File Scarlet

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「石化の光の発信源、計算出来たわ! ホップ、そっちは!」
「こっちもだぞソニア! これで間違いがなければ……せーの!」

 ガラル地方のポケモン研究所。博士のソニアと見習いのホップがお互いに計算結果を示す。

「「北緯28,5度・西経17.4!!」」

 計算結果は全く同じ。つまり正確な結果が出たという事実に二人は喜びのハイタッチをした。
 世界ポケモン石化現象から二日。フランとルリナの頼みで、石化光線の発信源をSNSの情報だけを頼りに特定していたのだが、それは容易なことではない。
 

「SNSで各地で最初に石化が発見された時間をまとめて。それぞれの時間からおおざっぱな光の速さを算出。パルデア方面から光が発生したと仮定して光の速さから発信地を逆算。細かいずれはあるかもしれないけど……」
「地図で調べた感じ、その辺は小さな島がいくつかあるだけみたいだ。そのどれかで間違いないはずだぞ……」
「……なら丁度いいわね。世界中を同じ光で包んでポケモンをまとめて石化させるなんて、よっぽど大がかりな装置がいるはず。到着さえしてしまえば、一目でわかるはずよ」

 一転、安堵の息をつくソニアとホップ。二人とも疲労の色は濃い。ほぼ徹夜をしていたから当然だ。
 だから、二人は研究所に入ってきたモデル歩きの人物に気づかなかった。

「随分疲れてるみたいね、差し入れに紅茶を持ってきたけど飲む?」

 小さな手提げバッグからタンブラーを取り出し、二人の前に置く。湯気から立ち上る紅茶の香りが、疲労をわずかにほぐした。

「ルリナ! バウタウンの方は大丈夫なの?」
「ええ、あの場にいたフランが町のポケモンを元に戻してくれたからね。」
「ありがたくいただくぞ……」

 ルリナ以外のジムリーダーは、各町の人々を元気づけるので手いっぱいだ。現代の人々にとってポケモンとは仲間であり、家族であり、娯楽であり、仕事上のパートナーでもある。それを一度に石化され奪われたとあっては動揺は計り知れない。

「アニキもユウリも、ガラルのみんなを元気づけるのにあちこち飛び回ってるし……一刻も早く解決しないとな!」
「そうね、レジエレキなら戻せると言っても、範囲に限界はある。私たちがなんとかしないと」
「船長さんに犯人をやっつけるのは任せるけど……オレが必ず世界中のポケモン達を元に戻せるようにしてみせ……!」

 立ち上がって拳を上げようとしたホップの体が、バランスを崩して倒れかける。咄嗟にルリナが支えた。

「っと、ごめんルリナさん……」
「気合十分で頼もしいけど。ホップ、あんたは一度しっかり寝なさい。起きてても頭が働かなきゃ時間の無駄だし……私もフランから送られてきたデータを確認したら少し休むからさ」
「頼りにしてるわ、未来のポケモン博士」
 
 まだやれる、と言おうとしたが年上二人の言葉に負けてホップは研究所の寝所に向かった。

「大分ダンデに似てきたんじゃない? 背も大分伸びたし」
「ダンデくんよりは聞き分けがあっていい助手だよ。そそっかしいところがそっくりで困るけど」
「でもチャンピオンを交代してからは、彼も随分落ち着いたと思わない?」
「そりゃあもういい大人だもん。せめて表向きはちゃんとしてもらわなきゃ」

 などととりとめのない会話をしながら、フランの船から送られてきたデータを確認するソニア。海のポケモンにどのように鉱石化が及んでいるのか、仔細な情報とフラン船長による私見が書かれている。
 それともう一つ、追加で映像記録が送られてきていた。

「……あれ、十年以上前のデータ? なんだろう、送り間違いかな」
「フランがミス? だとしたら珍しいわね。何が来たの?」
「『File Scarlet』……ドレイク商会の記録映像みたい」
「見せて」
「え? うーん……」

 真剣な目のルリナにちょっと気圧されるソニア。
 海運会社から研究所に送られてきた、いわば仕事上のデータなので本来第三者に見せていいものではない。が、ルリナと船長フランの関係は知っている。
 フランは昔……ルリナがジムリーダーになった年のジムチャレンジャーで、全てのジムチャレンジをクリアした。子供とは思えない理知的な物言いに全てを見通すような瞳。そして決して、日中の光の下には出てこない変わり者だったという。
 そしてその翌年。フランはバウタウンで事件を起こした。ドレイク商会が管理していたレジエレキを連れ出し、町中の電気を吸いつくさせたのだ。
 正気を失ったような彼女の暴走を、ジムリーダーのルリナにたまたま迷い込んでいたダンデ、それを追いかけてきたキバナが三人がかりで抑えこんだらしい。
 それから数年後、船長になったフランがバウタウンに来るたびにルリナはお目付け役も兼ねてフランに会いにいっているのだ。
 現在のフランの公正な船長ぶりは聞いているが、やはりルリナとしては不安に思うのもやむを得ないところなのだろう。とソニアは思う。

「もしかしたら事件に関係あるのかもしれないし、見たことは内緒ね!」
「お願い。彼女に任せてしまったこと……やっぱりまだ少し、不安だから」

 動画を再生する。薄暗い部屋が映し出された。
 部屋の隅から撮影されたアングルは、ホームビデオの類とは全く違う。異常がないか見張る監視カメラのそれだった。
 映っているのは巨大な機械のコアのような箱の中にいるレジエレキと……その前で、真っ赤なドレス姿でパソコンに向き合ってキーボードを叩く幼いフランの姿だった。おそらく、十歳にもなっていないころの。
 

