11-2 舞い踊る四葉の女王

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読了時間目安:17分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください



 ニュースや電光掲示板で注意喚起が行われる。それと同時にキズぐすりの無料配布やいざという時の応急処置の仕方などの動画やデータ、チラシが配布される。

 そして、ガーベラさんを中心に最低2人から3人のグループ分けをして王都で捜索に当たることとなった。

 俺とヨアケはルカリオとドーブルのドルをそれぞれボールから出し、警戒しながら王都の見回りをし始めた。それから出会った人やポケモンなどに単独行動は控えるよう、それぞれ注意を呼び掛けていく。

 夕時に差し掛かったころ、宵闇が迫る中、俺はあいつを見かけしまった。
 声はかけにくかったが……気づいた俺が呼びかけるべきだろう、と判断しヨアケに一言断ってからルカリオを引き連れて声をかける。

「おい……アプリコット!」
「え、ルカリオと……び、ビドー? ずいぶんばっさり切ったね髪……無事でよかった……じゃなくて、なんでこんな時に会うかな……」

 頭に丸々としたピカチュウのライカを乗せた赤毛の少女、アプリコットは俺に驚き、なぜか安堵した後、居所悪そうに俺から目を反らす。コロコロと表情を変える理由はよくわからないが、俺は単刀直入に用件を伝える。

「お前こそなんでこんな時に一人で出歩いてんだ。ニュース見てないのか?」
「…………見てなかった、かな」
「……ったく。最近通り魔が出ていて物騒だ。だから単独行動は控えろ、って、呼び掛けているんだ。誰か他の奴らは一緒じゃないのか?」

 黙りこくるアプリコット。どうやら一人で王都に来ていたようだ。
 どうしたものか。こちらを伺うヨアケとドルと目が合う。俺が誰と話しているか気が付くと、何故か彼女はそこから動かずに様子見に徹している。いや助け舟出してくれよ。
 ライカには睨まれているものの、なんだか波導にも覇気のないアプリコットを捨て置くのも意にも方針にも反するので、俺はそれとなく事情を探ってみることにした。

「なんかあったのか?」
「…………」
「ジュウモンジとケンカでもしたのか?」
「ううん……ケンカにすら、なってないよ」

 その零した言葉は、あの【イナサ遊園地】のステージで歌っていた者とは思えないほど、小さくかすれそうな声だった。
 ルカリオもアプリコットの抱えている感情の波導を読み取り、慎重に見守っている。
 俺が相手だからか、なかなか話したがらないアプリコット。こんな時どうしたものか。
 ピカチュウのライカも警戒の気を発していたので、まずはそこから解く努力をしてみるか。

「あの、さ」
「……なに」
「遊園地で――」
「?!」

 遊園地、という単語を出しただけで一気に緊張し固まるアプリコット。ライカに関しては「あ? 噛まれたいか、おら?」みたいな表情の険しさを感じる。ルカリオからも若干冷ややかな視線が注がれる。あれ、なんかまずったか?
 ……ああしまった。歌っていた曲のこと言いたかったのに、そういやあの時怖がらせたんだったか……。
 だあもう、こうなったら素直に謝るしかない……そう意を決し、責められる覚悟でぶつかりに行く。

「あの時は悪かった」
「……うん……」
「それとは別に、あの後お前らのバンドの演奏聞いた」
「……! そう、ありがとう」
「今まで散々お前らを否定してきた俺が言うのもおかしいが、俺は……わりと好きだ、お前らの曲」
「そっか……そっか」

 アプリコットは何度も小さくうなずいた後、突然泣き始めた。ライカも耳と尾を垂れさせ、元気がなくなる。正直、わけがわからん。
 日が沈み、辺りはどんどん暗くなっていく。
 ヨアケとドルも、さすがに心配になったのかこちらに近づいてきた。
 「俺が、悪いのか……?」と困惑してつぶやくと、アプリコットは全力で否定しにかかってくる。

「違う! それだけは絶対に違う! 貴方たちは、悪くない…………ただ<シザークロス>が、あたしの居場所が終わっちゃうかもしれないって聞いて、バンドのこともどうなるか、わからなくて、それで不安になっちゃっただけなんだ……」

 義賊団<シザークロス>が、終わる。バンドも含め、無くなってしまう可能性がある。
 そのことを聞かされた俺は、その可能性を聞いて愕然としてしまっている。前はあんなに奴らを嫌っていたのに。その矛盾した感じも含め、困惑が増していく。

