056 だからキミ達にお願いがしたかったんだ

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 ここはどこだろう。
 真っ暗で何も見えない。
 風も、音も、何も感じない。わたしの姿形も見えない。
 ミツキは? ライヤは? コノハは? みんなどこに行ったの?

「……あれ」

 遠くに光が見える。ぽつんと夜の星みたいに煌めいてる、今にも消えてしまいそうな小さな光。
 わたしは走る、走る、走る。あの光の向こうに、何があるんだろう。まるでわたしを待っているかのように、佇んでるみたい。



ーーやっと、やっとあなたに会えた!

「あなたは誰? わたしを待ってたの?」

ーー誰かのために振り絞れる勇気を持つ魔法使い。それが、あなた。あなたが生まれるのを、目覚めるのを、ずっと待ってた!

「どういうことなの?」

ーーお願い。この世界を救って。他の、仲間達と……。

 だんだん声が遠くなっていく。光はこんなにも近づいてるのに。
 さっきまで小さかった光が、どんどん大きくなってわたしを包み込む。すごく眩しくて、もう目も開けられないくらいに。

「待って! まだわたし、あなたから何も聞き出せてない!」



* * *



「はぁっ! はぁ、はぁ……」

 バチンとモモコが目を覚ますと、見慣れた天井が出迎えた。
 ツンと鼻につく消毒液のニオイ。名前も知らない薬が並べられた薬棚。冬の寒さをしのぐかのように、これでもかと温められた暖炉。夢の衝撃が強過ぎたのか、ここが医務室であることを認識するまで、しばし時間がかかった。
 寝汗はびっしょり、息は切れ切れ、首筋やおでこには氷嚢が当てられている。よっぽど苦しい状況だったのだろう。

「気が付いたか?」

 枕元から、これまた馴染みのある低い声が聞こえる。いつからだろうか、彼の声を聞くと安心するようになったのは。モモコは顔だけ、声のする方に向けた。

「ミツキ……」
「お前が身体弱いのは分かってても、倒れられるのは慣れねぇよ」
「うぅ、ごめん……」
「気にすんなって。誰も怒ってねえけど、心配だけはしてるから」

 へへっ、とミツキは釣り上げた口角から歯を見せる。ミツキなりに明るく努めようとしてくれているのだろう。

「ニナさんがお前をおぶって血相変えて来るもんだからなんだと思ったけど、お前もなったんだろ? 俺達みたいに」

 ミツキ達みたい、と言われても、モモコはピンとこない。星空広場でドレンテと戦ったのは覚えているのだが、途中からの記憶がすっぽり抜けているのだ。
 でも思えば、ライヤも、コノハも、ミツキも。みんなここ最近で、同じようなことになってたんだ。コノハだけは、高熱で倒れることはなかったのだが。

「……そう、みたいなのかな」
「だから、お前が倒れたこと自体は俺も人のこと言えない! そういうことだから、気にすんなってことだ」
「言われてみればそうだよ! ミツキの時も、ライヤの時も、わたしすっごい心配したんだからね!」
「わ、悪かったごめんごめん! でもラッキーだよな、俺達。みんな大変な目に遭ったりしたけど、生還してんだから」
「たしかに……」
「それに俺が気になるのは、なんで俺達だけこんなことになってるのかってとこだ」

 装備が白くなり、すごい力を使った後は力尽きるかのように倒れる現象は、今のところチームカルテットのメンバーにしか起きていない。他の魔法使い達が担ぎ込まれたとか、パワーアップして見たことない姿になったとか、ミツキとモモコの記憶ではなかったハズだ。

「あー! ミツキ、モモコ! 起きてたんなら教えてよ!」
「起きてて大丈夫なんですか?」
「うん。むしろ起きてる方が楽なくらいだよ」

 ぞろぞろと入ってきたライヤとコノハを、ミツキとモモコは出迎える。
 と思いきや、医務室に入ってきた客ポケはまだいた。モデラートとマナーレである。
 自分達のボスと副ボスが直々に姿を現し、思わずミツキとモモコは全身の筋肉を強張らせる。

