第3話 包囲網

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読了時間目安:19分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 遠足の攻略目標を決めて、あとは細部を詰めている最中のことであった。
 ルカリオが膨大な地図を広げて考え込んでいるところに、ノックが聞こえてきた。「どうぞ」と返すと、副団長のエーフィが執務室に入った。それともう一匹。
「団長、新入りをご紹介します」
 エーフィの後ろから、まっすぐな目をしたモグリューが出てきて、ぺこりとお辞儀をした。ルカリオは眉間に小さなシワを寄せる。
「……またか」
「はじめまして、ルカリオ団長! 学校にいたときからずっと、団長のように立派な調査団員になりたいと夢見てきました。調査も依頼も精一杯頑張りますので、今日からよろしくお願いします!」
「もういい、茶番にはいい加減うんざりだ。下がってくれ」
 団長から嫌悪感を向けられても、モグリューは顔色ひとつ変えずに、まっすぐな目をしたまま部屋から出ていった。
 ルカリオは項垂れてため息を零した。
「あれじゃすぐにバレるぞ。調査団員でなくとも街のポケモンでも見れば分かる、彼女の親なら尚更だ」
 エーフィは去っていくモグリューの背中に振り返り、きょとんとした顔で。
「傷は完璧に接合されていますが?」
「あの顔を見ただろ、まるで作り物だ。事実似たようなものだしな」
「じきに慣れて表情も自然になります。そうですね、あと半日もあれば十分かと……この体、エーフィの時もそうでした」
 副団長はくすりと笑って、ルカリオの不安げな顔を見上げた。
「団長、なんて顔をしていらっしゃるの? あなたこそ自然に振る舞わないと、他の団員に違和感を抱かれますよ」
「違和感を抱ける団員が、まだうちに残っていればいいが」
 苛立ちを抑えきれずにルカリオは立ち上がり、窓の方を向いた。外は昼間だというのに薄暗く、空は灰色のどんよりとした重い雲に覆われている。嵐が近づいている、そう予感させた。
 エーフィは穏やかな口調で続けた。
「それよりも団長、我々には速やかに話し合うべき問題があります。あなたのお友達について」
「友達?」
「昨日お会いになったでしょう、ミスター・バシャーモです。彼に余計なことを吹き込んでいませんか?」
「いいや、何も。かつての相棒を今度の遠足に誘ったが、あいにく断られた。残念だ。彼がどうかしたのか?」
 平然と嘘をついた。波導のひとつも乱さずに。
「……我々の仲間が二匹、彼の手によって殺されました。バシャーモは明らかに、我々のターゲットであるツタージャを守っている。これはどういうことですか?」
「俺に聞かれても、分からないな。確かに奴は昔から無愛想な奴で、自分の考えを誰かに打ち明けたりしなかった。だがそれでいて、誰よりも正義感が強い。大方、目の前でそのツタージャが襲われている現場に遭遇してしまったんじゃないか?」
 鏡のように窓に映ったエーフィは、笑顔のまま止まっていた。目はまだ黒くない。波導を乱すな、悟られてはならない。
 しかし驚いた。ルカリオは窓から空を見上げたまま、心の奥底でほくそ笑んだ。キャンセルされた依頼から『奴ら』の存在を知るキッカケになればと思ったが、こうも早く接触するとは。しかも、連中の仲間を二匹殺しただって? やはりお前に頼んで正解だったよ、相棒。
 エーフィはがっかりした口調で言った。
「残念です、団長。本当に残念です。先ほどの返答が嘘か真か、私には確信を持てるだけの材料がありません。しかしあなたの態度は誠実さに欠けています。これではあなたの真意を疑わざるを得ません」
「では俺の体も乗っ取るのか? 戦いになれば、双方に多大な犠牲が出ることになる。だから協定を結んだはずだ」
「それが我々に対抗するための時間稼ぎであることは分かっていました。いずれあなたが我々に牙を剥くつもりであることも。平時であればたかが一匹のバシャーモに真相を知らせる程度、たいした問題ではありません。しかしあなたが、わざわざ『このタイミング』で、ついに行動を起こしたとなれば、話は違ってきます」
 エーフィの目玉が黒く染まった。と、同時にルカリオは振り向き際に『波導弾』を撃った。執務室が爆風で吹き荒れ、おびただしい地図が宙を舞う。エーフィは自身の周りに『サイコキネシス』の壁を展開して防いだが、当のルカリオは、既に窓を割って外に逃げた後だった。
「……ちょうどいい。そろそろ調査団長も我々の駒に加えるべきだと思っていた」
 エーフィは急がず歩いて執務室から出ていった。執務室の外には、大勢のポケモンたちがずらりと並んでいた。数にして二十を超えている。その前をエーフィが悠然と通り過ぎると、皆一斉に目が漆黒に染まっていく。エーフィは言った。
「さあ、狩りの時間よ。討伐対象はルカリオ団長、彼の目は『我々』と『そうでないポケモン』の波導を区別できるから気をつけなさい」
 外に出て、街のポケモンたちの前に現れた彼らの目は、元に戻っていた。

