第25話 ~運命の片鱗~

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読了時間目安:25分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

主な登場人物

(救助隊キセキ)
 [シズ:元人間・ミズゴロウ♂]
 [ユカ:イーブイ♀]

(その他)
 [スズキ:コリンク♂]
 [ミコラーシュ:ニャスパー♂]

前回のあらすじ

お好きな情報何でも一つ優勝賞品に掲げるバトル大会"インフォメーションカップXXX"。
爆破事件に見舞われながらも強行されたその大会……そして、爆破事件そのものは、ついに終結に向かっていた。
シズを逆恨みするニャスパー・ミコラーシュとシズの決勝戦は、シズの勝利に終わった。
爆破事件の裏にいた悪者たちは、スズキが概ね殺した。

……この騒動は、一体何のために起こされたのだろうか? 一体、誰のために?
「勝負あり! ミコラーシュ戦闘不能によって、シズの勝利とする!」

審判の威勢のいい台詞が、ずいぶんと静かになってしまったバトル会場に鳴り響く。
……やっと終わったとでも言わんばかりだ。

「勝った……ボクが? ……優勝?」

一方、勝利を宣言されたシズ。……全くもって実感がわいていなかった。
あるいは大会が正常に運営された上での優勝であったならもっと喜べていたのかもしれないが。
"これでプレーンという人物に近づける"……"これで失った記憶を少しは取り戻せるかもしれない"……そんな感慨に浸れる精神状態ではない。

「……ミコラーシュさん」

シズは地面に倒れ伏しているミコラーシュに近づいた。
先ほどまで戦っていたとはいえ、相手から一方的な憎しみを向けられているとはいえど、これはあくまで試合なのだ。
シズには倒れた相手を助け起こさないという選択肢は思い浮かばなかった。

「大丈夫、ですか? ミコラーシュ……さん」

ぎこちない口調でミコラーシュに話しかける。
反応はない。気絶しているのか、あるいは無視されているのかもしれない。
いずれにせよ、反応がないならば助け起こさねば。シズはそんな思考に至った。

「ごめんなさい。体に触らせて――」

助け起こすならば、必然的に物理的な接触も伴う。
そうしてミコラーシュの腕に触り、彼の瞳をのぞき込んだ瞬間のこと。



……その時、奇妙なことが起こった。
シズはめまいを感じる。自分の中から、自分が抜けていくような……幽体離脱のような感覚を覚えた。

「――え?」

その不思議な体験に、思わず声を上げてしまった。
いつの間にかミコラーシュから前足を離してしまってもいる。

「クソ、ミズゴロウ……いや、"シズ"さん」

気が付くと、ミコラーシュがこちらを見つめていた。
彼も同じような体験をしたのだろうか? 互いの中に微妙な空気感が形成されつつある。

「あなたの、"オカルト的なパワー"……。その、カラクリが……分かり、ましたよ」

ミコラーシュは言い放つ。
シズを困惑させるには十分すぎる台詞だった。

「"魂のエネルギー"は……人類の、生み出した技術……です。そして、"死の虹"も……元はといえば、人間の力、でした。分かりますか、この、意味が」
「何が……何が言いたいんですか?」

荒い呼吸による中断を頻繁に挟みながら彼は続けた。
"死の虹"――それは"魂のエネルギー"を超能力的なパワーとして振るう力であるとシズは聞いている。
あまり良いイメージはない。それがユカの父親を殺した能力だとも聞いているから……

その困惑するような台詞に反して、シズはミコラーシュが言わんとしていることをなんとなく理解していた。
シズは人間だ。"元"という前提が付くが。そしてそれは、読心術を通じてミコラーシュにも知られているだろう。

「素直に、答えると……でも? ……それでは、僕は……けほっ、こほっ……これで」
「ちょっ……!」

どうしてそんな結論に至ったのか。シズはそう聞こうとしたが、ミコラーシュはすでにふらついた足取りでここを立ち去ろうとしていた。

治療を受けるようにと、審判がミコラーシュに進言する。彼は無視してコートを出た。












「やったね、シズ!」

どこか無邪気に、ユカは言った。
ミコラーシュが立ち去ってからすぐのことだ。勝負の決着を聞きつけたユカが"元気三匹衆"の捜索を放って駆けつけてきたのは。
……ユカの担当はバトル会場内だったから、そう大した話ではないが。