『ねえ、レジエレキ。わたし、【きがふれている】って言われるの。毎日毎日地下室に籠ってあなたの計算ばかりしているから』


 話始めるが、キーボードを叩く手は止まっていない。子供が大人の真似をしてなんとなく弄っているのとは違う。プログラマーやもしくは熟練の音ゲーマーのような、意志のあるタイピングだ。

『あなたの電気を完全に制御して、動力にすることができればパパの理想の船が完成する……それ以上に楽しいことなんて、どこにもないのに』

 部屋中の機械が、フランの指示とレジエレキの発する電力によって細かく動いていく。この機械が、今のフランの船を動かすのに使われていることが想像できた。

『あの教育係、子供は外に出て、友達と遊ぶのが仕事~なんて馬鹿じゃない。無暗に照り付ける太陽の光なんて触ったら皮膚が焼ける。何の意味もないことで騒ぐ人間と一緒にいるなんてノイズで頭が壊れそう。色んな味のお料理なんて匂いだけで反吐が出る。だいたい、わたしに物を教えたいなら電気工学、地理学、ポケモン生物学、どれか一つでも私に勝ってみろっての』

 苛々を募らせたようなフランの態度に、レジエレキが初めて反応し、火花を散らす。それを見て、幼いフランは嬉しそうに笑った。

『……ありがとう。でもね、パパはわたしがもっと大きくなったら外に出られるようになるって言うの。頭の良さに体が追いつけてないんだって……ねえ、これが完成したら。レジエレキと一緒にわたしもその船に乗れるかしら?』

 レジエレキの顔のような部分からまた電気がぱちぱち音を立てる。フランは、そこで一度手を止めて立ち上がった。

『そうだ。わたしはあなたの電気の心がわかるけど……外にいる馬鹿な人間達にはわからないから。もし外に出た後、嬉しいときは、その場で跳ねるといいわ。ほらこうやって……ぴょんぴょんって』

 ドレス姿のまま、小さく跳ねるフラン。だがそれだけでも少し息が乱れ、すぐに止める。
 レジエレキもそれにならって、機械の中でわずかにではあるが体を上下させた。

『……それでね。二人で外に出られたら、いつかあなたのことも自由にしてあげる。パパのことは好きだけど……やっぱり、あなた達ポケモンを都合のいい労働力にしている今の社会は、間違っていると思うもの』

 パソコンの前に座りなおして、ゆっくりと息を整える。そしてフランは自分自身の夢を語る。子供らしく無邪気に、大人も舌を巻くほど理知的に。

『大きくなって、もっとたくさん動けるようになったら……わたしがこの手で、ポケモン達が自由になれる世界を作るの。人間の道具にされることも、仕事を手伝わされることも、ポケモンバトルみたいな遊びに付き合わされることもない。人間社会とポケモン達が切り離されて……あるいは、人間がポケモンのために生きる新しい時代。新しい場所。

ポケモンを開放して、人間を減らして。新世界のお姫様になるのが、わたしの夢。そのためなら、なんでもするわ。馬鹿な人間とだって普通に話してあげるし、ルールもきっちり守ってあげる。計画ももう考えてあるの。まず、──をテラ──────』

 そこで音声は途切れ、映像もすぐに消えた。記録をここで止めたのではなく、何者かが意図的に壊したような不自然な終わりだった。


 記録は終わり。ルリナとソニアの意識は過去の映像から現実の研究所に戻る。

「やっぱり、ただの送り間違いだね。あの船長さん、子供のころはあんな感じだったんだ……ダンデくんと遊びまわってた私とは大違いだ。ってあれ、ルリナ?」

 ルリナの肩が、震えている。焦燥、後悔。そんなものが表情に滲んでいるように見えた。

「やっぱり……私も一緒にいくべき、いや彼女にだけは任せちゃダメだった!!」
「え、ちょっと!? どうしたの!?」
「今からでもパルデアに行くわ! ソニア、ホップ、絶対ポケモンを元に戻す装置を完成させて! きっとフランは──パルデアで、とんでもないことをしようとしてる!」
「いや、確かに映像の中では物騒なこと言ってたけど……ずっと昔の子供のころの話でしょ!? ……行っちゃった。大人になっても荒れるときは荒れるのは変わらないなあ、ルリナも……」

 研究所を飛び出していったルリナに嘆息するソニア。ともあれ、やるべきことは変わらない。ポケモン博士のソニアに出来ることは、助手のホップと共にポケモンの鉱石化現象を解決することだ。

「ま、ホップじゃないけどダンデくんやユウリちゃんも頑張ってるし……私も、気合入れますか。海上のポケモンのデータにレジエレキがバウタウンの鉱石化を解除した時の影響、そして鉱石化の原因であるテラスタル現象……調べることは山ほどあるし」

 そこで、ソニアは研究所の片隅。ワンパチの小屋と餌箱に目を向け。
 そのすぐそばで、鉱石に包まれてピクリとも動けなくなったワンパチを直視した。
 電気タイプは鉱石化の影響を受けにくいといっても、現実にソニアの相棒はこうなっている。

「絶対。元に戻して、ご飯を食べさせてあげるから……待っててね」

 強い決意を固め、パソコンに向き合う。
 商機のためと言ってパルデアに旅立った船長のフラン。
 そのフランには別の真意があると追いかけたジムリーダーのルリナ。
 ただ、大切な仲間の為にポケモンを元に戻そうとする博士のソニア。

 それぞれの結末は、パルデア地方で決着することになる。
 

 
次の更新は年末~1月くらいのどこかになると思います。その時には最後まで完成させて週1くらいで投稿する予定です。またその時読んでいただけると嬉しいです。

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