 *

「私が陰謀に気づいたのは半年前の依頼、『暴れん坊エレザード討伐依頼』を見たときだった」
 ムウマージは嬉々として語りだした。先ほどまでの陰気はどこへやら。壁一面に貼り出した依頼書や似顔絵、そして隙間なく記されたメモの記述を、目玉が紙にひっつくほど間近に迫ってなぞりだす。
「ええと、あった、これだ。依頼者はおだやか村のケムッソ君。ターゲットはエレザードで、シルバー級団員のチラチーノ氏が受注した。これを見てピンと来たね。以前にも似たような依頼があったことを思い出した」
 赤い糸を辿って、別の依頼書に遡る。
「8ヶ月前の依頼だ。依頼者は同じくおだやか村のケムッソ君、討伐ターゲットは極悪エテボースで、ゴールド級団員のストライクが受注。このふたつの依頼、共通点は依頼者だけじゃなかった」
「他に何が同じだったんだ?」
 荒削りの岩の椅子に座って、バシャーモが尋ねると、ムウマージはさらに舞い上がって宙返りした。
「よくぞ聞いてくれた! 注目すべきは受注者の行動だ。パターンが変わっている。それまでの彼らは、順調にランク相当の依頼をこなしてポイントを積み重ねていた。ところが、この依頼を境に、彼らの受注が大幅に減った。毎日こなしていた依頼が、不定期になってしまった。そしてこの依頼を含めて、以降受注した依頼はすべて『キャンセル』になっている」
 キャンセル。そう聞いてバシャーモの指がピクリと動いた。
「……すべて?」
「そう、すべてなんだよ。しかも驚くなかれ、そのキャンセルになった依頼を当初受けていた者は、前後で行動パターンが変化している。まるでランク昇格が突然眼中になくなったように。私の見立てでは、彼らは依頼の最中、闇の勢力に引き込まれて洗脳されたのだと思う。『催眠術』どころじゃない、根幹にある人格そのものが変えられてしまった」
「いったい誰が、何の目的でそんなことをするんだ」
「私もそれが気になって、同様の依頼を洗い出した。10ヶ月前、12ヶ月前、13ヶ月前、15ヶ月前……」
 糸から紙へ、紙から糸へ。ムウマージが膨大な量の依頼を遡るにつれて、紙は古くボロボロになっていく。掠れた文字を瞳に写して、やがてムウマージは「これだ!」と叫んだ。
「果てには28ヶ月前、すべての始まりはこの依頼からだった! 依頼者はワイワイタウンのデスマス、受注者はマスター級団員のエーフィ。珍しい調査依頼だ、このときデスマスは『じょうかの洞窟』方面に流れ星が落ちていくのを見たと証言している。ひょっとしたらお宝かもしれないと思ったのだろう」
「待て、聞き覚えがあるぞ」
 バシャーモは身を乗り出して言った。
「調査団が調査を禁止した区域が幾つかある。そのひとつが、『じょうかの洞窟』だった。2年前の調査の結果、みだりに侵入して自然を乱してはならないとして立ち入りが禁じられた」
「そこに何かがある! 陰謀の始まりだ、あるいは更なる深淵に続く奈落への入り口! 1153、2638、すべてがそこに隠されている!」
「さっきから何なんだ、その数字は」
 聞いても、ムウマージの意識は声の届かない彼方に飛んでいた。ひたすら数字の羅列を繰り返し、「すべてがそこに隠されている」と呟くばかり。普段なら一笑に付すところ、彼女がなぞった依頼を見ると、受注者には例のストライクとゼブライカの名があった。彼らがポケモンならざる異様な気配を発していたことは紛れもない事実だ。その原因が、『じょうかの洞窟』に隠されているのだとしたら……。
 ふと、もうひとりの連れのことを思い出して、周りを見回したが、ツタージャの姿はどこにも見当たらなかった。