「割って入ってゴメン。アプリちゃん。どうしてそんなことになっているの?」
「! アサヒお姉さん…………いや、それは、だから」

 アプリコットの視線が、ルカリオへと向くのを俺は見逃さなかった。
 ルカリオは俺より先にそのことに気づいていたらしく、静かに目を細めていた。
 おそらく。きっかけはリオルがルカリオへの進化を果たしたことがなんか絡んでいる。
 そのことに感づかれたことに、アプリコットは気づいたようで。

 でも、決して彼女は俺とルカリオを責めることをしなかった。

 彼女は下手な作り笑いを作り、涙あとの残った目を細め、自嘲した。

「親分が自分の目が節穴になってきたから、活動しようにもちゃんとやっていけないんじゃないかって言っていて。それ聞いて動揺しちゃっただけ! 情けないよね、あはは……」

 そんな彼女を、俺もヨアケも、ルカリオもドルも、彼女の手持ちのライカでさえも……笑うことなんて、とても出来なかった。

 ――――ただ、その強がった笑顔でさえも許してくれない奴らは、いた。


***************************


 その敵意ある波導の気配に気づいた瞬間。ルカリオがアプリコットを突き飛ばしていた。
 何が起きたのか分からず驚くアプリコット。吹っ飛んだ拍子に彼女の頭から落ち、地面に丸い体で受け身を取る彼女の手持ちのピカチュウのライカは気づいたようで、先ほどまでアプリコットの居た足元から生えたソレに向かって『アイアンテール』で切り裂きにかかる。

「?! なにこれ、植物のツル……!?」
「『くさむすび』だよ! 気を付けてみんなっ!」

 ヨアケが俺らに警戒を呼び掛けた。周囲を見渡すと、暗がりの路地裏から、そいつと先ほどの攻撃を仕掛けたポケモンであると思われるドレディアが姿を現す。
 そのシルクハットを被った男は、ヨツバ・ノ・クローバー……!
 奴らは俺たちを見るや否や、浮かべた笑みをますます歪めていった。

「おやおや、そこまで警戒をしなくても。私は通りすがりの道化師。貴方たちに楽しんでいただくために少々サプライズをしようとしたまでですのに」

 そのさえずる笑顔の裏側には、楽しいから笑っているというだけでは済まされない感情の波を感じた。
 直感的に、危険だと感じた俺は、アプリコットたちだけでも逃がそうと、声をかける。

「アプリコット。こいつだ、さっき言っていたやつは。とにかく人の多いところに逃げろ!」
「! いや、あたしたちも戦うよ!」
「ばっかお前、本調子じゃないだろ!?」
「そんなこと分かっている。でもだてに義賊団やってないから! ――――ライカ!」

 気持ちの波が切り替わったアプリコットの声に、ピカチュウのライカが反応する。
 それからその丸い体とは思えぬ俊敏さでドレディアとクローバーの周りを一定の距離を保ちつつ駆け巡る。
 ドレディアがひらり、と回転しながら輝く木の葉、『マジカルリーフ』の群れをピカチュウへ向けて発射。木の葉の群はピカチュウを追尾していく。

「ルカリオ援護だ、『はどうだん』!」

 ピカチュウが攻撃を引き付けている間に、ルカリオに援護射撃の『はどうだん』を指示。ドレディアめがけて波導の光球が向かう。
 ドレディアは新たに『マジカルリーフ』の盾を展開し、切り払いしてダメージを最小限に抑える。

「さてさて、複数でのお相手ですか。それなら私たちも多人数用態勢に切り替えさせていただきましょうか!」

 耳障りなほど声高なクローバーの合図と共に。
 『マジカルリーフ』の群れと盾が一枚ごとに散開して、各方面に襲い掛かる!

 とっさに俺は近くのアプリコットを庇う。
 はじけ飛ぶその攻撃に……ヨアケをドーブルのドルが、俺とアプリコットをルカリオがそれぞれ喰らいながらも守ってくれた。
 ピカチュウのライカは『アイアンテール』ですべての木の葉を叩き落としていたが、自分のトレーナーであるアプリコットを狙われたことにより、怒りをあらわにした。
 その怒りを鎮めたのは、ヨアケの声だった。

「ビー君! アプリちゃん! お願い少しの間彼らを抑えておいて……!」

 ヨアケとドーブルのドルには何か考えがある。今わかっているのはそのために奴らの注意と動きを封じなければいけないってことだ。
 その意図をピカチュウは汲み取り、平静を保とうとしている。
 その姿を見て、俺は前を向きなおす。