「ビックリしますよね。医務室に行く時、マスターとマナーレも話があるからついて行きたいって言われたんです」
「ライヤとコノハにも同席してもらいたいからな」

 いつになく淡々とした、でも深刻そうなマナーレの声色。あまり楽しい話ではないのだろうと、チームカルテットは推測した。

「具合はどうだい、モモコ?」
「もう大丈夫。息苦しさも治まってきたよ」

 よかった、とモデラートはホッとしたように微笑んだ。しかしすぐに、真剣な面持ちに切り替えると、今度はチームカルテット全員に向けて語りかけた。

「今からボク達は、キミ達に話をしなくてはいけない。でもみんな、もう薄々疑問に思ってるだろうね」
「……すごい魔法を使った後、倒れる現象について、ですよね」

 さすがライヤ。モデラートは感心するように頷く。

「これからする話は、キミ達にとって大きな負担になるかもしれない。でも、キミ達自身に、ひいては、この世界に関わることでもあるから、どうしても聞いて欲しい」
「せ、世界ですって!?」

 コノハが素っ頓狂な声を上げるが、残る3匹も驚きを隠せない。
 いや、確かにタダゴトじゃないかもしれないけど、それにしたって世界って。ずいぶんスケールが大きく出たものだ。

「まずは、この世界の昔話からしようか。マナーレ」

 モデラートに促され、マナーレが振り絞るように話し始めた。
 まだ心の準備も何もできてないけどーーチームカルテットはごくりと息を呑み、マナーレの話に耳を傾けるのだった。



「はるか昔、ある魔法使いのポケモンがいたとされている。そのポケモンは強力な闇の力を求めて、破壊の力を司るポケモン『イベルタル』の力を一部手に入れた」

 イベルタルーーそのポケモンの名前は、モモコもよく知っている。カロス地方という場所で語り継がれている、破壊の化身と呼ばれるポケモンだ。

「一方で同じ頃、ポケモン達の負の感情の集合体は『暗黒魔法』を生み出していた。暗黒魔法を使いこなす闇の魔法使いは、次々と破壊活動を行い、多くのポケモン達の尊い生命を奪っていった」
「自然の摂理を超えた、というところでしょうか」

 自然の摂理? ライヤの言葉に、コノハは首を傾げる。

「どの生命にも、始まりもあれば終わりもあります。イベルタルは、生命の終わりを司るんですよね」
「その通りだ。そしてイベルタルの力を手に入れたその魔法使いポケモンは、あろうことか闇の魔法使いだったのだ」

 想像がつく。イベルタルの破壊の力を一部利用して、破壊活動を行う闇の魔法使い。
 何となくだが、今のクライシスの姿と重なる部分がある。

「イベルタルもその力を悪用されるところまで来てしまい、このままでは文字通り世界の破滅を迎えるところだった。そんな時だったんだ。 全てを飲み尽くす『滅びの魔法』に太刀打ち出来る存在が現れたのは。お前らもおとぎ話で聞いたことはあるだろう? 3匹のポケモンと、そのご加護を受けた魔法使いの話を」

 チームカルテットはすぐに話が入った。その話なら、調査団との仕事で石碑を見たり、図書館で調べたりしたからだ。
 やはりあの目の付け所は、間違っていなかったのだ。

「しかし、いくらご加護を受けてもイベルタルは非常に強く、太刀打ちするのも難しい。そこで彼らは、伝説のポケモン『ゼルネアス』の恩恵を受けて、その魔法の力で戦った」
「ゼルネアス?」
「命を司るポケモン、だよね。 イベルタルと対をなす」

 ミツキがこぼした疑問を、モモコが拾い上げる。マナーレはこくりと首を縦に振った。

「結果として、闇の魔法使いを追い払い、世界の復興を進める道標となったのだが……闇の魔法使いは消息を絶ったのだ。そのまま倒すことが出来たなら良かったのだが、また滅びの魔法が悪用されては困る」
「結局、その滅びの魔法はどうなったんだよ? 闇の魔法使いは、まだクライシスがいるじゃねーか」
「……」