「捜索は……?」
「カクレオン兄さんに任せてるよ。……というより、もう探すべきところがないというかさ」
「そっか……」

木製の骨組みと布製の壁で構成された、バトルの会場とするにはいささか原始的に過ぎる気もするこの建物。遊牧民のテントのような雰囲気を感じさせるそれは、そのような構造物としてはかなり大型である。
……スズキやターボの担当するこの建物の外とは比べるべくもないが。すべての場所を調べ終えてしまったと言われても違和感はない。



「――おめでとうございます」

後方から声がした。
思わず二匹が振り向くと、そこには大会のスタッフらしきポケモンが立っていた。

「えーと……ありがとうございます……」
「ええ。残念ながら、表彰式は行えませんが――知っての通り、この大会は滅茶苦茶なのですよ、もはや」

他のスタッフと違って――他のスタッフたちは、この大会において発生した異常事態の連続に疲弊したり、焦燥したりしている場合がほとんど――彼はかなり落ち着いているようだ。

「と、いうわけで。早速ですが、あなた方を"伝説の情報屋"様の元へとご招待いたしょう。"お好きな情報何でも一つ"……その授与を持ってして、この大会は完了するのですから」

それは、大会優勝者への案内を務めるポジションであるからだろうか。……思えば、"伝説の情報屋"は今まで一度も姿を見せていない。もしかすると、姿を隠さなければならない理由があるのかもしれない。
……シズたちにとってあまり興味のそそられる話ではないが。とりあえず、このスタッフの案内に従うことにした。












「すごいね、シズ。人間の時代にやって来たみたい」
「……ちょっと高めのホテルっぽいかも」

スタッフの案内に従い、バトル大会の会場を離れ、コンクリートの外装が目立つ建物へと立ち入った。
この建物は、決して煌びやかな装飾が施されているわけではない。だが、小綺麗に整った家具や小物の数々や暗めの雰囲気。そして、人類の比較的高度な建築技術が利用されているという事実も相まって、どこか落ち着いた高級感を醸し出している。

「私がご案内するのはここまでです。一番奥の部屋へお進みください」

そうした建物の雰囲気に当てられていると、いつの間にか目的地にたどり着いていた。
スタッフの案内通りに廊下を歩く。突き当たりに扉があった。

「ああ、失礼。イーブイのお嬢さん」
「え?」

扉の先に進もうとすると、後方からスタッフが声をかけてくる。
ユカの口から、ちょっぴり間抜けな音が漏れ出た。

「言い忘れておりましたが、"伝説の情報屋"とお会いできるのは大会優勝者のみとなります。付き添いの方はお部屋の外でお待ちいただくようお願いいたします」
「ふーん……なんていうか、厳格だね」
「"伝説の情報屋"の知識欲は圧巻の一言です。何らかの秘密に踏み込んで命を狙われることも少なくないのですよ」

なんだか壮大な事情があるんだなと、ユカは思った。
知識欲が高すぎて命を狙われるなんて馬鹿らしい……とも思ったが、だからこそ"伝説の情報屋"と呼ばれるよまでになったのかもしれない。
天才と馬鹿は紙一重って言うし。

「……だってさ、シズ。がんばってきてね」
「がんばるって、何を……」
「"知識欲"の餌食にされないようにだよ」

――それって、質問攻めにされるかもってこと?
そう心の中で呟いてからシズは思い至った。自分が"元人間"だということ。そして、"元人間"という事実がそういうヒトの好奇心をものすごく刺激しそうなことを。

「わ、わかった。気をつける……」





人間程度の大きさを持つポケモン――そういう存在が使うことを想定されているであろうその扉を、シズがゆっくりと押し開ける。
その先には一匹のインテレオンが椅子に座って待っていた。どこか大人っぽい余裕を感じるポーズだ。

「ようこそ、私の部屋へ。君は勝者だ。一つだけ、私に質問をする権利がある」

早速といわんばかりに、彼――おそらく"伝説の情報屋"であろう人物がシズに問いかける。
……質問する内容は決まっていた。

「"プレーン"という人物を、知っていますか?」

プレーン。シズの記憶を追う唯一の手がかりとされる人物。
年齢、性別、生きた時代に至るまで全くの不明。種族についてだけは大まかな"あたり"がついているが、それ以上は何もない。

