【第043話】Judgement

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読了時間目安:11分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ーーーーー大事なことを、忘れかけていた。
でも……自分に問い直して、思い出した。
そうだ、彼女を……夜行百々を、『あちら側』に突き落としたのは、他でもない私じゃないか。
あの日の遠足で迷い込んだ竹藪での過ちが、私だけじゃなく……彼女をも狂わせてしまったんだ。

 だったら、間違いない。
私には、彼女を『救う』義務がある。
その醜悪極まる固定観念から、救う義務が……!!



 ーーーーー硬質化した腕を高く掲げ、斜め下方向に振り下ろすバサギリ。
それは今までの『エアスラッシュ』以上の質量を持つ斬撃、『がんせきアックス』の攻撃だった。
『喰らいやがれッ!!!!!』
鋭利な岩石の如き重たい一撃……それでいて速いその攻撃は、バクフーンの頬を目にも止まらぬ速さで殴りつけた。

『ぐふっ………!!』
「(速ッ……嘘だろ、進化と同時に……動きに迷いがなくなった……!!)」
『まだまだァアアアアアッ!!!』
鎌倉によって次々に送り出される技の指示を、バサギリは絶え間なく捌いていく。
2発、3発と……重い攻撃が、バクフーンの急所を正確に射抜いていく。
一切の無駄なく、大ダメージを与える……合理的な動きだ。

「まだだバクフーン……怨霊を出せッ!!」
『ふふ……20体ッ、焼かれろッ!!!』
バクフーンの身体が、虹色に鈍く光る。
CMカオスマザーの超越的な力を発揮した彼は、周囲に多量の怨霊を召喚する。
怨霊たちはすぐにバサギリの身体に絡みつき、身動きを取れないように拘束を仕掛ける。
腕と脚と目……機動力となる部位を、徹底的に。

『ぐ……!!』
「焼いてやるッ、テメェらの眼球から足先まで、徹底的にッ!!」
殺意をむき出しにする夜行。
しかし鎌倉は冷静に切り返す。

「させるかッ、振りほどきますよッ!!」
『ッ……おうよッ!!しゃらああああああッ!!』
バサギリの全身が、高速で振動を始める。
次の瞬間には『インファイト』による水平方向の大規模な回転が生まれ、怨霊を木端微塵に消し飛ばした。

 更にはその勢いで生まれた風圧は、『ぎんいろのかぜ』となってバクフーンに追い打ちのダメージを与える。
『ぐあッ………!!』
「チッ……こうなりゃ……おいバクフーンッ、意識よこせッ!!」
夜行は叫ぶ。
そして白目をむき出しにし、バクフーンに何かしらの強い念を送り出した。

『うぉおおおお……集まれ……ボクの………下僕たちッ!!』
周囲の空間が、さらに温度を上げる。
ソラマチに広がる火の海の勢いが、更に増していく。
そうして出来上がった炎の壁からは……

『Gyyyyyyyyyyyyy!!』
『Wlyyyyyyyyyyy!!』
『Bllllllllllllllllllllllllllll!!!』

『なッ……アレは……!?』
「ポケモンの……群れッ!!?」

 無数の野良感染獣ポケモンたちが現れたのだ。
先の人払いによって、姿を変えさせられた一般客たちである。
その数、実に100以上……その全てが、バクフーンの死体操りネクロナイズにて支配されている。

「人海戦術ならぬ、獣海戦術だ。肉の壁で押し潰してやる……!!」
肉の壁……そう、まさしく肉壁だ。
感染獣たちを盾にすれば、流石の鎌倉も迂闊に攻撃を出来ない……夜行はそう考えたのである。

『チッ、このクソ外道がァッ……!!』
「さぁ喰らえ、死せる獣共ッ!!カス一つ残さずになッ!!」
『Gllllllllllllllllllllllllllll!!』
『Wlyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!』
駆け寄ってきたポケモンの群れが、バサギリをめがけて次々と飛びかかってくる。
その表情に生気は宿っておらず、迷いも躊躇も一切ない。
圧倒的な物量を持った生物の波が、彼らを飲み込もうとしていたのだ。



「……るな。」
「あ?」
鎌倉がわずかに一言、つぶやいたのを聞き逃した夜行。
次の瞬間…………

『Glllllllll!?』
『Wlyyyyyyy!!?』
飛びかかってきたポケモンたちは、皆一斉に弾け飛んだのである。
……バサギリの、繊細な一太刀によって。

「舐めるな夜行ッ!私が半端者・・・だということを忘れたかッ!?」
「ッ……!?」
夜行は吹き飛ばされたポケモンたちに目をやる。
……彼らの身体には、致命傷と呼べる傷が殆どついていない。
全てが峰打ちだったのだ。

『おうよ。俺らは手加減については一級品なんだよッ!!』
そう……それは謂わば、殺さぬための技・・・・・・・
命を奪うあの感触を嫌う、鎌倉だからこそ為せる技。
殺意無き『半端者』のみに許された技だ。
弱き刃は、夜行の罠を切り抜けたのである。

「まだだ……バクフーンッ!!力なら全部貸してやるッ!!ソイツの魂も身体も、全部焼き尽くせッ!!!」
『おっ……おおおおおおおおおおおッ!!』
バクフーンの全身が再度虹色に光り、周囲には紫色の炎が爆発的に広がっていく。
無数の怨霊たちが、バサギリの全身を焦がさんと迫ってきたのである。
『がッ……ぐあああッ……!!』
怨霊の群れは、あっという間にバサギリの全身を包み込んだ。


