リユニオン

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 警備網を混乱させるため、サオリの仲間の誰かが廊下の電気系統を意図的に落とし、廊下は真暗になっていた。しかし私の脳裏には先ほどグラのくれた地図が叩き込まれており、道に迷う不安は無い。記憶力には他のどのサーナイトよりも自信があった。
 私は夜目は効かないが、ムゲンダイ巣穴の暗闇で得た知識で右手を壁面に沿わせ、迷わないように暗闇の道を進んでいく。目が慣れてくると、少しの灯りが漏れているらしく、廊下は割とすんなりと進めるようになった。
 
 心配なのは敵に見つかることだ。焦りと同時に、手に握りしめたハイパーボールに汗が滲み落としそうになる。
 これは時間との闘いである。時間がかかればかかるほど、このガラル収容所の騒動は外部に漏れて、ガラル政府から応援が送られる可能性も増す。そうなると、戦局は一気に不利になる。今回は奇襲という形だからこそ成功したのだ。
 
『フォースと共にあらんことを……』
 つい、おまじないのように呟いてしまい、弱気になっていることに思わず自嘲する。
 大丈夫。見つからずに進める。今の私は、“ 漆黒の夜ブラックナイト”。潜入のプロのサオリが施してくれた特別仕様で黒く塗装されている。マスターの投獄されている牢を暗闇に紛れて探すのだ。

 E級、D級……と駆け抜ける。走ると、首元のネックレスに引っ掛けたリングとスカウターが胸の輝石にぶつかり、カツンと音がする。その音も無視してひたすら進み続けていると、A級エリアに差し掛かった。
 このA級エリアを抜けた先にS級エリアがある。
 A級エリアの牢屋は投獄されている人は居らず見渡す限り空っぽであり、不審に思いながら一つずつ確認していく。すると、牢のひとつに見知った顔を見つけ、足を止めた。
『マッシュ!』
 声を掛けると私に気づき、マッシュは顔をあげた。相変わらずのエースバーンの格好だった。
「あ? ……ああ、サナか。なんで、こんなとこに……お前も捕まっちまったのか?」
 私はすぐさまマッシュの投獄されている牢の鉄格子をサイコキネシスで曲げるため意識を集中させる。
「やめろ、サナ。うかつなことをするな。マグノリアとソニアを人質に取られているんだ」
 そう言って私の背後に視線を移す。
「クックック。そのとおりだよ、黒いサーナイト」
 そこに現れたのは猫背で長髪の白衣の男だった。黒縁の眼鏡が光で反射しており、視線は読めない。
 ――が、この男が誰だかは思い出せた。
 
『……貴方の顔には見覚えがある。ランクマッチバトルに出ていた人ですね。確か、ハイブリッドとか……』
 バトルタワー、マスターランクリボンを入手する為に出場したランクマッチバトルで対戦したのだ。コサリやペルも出場していた回のバトルだ。
 紹介では、ガラル粒子を利用した新エネルギーと従来の電力をハイブリッドし、安価なインフラ開発に成功させた研究者。しかし、何でもハイブリッドするのが好きで、ファミレスで醤油と塩とコーラを混ぜてお腹を壊したという……コードネーム“ハイブリッド”。
 
「クックックッ、よく知っていると見える。だがあれごとき、私の実力ではない。さて、もう“プロジェクト・リユニオン”も最終段階へ来た。これから最終臨床試験に入る。今の私は気分が良い……そこのエースバーン男も拘束を解いてやろう。クックック……なに、極めて気分が良いのだよ。オマケに、折角の実験成果だ。これを披露して、ペラペラと口も軽く説明したい気分なのだよ。君たちは今、時代の大きな変化点を目撃しようとしている!」
 白衣の男ハイブリッドはそう言うと、私の横を通り過ぎ、牢を解放すると、マッシュの拘束を解いた。
 
「さあ、ついて来たまえ。おっと、馬鹿げた真似をしないでくれよ? お前たちの大事な博士たちがどうなっても知らぬぞ……」
 
 人質を取られたマッシュと私はハイブリッドに従う他なかった。
 ハイブリッドの向かう先は一見ただの壁に見えた。しかし、どうやら隠し扉になっているようでハイブリッドが何やら操作すると、壁が回転し、入り口が開く。
 中はどうやら研究施設になっているらしい。広く取られた間取りの中央には寝台があり、実験体だろうか。肌の白く、痩せた金髪男が寝かしつけられている。
 男の全身からはチューブが伸びており、何やら妙な液体の入ったカプセルへと繋がっている。
 その男の顔を見たマッシュが目を見開く。
 