「"プレーン"……? ふむ、興味深いな。確認しよう、それはイーブイの"プレーン"で間違いはないのか?」
「……! そうです! 多分、その通りです!!」

その"あたり"というのは、彼、もしくは彼女がイーブイであるかもしれないという非常にアバウトなものだ。
それが正解だと知って、シズは少し安心したような気持ちになった。

「なるほど。一部の歴史オタクの、さらにそのごくごく一部しか知らないようなことを、この少年が名前だけでも知っているとは。実に、実に興味深い」
「……」

それがあまり広まっていない知識であることを"伝説の情報屋"はしつこいぐらいに主張する。
……しかし、"歴史オタク"ということはだ。

「結論から言おう。彼は、人類の時代に生きていたポケモンだ」
「それじゃあ……」

やはり、この時代の人物ではなかった。

「そしてどうやら、とある人間の少年を脅迫するための人質として利用されていたらしい」
「え……」

その言葉を聞いた瞬間、シズの背中にぞわりとする物が走った。
とある人間の少年――それはおそらくシズのことだ。シズは元人間であり、人類の時代からやって来た存在だ。
そしてプレーンは、(少なくともシズの見解では)シズの友達である。

「口頭で説明するのはここまでにしよう。プレーンに関する資料がある。受け取るといい」

"伝説の情報屋"がファイルを差し出す。紙製の、冊子方式で止めるタイプだ。
受け取ろうとするシズの前足うでが少し震えていた。

「脅迫……? いったい、ボクは……何を強制されて……」
「この資料には、人類史のターニングポイントといっても過言ではない情報が記録されている。君が一体何者なのか、君がどうして、当事者のような物言いをしたのか……」
「――っ!?」

"当事者のような物言い"。
"伝説の情報屋"に指摘されて、シズは思わず自らの口に前足を当てる。この部屋に入る直前にユカとした会話を思い出して、頭を抱えそうになった。

「――興味深い反応だ。認めたも同然ではないか」
「い、今は……関係ないですよね。ボクが何者かなんて……」

シズたちをここに連れてきたスタッフが言うには、"伝説の情報屋"は極めて知識欲の高い人物らしい。"興味深い"という単語を多用することから考えてもその主張には説得力がある。
……多くのポケモンたちがそうであるように、自分でもよく分かっていないような事柄を根掘り葉掘り聞かれるのはシズにとっても嫌なことだ。
人質という強烈な単語に追い打ちをかけるような形だという点も考えればなおさらだろう。

「"本物"のようだな、君は。……早く受け取れ。私も忙しいんだ」

"伝説の情報屋"が何か含みのある台詞を放ち、未だ手元にあるファイルをせかすように動かした。
変な追及を受けずに済みそうだと思ってシズはホッとした。相手の気が変わる前にとファイルを受け取る。

「あ、えっと……ありがとうございます」
「さあ、用は済んだだろう。女を待たせるのはみっともないぞ?」

……"そんな遠回しな言い方をしなくても"。
そんなことを思いながらシズは軽くお辞儀をする。そして振り返って、逃げるように部屋を出た。





「……どうだった?」

扉を超えてすぐ、ユカの言葉が聞こえた。

「ファイルを渡された。"歴史のターニングポイント"って言ってたけど……」
「読んでみるまではさっぱり?」
「……うん」

2匹の足は自然に動き始める。もちろん、この建物の外に向かって。

「それに……」
「それに?」
「……"プレーン"は、人間の時代に暮らしていたイーブイで……ボクを脅迫するための人質として利用されていたって……」

"歴史のターニングポイント"。"シズを脅迫するための人質"。
……この二つの情報が、一つの結論に繋がるとするならば。

「シズ」
「……」
「キミは……ワタシと、キミ自身が思ってるよりもさ。すごい人、なのかもね……」












「……作戦終了、か」

とあるインテレオン――"伝説の情報屋"が、誰もいなくなった自室の中で呟く。

「しかし、私も大した役者になったものだ。"伝説の情報屋"に成り代わる、なんて……な」

"伝説の情報屋"がその顔に笑みを浮かべる。
ひどく暗い笑顔だ。小綺麗なその部屋に似合わぬ、邪悪さを感じるにやけ面だ。

「さて……後は無事に帰還するだけ。"再生教団"は正義だ。穢れを打ち払う力なのだ」

そして"伝説の情報屋"――いいや、そのガワを被った"何者か"は、"伝説の情報屋"が嫌っていたはずの"再生教団"を崇拝するような台詞を吐き、堂々と扉に手をかける。
堂々と表を歩き、堂々と"伝説の情報屋"としてこの町を離脱するつもりなのだ。





