第二節 一般〇〇〇〇○吸いおじさん

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読了時間目安:14分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 場所は変わってリーグ本部ビル、その上階に存在する部外秘の会議室。椅子が無駄に偉ぶった革製だが、残念ながら座る機会はほとんどない。
 だが今日は、その珍しい一日だ。

「フキちゃん遅いよ! なんでアストラさん迎えに行って一緒にやって来ないの!」
「腹減ったから少しメシを食ってただけだろ。アタシにメシ優先させんのもここで働いてる奴に悪ぃし」
「少し……? あの量が少し……?」

 隣でぶつくさ疑問を投げかけるオレアがいるが気にしない。アタシの中では少しである。
 頭をポリポリとかきながら円卓に座ると、ふんすと怒りをひとまず吐き出したリリーが隣に腰掛ける。
 チビ助が右手側で資料をまとめながら何某かの最後の確認を行なっている最中、アタシの左手側に座ったウユリ姉さんが、そっと手を握ってきた。

「フキちゃんったら今日もいっぱい食べて来たのね。私の料理人も昔みたいに張り合いが無いって言っていたから、またお家に来てくれると嬉しいわ。今日だって構わないわよ?」
「ま、まあそのうちな? ウユリ姉さん頼むから糸はやめてくれよ?」
「ふふ、約束よ?」

 サイズ感がバグりそうな二人に挟まれながら、冷房が効いているというのに何故かダラダラと冷や汗が止まらない。口約束なのに闇金にヤサを抑えられたような、絡めとられるような気分。
 何とか気を紛らわせようと他の面々を見回せば、この場の顔ぶれは錚々そうそうたる顔ぶれだった。
 苛立たしげに机を指で叩くエデ公や不敵な笑みを浮かべるアストラのあねさんを含めた四天王が全員揃い踏み。
 他にも記憶が正しければここら一帯を締めてるヌクレアの首相やら、胸に豪華な勲章をつけた上役の警察官やら、肩書きが重そうな人物もちらほらと。

「で、何でテメエみたいなガキンチョまでこの場にいるんだ、国際警察のシナノくんちゃん・・・・・?」
「どこかの万年ヤンキー四天王と違って、建設的な議論のために派遣されたのがこの僕です。どこかの誰かさんと違ってバカではありませんので」
「んだとテメエごらもういっぺん言ってみろ。今度はコンテスト抜きでぶっ飛ばしてやろうか?」

 思わず机から身を乗り出しながら啖呵を切る。誰かと思えばいつぞやのクソ生意気な国際警察のチビまでこの場にいるのだ。
 相変わらずキャンキャンとうるさい奴であり、コンテストでぶつかり合った女装警官という存在は忘れたくとも忘れられない。

「まっ不味いよシナノくぅん! 今日はたくさん偉い人がいるんだからさぁ!」
「まぁまぁフキちゃん、今度シナノくんちゃんとお揃いのお洋服を着て仲良くしましょう?」

 そんなアタシらを奴の上司である気の弱そうな警官カイドウと、いつも通り若干ズレた感想の姉さんが引き留める。
 そんな騒がしい様子にもはや動じなくなったリリーは書類の束をトントン、と机に叩きつけるとこっちの方をチラリと睨んできた。
 そこで思わず肩をすくめると、両手を上げて席に着く。勿論シナノの野郎が言い放った「狂犬だって犬ですね」という言葉も聞き逃しはしない。アイツはいつか〆る。
 そんなことを考えていると委員長サマは様々な前置きを言っているが、アタシにはどうでもいいので全てスルー。しばらくしてようやく本題へと取り掛かった。」

「それで今回ボクが皆様に声をかけてお集まりいただいたのは、単刀直入に言ってしまえばリーグを開催していいのか否かを決めるためです。つい先日のアローラ事件を踏まえ、国内外問わずテロへの警戒意識が上がっていますから。そしてボクは当事者として、国際警察への情報開示を求めます」

 リリーがそう告げると、シナノは平坦な声で返事を返す。姿だけ見れば学童会だ。

「そういうと思って上から許可は取ってあります。ですがそれには一つの条件、ギブ・アンド・テイクの関係と行きましょう。僕らとしても、『亞人器官』との直接接触の情報は喉から手が出るほど欲しいですからね。どっかの誰かは貧弱ですから、四日ほど寝込んでろくに聴取もできませんでしたし」

 そう笑顔を向けてくる捜査官殿に、思わず机の下で握り拳。一瞬こめかみに青い筋が入るのはご愛嬌だ。

「はぁ……フキくん、それにエーデルワイス先生」
「ッチ、分かったよ。但しあくまでアタシが実際にやりあった感想だ。再現性なんて求めんなよ」
「同じく、情報というにはあまりに先入観が入るが、それでも構わないな」

