13-1 激闘の幕開け

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください




 どうにもならない場面や面倒くさいことになった時によく、叔父のことを思い出す。
 女王である俺の母上の弟の叔父は、虚弱体質で長くは生きられなかった。
 だがその反面、叔父は王族の中で誰よりも自由人だったと思う。
 よく城を脱走する度にドクターであるプリムラの父に滅茶苦茶怒られて、でも笑っていたその顔が記憶に残っている。
 あれは楽しい、というよりどこかを諦めている笑顔だった。

 王位後継者ではない、というだけで叔父を影で悪くいう奴らもいなくはなかった。
 近年のヒンメル王家の男はかつての英雄王ブラウに比べて頼りない。そういった世間のイメージをもろにくっていたのが、叔父という印象はある。
 その偏見に苛立つ俺を見かけると、叔父は決まってこう言った。

「なるようにしか、ならないこともあるんだよ」

 俺はその言葉にいつも引っかかりを覚えていた。
 なるようにしかならないからって、何もしなくていいわけじゃあないんじゃないかと。
 何もしないと、なるようにさえもならない……停滞になるんじゃないかと。

 そして何より、現状置かれているこのヒンメルの状況を、“闇隠し”の問題を人任せにする気にはどうにもなれなかった。

 特に今、対峙しようとしているヤミナベ・ユウヅキにだけは、譲る気にはなれなかった。


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 アサヒとビドーがソテツと対峙する少し前のこと。【エレメンツドーム】にて。
 <ダスク>との隕石の引き渡しが迫る中、自警団<エレメンツ>のメンバーにスオウは言った。

「こんな状況が状況だ。きつかったり、抜けたい奴は抜けていいぜ。だが、もし手伝ってくれるのなら<ダスク>を止めるのに力を貸してほしい」

 現在置かれている<エレメンツ>の立場では“闇隠し事件”の救出作戦が出来ないことを考えて、各員にそう伝えるスオウ。
 そんな彼に見かねて警備員のリンドウは、ニョロボンと共に頭を横に振り「そうじゃないだろ」と言う。
 目を丸くするスオウに、リンドウはにやりと笑みを浮かべた。

「俺についてきてくれ、でいいんだよ。そういうのは」

 頷く他のメンバーを見て感極まりかけた彼は、キャップ帽を目深に被り口元を歪め、「助かるぜ」と一言感謝の言葉を零した。

 デイジーが「じゃあさっさと最終確認するじゃんよー」と他のメンバーに促す。それから彼女は、無言で何かを考えているトウギリに根深く釘刺した。

「もしもの時、わかっているな。ココチヨのところにちゃんと帰るために約束は、守れよ」
「……わかっている」
「闘いたいって疼いても、堪えろ。ソテツが居ないからって、他が戦えないわけじゃあないんだからな。ゆめゆめ忘れるなよ」
「ああ」

 即答するトウギリをデイジーは短い脚で蹴とばす。そして痛む自身の足を気にしながらまったく動じないトウギリに文句を込めてがなる。

「……本当に、ほんっとうにだからな! 寝覚めが悪くなるのはこっちなんだからな!」
「…………ふっ、お前がそこまで念を押すとはな」
「嬉しそうにするな。ったく……」

 笑うトウギリにどうしようもないなとデイジーは呆れた。
 次にデイジーは、ハピナスと共に珍しく表情険しくしているプリムラに声をかける。

「プリムラもハピナスも、安易にキレるなよ」
「それ、私たちが怒りっぽいように聞こえるのだけれど」
「すでに怒っているじゃん。冷静にな」
「確かに。ふう……気を付けるね。ありがとうね」
「わかったらよし」

 深呼吸するプリムラを見つつ、デイジーはガーベラなどのメンバーにも声をかけていく。
 一通り巡り終わった後、彼女は痛感する。

(ソテツの馬鹿はいつもこんな調子で声かけていたんか。結構気を使っていたんだな、アイツなりに)

 あらかじめ、ソテツの抜けた穴を手分けしてカバーしなければいけないとデイジーたちは話しあっていた。
 それは戦闘面でもあり、ムードメーカー面でもあり、様々だ。
 細かく些細なところでも彼の気遣いがあったということを、ひしひしとデイジーは感じていたのであった。

「お疲れさん」

 デイジーの頭をぽんぽんとスオウは軽く叩く。
 彼なりの労い方にいらっとするデイジーだが、ぐっとこらえて皮肉を言った。

「疲れるのはこれから先だ。頼むよリーダー」
「しんどいぜまったく」

 へらへらと苦笑しながら、スオウは歩き出す。もう間もなく時刻だった。
 この時この場にいた<エレメンツ>のメンバーは、ざわつく胸の高鳴りこそすれ、無事にやり取りが終わることを祈っていた。
 ソテツが返ってくることを、願っていた。

 しかし現実と言うのは非情なものであることを、この時どのくらいの人数が予想していたのだろうか。
 確かめる術は、もうない。


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 そして約束の時刻。エレメンツドームの入り口の通路で彼らは対面する。
 時刻ちょうどに姿を現したのは<ダスク>の責任者、ムラクモ・サク……ヤミナベ・ユウヅキと<スバル>の所長でもあるレインの二人。あと、それぞれの手持ちのサーナイトとカイリューだけだった。
 ユウヅキとレイン、そしてカイリューはサーナイトのテレポートでドームの前の平原に転移し、歩いて入り口の通路に正面から入った。
 長めの通路の端と端に立つユウヅキたち<ダスク>とスオウ、プリムラ、トウギリの<エレメンツ>。
 緊張と沈黙の中、まず重い口を開いたのはユウヅキだった。

