Film5-2 兄ちゃん姉ちゃんにおまかせナリ!

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 学園生活の醍醐味といえば、屋上でのランチタイムだ。青春系の映画とかドラマ、漫画でもよく見ていたのだが、実現できた時はマドカは嬉しかった。今ではアキヨと一緒に屋上で食べるお昼ご飯が、学園生活の日常のひとつとして組み込まれている。
 この屋上、部活の練習場所としてもよく使っていたが、部活外の時間とでは見る景色が違って見える。日常の喧騒から離れたような、そんな不思議な空間だった。

《最近のライム、地が出てきてるからすごい焦った〜。こないだも文芸部寄った時、どうなるかも思ったもん》
「いやお前が言うなし! しかもそれ、コウジと別れた後に謝っただろうが!」
《ただでさえお兄ちゃん、変なとこで勘がいいからね。そもそも秘密にしたいってライムから言い出したんだから、気をつけなきゃ》
《まぁまぁ、マドっちもライムっちも落ち着いて》

 オウリンは仲裁するために、凸凹コンビの間に割って入る。まだお互いムスッとしてるマドカとライムだが、とりあえず収拾はつけた気になった。

「でもコウジが勘がいいってのは本当だよな。勘っていうか頭もいいから」
「俺がなんだって?」

 突然耳に入ってきた声に、一同は凍りつく。何故ならその声の主が、噂のコウジだったから。肩の上にはスダチもいるというおまけ付きで。
 大慌てでライムは、取り繕うかのように“マドカ”としての芝居を始めた。マドカも一緒になって、“ライム”としての振る舞いに切り替える。

「お、お兄ちゃん! なんでここに?」
「お前の教室行ったら、クラスの人が教えてくれたんだよ。お前とアキヨちゃんは、昼休みは決まって屋上に行くって」
「あたしに用があったの? どうしたの?」
「マドカ。お前最近俺に隠し事してないか?」

 単刀直入に来たか。ライムは肯定も否定もしなかった。

「……どうしたのいきなり」
《ライム様もですわよ!》
《そ、そんなことないよ!》

 マドカもまた、スダチの食ってかかるくらいの勢いにタジタジだ。このままこのお兄ちゃんお姉ちゃんコンビと話していると、役の皮が剥がされてしまいそうだ。

「何か悩みとかでもあるんだったら、相談乗るぜ? 一応3年生の先輩だし」
「だ……っ、大丈夫! 悩みとかないよ! それよりお兄ちゃん、それこそ3年生なんだから自分のことはいいの? 受験とか、部活とか、生徒会とか--」
「今はお前の話をしてるのに。アキヨちゃんはどう思う?」
「え? えーっと……マドカちゃんもライムちゃんもいつも通りだと思いますよぉ」
「とにかく! あたしは大丈夫! だから、あたしのことは気にしないで!」

 なかなかコウジが食い下がらないどころか、アキヨにまで話を振るものだから、ライムは無理矢理会話を終わらせた。
 ちょっと強気に出過ぎたかな--ライムの考えはどうやら的中したようだ。途端にコウジの勢いががくっと落ち、目尻も下がっている。
 コウジが落ち込んでいるというか、悲しい気持ちにさせてしまったことは、ライムには一目ですぐ分かった。

「確かに俺は、ポケモン演劇部を無くそうとしたりもしたけど。あんま信用されてないみたいだな」
「え……いや、そうじゃないけど」
「邪魔して悪かったな」

 自虐的に笑うと、コウジは校舎の入り口に向かって踵を返す。動揺しながらマドカ達とコウジを交互に見るスダチに構わず「行こう、スダチ」と声をかけると、コウジはその場から姿を消した。

「なんか誤解されちまったのかな」
《あたしにも分かったよ。お兄ちゃん、寂しそうだった》
「ねぇマドカちゃん、ライムちゃん。学校では私がいるけど、お家の中では入れ替わってること知ってる人、いないんだよね?」

 そう。大ごとにしないため、信じてもらえるか分からないため、凸凹コンビの入れ替わりはアキヨとオウリンしか知らないことになっている。

《おうちの人で知ってる人がいないの、ふたりとも辛くないの?》

 ストレート且つ純粋なオウリンの疑問に、マドカもライムも模範的な答えを探す。
 いや、すぐには出てくる。本当だったら相談できればと思うけど、いろんな思いが打ち明けることを阻んでいるのだ。それがたった1人ーー正確には1人と1匹の、きょうだいだとしても。

「会長……コウジ先輩には、本当のこと言ってもいいんじゃないかなぁ」
「んーでも、信じてもらえるか分かんねーよ」
《……いや、案外いけるかも》
「何でだよ?」
《まぁーだって、あたしにとってはたった1人のお兄ちゃんだもん。ライムにとってのスダチちゃんだって、たった1匹のお姉ちゃんでしょ?》