 ここで饒舌に話していたマナーレが、口をつぐむ。何か言いづらいことでもあるのだろうか。
 マナーレとしては、とてもこの真実を伝えるのは憚られる。これを言うことで、チームカルテットがどんな反応をするかは想像するのは容易い。だが、それを伝えるのが我々の使命だからーーマナーレはチームカルテットに向き直ると、意を決して告げた。

「ユズネを石に変えたのが、あの滅びの魔法なのだ」

 予想通り。目の前の子ども達は言葉を失っている。怒ることも、悲しむこともない。ただただ、驚きの感情が追いかけてくるものだから、他のことを考えるほどのキャパがない。

「あの時ユズネを石にしたミュルミュールは、滅びの魔法から生まれたものだと考えても差し支えがない。今でこそなりを潜めているが、これからどうなるか分からない。滅びの魔法が現代に伝わってるツールも、よく分かっていないのだ」
「だからキミ達にお願いがしたかったんだ。滅びの魔法に太刀打ち出来る唯一の存在。ボク達魔法使いの業界では『X魔法』と呼んでいる」

 モデラートが補足したのを見届け、マナーレは続ける。

「お前達が不思議な力を解き放ち体力を消耗した、あれこそがX魔法の力を解き放った時なのだ。もっとも、コノハはマジーアの純血の血を引いてるからか、あとの3匹ほど消耗することはなかったようだが」
「そ、それって、つまり__」
「あぁ。 滅びの魔法に立ち向かえるのはお前達だけなのだ」

 今度はモモコが言おうとしていた言葉を、マナーレが被せて続けた。

「そして、ユズネを元に戻すことができるのもね」

 何だか聞いていればおかしな話だ。
 俺もライヤもコノハも、他のみんなも、ユズネがいなくなってからどれだけ悲しんで、苦しんだことか。どんな気持ちでこの1年過ごしていたと思っているのか。
 元に戻る手がかりは、きっとマスターやマナーレが見つけてくれる。なのに、なのになんだ。
 最初から分かっていたじゃないか。俺たちがユズネを元に戻せるだけの力があるって。
 それなのに、それなのに。
 溢れる想いを、ミツキは抑えきれない。マナーレのしなやかな身体に掴みかかってると自覚したのは、言葉まで吐き捨てた後だった。

「どうしてそんな大事なこと、今まで黙ってたんだよ!?」
「そうよ! アタシ達が……ミツキが1年間、どんな思いをしたと思ってるのよ!」

 コノハも怒りを隠しきれない。ミツキと一緒になって、マナーレを責め立てている。
 見ていられなくなったモモコは、ベッドから飛び出してミツキとコノハの静止に回った。

「ミツキ、コノハ! 落ち着いて!」
「落ち着いてられっかよ!」

 モモコは静止しようとした手を止める。ミツキもコノハも涙を流していたからだ。
 無理もない。元はといえば、ユズネはモモコにとっては踏み入ってはいけない領域。いくら今のチームカルテットがチームとして出来上がっていても、ユズネのことは深入りできない。分かっていたつもりでも、それを真っ向から突きつけられた気がした。
 現に、あの温厚なライヤでさえ目が笑ってない。モデラートとマナーレに対して、かなり怒っているのがわかる。

「……理由もなく黙ってた、ってことはありませんよね」
「X魔法は、自らの心と向き合ってやっと初めて覚醒する魔法。お前達が覚醒するのを待っていたんだ!」

 しぃんと、医務室が静まり返る。肩で息をするマナーレの姿に、チームカルテット全員が我に返った。
 こんな事実、抱え込んでいて苦しくないハズがない。ましてやマナーレは指揮者の役職の通り、日々魔法使い達を導く存在。普段の仕事の重責もあるのに、こんな苦しい話をモデラート以外の誰にも言えなかった。

