【ニビ編.九】化石復元

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「バトルはしないよ」

 タケシの答えは、非常に簡潔なものだった。

「な、何故ですか?」
「気持ちよくバトルをしたいからだ」
「今、俺とバトルをしても気持ちよくないという事ですか?」

 そうだ、とタケシは真顔で頷く。今頼れる唯一の存在に拒絶され、瀬良は自分が思っているよりショックを受けている事に気づいた。

「何故、気持ちよくバトルが出来ないんですか?」
「このニビジムは、協会に認められたトレーナーにバッジを授与出来る場所だ。トレーナーはこの場所を目指し、バッジというシンボルを欲する。ここは教育的な場所であり、トレーナーが色々な意味で強さを求める上で重要な場所なんだ。そんな場所で、今のレッドとバトルをする事は出来ないな」

 一体何を言っているのか、瀬良はタケシの言葉が何一つ理解出来なかった。
 お前はこの世界の人間じゃない。だからお前とはバトル出来ないんだと、はっきりそう言って欲しいくらいだった。

「抽象的な言い方になってしまうのは、俺がレッドを信用したいからだ。……いや、言い訳だな。こういうのは良くない。俺は心のどこかではお前を信用したいと思っているが、事実今のお前を信用していない。一体何に動かされているんだ?」

 話がどんどん見えなくなってくる。
 何を言おうとしているのか。

「どういう事でしょう」
「答える気はない、か」

 答える気がない訳ではなく、答えられないのだ。それをどう言えば理解してもらえるか。
 瀬良は瀬良自身の意思で動いている。自分ではそう思っているが、そもそも何故この世界に来たのか分かっていない。であるならば、誰かが意図的に瀬良をここに飛ばし、動かしているとも考えられる。
 タケシが何かを知っているならば、それを聞くチャンスではないか。

「答える気はない、ではなく、答えられないんです。一体タケシさんは何を知っているんですか?」

 唯一出来るのは、本当に何も分かっていないんだ、知らないんだ、という態度を真摯に見せる事だった。
 自分が何も分かっていないという事だけは、瀬良が一番分かっている。

「俺と気持ちよくバトル出来ない理由があるなら、それを聞きたいです」

 瀬良は、自分の必死さがタケシにも伝わっているように感じた。真顔だったタケシの顔が、少しずつ歪んでいく。一体何を言っているんだ、というのが瀬良に伝わってくる。

「タケシさんの信用を失うような事なんて、本当に思い当たらないんです。何がどうなっているのか、本当に分からないんですよ。確かにバトルに関して迷いがあるというのは事実ですが、それ以外には分かりません。本当に、本当なんです」

 追加の一押しが効いている。タケシは瀬良が言っている言葉が真実であると理解したのか、真面目な顔をして「分かった」と一言クッションを置いてから続ける。
 
「聞いている話をしよう。本当は禁じられているんだが、今のお前の言葉が俺には嘘だとは思えん」
「ありがとうございます」
 
 信用に足りえる言葉は、真に迫る態度からしか生まれないのかもしれない。レッドを真似て、皮を被って、ふりをしたって、ボロが出るだけ。それだけ信用を失って、結局は身動きが取りづらくなるなら、レッドをやっていく事にどれだけ意味があるのか。瀬良はレッドを背負う意味の大きさを改めて感じていた。

「俺の耳に入っているのは、お前がロケット団残党と密会の場を設けていたという話だ。人数はお前を含めて三人。一人は一番力の強かった頃のロケット団にはいなかった、新しく若い奴だ。こいつはまったく情報にない」

 瀬良の知っているレッドは、ロケット団のアジトに乗り込んだり、シルフへ突っ込んでいって片っ端からロケット団を潰したというゲームの事実だけだ。話し合いの余地があるなど、初めての話だった。

「あ、あの」
「話を最後まで聞け。若い奴の隣には、当時のロケット団員がいたという話だ。とすると、当然その若い奴もロケット団員関係者、もしくは団員という可能性が高い。サカキによってロケット団解散が叫ばれてから、特に動きのなかった残党が見せた久しぶりの動きだったんだ。そこに居合わせたのが、それまで目立った動きを見せず雲隠れしていたレッド、お前だった。これは一体どういう事だ? 本当はお前じゃなかったのか?」

