで準備万端、と行きたいところだけど、そうじゃない。
 次の一撃で確実に決める。だから、力の出し惜しみはなしだ。
 エルちゃんの右腕には、この時のためにつけさせたブレスレットが。
 同じものを、あたしも左手首にこっそりつけていた。ジャケットの袖をまくって、それを露出させる。
「行くよ!」
『おう!』
 あたしはエルちゃんと、手首を合わせる。
 2つのブレスレットが、かちん、と音を立てて重なる。
 途端、ブレスレットが揃って眩しく光り出す。
 これは、あたし達姉弟の絆を力に変える光。
 進化を超えた、その先の力を開放する光。
「『ほとばしれ! メガシンカッ!』」
 もう変わらないはずのエルちゃんの姿が、大きく変わる。
 マントを纏ったような姿へ。
 刃もより長く。
 そして光が弾け飛ぶと、遺伝子のような模様が浮かび上がった。
 これが、あたし達の切り札。
 ブレスレットが持つメガストーンとキーストーンの力で、エルちゃんはメガエルレイドへとメガシンカを遂げた。
「く、くそおおおおっ!」
 ヤケになったようにハラ教授が叫ぶ。
 ギルガルドが、最後の力を振り絞って突撃する。
 刃を振り下ろすけど、エルちゃんはそれを一歩も動かずに刃で受け止める。
 ギルガルドは必死に力を込めるけど、エルちゃんは微動だにしない。
「フンッ!」
 それどころか、虫を払うように簡単に弾き飛ばしてしまった。
 メガシンカしてパワーが上がったエルちゃんにとって、ギルガルドの攻撃をねじ伏せる事などお茶の子さいさいだ。
 弾き飛ばされた先は、アーちゃんが“がんせきふうじ”で作り出した岩場。そこに打ち付けられて、力なく崩れ落ちるギルガルド。
 もう逃げ場はない。
 全てが整ったその瞬間が、あたしへのゴーサインだった。
「エルちゃん、“サイコカッター”!」
「エリス号、エルレイドを“てだすけ”して!」
 エルちゃんは、ゆっくりを刃を振りかぶる。
 エリス号がエルちゃんを “てだすけ”して背中に乗せ、飛び上がる。
 ムーランドに乗って空を飛ぶ姿は、まるでおとぎ話の騎士のよう。
 エリス号の“てだすけ”。
 ゲンガーがエリス号に与えた「ふゆう」。
 アーちゃんの“がんせきふうじ”。
 ブイちゃんの“とぎすます”と“バトンタッチ”。
 そして、あたしがしたメガシンカ。
 全員の力を結集して、エルちゃんはギルガルドの頭上から最後の一撃を繰り出す。
「テヤアアアアアアッ!」
 飛び降りながら、横に一閃。
 それをよける術は、ギルガルドにはなかった。
 効果は今ひとつだけど、今まで集めた力は、それを補ってあまりある威力を叩き出す。
 ギルガルドという名の剣は、耐えられず一発で折れてしまった。
 ギルガルドに背を向けて着地したエルちゃんは、ついた血を払うかのように刃を一振り。
 その瞬間。
 真っ二つになったギルガルドは、木端微塵に爆発した。
「バ、バカなあああああ――っ」
 そして、断末魔の声を上げたハラ教授も、なぜか連動するように気を失って倒れてしまった。

     * * *

 かくして、ポケモンリッパー事件は幕を閉じた。
 事件の真犯人は、人間の死体に取り付き操っていた外来種、ヒトツキの集団。
 ハラ教授もまた、ギルガルドの霊力で操られていたにすぎなかった。
 目を覚ました彼は、事件の事を全く覚えていなかった。
 どうやら、20年以上前にギルガルドをたまたま発掘した瞬間から、既に霊力で催眠状態となっていたらしい。そういえば、ギルガルドに指示をしていた様子はなかったっけ。
 つまり今回の事件は、人間ではなくポケモンの手によって起こされた事件だった。
 全く、ゴーストポケモンの恨みや怨念っていうのは恐ろしいものだ。
 生前に残した悔いというものが、こんな大事件を引き越す事になるなんて。
 まあ、その悔いがいい方向に働いた例もあるけど――