 日暮れが近づいていた。小高い丘に登って、遠い空の彼方を眺めるうちに、太陽の沈みゆく西の空が赤々と燃え始めた。地平の山から伸びる影は眼下の湖を暗く染めて、薄紫の空に瞬き始めた星が、水面にほのかな輝きを投じる。
 初めて訪れた地。初めて目にする光景。デンリュウが学校で語った冒険譚は、どれも眩しく輝いていたが、ひときわ子供たちを惹きつけたのは、強大な敵と戦った時の話や、未踏の地を調査した話ではなく、調査団を結成した仲間たちと共に、初めて踏破したダンジョンの頂から夜空を見上げた時の話だった。
 憧れのポケモンと、今まさに同じことを経験しているはずなのに、心は少しも震えない。ただ寂しさが込み上げてくる。小さな切り株に腰掛けたまま、ツタージャはそっと胸元に手を置いた。
「……案外、そんなものだ」
 近づく足音。バシャーモはそう言って、ツタージャの隣りに腰を下ろした。
「デンリュウのジジイが言うほどの感動はない。特に一匹で味わうそれは、逆に虚しさすら覚えたもんだ」
「おじさんも?」
 空を見上げたまま、瞳に夕焼けを写しながらツタージャは尋ねた。
「ダンジョンを初めて踏破した日、俺はリオルと……相棒と喧嘩してな。もめた理由は確か、ダンジョンに持っていく荷物の量が多いだか少ないだか、些細なことだったと思う。奴は慎重だったが、俺は大雑把でな。結局別々に旅立って、別々のダンジョンに挑戦し、踏破した。だがその頂から景色を見たとき、俺は心から喜ぶことができなかった。一緒でなければ、どんな素晴らしい景色でも意味がないんだ」
 語るバシャーモの横顔を、ツタージャはチラリと見上げていた。夕陽に染まる顔。懐かしむ瞳に映る過去。それは眼前に広がる景色と同じものだった。
 本当に、信頼し合っているんだ。ツタージャは恥じるように視線を逸らして、うつむいた。
「……おじさんたちは、仲直りできたんだね」
 助けて。ねえ、助けてよ!
 脳裏に過ぎる黒い言葉。泥のようにこびりついて、何度拭っても嫌な感触が離れない。
「あたしたちはダメだった。本当は、一緒に冒険するはずだったのに……」
 目を覆いたくなる。耳を覆いたくなる。考えずにはいられない。
 もしかしたら、あのとき手を伸ばしていれば、違う未来を歩めたんじゃないか。彼女は死なずに今も生きていたんじゃないか。
 あの子の悪戯を止めていたら。もっと弱そうな相手を選ぶように言っていたら。バッフロンに襲われるモグリューを助けるだけの勇気が、あたしにあったなら。彼女に恨まれることなく、今でも親友でいられたのかもしれない。
「おじさん、友達を見捨てたことってある?」
 罪から逃れたくて、ツタージャは尋ねた。
 バシャーモは切り株から生えた小枝をちぎって、その口に咥え、手首の炎で火をつけてから、ゆっくりと味わうように答えた。
「……あるさ」
 羨ましいな。ツタージャは目を細めて思った。あたしにも、過ちを呑み込んで前を向けるだけの強さがあれば良かったのに。
 今でも鮮明に思い出す。シンリョクの森で見た親友の最期。調査団にも頼れず、行く当てもなくて森に戻ると、死体はおろか、血の跡さえ消えていた。まるでモグリューという存在が、はじめからどこにもなかったかのように。
 悔しくて。彼女を憎んだ自分が恥ずかしくて。命を奪った何かが怖くて。あたしはまだ、そこから一歩も動けずにいる。情けない。情けなくて涙が止まらない。
 そよ風で流れてくる煙が、少しだけ暖かくて、なぜだか優しくて、静寂のうちに沈む夕暮れの空気が心地よかった。