「X魔法の使い手は全部で4匹。 4つの心が互いに調和し合うことで、本来の力を生み出すんだ」
「じゃあ、最初からモモコを僕達と一緒にいさせたのは……」

 肯定の意で、マナーレは頷いた。

「それに、X魔法は確かに強力な魔法だが、使い方を間違えると取り返しのつかないことになる」
「どういうことだ?」
「イベルタルの力が悪用されたのと同じように、ゼルネアスの力にもその危険性がある。X魔法は、その魔法の使い手の心に反応して覚醒する魔法だ。良き心に転ぶこともあれば、悪い心に手助けをすることもある。年齢的にも、元々の性格的にも心の移り変わりが激しいお前達は、すぐX魔法を使わせるには早すぎたのだ」

 チームカルテット全員が、うぐ、と苦い顔をする。今だってそうだ。ちょっとそっとのことで自分の心が左右されやすい。

「それと、マナーレは心配していたんだよ。X魔法の力に耐えられなくなって倒れていくキミ達のことをね」
「ま、マスター!」
「だって、大事な我が子のように可愛がってるキミ達が、ボク達のエゴで傷つくのはいい気分じゃないよ」

 ぽっ、とマナーレは羽の先まで顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。こういうところがあるから、マナーレを嫌う魔法使いはいないのがよく分かる。

「マナーレの言い分は分かったぜ。でも……」
「世界がかかってるとなれば、そうも言ってられないんだよね」
「うん、まさかこんなに早く覚醒するとは思わなかったし、ひとつ未だにわからないことがあるんだけどね」
「と、いいますと?」
「モモコ。本当は人間であるキミが、どうしてポケモンだけが使えるX魔法に覚醒できるのか」
「ちょ、ちょっと待って! わたしが人間って、どうしてーー」
「ん? 初めて会った時から知ってたよ?」
「「えええぇええええーっ!?」」

 あれだけディスペアにひた隠しにしろと念押しされていた結果がこれ。まんまとハメられたのかもしれない。
 なんだか、モデラートとマナーレを疑っていた自分達が情けない。そもそも、この2匹が悪どいことを考えてるなんてあるわけないのに。がっちりと絞られていた心の一部が、ほどかれた気がした。

「マスターを甘く見るでない。だいたい、身体の一部に星の模様が刻まれていることからすぐわかる」

 言われてみればそうか。モデラートぐらいの魔法使いであれば、分かっていても不思議じゃない。むしろ、モデラートに知らないことってあるのだろうか。

「だからわからないんだ。今のキミは人間ではないけど、純粋なポケモンでもない。そしてX魔法に覚醒した。イレギュラーにしても、前例がなさすぎる」
「もしかしたら、クライシスがモモコを狙ってるのと、何か関係があるのか?」
「そうかもしれないな」

 モモコはポケモンになってこの世界に来てから、ほぼずっとクライシスに付け狙われている。その理由が分からないことがもどかしく感じることもあったが、ドレンテのことも含めてようやく解決の糸口が見えてきた気がする。

「話がだいぶ逸れてしまったね。そんなワケでチームカルテット。どうか、X魔法を駆使して、滅びの魔法に立ち向かってくれないか」
「……ユズネを、元に戻すことが出来るんだろ?」
「厳しい訓練が必要だがな」

 マナーレは今度は、ぴしゃりと言い切った。これは自分達の覚悟が問われているんだと、チームカルテット全員が痛感していた。

「確かに、ユズネを元に戻せることは大きいよ。でも、その後キミ達が抱えることになる危険と負担。そのことも考えて欲しい」
「さっきも言ったように、X魔法に本格的に覚醒するということは、その力を悪用されるかもしれない。生きる核爆弾となるお前達自身が、常に狙われることになる」

 生きる核爆弾というのは、誇張も何もしていないのだろう。現にチームカルテットは身をもって体験してるし、仲間がそうなっている姿を目撃したりもしている。
 ユズネを元に戻すというのは、モモコ以外の3匹がずっとたどり着きたかったゴールテープだ。だが、その代償をと考えると、あまりにも重く大きい。一時の感情だけで決め切れるものではなかった。

「明日、またお前達の意思を問う。時間は待ってくれない。それまでに考えておいてくれ」

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