 それって理由になってるのか。でも、不思議だな。マドカがあっけらかんとそう言うと、本当に大丈夫な気がする。
 踏ん切りがつかずに渋るライムを後押ししたのは、マドカの一言だった。



★ ★ ★



 両親が共働きだと、おのずと家庭内で1番同じ時間を共に過ごすのはきょうだいになりがちだ。きょうだいの数が少なければ少ないほど、こじれた時に逃げ場所がなくなるのが胃が痛くなる。
 マドカ&ライムの凸凹コンビも、コウジ&スダチの年長コンビも、同じ家の中にいるハズなのに居心地が悪く感じた。お互いに何かを言いたそうに、時折お菓子や飲み物を取りに来るのを装ってリビングに降りたりしながら、お互いの様子を伺っている。

《どーしたの、ライム》

 痺れを切らしたマドカが、ライムに耳打ちする。

「いや、いざ声かけると緊張するっていうか……」
《もー、大丈夫だよ。あたしもついてるから》
「お、おう」

 そう励ますマドカの手は、ぎゅっとライムの着込んでいるセーラー服の襟を掴んだまま震えていた。
 そりゃ怖いよな。相手がきょうだいだろうが、いや、だからこそ。今まで隠していたことを打ち明けるのは。
 でも、このままじゃ何も変わらない。



「ピカ。ピカピカ、ピカ、ピカチュウ」
「スダチ……そうだよな。昼休みのアレは、俺の早とちりかもしれないな。ちゃんとマドカに確かめないと」

 分かりやすい性格をしている妹の気持ちがこんなに読めないのは、コウジにとって初めてだ。それはスダチも同じように感じている。
 だからこそ、直接確かめなければいけない。それができるのは、きょうだいの特権だと思うから。
 コウジとスダチの決意が固まったちょうどその時、マドカとライムがリビングに入ってきた。その顔は、何かを覚悟したかのように深刻そうだった。
 きょうだい達の目が合う。1番近いハズの存在が、今はとても遠い存在に見える。
 ライムとコウジの震えた声が、リビングに響き渡った。

「お兄ちゃん!」「マドカ!」

 うわ、ハモった。話を切り出そうか迷ってるライムより先に、コウジが先手を取る。

「どうしたんだよ、マドカ?」
「お兄ちゃんこそ」
「俺のことまだ恨んだりでもしてんのか?」
「ち、違う! 違うから!」

 そんなこと微塵も思ってないのに。ムッとしたライムは、ついつい頬を膨らませる。

《わたくし、ライム様のお姉ちゃんですのよ! ガツンとぶつかってきてもいいんですわ!》
《そういうことじゃないんだよ。ただ、その……》

 マドカもまた、スダチに反抗するかのように胸の前で小さな両手拳を作っていた。スダチが体育会系みたいな性格をしているのは何となく分かっていたが、ここまで彼女に反抗したのは、マドカは初めてだった。
 妹とパートナーのムキになったり、何か言いたげなその姿に、コウジは確信する。だって、こういう時の“マドカ”って、頬を膨らませる癖はしないから。むしろその癖は、今ライムがしているもののハズ。
 そういうことだったのか。本人達から明言されてないけど、ほぼそうだろう。絡まっていた糸が解けたかのように、コウジは安心した。

「無限ループになりそうだから俺から言うわ。お前、マドカじゃないだろ」

 その切り出しは、ライムにとっては意外なものだった。ライムが返す言葉を見つける前に、コウジはさらに続ける。

「お前、ライムだな? で、隣のお前はマドカ」

 どこまでおみとおしなんだ。
 自分達から打ち明けようとしていたことをさきどりされ、ライムは肩透かしを喰らった気分だった。文芸部としていろんな物語を見てきたからか。それとも生徒会長としての洞察力か。あるいはその両方か。
 マドカがライムの様子を伺うように顔を上げる。この流れなら言った方がいい。自分のものだったハズのつぶらな瞳が、そう訴えていた。
 
「……コウジの言う通りだ。オレ達は、あの嵐の日から入れ替わってる。オレがライムで、マドカはこっち」
《何ということですの……。昔ヒットした映画みたいですわ!》

 茶化さずにコウジは、じっと妹--の姿をしたライムの言葉を受け止める。一方で足元のスダチは、「アメージングですわ」と口元に手を当てていた。

《スダチちゃんもごめんね、黙ってて。あと、廃部騒動の時はひどいこと言って》
《そのくだりはもういいんですのよ! 入れ替わりのことだって、おふたりの考えがあって、わたくし達に秘密にしていたのでしょう? でも、ちょっと言ってほしかった気持ちもありますわ》

 スダチはわざと、しょぼくれたように顔のパーツを中心に集中させる。それがマドカをちょっと困らせてみたい、といういたずらごころの現れであることは、マドカもちゃんと汲み取っていた。
 マドカはマドカで、数日ぶりに“マドカとして”スダチと接することで、張り詰めていたものがほぐれた気がした。