「……こうしてしっかりと対面するのは初めてか。自警団<エレメンツ>。そしてそのリーダー、スオウ」

 名前を呼ばれたスオウは、息を大きく吐いた後、腰に両手を当て彼に向き直る。

「一応、スタジアムに殴り込みしてきただろうが。ヤミナベ・ユウヅキ」
「そうだったな。そして……今の俺は<ダスク>の責任者のムラクモ・サクとしてここに立っている」
「そうか。でも俺はてめえのことをユウヅキと呼ぶぜ。あいつが、アサヒが連れ戻したい相手のユウヅキとして、お前を認識する」
「…………」
「文句あるのか?」
「ああ、大ありだ。だが、今は余計なことだ……用件に移ろう」

 不服そうなユウヅキは、胸元のスカーフを締め直し、スオウの目を青いサングラス越しに睨んで言った。

「隕石を、こちらに渡してもらおうか」

 スオウもまたキャップを被り直し、ユウヅキに睨み返す。

「ああ。けどソテツの安全確認が先だ……デイジー、ビドーに連絡を」

 隕石の入ったアタッシュケースを見せながら、彼は遠方の制御室に居るデイジーに通信機で連絡。
 それとほぼ同時にレインが自身の携帯端末に手持ちのポリゴン2から<スバル>のシステムが攻撃されていると連絡を受けたことをユウヅキに耳打ちする。
 それから【セッケ湖】にいる携帯端末でメイに連絡を取り始めた。

 各々通話を終え、向き直る。
 スオウは険しく眉をしかめ、静かにたたずむユウヅキに言及した。

「おいユウヅキ、ソテツに何をした」

 ――――ソテツが<ダスク>に寝返った可能性が高い。
 そうビドーに連絡を受けたデイジーからの鬼気迫るメッセージ。
 アタッシュケースの取っ手を掴む力を強め、腰のモンスターボールをいつでも空いた手で触れるようにしつつ、スオウはユウヅキにきつく問いかけた。

「俺の仲間になにしやがったんだ」


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 問い詰めるスオウに、ユウヅキはストレートに短く答える。

「スカウトした」

 信じにくい、という素振りでスオウは重ねて問う。

「それにアイツが応えたって?」
「ああ。だいぶ苦戦したが、応じてくれた」
「あー……つまり、ソテツは俺らのところに戻る気はないってことか?」
「そういうことになるな」
「正直に答えるなよ…………まあ、渡すわけに行かねえな。隕石」
「そうなるだろうな。だが」

 ユウヅキはスオウが手に持つアタッシュケース手を伸ばす。

「こちらも引き下がれないんだ」

 彼のサーナイトが『サイコキネシス』の念動力でアタッシュケースを無理やり奪おうとした。
 スオウは引っ張られるケースを片腕でしっかり掴みつつ、もう片方の腕でモンスターボールを水平に切り前方へと思い切り投げる。
 ボールから出てきたアシレーヌはそのままの勢いで『アクアジェット』。
 アシレーヌの水流を纏う速攻突撃をひらりとかわすサーナイト。だが『サイコキネシス』が緩み、スオウとの引っ張り合いで負けてしまう。

 ユウヅキの次の一手は早かった。
 力を溜めるレインのカイリューを背に、基本指示する側のトレーナーであるユウヅキが駆けだし、真正面最短ルートでスオウたちに向かう。
 長い通路を走るユウヅキの代わりに、レインはサーナイトに向けて金属片を投げる。サーナイトは金属片を受け取り念力で自身の周囲に浮かせビットにする。『10まんボルト』で手に入れたビットを帯電させ、突撃するユウヅキに稲妻迸る援護射撃をした。

「させはしない……!」

 ユウヅキを追い越しスオウたちに飛んでくる帯電ビットをトウギリが出したルカリオが『ボーンラッシュ』で作り出した長い骨こん棒の棒術ですべてはじく。
 はじかれたビットは、念力ですべてのビットがサーナイトの元へ回収されていった。

 トウギリとルカリオがユウヅキ前に立ちはだかり、ユウヅキの足を止める。それからトウギリはスオウとプリムラに呼びかけた。

「二人は奥へ。ここはプラン通り俺が引き受ける……!」
「無理しないでね、トウギリ……1班と2班はトウギリと協力してユウヅキたちを挟撃、お願い!」

 プリムラの合図を皮切りに、入り口の外から警備員リンドウとニョロボン率いる<エレメンツ>の二つの班がユウヅキたちを挟み撃ちにしようと姿を現す。
 レインはメガネをくいと上げ、フルパワーチャージをしたカイリューに呼びかけた。

「カイリュー降らせなさい――――『りゅうせいぐん』!!」

 落下する小隕石の群れが、宵闇の空の天上から降り注ぎ、【エレメンツドーム】の各所に降り注ぐ。当たる寸前に他のメンバーによって展開された『ひかりのかべ』によって要所は防がれた。だが表にいたリンドウたちは防御に失敗し衝撃に吹き飛ばされてしまう。
 また一つが長い通路を分断するように屋根を突き破り落下。出入口がふさがれリンドウたちは増援に向かえない形となる。内側に残ったレインとカイリュー、ユウヅキとサーナイトはトウギリとルカリオに向き直る。

 リンドウがトウギリの名を呼ぶ。しかし帰ってくるのは技と技がぶつかり合う音のみ。

「くそっ、無事でいろよ……!」

 悪態をついて彼らは二手に分かれる。片方は入り口の開通。リンドウ率いるもう片方は非常口のある方へと移動を開始した。


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