「クレーン……!?」
 マッシュが口に出した名前から、私は再びランクマッチバトルのトレーナー紹介を思い出した。
 ハイブリッドの他に出場していたトレーナーだ。確か、ナックルシティのシンボルがシンボラーに酷似し過ぎており、そもそもシンボラー自体も鳥なのか何なのか判別がつきにくいことに苛立ち、クレーンで特攻しようとした男……コードネーム“クレーン”。
 
「クレーンに何をするつもりだ!?」
 
「安心したまえ、マッシュ君。キミの大好きな反乱軍“アバランチ“が同胞クレーン君は、ただ寝ているだけだよ」
 
「どうしてアバランチのことを知っている……?」
 
 今この場にこうして、ハイブリッドとクレーンのふたりと出会い、見事にランクマッチバトルの回での伏線を回収する形となった。何か運命のような、誰かの意思が強引に介入しているような不思議な感覚を抱く。
 
「クックックッ……改めて自己紹介しよう。私のコードネームは“ハイブリッド”であるが、本名はハイドという。マクロコスモスカンパニーの科学部門総括をしていた、しがない科学者だよ」
 ハイドと名乗った科学者は、眼鏡の角度を直す。
 
「マクロコスモスのハイド……! なるほど、ようやく思い出したぜ。生きてやがったのか。偽名なんざ使いやがって汚ぇ奴だ」
 マッシュが表情を強張らせるのが分かった。

「私は気に入っているがね、語感も少し似ているだろう? 私は何でも混ぜ合わせるのが好きでね……昔から仕事終わりにはファミレスでドリンクバーを頼み、色々とハイブリッドしたものだ……そのせいで腹を壊したこともあるがね。変化を楽しみたいのだよ、変化。そして変化の先には進化がある。そして、その先には? 全にして一、一にして全。そう、進化の果てに、全ては一つへ集約する。即ち、再統合リユニオンだ。お前たちの行動もまた、刺激的な変化だったぞ、“アバランチ”」

 アバランチ――かつて、マクロコスモス社が引き起こしたブラックナイト騒動の影で活躍し、研究所を全壊させた反乱組織の名だ。マッシュが頭目を務めていたが、今やマッシュを除き、組織は全滅したと聞いていた。しかし、奇跡的に、クレーンはこの場で、現時点では生きて存在している。
 だがマッシュは旧友との再会を祝う暇もなく、今こうして何らかの窮地に立たされようとしている。
 
「一つ面白いことを教えてやろう。マクロコスモスを悪と考えていたようだが、あの悪事の殆どは私の戯れによるものだ。ローズはムゲンダイナを稼働させた程度に過ぎない。あれは私の予想外だったがな……星の命の源ライフエネルギーを多用しようとしたのは私だ。ローズは千年先の未来にエネルギーが枯渇することを懸念していただろう? それを考えれば馬鹿でも理解できよう? ……ああ、そうか。この話はダンデや現ガラルチャンピオンが活躍した表舞台を見ていない貴様には知る由もなかったか! クックック……!」
 
 ペラペラとよく回る舌だ。ハイドは肩を震わせて、顔を歪めて嘲笑していた。
 
『ローズは、マクロコスモスは無関係だったと?』
 
「そのとおり。もっとも、ムゲンダイナの一件で罪に問われ、ここに投獄されはしたがね。貴様らアバランチが思うような星を破壊しかねない活動などしておらんよ。まあ、勘違いを謝ろうにもローズはもうここには居らんがね……以前の囚人脱獄騒動で外に出て以降、行方不明になってしまった。きっと、どこかで隠居していることだろう。しかし愉快だな、その分だと、貴様は研究所の爆破も自分のせいなどと思っているのだろうな」
 