 その言葉に先方は頷く。交渉成立だ。カイドウ警部補が資料を配り、皆が一様に目を通す。ドククラゲみたいなやつや筋肉の塊みたいな奴は知らないが、見知った生物もしっかりそこに記載されていた。
 全員があらかた資料に目を通したのを見計らって、女装警官は口を開く

「これはアローラ地方でエーテル財団というところが秘匿していた生物――仮称ウルトラビーストと呼ばれる存在の押収した資料です」
「ふむ……概ね資料に記されている通りだが……」
「ああ、エデ公と一緒でこのアクジキング? って奴のとこは少し足んねえな。奴は自分の体内に全く別の次元と言ってもいい亜空間が存在した。それもかなり広い。アタシがそん中入ったときは何つーか内臓とホテルのハーフみたいな場所だったぜ。そこを通じての長距離移動だって可能だ」

 その言葉を聞いた瞬間シナノと、それとリリーの口も間抜けにポッカリと開いていた。

「えーとどうしてそういう大事な情報はとかは言いませんけど……つまりは別の次元のトンネルを使って移動してくる、あの大口はその出入り口と。そもそもテレポートじゃ無いからエスパータイプによる哨戒も無意味ですか」
「ボクとフキちゃんが移動したように、少なくとも移動距離は島一つ分はある」
「どうりで国際警察でも奴らの足取りが掴めないわけです。既存の移動方法のどれにも当てはまらないテレポート、いや次元トンネルと言った方が良さそうですね。そんな方法があるなんて」

 まあ今どき『テレポート』でのテロなんて古典的犯罪の手口は中々使われない。そもそもあの規模の大会なら警備だって粗雑ではないのだから、警察にとっては新たな悩みの種だろう。

「だが、私個人の見解としてはアクジキングも脅威だがこのアーゴヨン、というウルトラビーストを従えていた男の方も驚異だ」
「確かに、このデカいのを従えていた奴には主体性がなかった。一緒にいたおっさんの方がよほどねちっこい戦い方でいやらしかったしな。まぁ三人目の妨害がなければ捉えられていたけどよ」

 瞼を閉じればすぐさま思い出される、『皇帝』と呼ばれた男。あの一太刀は、確かにアタシを止めうるものだった。

「そんな存在が少なくとも先日動き出した。そのような状況でリーグを開くかどうか、みんなの意見を聞きたいんです」

 リリーはそう告げると、椅子に重く腰掛けた。きっと彼女にとってはずっと胃痛の種だったのだろう。
 皆がしんと静かになった中、最初に声を上げたのはウラヌ市警からやって来ていた警察官だった。

「我々としては最近急速に台頭してきた麻薬『エンゼル・ハイロウ』の捜査で多くの人員を割いており、これ以上のリスクを招き入れるのはあまり得策は言えないと、治安維持の観点から具申させていただく」
「しかしヌクレアは第三次産業都市、貴君の懸念は尤もだがそれは通常業務の範疇。何もそればかりに全ての人員を割いているという訳でもあるまい」

 ついで口を開くのはヌクレアの首相だ。政治とは経済の活性と分配、やはりこの地方の大きな財源となるリーグについては、是が非でも開催したい意向なのだろう。
 そんな彼らが皮切りで、三々五々に各々がざわざわと意見を口にし始める。そんな状況を見かねたリリーが、面倒臭いパスをついぞアタシらに投げ込んできた。

「ちなみに警察の人たちの協力も勿論必要になるけど、実質的な対処は四天王くらいの実力がないと難しいと思うの。だから当事者になる四人にも意見は聞いておきたいな」

 ちびっ子委員長が言葉を告げると、その場にいた面々の視線が全てアタシらに集まっていく。ウユリ姉さんは未だ楽しそうにアタシの手をにぎにぎと揉み込んでいた。なんだか緊張感が削がれる。

「アタシは別に構わねえぜ。何もテロリスト相手に公式戦のルールを守れってわけでも無ぇんだろ? だったら全て事もなしだ」
「そう……でもわたしは嫌だわ。この前だってフキちゃんがボロボロになってみんな心配したし、いらない危険を市井しせいの人たちに持ち込むのは良くないわ」
「私もそれに同意する。そも貴様は勝ったとうそぶくが、あそこまで街が壊れていれば痛み分けだ。それに相手の全容さえ掴めない中でことを構える可能性を引き入れるのは愚かと言うほかあるまい」