(やるしかない)

 アプリコットの肩に手を置き、俺はヨアケに応じた。

「! わかったヨアケ。やるぞ、アプリコット!」
「……うんっ!」

 ドレディアとクローバーに、俺たちは挑むことになる。
 だが奴らの本領を発揮する夜の足音は、もうすぐそこだ。


***************************


「さぁてさてさて、止められますかね、私と私の愛しのクイーンを!」

 クイーンと呼ばれたドレディアの周りに、蝶のような形を描く光る粉が現れ空中を舞い始める。
 その蝶々たちと遊ぶかのようにドレディアは『ちょうのまい』を踊り始めた。

 俺はその能力を上げる舞を止めさせるべく、ルカリオに『フェイント』で接近戦を狙わせる。
 アプリコットも続いてピカチュウに上空にジャンプを指示、上から『アイアンテール』を狙うようだ。

 クローバーがシルクハットから花束を一瞬で取り出し、宙に投げる。

「さあさあ、一緒に踊り狂いましょう!!」

 投げられた花束の花弁が、意思をもったように吹雪いて、『ちょうのまい』の上に重なった。
 舞は轟々と荒々しい音をたてて、変化する……!
 『ちょうのまい』から、『はなびらのまい』へと、パワーアップする!

 その凄まじく荒れ狂う花弁の大嵐に、近づいていたルカリオも上から狙っていたピカチュウも巻き込まれてしまった。

「ルカリオ!!」
「ライカっ!!」

 投げ出され、壁に叩きつけられるルカリオとピカチュウ。ふたりとも何とか立ち上がるも、蓄積された疲労は大きい。ドレディアは『マイペース』に踊り続けているのか、あんなに回転しているのに疲れ果てて混乱する様子がない。
 ドレディアの『はなびらのまい』は続く、続く、続いていく。
 止めるどころか、これじゃあ触れることすら叶わない。

 ヨアケの方へ一瞬目をやる。彼女はタイミングを計り、ドーブルが何か力を蓄えているようだった。
 彼女たちは俺たちが彼らの動きを止めるのを、待っていた。
 アプリコットが俺に尋ねる。

「ビドー……ルカリオの『はどうだん』って、相手を追尾する“必中攻撃”だったよね?」
「受け流され、叩き落とされればそれまでだが、相手に届きやすいのは確かだ」
「そっか。じゃあ、ドレディアの上から叩きこんで欲しい。それでたぶん、ドレディア止められるかも」
「……お前」
「お願い」
「分かった。信じているぞ、その言葉――――ルカリオ!」

 俺は走ってクローバーの注意を自分に引き付ける。
 ルカリオに『はっけい』でジャンプさせ、大渦の上空へと向かわせた。
 クローバーが手に持ったステッキをくるくる回し、その先を俺に向け、ダーツのような何かを射出。間一髪で避け真上のルカリオに『はどうだん』の技の指示を叫ぶ。
 空中でルカリオが構えると同時に、アプリコットは自分の腕をピカチュウの足場にしてレシーブを打ち上げた。

 放たれる波導の弾丸にとドレディアの間に、ピカチュウのライカは尾から放った技を滑り込ませる。

「『エレキネット』!!」

 雷の網をくぐらせた『はどうだん』がドレディアに被弾すると同時に、その全身に網が巻き付いた。『エレキネット』により身動きを封じられたドレディアは、これでもう、踊れないはず……!

 驚くクローバーの足が止まる。そのチャンスを彼女たちは見逃さない。

「今だよ、ドルくん!」

 ドーブルが絵筆の尾を地面に力強く叩きつける。

 クローバーとドレディアの足場のタイルがめくれ上がり、中から現れたのは、膨大な数の植物のツル。
 そのツルの正体はドレディアの使っていた『くさむすび』をドーブルが『スケッチ』という技で写し取ったものだった。
 力を十分溜めたその『くさむすび』は、一瞬で這いより彼らを縛り上げ地に転がした。

 よし。これであとは他のメンバーを待つだけだ。
 そう安堵しかけたその時…………ドレディアが光線に包まれる。

「え」
「あっ」
「しまった!」

 アプリコット、ヨアケ、俺の順で反応が追いつく。
 その光の帯はモンスターボールによるポケモンをボールに戻す機能であり。
 クローバーの手中のモンスターボールにいったんしまわれ、そのまま再度ボールからドレディアが姿を現す。

 もちろんそのドレディアは『くさむすび』の拘束からは解かれ、自由の身だ。

「いやはや、詰めが甘いですねえ。この程度の捕縛じゃ指が動かせますね。それに、脱出ショーはお手の物ですね!」

 ドレディアの『マジカルリーフ』の葉がクローバーを縛る『くさむすび』のみを器用に切り裂き、ふりだしに戻ってしまう。

 高笑いしながらクローバーは、ヨアケとドルに視線と……足先を向ける。

(まずい。狙いが、ヨアケたちに向かった!)