 ハイドはそう言うと、マッシュの表情を観察する。
「なん……だと……」
 マッシュは呆然と呟く。
 
「あれは、私の実験のミスだ。すまんかったな。まあ、私も死にかけたし、水に流してくれたまえよ。クックック……」
 
 マッシュが背負った罪は、正確には負わなくても良い罪だった。それを負い目に感じてマッシュは生き続けてきたのだ。
 
「まあ、良かったじゃないか。罪では無かったのだ。さて、アバランチよ。一つ、素晴らしい提案をしてみよう。お前もポケモンにならないか」
「は?」
 その台詞にマッシュは一瞬呆気に取られる。

「なに、最近騒いでいたポケモン愛護団体のスローガンを真似してみたのだよ。方向性は妙なベクトルへ向かったが、なかなか核心をついていたと思うがね。もちろん、この誘いは本音だ。一度殺されかけた程度、大した確執でもあるまい。クックック……」
 
「何をわけのわからねぇことを言ってやがる。貴様らの所業、許したわけじゃねえぞ」
 マッシュが口調を荒らげる。
「……それに、爆破事件がお前が事の発端だったにしても、俺の罪は許されない。仲間たちを犠牲にしたんだ。そこに居なければ生きていたはずなのに。それに、一歩間違えたら、あの惨劇は起きてたかもしれねえ。結果が全てじゃねぇし、過程が全てでもねぇ。過ちは過ちなんだよ……」
 
「私だったら気にせんがね。その程度、悪魔・・の前では些細な事に過ぎぬ。クク、クックック、ケヒャヒャヒャ」

 ハイブリッド――否、ハイドは、独特の笑い方をする。ひどく嫌な、下種い笑いだった。
 その声に反応し、私の手に握りしめたままだったペルの入ったハイパーボールが微かに揺れる。

「なあ、アバランチ。ワイルドエリアの研究所の大規模な爆発において、なぜ私は生き延びることが出来たと思う? 即死を免れても、私の身体は満身創痍だった。潰れた左目、砕けた肋骨、傷ついた内臓。もう取り返しがつかない。鬼であれば瞬きする間に治る。そんなものポケモンならばかすり傷だ。どう足掻いても人間ではポケモンに勝てない。ポケモン、すなわち悪魔に魂を売ってさえしまえば、我々は強くなれる……」
 ハイドはそう言うと、その足元に何かの木の実を投げ捨てた。

『悪魔の実……?』
 私が思わず呟くと、ハイドは嬉々として説明し始めた。狂気の色がその瞳に浮かんでいる。

「ご名答だよ、サーナイト。そのお陰で私は生き延びることができた。元々、私は幼い頃に、物質を異なる世界線の物質と等価交換する原理を見つけてね……。今いるこの世界線、この時代の幼い私も同様の原理で“ウッウロボ”という形で開発しているようだが」
 
 ヨロイ島でのことだ。4個のアイテムを入れると別のものに変わるという画期的な装置であると、マスターが言っていたように思う。
 あれはこの世界の物質を異なる平行世界のそれと等価交換するものだったのだ。そして、このハイブリッドのコードネームを名乗っていたハイドは、この世界のハイドとは異なる世界線を生きてきた将来の姿なのだろう。
 
「その理論をもとに、私は研究を進めた成果物が、“悪魔の実”だ。悪魔の実でその身をポケモンに変化させることができるのだよ。私も死に瀕して自らをそうした。兼ねてから、その辺に捨ておいた悪魔の実を食した者でデータは取れていたからな。その者の記憶や自我はしっかりと残ることもわかっていた。これこそが、悪魔の実が別のものへ変えてしまう“変化”ではなく、進化である所以だな」
 
 ペルが食した悪魔の実も、長い目で見た場合のデータ取りの一つだったのだ。
 
「人を実験動物みてぇに扱いやがって……」
 ハイドに向かい合うマッシュが唇を強く噛む。
 
「人間もポケモンも同じだろう。だから貴様もその恰好をしているのではないのか? ふむ、まあいい。ではここで見せてやろう。今は果実などの形状ではなく、薬液にすることに成功した」
 ハイドは白衣のポケットに手を突っ込むと何やら注射器を取り出し、それを寝台に横たわる囚人服の男、クレーンの二の腕に突き刺した。中の薬液がクレーンの身体の中に入り込むと、クレーンは突然その身を捩り、もがき始めた。みるみるうちにその身体の色が水色に変異していき、囚人生活で痩せたその身体は、更に細くなっていく。それはまるでポケモンのインテレオンの様相だった。