――突然、窓が割れる。

「なッ!?」

恐怖を煽るその音声に思わず"何者か"は振り向く。
そこには、1匹のコリンクが立っていた。

「窓をブチ割っての突入だと!?」
「……正面の警備は厳しいからな。お前に会うためなら、通常の出入り口を使わない方法が最適だろう?」

そのコリンクの名は"スズキ"、あるいは"死神"。
まるで水浴びをして乾かした直後のようなさっぱりした毛並みには、しかし新鮮な血液の臭いがわずかにこびりついている。

「"先行工作隊"を潰したのか。そして、コジョフー隊長も……」
「趣味ではないが、拷問した上で殺した。……あいつの話は興味深かったな」

その臭いを嗅いだ"何者か"はすぐに状況を理解した。
会場爆破の実行犯たちはすでに始末されたのだと。

「……"伝説の情報屋暗殺作戦"。あのコジョフーはそう言っていた」
「ちっ……」

露骨な舌打ち。
スズキがこれから話す言葉がおおむね事実であることを証明するような動きだ。

「コジョフーの話によれば、あの"伝説の情報屋"は知りすぎたらしいな。"再生教団"の秘密、とやらを」
「ああ……奴は馬鹿な男だった。何か目的を持つわけでもなく、ただ知的好奇心のためだけに莫大なリスクを冒した。これは報いだ」

"何者か"はため息を吐きながら、スズキの言葉を肯定した。
身内がしゃべってしまったからにはもはや隠す意味は無いと考えたのだろうか。

「その"秘密"とやらが何なのかはさっぱり分からなかったが……"この大会は"伝説の情報屋"を暗殺するために用意された"とも言っていたな、奴は。協力者を使って、"伝説の情報屋"がこれを開催するように仕向けたらしいが」
「……そうだ」
「大会が始まった後、タイミングを見て爆弾を使用。会場や警備のスタッフ、救助隊協会や、街そのものを混乱に陥れたのもお前たちだな」
「その通りだ」

その爆弾によって犠牲者も出ている。
たかだか陽動のために民間の犠牲者を出すなど、全くもってひどい話だ。スズキは心の内でそう付け加えた。

「大会開催のために用意した協力者を利用し、"伝説の情報屋"に大会続行の選択肢を吹き込み、救助隊協会を黙らせたのもお前たちの仕業」
「ああ」

……先ほどから話している"協力者"――それが誰かもスズキの中で見当がついている。その人物の名は、ヴァーサ。救助隊のオンバーンだ。救助隊内で高い権力を握っており、反対意見を一方的に潰すこともその気になれば可能だろう。
なんとも恐ろしい話である。

「そして、"伝説の情報屋"暗殺の実行犯はお前だ。……メタモンだろう? お前は。"伝説の情報屋"に"へんしん"しているんだ」
「……」

スズキの台詞はいったんそこで打ち止めになった。
スズキの知るこの事件の全容は話しきったのだという言外の宣言である。
……だが、ひとつ、彼には大きな疑問があった。数秒間の沈黙の後、もう一度口を開く。

「しかしだ、一つ分からないことがある。なぜお前たち"再生教団"がこんな回りくどい手段を取ったのか……そこがわからない。"伝説の情報屋"を始末するだけなら、奴を"ピースワールド"に登場させた時点で可能だったはずだ。いや、"ピースワールド"に誘導するより前に出来た可能性だってある」

"なぜこんな作戦を実行に移したのか"。根っこの部分に踏み込むような内容だ。
この計画はスズキの言ったように回りくどく、そしてコストもかかる上にリスクも高い。ついでに時間もかかる。
……この島――"ピースワールド"は、"再生教団"という組織の、その勢力圏外にある。つまり、この島に人員を送り込むためには海を渡らねばならない。その事実一つとっても効率が悪い作戦であると言わざるを得ないだろう。