 *

 息が切れる。まったく情けない、この程度の運動でバテるほど体が鈍っているとは思わなかった。
 ワイワイタウン。建物の影に隠れるうちに日が暮れて、暗い夜が訪れた。しとしと注ぐやわらかな雨、着実に体が重く冷たく濡れていく。街の景色は変わっていない。周りを調査団員がうろつくのも毎度のこと。彼らがルカリオの命を狙っていることを除けば、のどかな日常そのままだ。
 できれば夜になる前に街を脱出したかった。昼間は大勢のポケモンで賑わう街も、夜になれば規則正しい生活の賜物で、皆そろって家に帰り、夜更かしもせず眠ってしまう。そうなれば、『奴ら』は堂々と表を歩いてルカリオを探すだろう。
 戦って切り抜けるか。通りを伺い、波導を探る。黒い影が四つ。足止めを喰らえば、巡回する大勢の影に囲まれることになろう。
 万事休す。ルカリオは息を整えながら、雨降る暗闇の曇天を見上げた。
 刹那、そよ風が吹いた。
 まただ! 見つかった!
 通りを歩いていた黒い目のポケモンたちが、一斉にルカリオの方を向いた。ヒトツキ、ゴーリキー、ヤヤコマ、チルタリスだ。やるしかない。ルカリオは建物の陰から飛び出して、真っ先に突っ込んできたヤヤコマに神速の拳『バレットパンチ』を放った。が、当たらない。風のように掴み所のない軌跡を描いて、疾風伴う翼の一撃『ツバメ返し』が脇腹を裂いた。
 続くヒトツキが切っ先向けて突撃してくるも、ルカリオは刃を掴んで受け止める。手から血が流れようがお構いなしに、力任せに刃を砕くと、瞬間、世界が回った。ゴーリキーの『爆裂パンチ』だ。顔面を真正面から叩き潰されてなお、脚は宙に浮かず、その両手にはふたつの『波導弾』を携えて。
「お返しだ!」
 突き出したままの拳に頭突いて返し、その分厚い胸板に両手のそれを叩き込んだ。
 地面に崩れるゴーリキーの奥からチルタリスが優雅に羽ばたいて迫る。その口腔からは蒼い光が漏れている。と同時に、ルカリオの視界が回った。脳がまだ揺れて混乱している。まずい! そう思った矢先、腹を強烈な衝撃が貫いた。『竜の波動』だ。
 倒れはしないが、ルカリオは膝をついて、ビチャビチャとおびただしい血を吐いた。
 次が来る。波導で敵の動きを読んでいても、ルカリオには打つ手がなかった。旋回して再び襲いくるヤヤコマの『ツバメ返し』、チルタリスの口腔に溜まる『竜の波動』。
 これまでか……。