 こればかりは、記憶にありませんと言う他ない。瀬良もまた第三者的な意見しか述べられない上、確認のしようがなかった。

「あの、タケシさん。俺、本当に全て正直に話します。嘘偽りない、今語れる全てです。おかしくなったと思われるかもしれませんが、事実なんです」

 コクンと頷いたタケシが、真面目に話を聞いてくれるのだと確認してから、瀬良は続ける。

「今聞いた話が、俺なのかどうか分かりません。そこにいたのかもしれないし、いなかったのかもしれない。端的に言えば、記憶にありません。何があったのか、微塵も分からないんです」
「嘘、を言っているようには思えないな」
「嘘ではありません。俺に何があったのか、俺自身分からない。混乱しているんです」
「その混乱が、昨日のバトルとも繋がっているのか?」
「そうです。俺はバトルを重ねて、自分を取り戻したかった。そのためには数を重ねる必要があった。そう思いました」

 瀬良の言葉は分からない事だらけだろう。拾える情報が少なすぎる。けれども、出まかせではないと分かってもらえれば今は十分だった。

「ちなみに、俺と密会していたと言われる人物の名前や風貌は分かりますか?」
「緑がかった髪をした中肉中背の、ランスと呼ばれる男。それと、細身長身茶髪の青年。ランスは、残党の中で高い地位にいる奴だという話を聞いている。もう片方はさっきから言っている通り情報がない。新しく地位を高めた奴なのかもしれん」
「……ピンと来ません」
「思い当たる節はない、か」

 レッドが何故そんな密会の場に同席したのだろうか。理由は分からないが一つ明確になったのは、チャンピオンを降りた明確な理由が何かあるという事だ。
 チャンピオンであっては自由にバトルが出来ない。チャンピオンを降りても、自由にバトルが出来ない。それならばと過酷な環境であるシロガネ山に身を置く事を選んだ、という線は消える。
 チャンピオンを降りて密会に参加した、という流れだけ見れば、何か目的があるに違いない。これは大きな情報だった。

「要するにレッド、お前は何者かに襲撃されたか、事故か何かで記憶を失ったという事か?」
「そういう事になるんですかね」
「それなら、お前が少しおかしい事にも納得がいく。嘘を言っているとは思えないし、俺はお前を信用したい」
「ありがとうございます。あ、でも」

 わかってる。とりあえず俺だけに留めておく。とタケシは頷いた。
 実際、記憶喪失というのは遠からずと言ったところだろう。実際に瀬良はレッドの記憶を持っていないのだから、間違った事は言っていない。
 ただレッドの中に今瀬良がいるというのは、レッドの身にも何かあったという事だ。あの強大な六匹の護衛を突破してレッドに危害を加えるなど、軍を引っ張って来るようなレベルではないと不可能ではないか。

 瀬良は今自分がここにいる意味を追っていくと、何やら怪しく、キナ臭いものに辿り着くような気がした。根幹にロケット団が絡んでいて、密会の情報をつかんだ協会も動き回っている。ジムリーダーには情報が回っていて、レッドは怪しまれている。
 
 身の丈に合わない話の大きさに、瀬良は逃げ出したい気持ちで一杯だった。

「今日レッドと話せて良かったよ。何か情報があったら連絡するから、番号を教えてくれ」

 タケシに連絡先を教え、瀬良は頭を下げた。
 頼れる人が増えたのは素晴らしい。”今”のレッドの味方になってくれる人を少しでも頼れるようにしておきたかった瀬良にとっては、本当にありがたい話だった。

「タケシさん、化石から復活させたポケモン達って、どういう気持ちなんでしょう」

 別れ間際、瀬良はタケシに聞いた。化石ポケモンを扱う彼が何を答えるのか、聞いておきたかった。

「訳が分からず、混乱し、驚いているだろう。かつての仲間はおらず、自分が慣れ親しんだ環境もない。それは奴らにとって厳しいものであるのは間違いない」

 けれどな、とタケシは続ける。

「俺は、奴等がこの世に生を受けてしまった事が間違いだったなんて言うのは許さない。俺と一緒にいて楽しく、心安らかに、心高ぶる日々を送れるようにしているつもりだ。そもそも化石の復元は、俺たち人間の生活が便利になっていく過程で生んだ、イレギュラーな技術だからな。大いなる力を何の覚悟もなくエゴで、徒に扱った奴等は許せないが、この世に生を受けた奴に罪はない」
「ありがとうございます。タケシさんは、とても優しい人だ」

 その言葉をどう受け止めれば良いのか、瀬良にはまだ、分からなかった。

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