「本当なら、今すぐ銃を抜いてお前を撃ち殺したって良い。それをしないのは、お前の回答に期待しているからだ」

――スズキの"悪人ならブッ殺して構わない"という倫理観とその単純な戦闘力の高さはこれまでの出来事で証明されている。そして、彼と因縁のある"再生教団"であればそのことを知っていてもおかしくはない。
脅しとしてはかなり強力な部類に入るだろう。

「――答える義務はない。だが……」
「だが?」

"何者か"――"メタモン"はそれでも全く動じた様子を見せない。
何か切り札があるのだろうか。だからこその余裕なのだろうか? スズキは相手の言葉に相槌を打ちながら思考する。



「一つだけ教えてやる。"シズ"だ」
「……は?」

……その"切り札"はかなり予想外の所にあったようだ。
つまり、"情報"。スズキを困惑させるに足る情報である。

「この大会は最初から、シズが優勝するように仕組まれたものだ。爆破事件も、彼を潰しかねない屈強な者たちを追い払うための行動であって、攪乱は福次的な効果に過ぎないのだよ」

"攪乱は副次的な効果"……ますますスズキは混乱した。
次いで、""伝説の情報屋"は何らかの秘密を握ったために暗殺の対象にされた"という情報を思い出す。そしてその"秘密"こそが"シズを優勝させるため"という不可解な目的に答えを出す鍵なのではないかという想像が浮かび始めた。

「シズを優勝させるためだと!? 一体何のために……!」
「……もっとも、スターチの息子ミコラーシュの乱入は想定外だったがな。そいつの強さもだ。正直、ひやひやしたよ。あればかりは、信仰してもいない神々でんせつに祈るしかなかった。"お願いします! シズを勝利させてください!"……と」

では、その"秘密"とはなんだ? 口封じをしなければならないほどの"秘密"とは?
必死に考えはするが、その答えは出ないし、出るはずもない。情報が足りなさすぎる。

「クソッ、質問に答えろ!」
「ああ、質問。質問ねぇ……それに関しては、"優勝賞品"が役に立つのでは? "お好きな情報何でも一つ"、だぞ?」

故に、相対しているメタモンに回答を迫るしかなかった。
理解不能の情報に対する不安。その感情に背を押されて、スズキは叫ぶ。

「ふざけるな!」
「これはヒント……いいや、正解そのものだ。"お好きな情報何でも一つ"……そう、"お好きな情報何でも一つ"。これこそが、答えなのだ」

それでもメタモンはまともな会話に臨もうとはしなかった。
その苛立ちがこの疑問を解決しなければというスズキの思考を後押しする。



「――おい、上から何か叫び声がしたぞ!」
「――ほら、言ったとおりだ! 聞き間違いなんかじゃなかった!」
「――無駄口を叩くのは後です! "伝説の情報屋"様をお守りせねば!」

……どうやら、疑問を解決する機会は失われてしまったらしい。
そもそも、ここまで長話をやれたこと自体が奇跡的な偶然だったのだ。その上で叫び声なんて上げればどうなるか……言うまでも無い。

「……チッ!」
「時間が無いようだな? フフッ」

なら当初の目的を果たすまでだと、スズキは構えた。
"ピースワールド"は平和でなくてはならないとスズキは考えている。彼自身の平穏を守るために、そうでなくては意味を成さないからと。……そう、殺すのだ。
この大事件を起こし、犠牲者を産み、子供さえも人質に取った連中の仲間……しかも暗殺の実行犯。それがこのメタモンなのである。ここで殺さなければ、"伝説の情報屋"の振りを続けて逃げてしまうだろう。

「お前の命もだ!」

今スズキの目の前にいるのは"伝説の情報屋"――すなわち、"インテレオン"に擬態したメタモンだ。そしてインテレオンはみずタイプのポケモンである。メタモンの"へんしん"は姿のみならず、対象の性質さえも真似るのだ。
そしてスズキの――コリンクのタイプは、でんき。

「"10まんボルト"ッ!」

ポケモンのワザを使うならば、当然これだ。そしてここは建物の一室という比較的狭い空間である。

「くっ……」

一瞬、メタモンは回避という選択肢をためらう。家具やスズキが突入時に破ったガラス窓の破片に足を取られて隙を生み出すことを嫌ったためだ。
しかし電撃という高速性に優れた攻撃に対して"一瞬の迷い"という遅れはあまりにも致命的だった。