「他にこのこと、知ってるヤツはいるのか?」
「アキヨとリンだけ」

 ふぅん、とコウジは静かにハミングを鳴らす。顎元に手を当て、考える人のポーズになるものだから、ライムは「コウジを思い詰めさせたのでは」と心配する。やっぱり、本当のことを言うのは早かったか。分かってもらえていないのかも。

「どうした、コウジ? いやぁ信じられねぇよな。中身が入れ替わるなんて--」



「すっげぇーっ!」



「え?」

 ライムの頭にはてなマークが浮かび上がる。明らかにコウジの世界だけ切り離されているのだが、コウジはおかまいなしにまくし立てる。まるで子どもが、憧れのヒーローのカッコよさを語るように。

「そもそも入れ替わりといえば、日常系からファンタジーまで、ありとあらゆる作品において定番中の定番シチュエーション! 今じゃご長寿アニメの日常回に組み込まれることが多いけど、入れ替わりそのものを題材にした作品もあるよな。4年くらい前にヒットしたやつはもちろん、30年近く前にやってた石段から落ちるやつなんかは、原点にして頂点! 慣れない生活を強いられた2人は、悪戦苦闘しながらもお互いの生活を楽しんだり、時々元の姿に戻りたくなったり……実にエモーショナル! いや、ここは若者らしくエモいとか言った方がいいか? エモンガだけに? いずれにしても生まれてきて10ウン年、この目で入れ替わりを見れるなんて思わなかったッ! しかも実の妹とそのパートナーで!」

 目をランランと輝かせながら、熱く語るコウジ。その姿はとてもではないが、ポケモン演劇部を廃部にしようとしていた鬼の生徒会長と同一人物には見えない。
 ライムは目を点にしており、マドカは仕方なさそうに気の抜けた溜息をつく。スダチは一番一緒にいるパートナーということもあってか、慣れている様子だ。

「何なんだ……コウジ」
《あぁ、お兄ちゃんまた始まった……》
《さすがはサブカルチャーを幅広く嗜まれているコウジ様! 入れ替わりもののパターンも一通り網羅されているのですわ!》
「と、いうワケだ。学校や部活ではアキヨちゃんが分かってくれてると思うが、家でのことは俺にも協力させてくれ」
《わたくしも、マドカ様とライム様のためにお姉ちゃんとしてお手伝いしますわ!》

 ロイヤルイッシュ号に乗った気でいろ、と言わんばかりに、コウジもスダチもどんと胸を張る。
 まーぁ結果オーライというかなんというか。予想していたシチュエーションとはだいぶかけ離れているが、ライムは「まぁいいか」と自分を納得させた。

「それにしても、どうしてふたりとも分かったんだよ? オレ達入れ替わってから、バレないようにっていろいろルールとか決めてたんだぜ?」
「そりゃちょっと不思議なことを信じた方が、ロマンがあるじゃねーか」
「結局好奇心かよ……」

 ライムはがっくりと肩を落とす。オレ達のためってより、自分の好奇心かよ。

「まぁでも一番は、お前らのきょうだいだからかな」

 だってお前ら、無意識に癖が出ちゃってたから。本当に似たもの同士だな--幼き日の思い出を振り返りながら、コウジは微笑んだ。

《コウジ様の言うとおりですわ!》
《ね? やっぱりお兄ちゃんは信じてくれたでしょ?》
「……そうだな」



★ ★ ★



 翌日の朝。凸凹コンビは早速アキヨとオウリンに報告した。
 親友コンビは驚いたりすることもせず、うんうんと安心したように話を聞いて受け止めていた。

「そっかぁ。コウジ先輩、分かってくれたんだね」
「そういうことだ」
「うわっ、ウワサをすれば!」

 これが神出鬼没。にゅっとコウジが生えてくるようにライムとアキヨの間に割って入ってくるものだから、ライムは悲鳴を上げた。

「俺とアキヨちゃんは、言うなればマドカとライムの入れ替わりを知る理解者! そしてお前らが元の姿に戻るために協力する仲間でもある!」

 話を振られ、アキヨとオウリンはキョトンと目を丸くした。この早口具合、夏の気温にも引けを取らない温度の熱弁。こうなれば、コウジはもう止まらない。
 きらめく朝日を指差し、浴びるようにコウジは高らかに宣言した。

「今ここに発足! 『心の不思議追求委員会』だ!」
「なんだそりゃ」
《ダサい》
「マドカ、お前今ダサいって言ったな? 顔でわかるぞ。お前らは分かってない! この謎部活って感じがちょうどいいんだよ!」

 そこにあるのは、幼い頃から見てきた友達のきょうだい。マドカとライムの身体が入れ替わってもなお、そのあり方が変わることはない。
 やっぱりこのきょうだいは、こうでなくっちゃ--アキヨとオウリンは、久しぶりに見た光景に微笑ましさを感じていた。

「マドカちゃん達のきょうだいは、入れ替わっても変わらないんだねぇ」
「リル」

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