【第034話】 Liquidation

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読了時間目安:10分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「や……夜行百々ッ!!」
「よぉ、いつぞやの警察じゃねぇか!」
片手で引きずっている死体を投げ捨て、夜行は首を鳴らす。
捨てられた身体が鈍い音を立て、力なく床に転がる。

「あ、貴方がどうしてここに居るんですかッ!!」
「あぁ……ウチの先生が勘づいたんだよ。ハーリティとかいう奴らが、『邪神』について嗅ぎ回っているって言ってたからなァ。」
「邪神……ッ!!」
そう……この夜行は、実紀側が差し向けた刺客だったのだ。
「んで……まぁ児相に出向いたって次第だが……テメェのその様子を見るに、この中野支部でビンゴだったみてぇだな……!!」
夜行は手に携えた散弾銃で、彼の鞄を指し示す。
「ッ……では何故職員たちをこんな目にッ!!」
鎌倉は震える声で尋ねる。
彼女の疑問は最もだ。
いつもの手口であれば、バクフーンを使って人間を獣化させるに留まっていた。
実際に、命まで奪うような事はしなかったのだ。

 しかし今回の彼女は違う。
あくまで人間の手で……重火器を使い、その生命をただの肉塊へと変えたのであった。

 疑問を抱く鎌倉に、夜行はニヤリと笑って答える。
「当たり前だろ。こんなゴミどもに生きる価値はねぇんだよ。」
「ッ……!?」
「虐げられている子供を守るだのなんだの言っておきながら、肝心な時にはクソの役にも立ちやしねぇ。こんな奴らなら、アタシらの新世界にすら不要だ。」
そして彼女は、床に転がっていた職員を蹴り飛ばす。

「……だから殺した。こいつらがアタシを見捨てたから、見捨て返した。それだけだ。」
「ッ、貴様ッ……!!」
激昂する鎌倉は、すぐさまストライクに念じて夜行に攻撃を仕掛ける。
『おらッ!!くたばれッ……!!』
が……。
『おっと、させないよ……!!』
『チッ……!!』
しかしその攻撃もまた、バクフーンの放った炎のカーテンで遮られてしまったのであった。
その攻撃で自らの姿を遮った夜行は、無駄のない動きで銃口を鎌倉へ向けた。

「しまッ……!!」
「契獣者である……お前が死ねッ!!」
程なくして、弾丸は鎌倉の脳天を目掛けて飛んでいく。
『チッ、姑息なッ……!!』
危険を察知したストライクが、最も強固なカマの部分で銃弾を切り刻む。
間一髪、鎌倉は一命を取り止める。
そして無駄のない低姿勢の斬撃で、鎌倉の手元にある散弾銃を暴発させたのであった。

「おうおう……いつも以上に荒れてんじゃねぇか!」
「ふざけるな夜行ッ……今日こそ、貴様を処分するッ!!」
鎌倉とストライクはすぐさま、次の踏み込みで夜行の首を狙った居合を放つ。
が、しかしその攻撃は、バクフーンにあっけなく止められてしまった。

『ふふふ……三手連続で攻撃が決まるわけ無いでしょう……?』
『チッ……!流石に無茶か……!!』
両者腕をつかみ合い、戦況が膠着する。
だがストライクは迷わずヘッドショットをかまし、炎を吐かせないようにしてバクフーンの背中側に回る。
『うおっ……!?』
『だがこれは想定外だろッ!!オラッ!!』
そして後ろから腕を組むと、天井を突き破って屋上まで一気に飛び上がったのであった。
立体的な近接戦を得意とするストライクにとって、屋内が不利と判断しての事だろう。

「おうおう威勢が良いねぇ……っと!」
夜行はとっさに左腕を差し出す。
そこには、鎌倉が振りかざした拳があった。
「この動き……テメェ、さては有段者だな?」
「ッ!!」
しかし鎌倉の不意の一撃は夜行にあっけなく止められ、返しの膝蹴りを食らってしまう。
「ぐふっ……!」
よろめく鎌倉は、それでもすぐに次の攻撃を繰り出そうとする。
……が、それすらも見抜かれ、近くに落ちていた散弾銃の銃身で背中から叩き落されたのであった。
「がはっ……!」
「だが、だとしたら尚更分からねぇなぁ。格闘技に関しちゃズブの素人なアタシを気絶させることくらい、ワケはねぇだろ?……まさか、手ェ抜いてんのかよ?」
「う……煩いッ……」

 倒れ伏した鎌倉に近づき、夜行は彼女の前髪を掴んで持ち上げる。
「違うなァ。テメェを躊躇させたのは、そんな出来の良い良心なんかじゃねぇ。単にビビってんだろ。人を殺すことに。」
「ッ……そ、そんなこと………!」
「ウチにも最近入団したんだよ。生来、悪人なんて向いてねぇってくらい、曇りのねぇ顔の奴がな。……ま、薬剤師の坊っちゃんには見抜けなかったみてぇだけどな。」
夜行の脳裏に浮かんでいたのは、熊野聖灰の顔であった。
彼女は、クマに人殺しの適性がないことを見抜いていたのだ。