「さあ、再統合リユニオンするのだ!」

「クレーン!!」
 マッシュがその変化を見て、声をあげる。
 
「おっと、今更、何をしても遅いぞ。近づくと、かえって進化の妨げとなる。それに博士たちがどうなっても良いのかね」
 マッシュが近寄ろうとするのを制止する。
「クックック……薬液の試作品完成に至るまでは楽だったが、その先が苦労してね。ろくなサンプルが居なくてなあ……だが、共同研究を行っていた男サカキの提案でワイルドエリアに転がる被検体どもを見つけてからは格段に研究の質はあがった。あれらは特別だ。そこらの人間などよりも優れた被検体がたっぷり手に入ったのだ」
 
 クレーンの変化は収まっていた。インテレオンにその姿を変えたクレーンを見て、ハイドはくぐもった笑い声を出す。
 そしてまたポケットの装置を何やら操作すると天井から何やらどさりと何かが落ちてきた。いくつものリュック、衣類、トレーナーカード……。その中に私は、見覚えのあるハット帽と黒ずくめの衣類、そして脇に転がるトレーナーカードを見つけた。
 トレーナーに記載された男の名は『ムザン』。私が初めてワイルドエリアで見かけた、あの威圧感を放っていた謎の男だと思い当たる。先のハイドの台詞と合わせると、彼も被検体にされたのだろう。こうやって容易く捕獲されたところを見ると、ただのトレーナーであり、ただの人間だったようだ。
 
「こいつはワイルドエリアにうようよしている【TYPE:Masaru】のうちの一体の荷物だ。少し前までは“人間”だったな。その後は時の神となり、サカキの手持ちに成り下がったがね」
 ムゲンダイ巣穴で闘った時の神ディアルガを思い出す。確かにサカキはディアルガを使役していた。
「【TYPE:Masaru】って何なんだ?」
 マッシュが割って入る。
 
「こうなると、語りたくなるのが悪役と研究者の性分だ……クックック。【TYPE:Masaru】とは数多ある平行世界に居る強者の総称である。別に【TYPE:Yu-ri】も存在している。男がマサル、女がユウリ。それぞれのガラルの頂点に君臨する、あるいはこれから君臨せんとする強者の名だ。俗な呼び方をすれば、ガラルチャンピオンともいうかな?」
 
 ガラル地方に来た最初の頃、ワイルドエリアに赴いた際にマスターは、ガラルチャンピオンの自分よりも強い者がワイルドエリアには沢山居る、不思議な場所だと言っていた。
 今のハイドの話を聞くと、マスターが言うのも至極当然である。そこに居るどのトレーナーも、ほかの世界のチャンピオンにまで登りつめた存在なのだ。
 ワイルドエリアは言うなれば、他の世界と交錯する場所だった。
 
「ワイルドエリアの奴らは強者だけあり、良いぞ。極めて至高に近い、非常に良い素体だった。大抵の奴らは神の器としては耐えられず、肉体も精神も崩壊するが、このサンプル達は違う。神の器としてその肉体を留めるに耐えたのだ!」
 
 すらすらとハイドは説明する。悪役が何かを語る時は、大抵が勝利を確信している時である。見たところ丸腰でポケモンの入ったボールの類も持っていなそうな様子であるが、恐らく、ハイドには何か隠し手がある。
 
「……だが、彼らの精神は耐えられず、人間の言葉も理解できぬただの野生のポケモン以下に成り下がってしまったのだ。いつ暴走するか分からぬ神話の存在たち。リスクだらけのそれらをそのまま運用することは出来なかった……だが! 私とサカキはそれを打破する方法を見出し、理論上は、神を創る術に辿り着いたのだ。そう、即ち至高の境地にな。ただし、それにはワイルドエリアの強者ではない、ただの人間が必要だったのだ。そうだ、最後の臨床試験が、データがまだまだ足りない。そこで今回の被検体の出番というわけだ」