『焦がれろッ……焦がれて、消えろッ!!!!!!』
バクフーンもこれ以上無いほどに火力を上げ、怨霊をバサギリの体内へと送り込んでいく。
内外から尽く、彼を焼き払うつもりのようだ。

 ……が、しかし。
『ぐッ……相変わらずクソ熱ィな……だが、流石に慣れてきたぜェ……!!』
全身を焼かれているにも関わらず、バサギリの顔には笑みが浮かんでいた。
更にはその身体の焼け跡を中心に、鈍い虹色の光が灯り始めたのだ。

『ッ……コイツ、まさか……!?』
CMカオスマザーの力を……取り込んでやがるだとッ!?」
そう……バクフーンの出力したCMカオスマザーの力を、身体に吸収し始めたのだ。
バサギリは幾度となく受けたこの炎への態勢を得て、逆に支配するまでに至ったのである。

『コイツが例の邪神の力か……反吐が出るほど不快だなァ。だが……これでキメられるぜェ!!鎌倉ァッ!!!』
「はい!今ですッ!!」
瞬間、鎌倉は鋭く短く……バサギリに、『がんせきアックス』の指示を念じる。

 その一太刀は先の何十倍もの速度で……バクフーンの脳天を縦一文字に叩き割った。
『がッ……あッ!!?』
急所一発の大ダメージ……流石の彼も、耐えきれなかった。
……ただしそれは、体力の話ではない。





『が……あ……ァ………B……Blllllllllllllllllllll!!』
「お、おいバクフーンッ……!?ッ……クソッ、意識が……繋がらねぇッ!!?」
……そう、耐えきれなくなったのは、夜行とバクフーンの『契獣関係』だ。
CMカオスマザーの力を得たストライクは、契獣関係を断ち切る力を手に入れたのである。

 間もなく、理性を失ったバクフーンは、他のポケモンともどもフードコートの外へと去っていく。
「おいバクフーンッ、戻れッ……クソ……クソがッ!!!」
『夜行百々……貴方はこれで契獣者ではなくなった。バクフーンがいなくなった今、貴方に戦う力はありません。……貴方の敗北です。』
そしてバサギリの腕の鎌が、夜行の首筋に突きつけられる。
その刃は、チェックメイトの意を示していた。

「……大人しくしてください。貴方を殺す気はありません。貴方はこれから、法の下に裁かれるのです。」
鎌倉はあくまで落ち着いて、夜行を縛り上げようとする。
多くの人間を殺してきたことに対する恨みはある。
自らの行動で、殺人鬼に貶めてしまった後悔もある。
だが……彼女はそれらの私情を押し殺し、夜行を捕まえようとしたのだ。

「……ハッ、ハハッ……ハハハハハハハハハッ!!」
「ッ……!?」
「なにが法の下だッ!!!なにが裁くだッ!!!笑わせるのもいい加減にしやがれッ!!」
夜行はそう叫ぶと、鎌倉の腕を強く振りほどく。


の法ほどクソなもんはねぇ!!『強くて悪い奴』をいつまでも野放しにするくせに、『弱くて悪い奴』には容赦なく責を負わせようとするッ!!親父のときもそうだった!!アイツはいつまでものさばって、アタシだけが縄についた!!」
そして颯爽とレザージャケットの内ポケットから、黒いゴムボールのようなものを取り出す。
その物体の正体に、いち早く気づいたのはバサギリだった。

『しゅ……手榴弾!?まさかテメェ……』
「アタシの罪は、誰の秤にも乗せさせねぇ!!地獄に付き合え、死神の鎌倉ァッ!!!!!!!!」
夜行は叫び、手榴弾のピンを抜く。
鎌倉ごと道連れにするのだ。

 爆発まで数秒足らずだった。
炎の海が広がるフードコートに、爆音と突風が駆け抜ける。
その爆発は、何もかもを飲み込みながら、周囲のあらゆる物体を破壊し尽くしたのだ。

















 ………「っ!?い、生きてる!?」
爆発から数秒後、自らの無事を確認した鎌倉は唖然とする。
確かに、爆発に吹き飛ばされたことは間違いない。
全身には鈍い痛みが走っている。
しかしそこは、ひとつ下のフロアの踊り場だ。
どういうわけか、彼女は助かったのである。

 ……そして、その理由はすぐにわかった。
「ッ!?す、ストライクの気配がないッ!?」
彼女は、心のなかで問いかける。
「(ストライクッ………ストライクッ、返事をしてくださいッ!!)」
相棒の居場所を、探ろうとする。

 しかしどこにも、彼の姿はなかった。
なんど接続を試みても、彼の気配はどこにもなかったのだ。

 ……彼女は、契獣者ではなくなっていた。
その関係を、断ち切られていたのだ。

 ……他でもない、バサギリ相棒の手で。


 
「そんな……そんなッ………!!!」
彼は、鎌倉を庇ったのだ。
契獣が死ねば、その主も道連れになる。
だから、その直前に関係を断ち切ったのである。

 感染獣の体力であれば、その後我先にと逃げることも出来ただろう。
しかし、彼はそうしなかった。
鎌倉を守ることに、全力で賭けたのである。




「……はは……ハハハッ………何も……守れてないじゃないですか……救えてないじゃないですか……私………夜行も………ストライクも…………!!!」


「……………!!!!!!!!!」

 鎌倉雅美の慟哭は、炎の轟音に溶けて消える。


 フードコートの激戦は……2名の犠牲の下、幕を閉じた。

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