 その動揺が、冷静さを失わせていく。

(焦るな、焦るな焦るな……焦るなっ!!)

 拳を腿に打ちつけ、奴を見据える。
 さっきの奇襲はもう通じない。だから別の方法を考えなければいけない。
 思考をフル回転させ、現状の打開策を見つけようとする。
 しかし考えるより先に、行動している奴らがいた。

「あれ? 貴方の狙いはあたしじゃなかったの?」

 アプリコットとピカチュウのライカは、震える声を抑えつつ、余裕がなくても強がり“笑み”を浮かべて、クローバーとドレディアへ技とかではなく単なる挑発をした。

 その言動が、彼らの琴線に触れる。


***************************


 クローバーはアプリコットの強張った笑顔を見て。
 憎悪のこもった歪みきった笑顔を向ける。
 奴の手持ちのドレディアは、笑みを消し、トレーナーであるクローバーを静かに見つめていた……。
 クローバーがアプリコットに呪詛のように声をかける。

「まだ笑うのですね、貴方は」
「笑っちゃ、悪い?」
「ええ、ええ悪いですとも」
「なんで?」

 虚勢が強まっていくアプリコット。ピカチュウのライカも威嚇を止められない。
 ヨアケとドル、俺とルカリオはその様子をじっと見ることしかできていなかった。
 下手に行動を起こせない俺たち。
 それを見抜いてか、クローバー己の言い分を全員に対しぶちまけた。

「だっておかしいでしょう? 私たちはあの“闇隠し”によって散々、散々な目にあっている。だのに不幸な目にあってない彼らは日々を楽しそうにしてこちらを侵略してくる! 群れて、つるんで、近くの私たちにお構いなしに笑い続けている! 無論、不幸を忘れて愉快にしている彼らとて同罪だ! そのふざけた笑みを消すためなら、私はいくらでも、いくらでも立ち上がりますよ、ええ、ええ立ちふさがりますとも!」

 “闇隠し事件”を生き延び、この地方の変化を間近で見てきた俺とアプリコットは、奴の言い分に少なからず共感できなくもない部分もあった。

 歩道ですれ違う、あの楽しそうな集団を恨めしいと思ったことは、俺もある。
 耳障りな笑い声を、消してやりたいと思ったことも、あるさ。
 けど。その屁理屈は、通させない。
 通させて、たまるか!

「不幸を忘れて呑気に笑っている? それは違うな。必死に笑うために自分を、自分の周りを変えようと頑張って、努力して、そうして無理くりにでもやっと笑っているやつらだっているんだ。やっとそこまでたどり着いたから笑っているんだ! ――――不幸に酔って、他人に自分の価値観を押し付けて迷惑かけるのも大概にしとけ!!」
「! “あの事件”を、不幸を、痛みを!」
「知っているさ、俺もこのガキも当事者だ!!!」

 有無を言わせず俺は言い切る。それでもその言葉はクローバーには届かない。奴は誰が相手でもその笑顔を消すことしか、もう見えていない。
 そう簡単に、手短に自分の信じてきっているものを変える、なんてのは難しい。
 正しいと思い込んでいれば、思い入れていれば、なおさら難しい。
 一生、理解されないという可能性も大いにある。
 そう思ったら。何故か。

 何故だかとても、虚しくなった。


 ――――背後の建物の屋根の上から、声がする。

「彼ならば、こういう時……」

 そこから難なく飛び降り着地した黄色いスカーフのゲコガシラとその金髪ソフトリーゼントの丸グラサンのトレーナーは。
 <ダスク>のハジメは。

「“よく言った”……とでもいうのだろうか」

 今は安否不明の“五属性”の一人、ソテツを連想させるようなことを、夜闇につぶやいた……。


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ゲストキャラ
クローバーさん:キャラ親 亜白夜 玲栖さん

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