『サカキが研究者……?』
 私の声に、ハイドは愉快そうに顔面を歪めた。
「そう、サカキだ。あの男は研究者であると同時に、悪の組織ロケット団のボスだった。カントーの事情にも明るい。彼の組織の研究部門のまとめたレポートは多岐にわたる。カントーのマサキという男がポケモンと意識が入れ替わった事件。宇宙からの飛来物に付着した未知の物質……それらのデータと、私と彼の頭脳をハイブリッドさせ、私たちは研究を進め続けた。結果、出来上がったのが“進化の秘法”だ」
 ハイドは説明を続けた。
 
 サカキとの意外な関係性に驚いている暇はない。恐らく、ハイドは眼の前の昏睡しているクレーンを利用して、何か実験しようとしている。
 
「さて、ただの人間がインテレオンに進化したこの被検体に、更に冥界の神のエッセンスを加えてみよう。以前の被検体には失敗したが、今回は上手くいくだろう。しかし、前回失敗の際は、レインボーからこっぴどく叱られたよ」
 
「だれだレインボーって?」
 
 私と同じ疑問をマッシュは口にしたが、その言葉を無視し、ハイドは続けた。
 
「なにせ、冥界の神ギラティナの能力で世界が反転し、更に再反転し、実験に使う囚人どもを外部に出してしまう結果になったからな」
 
『囚人たちが表に……あのガラル鉄道の事件は貴方が原因だったのですね』
 
「ご名答! あの頃は神の領域に足を踏み込んでいたので、少し舞い上がっていてね。神を名乗って研究所まで囚人共を連れてきたのだが、そこからがちょっとした不手際だったな!」
 今度は律儀に返してくる。どうやら、ハイドは研究気質というか人の話を聞かない性質であるらしい。
「世界の再構築などという理想を述べたりしたが、幸いにも囚人どもは睡眠薬の影響か、私のことは忘れていたようで明るみに出ずに済んだがね。お陰で研究を中止せずとも済んだ」
 
 そしてハイドが、クレーンに繋がるチューブの先の機械を何やら操作しようとした瞬間――
「ゴリゴリのぉぉぉ……戦斧!!」
 天井が崩れ落ちると共に、空から麦わら帽子を被った男が降ってくる。
 その衝撃でハイドが吹き飛び、クレーンのチューブの延びる先に繋がる壁際の装置に衝突し、その反動で装置を突き破り、ハイドの姿が見えなくなった。
「ウボァァァァァァァ!!」
 火花が散り、ハイドの絶叫が響き渡る。
 ただでさえ、妙な薬液の入った装置である。巻き込まれたハイドの様子はわからないが、無事では済まないだろう。絶叫の後はしばらく、ぼこぼこと何かが沸騰している音がしていた。
 天井が落ちた衝撃で、粉塵が舞う。
 ポケモンである私には大きく影響はないが、人間であるマッシュは大きく咳き込んでいた。マッシュの服は少しほつれ、肌が見えていた。
「何だ!?」
「俺だ!! 助けに来た!」
 どん!
 効果音と共にマッシュの声に応じたのは、麦わら帽子を被ったルヒィ。麦わら海賊団の船長だった。
 陽動作戦を行っていたはずであるが、船長であるルヒィは単身この場に助太刀に現れたのだった。
「俺は海賊王だ! 俺が決めた!!」
 どん!
 声高々に宣言すると、両手を天に掲げてみせた。
 そこには、勝手に夢を成し遂げた一人の男の姿があった。

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【補足】リュニオンとは?
 つづりは reunion。再結合・再結集を意味する。ホウジョウ博士が「ジェノバ」の能力として打ち立てた仮説である。『ジェノバはたとえバラバラになろうとも時期が来ればやがてひとつの場所に集結し再結合する』というもの……であるが、これは、みんな大好きなファイナルファンタジー7の設定である。
 このゲームに影響を受けたハイブリッドが、本来の意味を深く考えず、「響きがかっこいいから」という理由でパクって名付けた。
 理論はハイブリッドの脳内にある為、筆者は深く設定していないが、「人間をポケモンに変化させる何か」が存在している。この原理をを深く突き詰めると筆者の頭がパンクする為、さらっと流していただきたい。
 また、ハイブリッドは、ホウジョウ博士に憧れており、そのマッドサイエンティストっぽさを真似してみたり、「クックックッ……」とそれらしい不気味な笑い方をしてみたりする傾向があるが、完全な厨二病である。
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