「テメェもソイツと同類だ。否……生まれ持っての何かじゃない分、それ以上に情けねぇけどなッ!!」
「知った口を……聞くな……ッ!!」
鎌倉は夜行に抵抗し、なんとか立ち上がろうとする……が、直近まで徹夜続きの身体だったのだ。
ガタが来たのか、思うように力が入らない。

「テメェはな、覚悟が足りないんだ。アタシは、ポケモンだけの理想郷を作るためなら、人殺しすら厭わねぇ。」
「……!」
「だがテメェはどうだ?口では平和を謳っちゃいるが、そのために誰かを殺すことを迷っている。手段を選んでいる。日和見……口だけ……半端者!!そんな調子で、アタシに勝てるわけがねぇだろうがよ……!!」
そう言い終えると、夜行は鎌倉の頭を床に叩きつける。
「ッ……!!」

 そしてその直後。
天井から、凄まじい音と共に2つの塊が落ちてくる。
上の階で戦っていた、ストライクとバクフーンだ。

『ど、どうなってやがるッ……力が……出ねぇ………!』
『いつも以上に弱いね、キミ。ご主人さまの心が揺らいでいるんじゃないかい?』
満身創痍のストライクを、バクフーンが踏みつける。
様子を見れば一目瞭然……ストライク側の、圧倒的劣勢であった。
「ハハッ、ウチのバクフーンに指摘されてるんじゃ世話ねぇな!テメェのその迷いが、ポケモンの足まで引っ張ってるんだぜ!!」
「ッ……!!」
高笑いの直後、夜行は小さくため息をついた。

「っと……今日はテメェを殺すのが目的じゃねぇ。テメェらが嗅ぎ回っていた情報を、根こそぎ抹消するために来たんだ。」
そして彼女は、鎌倉のPCが入ったキャリーケースに近づく。
中に梅咲実紀の邪神を封じ込める術式のデータが入っている……大事なキャリーケースに。
「ッ……それは……!!」
「ま、コソコソとご苦労さんって事だ。バクフーン、ソイツを焼却しろ。」
『ふふふ……任せて……!』
バクフーンは息を吸い込み、火炎放射の一撃で鎌倉たちの努力を焼き払おうとする。

「や……やめッ………!」





 窓ガラスの叩き割れる音。
横方向にスライドしていくバクフーン。
遅れて発生する爆発音。
『がっ……!?』
「なっ……!?」
一瞬、何が起こったのか……誰もわからなかった。
だが、嫌でも目に飛び込んでくるものがあった。

 白い巨体に2本の角、荘厳な髭。
その神聖な外見のポケモン、アヤシシに夜行は思わず目を奪われる。
バクフーンが、彼の特攻的な不意打ちを受けたというのにだ。
そしてそのポケモンの背中には……壮年の男性が跨っていた。
「やれやれ、通報を受けて駆けつけたが……見るも無惨な状態じゃないか。」
男性はため息とともに、アヤシシの背中から降りる。
「だ……誰だテメェは……!!」
「……宍戸白鹿ししどはくしか。感染獣対策部の本部長だ。」

 そう……駆けつけたのは、獣対部の大元締め、宍戸部長その人である。
「し、宍戸部長……!!」
「やれやれ鎌倉くん……一週間も音信不通だったから何事かと思ったが……」
そう言いかけると宍戸は、間一髪で燃やされずに済んだ夜行のキャリーケースに目をやる。
そして、この状況を見た彼は……この荷物が、如何に重要なものかを察したのである。
「……始末書は後で良い。まずはソレを持って逃げなさい。」
「し、しかし……!」

 拒む鎌倉を他所に、付近に倒れていたストライクが立ち上がり、彼女の肩を持つ。
『おい宍戸部長よォ……まさかとは思うが、一人でこの凶暴女を相手にする気かよ。』
「ソレ以外に選択肢があるとでも?」
そう言うと宍戸は、アヤシシに『バリアーラッシュ』を装填させ、バクフーンに特攻を仕掛けさせる。
超重量の突進に、流石のバクフーンも太刀打ちできずに居た。

「……私なら心配はいらない。君は早く署に帰りなさい。」
「ぶ、部長……!!」
「……あぁ、それと魚川くんによろしく。『体調に気をつけろ』と。」
「……?」
宍戸部長の言葉の意味を……この時の鎌倉は、まだわからなかった。

「オイオイ、余所見とは随分余裕じゃねぇか……カモシカの爺さんがよォ!!!」
激昂した夜行が、バクフーンを強制的に立ち上がらせる。
そして紫の煙幕……『ひゃっきやこう』で、宍戸や鎌倉たちを狙って攻撃したのだった。
しかしそれすらも、アヤシシが展開した障壁に弾かれる。

「……深手の君を庇うのも限界だ。わかったらさっさと行きなさい。」
『チッ……借りは後で返すぞ、部長ッ!!』
そう言い残し……ストライクと鎌倉は、大事なケースを抱えて窓から飛び立っていったのだった。


「……借り、か。」
そう残した宍戸は、夜行の方を向き直る。
「さて……決着、否……清算のときだ、夜行。」
「上等じゃねェか……ここで引導を渡してやらァッ!!」

□アヤシシ
……目に見えぬ 壁を作りしとき 黒き珠 妖しく 輝きたり。 抜け落ちし 髭は 温かく 冬衣の 原料に 重宝す。

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