 覚悟を決めて目を閉じた。そのとき、迫るヤヤコマの波導に異変が起きた。ふたつに別れて、気の流れが消えた。続いてチルタリスが顔を上げると、その長い首が落ちて、頭が地面に転がった。
 残ったのはゴーリキーの呻き声。そして頭の刃を砕かれたヒトツキが、ピクピクと痙攣していた。
 ひどい目眩が徐々に治まるにつれて、ルカリオは目を開けた。ひとつの白くきれいな波導が近づいているのは知っていたが、その体は赤黒い返り血で汚れていた。ちょうど女のアブソルが頭の黒い刃を振り下ろして、ゴーリキーの顔を潰したところだった。
「あんた踏み込みが甘過ぎ、いい技持ってるんだからちゃんと殺さないとダメ」
 やっている事に対して、その声はおそろしいほど冷たく落ち着いていた。
「ありがとうと、言うべきなんだろうね」
 ルカリオの返しに答えるよりも先に、アブソルは残ったヒトツキを踏み潰して粉々にした。徹底した仕事ぶりに感心するよりも、その冷徹さが恐ろしい。
 ようやくアブソルがルカリオの顔をまともに見たと思えば。
「礼は後、早く来な」
 早々に走り去ってしまった。確かに波導を読めば、彼女の言うとおり、今なら包囲網を抜けられる。どうやら道中いくらか敵を始末したらしい。後をついて走る間、道端に無惨な死体がふたつ、みっつ、転がっていた。
 街を抜けて、名もなき森に入ると、ようやくアブソルに追いついた。
「遅い」
「折れた肋骨が肺に刺さらないようにしているんだ、無茶言わないでくれ」
 アブソルの冷めた視線が腹に刺さる。彼女は鼻で笑っていた。
「鋼タイプってもっと頑丈だと思ってた」
 返す言葉もない。もう好きになじればいいさ。ルカリオは黙って後ろをついていった。

 それにしても妙な介入だった。タイミングもさることながら、これほど腕の立つアブソルは見たことがない。他の大陸からの来訪者だろうか。だとすれば、何のために俺を助けたのか。
 尽きぬ疑念を悟ってか、アブソルはルカリオが尋ねるよりも前に答えた。
「別に信じなくて結構。あたしは依頼主から金をもらって動いただけ。あんたが何者かもあたしは知らないし、知るつもりもない」
「いくらもらったんだい?」
「殊勝な心がけじゃない。だけどあんたの考えてることはお見通し。これから会わせる依頼主がもしも敵だったら、それ以上の報酬を出してあたしを寝返らせようって魂胆でしょ。でも傭兵は後から出てきた値段交渉には応じるなって鉄則があるの。金額次第で裏切る傭兵を、いったい誰が雇ってくれると思う?」
「……好奇心で聞いただけさ」
「質問をするよりも答えを聞く方が恐ろしいって言葉、知ってる?」
「痛いほど思い知ったばかりだよ。だけどあいにく俺は調査団の団長でね、好奇心が誰よりも強いんだ」
「そして誰よりも寿命が短くなる」
「それについてはずっと後悔しているんだから、もう言わないでくれ……」
 ルカリオはがっくりと肩を落としながら歩き続けた。

 波導の届く範囲はかなり広い。正確な距離は集中力によって大きく変わるが、沈黙して歩いているうちは、小さな森ならすっぽりと包み込むほどである。
 もう真夜中というだけあって野生のポケモンたちは巣に潜り眠っていた。眠ると波導の流れが穏やかになる。その中で、森を抜けた先に一匹、波導が活発に流れているポケモンがいた。その特徴には見覚えがある。かつてバシャーモと共に世界中を渡り歩いたとき、彼に会い、その優れた先見の明に驚かされたものだ。
 当時、ルカリオは彼に尋ねた。その予知能力をもって、自らの利に活かそうと考えたことはないのか。
 彼は答えた。ワタシは利に興味がないのだ、と。過去や未来を視ることは、ただ意味もなく空を見上げて雲の流れゆく先を見守るのと同じこと。それを変えよう等と思ったことは一度たりともない。たとえ『ダークマター』がこの世界を脅かしてなお、それは変わらなかった。
 そう聞いていただけに、ルカリオは驚きを禁じ得ない。
 森を抜けた先で、星なき曇り空を見上げて待っていたのは、あの予言者ネイティオであった。

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