「がぁっ!?」

"10まんボルト"は命中。こうかばつぐんの一撃はメタモンに確かな隙を作り出した。
スズキはここぞとばかりに拳銃を取り出し、そしてメタモンへと差し向ける。



その瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。
2匹の注目は必然とそちらへ向く。

「そこのお前! 何を――ピストルだと!?」

警備だ。ここに居る"伝説の情報屋"が偽物である事を知らない第三者。
人間の武器――"殺すための道具"の存在を認めて、その者は驚愕の表情を浮かべた。

「今だッ」

――この状況はメタモンにとって有利。スズキの注意が警備に向いている今なら攻撃するのも逃走するのも自由である。
その隙を見逃さず、メタモンは何かの一手を繰り出そうとするが。

「か……体が動かんだと!?」

その意思が現実になることはなかった。
"まひ"。体の動きが鈍り、そして時には完全な行動不能に陥ることさえある厄介な状態異常。"10まんボルト"の一撃で発症していたのだ。

「運に見放されたようだな!」

"10まんボルト"によって"まひ"が発生する確率はおおよそ10%程度。本当に運に見放されている。
そんな隙を見逃すはずもなく、スズキは拳銃の引き金を引いた。

「ぐっ!?」

消音器によって延長された銃身から弾丸が飛び出す。それは狙い通りに相手の脳天を貫いていった。
だが、まだ死なない。本来メタモンは紫色のアメーバの姿をしている。そしてその見た目通り不定型な肉体を持ち、臓器という臓器のない構造なのだ。
たとえ"へんしん"していたとしてもその"本質"は変わらない。

スズキはまた、引き金を引く。もう一度放たれた銃弾が相手の肉体を削り取る。インテレオンを模した肉体から偽物の血液が飛び散った。
人間の武器とは、殺すための道具。ポケモンの持つ"手加減機構"の働かない、人工の自然現象。

飛び散った血液が床に撒かれる。その液体は次第に紫色の細胞へと変化した。……いや、"紫色の細胞に戻った"というのが正確な表現か。
警備の者はまたもや驚愕した。守るべき相手が本物でないかもしれないのだ。スズキを止めるべきだという思考さえ失い、呆然と立ち尽くすようになった。

さらにまた、引き金が引かれる。今度は間が空かない。何度も、何度も、引き金が引かれた。

「メタモンは不定形の存在だ。鉛玉を一発二発直撃させた程度で死ぬようなデリケートさはない。ならば――」

――生命活動が維持できなくなるレベルまで、バラバラに分解してやる。
スズキの持つ拳銃は衝撃力に優れた銃弾を使用するタイプだ。メタモンの細胞を効率的に"削り取って"くれる。





気付いた頃には、あたりに一面に紫色の物体が広がっていた。
部屋をのぞき込む警備は複数匹に増えていたが、この状況に介入しようと考える者は1匹としていなかった。

「おい」

スズキが言葉を放つ。相当残忍に思える方法でメタモンを殺したコリンクが、だ。警備たちは息を呑んだ。

「これで全部終わったはずだ。……投降する」

そう言ってスズキは過熱した拳銃を床に放った。
しばらくして、警備たちはハッとした。"伝説の情報屋"がどうなったにせよ、目の前にいるコリンクが……そう、"ヤバい"ことには変わりが無い。拘束しなくては!

「"再生教団の秘密"……か。考えるのは後にするしかないが……」

警備たちに縛り付けられている真っ最中、スズキはそんなことを呟いた。
そういえば……シズは無事だろうか? ……死んではいないだろう、多分。
かくして、バトル大会"インフォメーションカップXXX"は終わりを迎えた。
波乱だらけの大会は、新たな謎を呼び込んだ。
どうして人類は絶滅した?
ミコラーシュとのふれ合ったとき、シズが感じ取った感覚とは何だ?
一体、"再生教団の秘密"とは何なのだ? ……そもそも、"再生教団"とは何だ!
しかして、謎に対する収穫も存在するのだ。

謎のイーブイ・"プレーン"の資料。そこに、何かがあるのかもしれない。

第2章 ~歩み寄る深淵~ 完

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