「本当に、行くのか?」
 夜の街。
 別れ際、タクミが聞いてきた。
「はい。わたしは、この街にいるべきではないと思いますから」
 その前で、ツバキは普段のゆったりとした口調で答えた。
「でも、君はニダンギルと共生できている。もしかしたら、僕達人間と共存できるかもしれない」
「わかっています。でも、わたしはあなた達に迷惑をかけてしまった……人間に害をなしたポケモンは、この街ではどんな理由があろうと駆除されるのでしょう?」
 その言葉には、さすがのタクミの反論できない。
 ツバキも、かつてハラ教授――いや、ギルガルドによって命を奪われた、事件の被害者。
 でも、事件の発端となったのは紛れもなくツバキの行いだ。
 己の身を守り、生きるためとはいえ、彼女はここで多くの人間を犠牲にした。
 そんなポケモンがこの街にはびこれば、とっくに駆除されているだろう。
「それに……わたしはもう、ただの死人です。人間と同じ世界では生きていけません。ここに戻ってきた事が、そもそもの間違いでした」
 悔いるように、ツバキは言う。
 死人でありながら疑似的に生きているという事は、人間社会ではそれだけでイレギュラーな存在。
 ツバキはギルガルドに殺され、ニダンギルに助けられた時点で、全く別の生き物と化してしまったのだ。
 そんな存在が、人間と共に生きられるはずがない。
「でも、君は人間だ。人間なのに人間と一緒に生きられないなんて、悲しいと思わないのか?」
「大丈夫です。わたしには、ギルがいますから。ね?」
 でも、ツバキは悲観していなかった。
 手に現れたニダンギルと一緒に微笑む姿は、今の自分をしっかりと受け止めている証。
 ツバキは自分の宿命を受け入れた上で、ニダンギルと一緒に生きる道を選んだのだ。
「大好き、ギル」
 そう言って、刃の根元に口付けるツバキ。なぜか妙に長い。
 当のニダンギル自身も、それを動じることなく受け止めている。
 ……うーん、何だろう。このなつきを超えたラブラブな空気は。
 見ているこっちが気まずくなる。思わず目を泳がせた。
「そ、そう言うなら、もう止める事はできないな。気を付けて行くんだぞ」
 こほん、と咳払いして、タクミが言う。
「そ、そうだね、帰り際にまた事件起こされちゃたまらないもんね」
 あたしも、思わずそう続けた。
 すると、ツバキはようやく唇を離して、
「はい。そうしないように気を付けます」
 何事もなかったかのように、柔らかな笑みを浮かべて答えた。

 ツバキの姿が、夜の街へ消えていく。
 まるで溶けるように。
 それこそ、闇に消えていくゴーストポケモンそのもののように。
「これで、よかったのかな……?」
 見送るタクミは、相変わらずツバキの選択に疑問を浮かべているようだった。
 だから、あたしは言ってやった。
「いいんじゃない? 人間と一緒にいない方がいい生き物だっているんだし。住処をはっきり分けるって言うのも、共存のひとつの形なんじゃないかな」
「え?」
「モンスターボールって言うのも、そういうものだと思うけど?」
 あたしはスーパーボールを見せる。
 その中にいるエルちゃんが、なぜオレを例に挙げる、と文句言ってたけど、それは無視。
「ううん、そうか……共存って大変なんだな。まあ人だって、誰しもプライバシーってものを持ってるからなあ……」
 あ。
 タクミのヤツ、難しい事を考え始めた。
 そんな事されても、こっちは全然面白くない。
 だから。
「そういう事! じゃ、早速付き合ってもらうよタクミ!」
 思い切って、あたしはタクミの手を取った。
「えっ!? ちょっと!? 付き合うって、何――!?」
「もちろん、飲みに! タクミのおごりで!」
「おごりって! なんで勝手に決めるんだよ!?」
「あれー、言ってなかったっけ?『僕の予想通りだったら、アスカちゃんのお願い、何でも聞いて上げる』って?」
「え――そ、そんな事言ったっけな……!?」
 わざとらしく声真似すると、タクミはますます動揺して目を逸らし始めた。
 ふふ、面白い。
 普段いつも向こうから攻撃されてばかりだから、たまにはこうやって反撃しないとバランスが取れないってもの。
「言、い、ま、し、た! そういう訳で、今日は思いきりハシゴしちゃうよ!」
「ちょ、ちょっと! 勝手に決めないでくれ! こっちの財政事情お構いなしか!?」
「何さー、『男に二言はない』って言葉あるでしょ!」
「それとこれとは話が別だっ!」
「ブイちゃんでぬくぬくさせてあげるからさー! あのあったかさと一緒に味わう酒もいいもんだよー?」
「何だそれ? この間までほのおタイプ苦手だったんじゃなかったのか?」
「おかげさまでね♪」
 いつもと逆にタクミを攻めるのを楽しみながら、あたしはタクミを引っ張って夜の街へと歩いて行く。
 今夜も、トウキョタワーはきれいに赤くライトアップされている。

『やれやれ、姉貴も共存する気なんだかしない気なんだか、よくわからんな。自分の気持ちにいい加減気付けよ全く』
 そして。
 エルちゃんは、なぜかそんな事をつぶやいていた。

 完

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