 机を叩く指のテンポが段々上がっていくエーデルワイスも勿論、保守的な解答だ。まぁあんとなく想像の通りだ。残ったもう一人のアストラの姐さんはいまいち腹が読めないが、口を開かずまだ静観の構えでいる。

「とは言えだぜエデワイ先生よぉ、こっちはアタシらのホームで準備も可能。それにいつまでも守ってばっかじゃ、来るか分からねえ脅威にどっかの誰かさんが何とかしてくれるまで怯え続けなきゃいけねぇ。そんなんじゃあ街が廃れちまうぜ」
「そうですよ。それに尻尾も掴めない『亞人器官』が大きく姿を表すのなら、こっちが仕掛けるチャンスでもあります。それも千載一遇のです」

 シナノが意外にもアタシの援護射撃。てっきり反目してくるかと思っていたが、確か奴らはこの女装警官の父の仇だったか。私怨は確かに感じるが、アタシの追い風にはなるのでそこは敢えて黙っておく。

「これは我々ヌクレア市警の問題だ。その土地の事情もよく知らない子供が、軽率に捜査の現場を荒らすようなことは控えてもらいたいのだが」
「それで凶悪な犯罪者を取り逃がすような捜査網なら警察は何のためにあるって言うんですか!」

 シナノはバンと机を叩くと、いきり立つように体を天板から乗り出しながら唾を飛ばす。そこからは売り言葉に買い言葉、議論の形を放棄して、各々が言いたいことを吐き出す混沌とした場となった。
 アタシはといえば面倒な会議なので椅子の背もたれに身を預け、足を伸ばして目を瞑る。エデ公が飛ぶ唾に青筋を立てて指を叩く速度がピークに達していく中、不意にアタシは扉から奇妙な音を拾い上げた。
 ぺむぺむ、ぺむぺむ、と柔らかいものが扉にぶつかる異音。リーグの職員が狼狽えた声を上げる中、ギィ、と僅かに扉が開いた。

「はんみっ!」

 次の瞬間、アタシの顔面に粘っこいものがくっついたかと思うと、顔面に突然の白い影。途端の息苦しさのなかに、小さい四つの足が引っ付く感覚がある。

「あらぁユキハミちゃん、コンテストぶりかしら。前より少し大きくなったわね」
「それが噂の聞かん坊を手懐けるハミちゃん? ワタシ初めて見たわ!」
 
 事ここに来て、より混沌を極めていく。夏バテでぐでハミになっていたからリリーの部屋に寝かしつけてきたが、どうバレたのかここまで来やがったみたいだ。

「あーもう色々わかんなくなってきたじゃん! 私もう知らない! 休憩休憩! 15分で頭冷やして!」

 とうとう処理のキャパを超えたリリーが手をぶんぶん振ったところで会議は一旦お開きとなった。
 その言葉を聞いた途端、額に青筋を浮かべていたエーデルワイスがおもむろに立ち上がる。

「すまないが、一服させてもらおう。規定の時刻までには戻る」

 白衣を翻しながら言葉を残し、足早に扉の向こうへ消えていく。
 そんな後ろ姿を追いながら、今まで存在感のなかったオレアが不思議そうに見送っていた。

「フキさんフキさん、エーデルワイス先生ってタバコ吸うような方なんですか? 潔癖症の方なので、てっきりそんなもの使うようには」
「あぁ、あれはタバコじゃなくてブースター吸いに行ったんだ。体温で消毒されるから無菌なんだとよ」
「へぇーそうなんですか、ブースターなら健康ですね……ってブースター!!?!?!?」

 今日一番の大声は、この時の叫びだった。


◆◇◆◇◆◇◆


「とりあえず場が静まった所で、アストラさんの意見はどうですか?」

 さっきとは打って変わって憑き物が落ちた表情のエーデルワイスを迎えながら、15分きっかりに会議は再開する。

「ンフフ、ワタシだってカジノのコ達を食べさせなきゃいけないのは同じよン。だから期間を絞った短期開催ていうのはどう? それでも人手が足りないのならウチのディーラーを出してあげるわ。お題はマケといてあげるわ」
「姐さん、最初っからそれが目的だろこの守銭奴め」
「商売に熱心と言って欲しいわネ。賭け事にトラブルはつきもの、お金はいくらあっても困らないわ」

 ピンク髪のオカマはバチコンと風圧を感じそうなウインクをこっちに飛ばしながら、リップの塗られた光沢のある唇を吊り上げる。
 その後数度の議論のいざこざはあれど、最終的には姐さんの思惑通りに事が進んだのだった。

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